ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 匿名による無敵状態につきさらに開示ししますが、僕はTSして親友くんに甘やかされるだけでなく、甘やかしてあげたい願望を同時に有する変態です。




その16 周期的同一異常のSVO

 

「あ、お、おはよ。アキ……」

「おぉ……」

 

 昨日の夜ぶり。朝から玄関の前で、オレ達は顔を赤くして俯いていた。

 フミは、多少寝不足の感を隠せていない半開きの目で、中途半端に片手を上げた。

 

「昨日は……その……」

「あ、あぁ。まぁ、そうだな……」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

 何を話せばいいか分からなくなったオレは、誤魔化すようにして頭をかいた。

 

「あの……さ、フミ、その服は……」

「え? これ?」

 

 フミは際どいショートパンツに、男用のオーバーなサッカーユニフォームを着て風が通る服装で出てきた。

 そんな格好をしていては、誰に見られるか分からない。元は男なので仕方がない部分もあるが、無防備にもほどがある。

 

「足出しすぎだし、胸元もあぶねーし、全体的に肌色が多いんだよ!」

「だってこれアキが好きだって……」

「好き、だけど……! 今日はダメだ! 人通り多い場所にも行くし……!」

「え? あ、あぁ。ふーん……」

 

 フミはたまに俺を格闘ゲームで負かした時のような、意地悪な笑顔を浮かべた。

 

「仕方ないなー。着替えてくるから待ってて。大変だなー。独占欲強くて」

「ぐっ……で、でも、お前にも分かるだろ! お前だって元は男なんだしさぁ!」

「ふふ。嘘だよ。冗談ね。暑いから待ってる間僕の部屋入ってて!」

 

 上機嫌なフミに腕を引かれて、そのまま彼女の部屋の玄関に通される。

 これから部屋の中で着替えるというのに、その中に男を招き入れるのはどうなんだ。終いには本当に覗きに行くぞ。

 

「見たかったら覗いてもいいよ」

「はッ、い、いいから早く着替えろッ!」

 

 居間から顔を出したかと思えば、たわ言をほざいて引っ込んだ。すぐに奥からくすくすとかわいらしい笑い声が聞こえてくる。

 

「あいつ、キャラ変わりすぎ……」

 

 明らかに浮かれている。浮かれポンチだ。気持ちは分からなくもないが、自分からあんなことを言い出すとは、かなり重症かもしれない。

 

「ねー、下着の色何がいいー?」

「黒っ!!(アホなこと言ってないで着替えろ)」

 

 元からイタズラ好きなところはあったにせよ、ここまで子供っぽい感じではなかった。あるいは今までが抑圧していただけなのだろうか?

 

「ふふ、楽しみだねー!」

 

 ……だとしたら、少し得した気分だ。こんなフミの一面を知ることができるのも、オレだけなのだから。

 

 今日は恋人同士になって1日目記念。フミの要望で、デートに行く日だ。

 

 

 

 若者ならば往々にして、行きつけの喫茶店、というものに憧れるものではないだろうか。

 

「今はまだ午後1時か……」

 

 少し遅い時間から始めたデート。とはいえまだかなりの時間を確保できる。お互い夏休みの上に一人暮らしとなれば、夜も少しは融通できるだろう。

 

 目的地までの道中、街道から逸れた車通りの少ない通りに、1席だけテラスを用意した小さな喫茶店がある。

 

「こ、ここに入るの……?」

「それもあって着替えてもらった」

 

 あまりカジュアルすぎる服装だと、彼女に恥をかかせるかもしれなかったから。

 コルセット風のウエストが詰まった緑のロングワンピースに着替えたフミは、履き慣れない白いパンプスを合わせていた。

 

「そ、そっか。TPOってやつか。もっと早く言ってよ」

「デートすることになったのが昨日の今日だろ」

 

 昨日フミに言われて、急いで手筈を整えた。おそらく彼女にしてみれば、そこまで上等なものを期待していた訳ではないだろうが、初めてなんだ。ちゃんとしたことをしたかった。

 

「その服、似合ってる。かわいいよ」

「それももっと早く言って!」

 

 オレは若干気後れしているフミの手を引いて、古いベルの音が鳴るガラス戸を押し入った。

 

「いらっしゃいませ……あぁ、敷島くん」

「どうも」

 

 ワインレッドを基調とした店内では、白髪の多い老齢の店主が、物静かにコップを磨いていた。

 

「あ、アキ……知り合い……?」

「ああ。前にちょっと」

 

 夏になる前の話だ。偶然、外で店主さんが困っているところに居合わせ、それを助けたことに始まる。

 店主の男性は腰が悪く、あまり長い間歩くこともできないという。そんな中で無理を押して買い物を済ませたまではいいものの、道中、りんごを落としてしまった。

 腰が痛むせいでまともに屈むことができない店主さんに代わり、オレが落ちたりんごを拾い集めたところ、大変感謝され、紅茶を一杯ご馳走になった……というのがきっかけだ。

 

「デートですか?」

「へへ……そうっス」

 

 老齢の店主さんは、柔和な微笑みを浮かべながら、オレ達が座った窓際の席にメニューを持ってきた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 そう言って、店主さんは洗浄したコップを磨く作業に戻る。無駄話をして恋仲の男女の逢瀬に水を差すような野暮な人ではなく、こちらを覗き見するような仕草もなかった。

 

「オシャレすぎ……い、いいのかな……僕らみたいな子供が入っても……」

 

 クラシック(曲名は知らん)が流れる静かな店内に、フミはすっかり萎縮してしまっていた。

 これはよくない。彼女にはエスコートされる女性の気分を味わってほしいのだ。

 

「平気だよ。ほら、メニュー。何がいい?」

「わ、分かんない……こういうとこって、何を頼むのが正解なの……?」

「じゃあ、オレのおすすめでいいか?」

「うん……すごいね。アキ、大人だ」

 

 慣れるために何度も通った、というのが実際のところだ。オレみたいな勝手を知らない素人のガキ相手にも、店主さんは寛容だった。

 好きなように過ごせばいい、と言ってくれてはいるが、こういう店は客の過ごし方も店内の雰囲気を構成する1ファクターとなる。下手な振るまいはできない。

 

「ご注文、お決まりですか」

「アップルティーを2つ」

 

 春摘みと夏摘みのダージリン、それにアッサムの紅茶も用意されてあるが、素人にその辺の違いを理解するのは難しい。

 そして当然ながら、オレもフミも素人だ。彼女に楽しんでもらうには、風味がはっきりしていて、かつ後味がこの後のデートに引かないアップルティーがいい……と、店主さんから事前にアドバイスを受けておいた。

 

「それから、今日の焼き菓子は……」

「レモンマドレーヌと、メープルシフォンケーキがございます」

 

 酸味のあるフレーバーの紅茶に、同じく酸味のある菓子はケンカする……というのも、事前に店主さんから聞いたことだ。

 

「それじゃ……シフォンケーキも、二切れください」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 という風に、スマートに(当社比)注文をしてみせた。多少カッコつけたい気持ちが先行した気もするが、フミに心労をかけずに楽しんでもらいたかった意図もある。

 

「すごい……行きつけなんだ」

「偶々縁があってさ……いい店だろ?」

「うん。なんか、かっこいい……!」

 

 フミは店内の雰囲気を壊さないように、露骨に首を振らないようにしながらも、内部の装飾やカウンターのコーヒーミルに興味を示していた。

 

「それにしても、アキが一人でデートプランを考えられるなんてなぁ……」

「な、何だよ……心配すんなって」

「してないよ。楽しみにはしてるけど」

 

 今日の予定は全て、オレが考えたものだ。記念すべき初デートなのだから、絶対に適当なことはできない。

 なればこそフミにも意見を聞くべきだったかもしれないが……。

 

『オレが考えるのか?』

『うん。どんなプランでもいいからさ』

『お、おう……やってみるわ』

 

 輪投げで負けた罰ゲーム。フミの要望は、オレにデートの計画を立てさせることだった。

 プラン自体は、昨日の今日で思い付いたものではない。来たる日のために温め続けていた計画を実行しているに過ぎない。

 

 まさか、その相手がフミになるとは、以前のオレは考えもしなかったが……。

 

「お待たせいたしました」

 

 丸卓の上に、中にぎっしりとりんごのくし切りが詰められた耐熱ガラスのポッドと、装飾の控えめな白いカップが置かれた。

 

「すご……! りんご入ってる……!」

「冷めないうちに飲むか。いただきます」

「ごゆっくりどうぞ」

 

 フミは澄んだ色の紅茶に目を輝かせていた。幸先のよい出だしだ。一つ目のスポットは楽しんでもらえているようだ。

 これからここで少し時間を潰して、次のスポットに行く。次が本命。他にもいくつか訪れる場所の候補はあったが、あまり連れ回しても疲れさせる。目的地は多くても三つ程度でいい。

 

「うわ、ケーキもふわふわだ……!」

 

 とりあえず、オレも楽しめている。フミのあどけない笑顔は、テレビや映画館で見る綺麗どころの女優達にもまさって可憐だった。

 

 

 

 雰囲気のいい喫茶店で軽い軽食を取り、次の目的地へ。

 移動時間にはゆとりを作っており、履き慣れないパンプスで歩きにくそうにしているフミの歩幅に合わせても、十分予定に間に合うようにしている。

 

「着いたぞ」

「ここって……プラネタリウム?」

 

 今日の本命はここ。科学館に併設されたプラネタリウムだ。ここなら、上映時間まで展示やお土産品を見て時間を潰せる。

 夏休みとはいえ何でもない日で、プレミア席でもなければ、当日チケットの席も十分空いている。何よりオレの思い出の場所によく似ているので、多少の感慨もあった。

 

「こ、ここは……その……」

「連れてきたかったんだ。フミを」

 

 フミは顔を真っ赤にしていた。多分オレも少なからず赤くなっていたと思う。

 以前、誰が一番デートがうまいか、みたいな話をクラスの男同士でした時のことだ。本気で好きな子は、絶対プラネタリウムに連れて行く、と、フミを含む友人らの前で宣言した。

 

 多分彼女もそれを覚えているのだと思う。覚えていてくれたら嬉しい。つまり、それだけオレが本気なんだと、彼女に伝わってほしいから。

 

「おっ」

 

 早速館内に入ろうという前に、右手が柔らかい感触に覆われた。横を見ると、フミがさらに顔を赤くしながら、恥ずかしそうに笑っていた。

 

「へへ。いいでしょ。恋人なんだから」

「お、おう……」

 

 昨日まで、むしろオレがやることに照れまくっていたくせに、突然積極的になりやがって。かわいいけどさ……。

 

 入ってすぐの受付には、アクリルだかガラスの面が置かれ、従業員のスペースを分けている。

 

「この、二人席のやつ、お願いします」

「現在カップル割引を実施中ですが、いかがいたしますか?」

「か、カップル……!」

 

 フミは何事か小さい独り言を漏らしながら赤面していた。

 

「それでお願いします」

 

 オレがチケットを受け取っている間、フミは目を白黒させながら、オレの手を両手で掴んで俯いていた。

 

そっ、そうだよね……! いいよね、ホントにカップルなんだから……!

 

 よく聞こえないが、少なくとも機嫌が悪いということではなさそうだ。手を離す素振りもなく、単に恥ずかしがっているだけのようだ。かわいい。

 

「開始まであと15分か……休憩がてら、もう席に座っとくか?」

「いいの? 実は靴が慣れなくて……」

 

 フミは前からでは胸が邪魔して見えないからなのか、振り向くようにして踵を確認した。

 

「ありがと。よく分かったね」

「おお。寝る前に雑誌の『デート中に気をつけるべきこと5選』を熟読してきたからな」

「全部言っちゃうんだ」

 

 こんなちょっとした冗談にも、フミはくすくすと笑う。男の頃から笑い上戸だったが、このところはいつも笑顔で、オレまでつられて笑顔になってしまう。

 

 

 

 中心の丸い映写機を半分囲むようにして、段々に設置された席の、スクリーンから遠い位置に、オレ達の席があった。

 

「あ、意外と見やすい。首もあんまり……」

「そうだろ」

 

 見上げる体勢が負担にならないように、背もたれの角度がかなり緩くなっている。1時間弱の上映を快適に見続けられるように。

 

 上映前の薄明るい館内で、フミは少し眠気すら感じているようだった。いつもよりはっきりしていない目で上映前の花火の映像を眺めていた。

 オレはすっかりリラックスしているフミを横目にして、受付前にあったパンフレットを開いた。

 

「銀河鉄道の夜?」

 

 ちらほら入っている他の観客の迷惑にならないようにか、フミが小さな声でうかがってきた。

 

「ああ。これを見せたくて」

「ふーん……プラネタリウムって、こういうのも上映してるんだな……」

 

 昔の話だ。ずっと昔、母親に連れられて見たのがこの「銀河鉄道の夜」の放映だった。

 オレは小学校に通いたての学に浅いガキだったので、ナレーションの声が果たして何を言っていたのかまるで理解していなかったが、それでもあの列車が旅する星空のような世界に心打たれ、今日まで忘れたことはない。

 

「アニメーション作品とか、意外と昔から放映してたんだぞ」

「そうなんだ。よく知ってるね」

「フミこそ、知ってるかと思ってたぞ。お前星とか詳しいじゃん」

 

 たまに夜空を指差しては、あれは中学の資料集の何ページに載っていたから知っている……とか、よく語っている。

 

「だってさ、プラネタリウムっていかにもリア充の巣窟じゃん。憎しみの対象だよこれは」

「あのな……今はオレ達もそうだろ」

「へへ。そうだね。僕達恋人同士だもんね」

 

 そう言って、フミは手すりに置いていたオレの手の下に自分の手を潜り込ませた。

 露骨に期待している目で見てくるので、握り返してやると、自分からやっといて顔を真っ赤にしながら笑顔を浮かべた。

 

 さてはこいつ、オレの口からダシっぽい文言を引き出したかっただけか。かわいいな。

 

「そろそろ始まるんじゃねーか?」

「あ、静かにしないと……!」

 

 フミはわざわざ膝を閉じて足を揃え、その上に手を置いてスクリーンを凝視し始めた。

 騒ぐのはよくないが、そこまで神妙になる必要もないのだが……面白いからそのままにしておこう。こぢんまりとしていてかわいい。

 

 

 

「はぁー……!」

 

 フミは席に深く腰を下ろしたまま、組んだ手を前に突き出した。パキパキと色気のない音がする。

 

「どうだった?」

「面白かったよ。アキの顔」

「お前……なんかチラチラ視線感じると思ったら」

 

 こいつ、折角連れてきたのに、真面目に見てなかったのか?

 

「へへ。プラネタリウムも面白かったけど、アキが真剣に映像を見てるのが、なんかかわいくて」

「かわいいって……オレにとっては褒め言葉じゃないぞ」

 

 これは100%偏見だが、所謂かわいい男というのは自己顕示欲の塊だ。SNSで女子高生しか使わないフィルターとかを使っている。

 周囲の男が普段は言われない評価を受ける刺激に酔っている奴は、怒ってますと言いながら頬を膨らませるし、本気で怒った時は普通にわめく。

 

「ヤツら、女にモテる手段でかわいこぶってるだけで、プライドとか性欲は男のそれなんだよ」

「本当に純度100で偏見だね。ていうか、君みたいなヤツのせいでかわいいものが好きって言い出しにくくなるんじゃないの」

「あんま強い反論を出すな。オレは極論しか言えない」

「初めて聞くディベートスタイルだ……」

 

 極論と暴論は簡単に目を引けるし、言っている瞬間だけはキチゲが解放されて清々しい。

 

「てかさ、いいじゃんか別に。僕だって元は男なのに、アキにかわいいって言ってほしいよ」

 

 それとこれとは別ではないか?

 

 ……いや、まるっきりお門違いという訳でもないか。確かにフミにそう言われるのは、他のヤツに言われるよりは悪い気がしない。

 

「てか、オレにかわいいって言ってほしいのか」

「…………ほら、言え! かわいいって言え!」

 

 開き直って褒め言葉を要求してきた。要求に応えてやると3回くらいで照れて制止するくせに。

 

 

 

 それからオレ達は少し移動して、特に目的地を定めない散歩で時間を潰し、気になる店に立ち寄っては他愛ない雑談を繰り返した。

 

「知ってるか。時計って昔は逆回転だったんだぞ」

「なんでそんなすぐバレる嘘つくの」

「吉祥寺はこれもう……古着の移民街だな」

「あの男女コンビ、今何してるんだろね……」

 

 どんなに適当なことを言っても小気味よく返事を返してくれるフミを伴って歩いていると、つい時間を忘れてしまう。

 

 気付けば、オレが予定していた夕食の時間が迫っていた。

 

「そろそろ移動すっか。休めた?」

「うん。ありがと」

 

 途中の公園で小休憩をして、駅のほうへ。夕暮れにさしかかる頃には往来も増え、改札前の広い吹き抜けが人で埋め尽くされていた。

 

「混雑してるな……」

 

 目的地まで二駅しかないとはいえ、電車の中は混みそうだ。

 

「あ、アキ! あれ見て!」

「ん? な、何だ……?」

 

 フミは少し慌てながら、往来のほうを指差した。

 

 こ、これは……!

 

 ◯◯(東京のどっか)駅三大名物……!

 

 自分より背の低い相手に限って狙うぶつかりおじさん……!

 

 己の歩きスマホでぶつかったのに被害者面する不注意おばさん……!

 

 吹き抜けだからと言ってサドルから降りずに駅構内を立ち漕ぎで抜ける迷惑学生……!

 

「ま、まずい……! 最悪の時間帯だ……!」

 

 くそ、テメェら、フミには指一本触れさせないからなッ!

 

「見てって言ったのは僕だけど、そこまで重く捉える必要もないんじゃ……」

「甘いぞ。今日だってすれ違う男がどいつもお前のことガン見してじゃねーか」

 

 フミというかフミの胸を。隣に彼氏がいる女の子をジロジロ見やがって。目の前で揉みしだいて誰のものか教えてやろうかと何度思ったことか。

 

「人前ではやめてよ」

「何も言ってないぞ」

「顔見たら分かるよ」

 

 

 

 電車の中はやはり帰宅ラッシュで満席だった。乗車率で言えば150%以上だ。

 フミは高い位置の吊り革には手が届かないようなので、席が空いていれば座らせたかったが、この分だとそれは無理そうだ。

 

「これが一番プライド傷つくんだよな」

 

 フミは爪先立ちで吊り革を試してみてから、むしろ危ないと思ったのか手を離した。

 

「ほら、掴まれよ」

 

 ポールもフミの隣に立つ女性が掴んでおり、おそらく気分的に同じところを掴むのは気が引けるだろう。

 であれば、オレに掴まるのが一番安全だ。どうせ初めてではないし、オレも彼女を支えられて安心できる。

 

「じゃ、じゃあ……すみません」

「い、いえ……こちらこそ」

 

 なぜか敬語のフミにつられて、オレまで敬語になってしまった。

 

「えいっ」

 

 腕を掴むくらいでいいはずなのに、フミは腕を回して抱きついてきた。

 

「そんなに密着する必要あるか?」

「省スペースだよ」

「ほーん……」

 

 吊り革を掴んでいないほうの手で、オレは彼女を抱き寄せた。公然でイチャついている訳ではない。あくまで省スペース。省スペースだ。

 

 

 

「あーっ……!」

 

 予定していた店にようやく着いたと思えば、何やら白い張り紙が遠くから見えた時点で、嫌な予感はしていた。

 

「妻の急病により臨時休業……だって」

「そりゃ、仕方ねーな……」

 

 昨日リサーチした情報では、今日は通常営業日のはずだった。口コミでも臨時営業などはほぼないと書かれていたので、油断していた。

 

 プランを考えついたのが昨日の今日なので、代案もない。フミをここまで歩かせて、さぞがっかりさせてしまったことだろう。

 

「かっこ付かねーな、オレ……」

 

 気合が入りすぎて、空回ってしまった。もう少し肩の力を抜いて、ゆとりのあるプランを立てればよかったものを……。

 

「悪い、フミ。最後の最後で……」

「かっこよかったよ」

 

 彼女は背伸びをすると、両手でオレの頬を包むようにして掴み、ぐっと引き寄せた。

 

「うおっ」

 

 思わずつんのめって、フミを押し倒さないようにした結果、彼女の体を抱きしめてしまった。

 恥ずかしいから往来で引っ付くな、と言われるかと思いきや、彼女はそのまま腕をオレの首に回して、オレの胸に額を付けた。

 

「正直さ、どこでもよかったんだ。アキが僕のために考えてくれたのが嬉しいから」

「そ、そうなのか……?」

「というか、僕のほうこそごめん。自分が男の時のこと考えたら、デートのプラン考えてきてって言われたら、緊張するのが当然なのに」

「い、いや、フミが悪いってことは……オレの準備が甘かったから」

 

 そもそも、今日のプランはオレが考えるという約束だった。輪投げの時、負けたほうは何でも言うことを聞く、という提案に乗ったのはオレなのだから、オレに非がある。

 

「僕のこと、純粋な女の子みたいに思ってる?」

「は? そ、そりゃ、今のフミは当然……」

 

 確かに彼女は、元は男だ。このところ振るまいが日に日にかわいらしくなっているが、気分的には中性くらいの自意識だと思われる。

 しかし、恋人である以上、オレは彼女を一人の女性として扱うべきであるし、今までのような適当なことは……。

 

「そーじゃなくて、僕ら、恋人だけど、男の頃からの親友でしょ」

 

 そう言うと、フミはポケットから携帯を取り出して、そのカバーの中に入れていたいつかのプリクラをオレに見せてきた。

 映っているフミ自体は美少女でも、ポーズは男同士がバカをやっているような構図で、色気も何もあったものではない。

 

 楽しそうだった。

 

「お互いにかっこ悪いところ沢山知ってるんだからさ、一度失敗したくらいで、今更キミのこと、どう幻滅すればいいんだよ」

 

 それは……そうだ。

 

 逆の立場で考えて、フミが何か失敗したり、彼女に苦労をかけられたとして、オレにとってそれは彼女を嫌う理由にはならない。

 フミは、一方的に頼ってきて、期待はずれならば離れるような、不義理な人間ではないと知っているから。

 

「アキが失敗だと思ってても、100点ってことにするから。100点! 大満足! 絶対またデートしようね!」

「わ、分かったよ……ありがとな」

 

 ここまで言われては、うじうじ落ち込んでいる訳にはいかない。また挑戦すればいいだけだ。何度でも。

 男同士だった頃、好き勝手にフミを連れ回していた時のように、のびのびと遊ぶほうが、きっと彼女も喜んでくれる。

 

「ね、アキ、スーパー寄って帰ろうよ。今日のお礼にさ、アキが好きなもの作るから」

「お礼って……オレだって楽しかったし、お礼をされるようなことじゃ……」

「ふーん。かわいい彼女が手作りしてあげるっていうのに、食べてくれないんだー」

 

 こいつ……彼女になって、間接的に自分が女であることを受け入れてから、性別を武器にすることを厭わなくなっている気がする。

 しかもそれがオレの理想みたいな美少女だというのが性質の悪いところだ。惚れた弱みというのはこういうことを指すのだろうか。

 

「じゃ、じゃあ……ハンバーグ……」

「あははっ! やっぱりそうなんだ」

「笑うなって」

「やっぱりアキ、かわいい」

 

 また「かわいい」かよ……まぁ、フミに言われるなら、そこまで悪くないか。

 

 





おまけ ねじれた純情


「なんかアキまたセクハラしなくなったよね」

 僕に対して遠慮しているというか、付き合う前よりむしろ距離が空いたみたいで、少し寂しい。

「それは……ほら、大事にしたいんだ」

 またなんかかっこ付けだした。自然体でいてくれればいいのに。
 でも、女の子の前でかっこ付けたい気持ちも分かる。僕もその気持ちのせいで酷い失敗を何度もした。変にスカしてクールを気取って、単に暗いヤツ認定されたり。

「そういえば今日、アキの要望通りの色の下着を着てきたよ」

 しかし、僕はアキのスカシを許さない。

「へ、へぇ〜」
「見たい?」
「お? え? いや? べ、別に?」

 まだそういう態度を取るか。ならば。

「チラ」

 スカートの端を掴んで、アキに見えるギリギリまで持ち上げてみた。

「ば、バカっ!」
「ほら、アキが持ち上げてもいいよ」

 スカートを上げたまま迫ってみると、アキは顔を真っ赤にして顔を背けた。

「や、やめなさいっ! お嫁に行く前の女の子がすることじゃありませんよ!」
「ちょっと前まで足の間に頭突っ込んで覗きにきたヤツの言うことか……?」
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