ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
鏡に映る昔の僕と、今の僕はもう、重なり合いません。
アキにもらった緑の髪留めで、高い位置に短めのポニーテールを作りながら、僕は髪型を確認するでもなく、ぼーっと姿見を眺めていた。
「今日から学校かぁ……」
鏡には、白いブラウスに、チェックのスカートを履いた自分の姿が映っていた。
ポニーテールのおかげで、溌剌な運動部女子のようにも見える。実態は手を引いてもらわなければ泳げないような情けないヤツだけど。
「てかなんでリボン……ネクタイ買えよ僕……」
ネクタイと違って締め方が分からない。早起きをしてよかった。ネットでリボンの結び方を調べたりしているうちに、登校時間を過ぎてしまいそうだ。
何度かぐちゃぐちゃと失敗しながら、4回目でようやくそれっぽい形に結び上がる。僅かに右に傾いていて不恰好だが、これを解いたら二度と元通りに結び直す自信がなかったので、諦めてよしとした。
「はー……変な感じ……」
女であることに対する違和感は、まだ多分にあるとはいえ、アキに女の子として見てもらえる嬉しさで忘れていた。
しかしこうして客観的に見ると、いつも自分が自分でないような錯覚に陥る。鏡の中に別人が写されているかのような。毎日風呂場で見ているから、いい加減自分の体こそ見慣れたものの、制服を着ると途端に見知らぬJKになる。男の頃の僕がうっすら恐れていた、あのJK。
まさか自分が女子高生になって、しかもそれを嫌とも思わないとは……。
「それにしても、目立つな……」
胸がどーんと張り出していて、鏡越しでも圧力を感じる。未だに胸の大きさにだけは慣れず、距離感覚を間違えてよくアキに押し付けてしまう。彼は嬉しそうだけど。
ワンピースのような、あまり体型の目立たないものばかり着ていたので、夏用の制服を着ると途端に目立って仕方なかった。
正直、自分の巨乳はあまり嬉しくもない。足下が見えなくて危ないし、重いし、洗う時大変だし、すれ違う人の視線がキモいし。
利点と言えば、アキが巨乳好き、という一点だけだ。胸を触らせてやれば、彼は大抵言うことを聞いてくれる。僕もアキになら、いくら触られても困らないし。
こう考えると、意外と自分の
しかし、やはりアキ以外の男に見られるのは不愉快だ。単純に男の視線というのが嫌だし、男に性的に見られているというのも不愉快だ。
この大きさだと、女子にすら見られることが多いが、そちらはそこまで嫌な気分ではない。というのはやはり、僕の中身が男であるからなのだろうか?
「とりあえず、暑いけどベスト着るか……」
そう思って足元に畳んでおいた紺色のベストを取ろうとした時に気が付いたのだが、スカートに違和感がある。特に腰の辺り。
「あれ……」
屈んだ時、折り目が不自然にヨレた。変な膨らみ方をしていて不格好だ。
「なんだろ……ちゃんとクリーニングしてるのに」
違和感があったベルトの裏を確認してみると、母が言っていたように、確かに僕のスカートには何回もベルトに巻き込んだ跡があった。何なら切った跡もある。やんちゃだ。
「これのせいでヨレてたのか……」
試しに巻跡にそって折り込んでみたら、膝上10センチくらいまで短くなった。
「み、短すぎ……! 階段で見えるだろ……!」
確かに足が長く見えたり、見た目もかわいいかもしれないが、これではふとした拍子に下着を見られるかもしれない。というか前から普通に見えていないか? き、気のせい? ただの影か?
こんなの露出狂と同じだ。階段の一歩目で後ろから見られる。というか落としたものを拾うために屈んだら見られるし、屈まずにしゃがんでも見られる。もはや自分から見せるための長さだ
「い、いいや……制服でおしゃれなんてしなくても別に……」
学校は見た目をよく見せるために行く場所ではないし、クラスの男女どちらのウケとか考える必要もない。
あまり芋っぽいと女子から呆れられるというのはあるかもしれないが、僕にはアキがいるから、男子にモテるとかどうでもいい。というか、男が好きな訳ではないし。アキだから好きなのであって、単純な同性愛とは違うのだ。
「そうだ……別にしなくても……」
アキは……短いほうが喜ぶか…………。
「ちょ、ちょっとだけ」
身長低いし、折らないとロングスカートみたいになるから……さ、3回くらい……。
「短い、か……?」
膝上10センチとまでは言わないが、結構短い。太ももは見えているくらいだ。
「い、いや……! これくらい……!」
風通しかよくて、い、いいじゃないかっ……! まだ夏の本番くらい暑いし、べ、別にアキに見せたいからとかではなく、これくらい……!
今年の始業式からは熱中症対策で、空調設備のない体育館ではなく、冷房のある教室でスピーカーから校長の話を聞く形式となった。
全く懸命な判断だが、これは断じて学校の手柄ではない。根性論大好きな教師陣から出た意見ではなく、PTAのこわーいお母様方が激詰めしたことでこうなっただけだ。
「最近の若いヤツは……軟弱でいかん……」
だから僕らのクラスの担任兼学年主任である老年教師は、この決定にずっとぶつぶつ文句を言っている。PTAのパワフルな奥様方には何も言えないくせに。
自分が学生時代の頃と比べているのだろうが、だったら自分が学生であった頃の気温までもを比較に入れてほしいところだ。あの老父には自分を大きく見せたいだけの発想しかないらしい。
「今年マジ楽だわー……」
アキは提出前の課題をうちわ代わりにして、冷房斜め下の一番風が当たる席の涼しさを満喫していた。
「去年は普通に体育館だったもんね」
それで先輩の一人が熱中症になったのが、教室での始業式が決まった理由だ。というのも、その生徒のお母君がPTAの会長であったとか。
「2学期は席替えあんのか?」
「やらないでしょ。あの担任に限って」
ハズレしかいないこの学校の教師の中でも、学年主任は大ハズレだ。この自称進の謎ルールを一人で10個は生み出している純正だけあって、生徒から楽しみを奪い苦労を課すことを教育だと思っている。
とはいえ、僕にとっては席替えなしは悪いことでもない。アキが前の席であるこの席から動かなくていいということだし。
『――――以上で、始業式を終わります』
担任の号令で起立し、スピーカーに向かって礼をする。一応は式典に属するものなので、本人が目の前にいないとはいえ、これくらいの礼儀は必要だ。
僕は形だけの礼を済ませて、スカートを撫で付けて整えながら座り直した。
「その座り直すときに自分の尻撫でるの何なの?」
「キモい言い方するな。スカートめくれないようにしてるの」
折れ曲がってシワになると嫌だし、こうしないと下着が椅子に当たることになって気持ちが悪い。
「お前らうるさいぞぉー。ここに貼ってる付箋に合わせて課題出せぇ。現国は来週の授業までだから、ここに間に合わないヤツはあとで出しに来いよぉ」
次の授業、1限目の休み明けテストまでの10分休みで、のそのそと課題を提出するクラスメイト達を尻目に、こちらに近付いてくる影があった。
「玉崎さん。おはよう」
「あ、結城さん」
僕よりずっと長い黒髪。きっちり締められた袖のボタンに、リボンではなく、ネクタイが窮屈そうに結ばれている。
いかにも優等生という着こなしだ。服装のことで生活指導に呼び出されたことなど一度もないだろう。
「げっ。結城……」
「げっ、じゃないわよ。敷島、あんたが学校でいかがわしいことしないか見張りに来たんだからね」
「しねーよ……」
信用ゼロだが、僕には庇えない。実際教室で猥談とか、好きなセクシー女優ランキング発表とかしていたのを知っているから。
結城さんは鼻を鳴らしながら、指で自分の目を差してからアキを指差した。見ているぞ、というジェスチャーだろうか。
「とにかく、私の目の黒いうちは、学校の中で悪さできると思わないでね」
言いたいことだけ言うと、彼女は僕にだけ控えめに手を振って自分の席へと戻って行った。
「真面目だなぁ」
「真面目っつか、お節介だ! オレのこと性の獣みたいな扱いしやがって……」
僕はそんなことないと知っているけれど、今までの学校での振るまいを考えれば、そう思われるのも仕方ないのではないだろうか。
「じゃあ、これは?」
「これは……僕はAにした。ギリシアの知的階級が一斉に亡命したから」
「単に直接的な理由だから、Dじゃねーか? 古典文化、思想の研究が進み、復興の機運が高まったから、とかいう……」
「ううう……酷いな! 悪問だ悪問! どっちとも取れるじゃんこんなの!」
僕とアキは、部室棟の空き教室で、昼間の青い光を頼りに休み明けテストの答え合わせをしていた。
今日は世界史、数2、数B、古文の4科目。明日は現代文、物理基礎、生物、日本史。
テストは明後日まで続く。その間は学校も早く終わる。厳密には4限の半ばくらいの時刻に終了する。教師陣はさっさと課題やテストの採点がしたいのだろう。
「世界史も見直しだけで、もう間違えてそうなところあるな……」
「ま、この前の大問はほぼ同じだったし、二人とも再テストは免れそうだろ」
「だといいけど……でも僕、数Bがギリ……」
「それを言ったらオレも古文がやばい」
休み明けテストは、70点以下で再テストを受けさせられることになっている。僕はそこまで出来のいい生徒ではないので、このラインがかなり厳しい。
再テストになると、その再テストの結果如何に問わず課題が追加される。関係ない教科までどっさりと。
「はぁー……折角課題終わって解放されたのに、この上再テストは嫌だ……」
「ヘーキだって。考えすぎなんだよ、お前は」
アキは早々に文房具を片付け始めた。見るべきところは全て見た、という風に。エロ猿のくせに意外と勉強はそこそこできるところが憎たらしい。
「ま、それもそっか」
下回ってしまった時は、その時だ。まだ分からないことを気にしても仕方がない。
「じゃあ勉強終わりね。終わり。アキ」
「はいはい……」
アキは立ち上がって、照れくさそうにしながら手を広げた。
「どーん」
「おわっ」
そこに飛び込んで、アキを倒そうとしてみる。彼は一歩後ろに支えを踏んだだけで、全然倒れる様子はなかった。
「へへ……」
アキの背に腕を回してしがみつく。制服の下にはコンクリでも詰まっているのかというくらい硬い。
いや、おそらく男としては多少筋肉質というくらいのことなのだが、流石に女の体で一週間も過ごしていると、自分の体の柔さに慣れてしまい、アキの体が余計に硬く思える。
頼もしい硬さだ。むしろ心地いい。
「結城が見たらなんて言うかな……」
「今他の女の話するな」
「そんなセリフをお前から聞くとは……」
こんな巨乳で美少女なのに、他の女のことを考える余地があるのか? 僕だったらないね。
「結城に教えてやりたいよ。注意して見ておくべきはオレじゃなくてフミだぞ、って」
だって、仕方がないじゃないか。
夏休み中はずっと一緒だったんだ。課題や昼食を口実に、いつもどちらかの部屋にいて、いつでもアキに触れることができた。
しかし、学校だと人目がある。すぐ前の席にいるというのに、露骨なスキンシップをすると周りに見られてしまう。
正直、結城さんには悪いが、余計なことを言わないでくれとすら思っていた。僕がアキとくっつきたくて仕方ないのだから。
「ほら、アキも」
「甘えん坊め……」
アキの太い腕が僕の頭と背に回り、腰を引き寄せられる。胸板に押し付けられるくらいが、むしろアキの鼓動を感じられて気分がよかった。
「ふふーっ……」
「ご機嫌だな」
「我慢してたから」
折角恋人同士になって、むしろこうして抱き合う大義名分を得たというのに、アキのヤツ、好きな子は大切にしたいとか言い出して、全然触ってこないし……。
だから溜まっているのだ。性欲ではなく、触れ合いたいという欲が。性欲ではなく。
「ね、アキ、チューしよ」
これも触れ合いたい欲だ。唇で触れ合いたいという欲であり、性欲ではないのである。
「こ、ここでか!?」
「いいじゃん。誰も来ないよ」
こんな部室棟の端っこの部屋、どの部活も使っていないのだし、誰も来ない。用事がある人間がいないのだ。
僕らのように邪魔をされずに自習をしたいというなら、教室棟の自習室を使うだろう。何なら教室棟にいくらでも使ってないクラスがある。
「そ、外の運動部に見られるかもしれないだろ!」
「大丈夫だよ」
外の運動部の部室群に人影はない。ここから見える野球部と陸上部は、着替え終わって運動場で部活をしている時間だ。
少なくとも今から3時間は戻ってこない。どちらも夕方まで練習しているので、だいたいそのくらいは猶予があるはずだ。
「ね、ほら、座って」
身長差のせいで大変なので、アキを椅子に座らせる。毎回つま先立ちで、彼に支えられながらするのでは、長い間触れ合うことができない。
実は、こうして見下ろす体勢でチューをするのが好きだ。アキの顔がよく見えるから。
「ちょ、ちょっと待て! たまに足音聞こえてくるし、この教室も絶対誰も来ない訳じゃないだろ!」
「もー。うるさいな」
ぐだぐだ言いやがって。そんな決定的な瞬間にやってくるほうがあり得ない。
誰か近付いてきて、教室に入ってきたのなら、その前に唇を離し、二人で勉強している風に装えばいいんだから。
「それとも、嫌なの?」
「…………」
知っているぞ。アキ。こう言われると、君に返す言葉はないだろう。
「……分かったよ。オレもしたい」
「僕もー!」
アキの膝の上に飛び込むと、アキは驚きがらも僕を受け止めた。かた、と椅子の足が浮き、背後の壁にアキの背が当たる。
「お前な……」
「ちゅーっ」
アキがまた何か言い出す前に、僕はアキの唇に自分の唇を合わせた。
「はい。黙っちゃった」
「…………調子乗んなよ!」
「ん、んんっ!?」
怒ったアキに引き寄せられ、今度はアキのほうから唇を押し込まれた。
「ん、んん〜〜!!」
な、長い長い! あんなに渋ってたくせに情熱的だ。僕のことむっつりとか言って、アキのほうこそむっつりだ。
「ん、んん……ちゅ」
唇が離れる時に、吸い付くような水音がした。
「はぁっ……激しすぎ……」
「何だ? もうギブアップか?」
「そんなこと言ってないし!」
渋ってたヤツに煽られるとムカつく。僕がどれだけ我慢していたことか。
「ね、また、アキからして」
最近、大切にしたいとか言って、僕のほうからばかりこういうことをしている。たまにはアキのほうからしてほしいのだ。
別に、リードしたいとか、されたいとかいう話ではない。僕らは恋人であって、親友なのだから。友達のようなカップルでもいいじゃないか。
でも、たまにはアキのほうから来てほしい。好きだということを示してほしい。
と、思うのは、あるいは僕が元は男だから、不安に思うのだろうか?
「……いいよ」
アキは少し顔を赤くしながら、その大きな手で僕の頭を慎重に撫でた。髪の流れに逆らわないように、後頭部のほうへと。
「じゃあ、はい」
僕はアキに抱きついていた体を少し離して、目を瞑った。
「…………」
胸が潰れていく感覚から、ゆっくりとアキの顔が近付いてくるのが分かる。目を瞑っているので、その息遣いも。
「……ちゅ」
僕の息遣いとアキの息遣いが揃った時、触れ合うような控えめな感覚が唇に伝わった。
「ん……ちゅ。はぁ……」
二度ほど触れた辺りで、息遣いが離れていく。しかし、僕はまだ目を開けなかった。
「まだ。もっと」
だって全然満足していない。僕としては、前みたいに毎朝したいくらいなんだぞ。
それをしなくなったのはアキのほうからなのだから、責任とって僕が満足するまでチューをしろ。
「フミ、お前な……」
「だって最近してくれないし」
「……分かったよ。とことんやるからな。嫌だって言っても離してやらないぞ」
耳元で囁かれ、僕の体が僕の意思に反して悦ぶように震えた。
「来て……」
少し荒いアキの息遣いが聞こえてくる。
僕の唇に興奮してくれているのかと思うと、僕のほうまでアキの唇から意識が離せなくなってしまう。
「ちゅ……」
僕の存在を確認するかのように、探り探りのキスが唇に伝わった。
「ん、ちゅ……」
位置が分かると、少しずつ唇が触れ続ける時間が長くなっていく。
「ちゅ、ん……む……ちゅ」
まるで所有物に名前の書かれたスタンプを押すように、アキの唇が僕の唇に判を押す。
何度も、何度も。
「ちゅ……ちゅ……ん、ちゅ……う……♡」
体が熱い。アキの体温がすぐ前にあるせいで、僕の熱が逃げる場所がない。
こめかみや太ももからじわじわと汗が流れ、谷間に溜まっては隙間から垂れて、下着に吸われる感覚がした。
「ん、はぁ……んむ……んんっ♡」
密着した状態で見下ろされ、アキの汗が僕の頬に落ちた。
汚いとは思わない。むしろ、自ら撫で付け、肌に馴染ませたいくらいだった。
もっとアキの汗と僕の汗が混じって、お互いからお互いの匂いがするようになればいい。
「ちゅ、ん、ふぅ……♡」
アキの口が離れた隙に、息継ぎをする。目を開けると、いつもよりアンニュイな雰囲気を醸す半目のアキが、僕の下半身を見下ろしていた。
「スカート……短くないか」
突然お互いの体が離れたかと思えば、アキの手が僕のスカートの端に伸びて、勝手に持ち上げ始めた。
「ちょ、ちょっと。勝手にめくるなよ」
「こんなの、誰かに見られたらどうする」
彼は、他の男に中身を見られることを警戒しているらしい。
確かにその辺り、普通の女子よりも警戒心が薄いかもしれない。しかし、僕なりにかなり気を付けている。
特に階段や、座っている時は注意が必要だ。足を閉じているのにも慣れた。骨格か何かの問題だろうか、閉じっぱなしでも男の時より疲れない。
「スカート降ろせよ。風でめくれそうだ」
「でも好きでしょ? 短いの」
「…………好きだけど」
これも知っている。アキは露出が多いほうが好きだ。着エロより脱衣のほうが好きらしい。
ただ、こんなに心配するのなら、今度からスパッツを履いてこようかな。それなら多少短くしたせいで中を見られても、下着を見られる心配はないし。
でも、とりあえず今はこっちだ。ここにはアキしかいないから、スカートの中身を見られるとしたら彼にだし、それは、別に嫌じゃない。
「中、見る? めくっていいよ」
僕はスカートの前を少しだけ持ち上げて、アキの手に持たせてみた。
「は、お、お前……!」
「今更でしょ。足の間に頭突っ込んでまで覗いてきたクセに」
あからさまに動揺していて、ちょっとかわいい。一応ちゃんとしたヤツを履いてきてよかった。
それと、デザインのいいものは、そんなに着心地がよくないということも知った。肌の当たる場所がゴワゴワしていたり、フリルが固くて擦れる。
変な気付きだ。おそらく男性に見せることを前提としており、つまり、自ら下着を見せる時なんてのは
「見たいでしょ?」
「…………見たい」
素直でかわいい。やっていることは殆ど痴女のそれだが、アキにだけだ。アキが喜んでくれないのなら、ここまで大胆にはなれない。
「み、見ていいって言ったのはフミだからな……」
「うん。見せたい……見て……♡」
生唾を呑む音が聞こえた。僕の喉から。
この期待感は、アキのものではなく、僕のものらしい。
このままガサっ、と持ち上げられ、中を見られてしまうのだろうか。
女モノの、鼠蹊部までを隠さない際どい下着を見られ、その心許ない一枚の布のさらにその下にまで手が伸びて……。
アキにいっぱい……♡
『はー。机おっも』
「はっ……!?」
外から声が近付いてくる。アキの手がスカートから離れ、ガバっと体が離された。
「や、やべ……! この教室入ってくる……!」
アキに夢中で、全然気が付かなかった。もう猶予がない。あと2秒もしたら教室に入ってくる……!
「あ、ちょ、ちょっと待って! 今降りるから……!」
「だ、ダメだ! こ、来い! 隠れるぞ!」
「え!? あ、ちょ、ちょっと……!」
アキは僕の体ごと立ち上がると、無理やり背後に引き込んだ。
「ふぃー……マジで古い机重いわぁー……」
「な。水吸ってるだろこれ」
複数人の声と、何かを運ぶ音が聞こえてくる。僕はなぜか真っ暗な視界で、何とか身を捩ってみるも、足下に薄く差し込む光を見ることしかできなかった。
こ、ここは、用具入れの中か。自在箒の埃っぽい匂いがする。
「あ、アキ、ここ……」
「静かにしろ……!」
「んむっ……!?」
狭い用具入れの中でアキに抱き寄せられ、顔を彼の胸板に押し付けられた。
っていうか、アキの片手がスカート越しに僕のお尻を掴んでいる。アキの硬い手の感触が尻の形を歪め、指の間に引き込んでいた。
ひ、必死で気付いていないのか……!? じゃあもういいや……も、揉まれてるけど、指摘したら外にバレるかもだし……♡
「ん、んん〜〜……」
「我慢してくれ……! バレる……!」
汗の匂いが……アキの……こ、こんなの、頭がおかしくなる……♡
「んん、ん……!」
指先や耳の裏までもが熱い。血管が肌と近い場所から順に赤みを増していく。
「ん、はぅ、ん……」
引き絞られた喉から、吐息が漏れ出して止まらない。
バイオリン弓をナイフで削ったような嗄れた音が二度、三度と大気に流れ出し、胸に溜まった息が外へ出ようと圧力を強めてくる。水をかき分けて外を目指す泡のように。
もし気付かれたら、もし、この扉が開かれたら。
緊張感が僕の息を落ち着かせてくれない。逼迫した空気が、なぜか胸を弾ませる。アキの足の間に絡まった僕の足が、微動を繰り返すのを止められない。
「はぁっ……♡ はっ……♡」
アキが、こんなに近くにいる。しかも際どいところを引き寄せられ、がっしりと掴まれている。
この閉鎖空間では、どうやっても彼の手からは逃げられない。汗を擦り付け合うのが止まらない。
「お? 鞄あるぞ。誰もいねーのに」
「勉強してたんだろ」
「じゃあ何で誰もいねぇんだよ」
「トイレでも行ってるからだろ」
外からは、机をいくつも運び込む音が聞こえてきた。まだ作業は終わりそうにない。
「案外、その用具入れの中にいたりしてな!」
「うぇっ……!?」
外からの鋭い指摘に驚いた僕は、思わずぎっくりと体を震わせてしまった。
「バカっ……!」
ガタ、と、自在箒の一本が倒れて壁に当たる音がする。狭い空間ではその音も漏れなく反響し、下の隙間から音が逃げていった。
「お、おい、今なんか、ホントに用具入れから音したよな?」
「流石に、偶然だろ……?」
ま、まずい……! 今の僕のポカのせいで、外で作業をしている人達に疑われ始めている!
「や、やばい……! あ、アキこれ……!」
「静かにしろって……!」
「ん、んんっ!? んん〜〜っ!」
あ、アキの手に塞がれてっ……!?
だ、ダメだ! 息が……! 息が全部アキの匂いになって、こ、こんなの……♡
「これで最後か」
「重かったぁ〜。早く帰ろうぜ」
「マジで生徒使い荒いよな、キタセン……」
机を運ぶ音が止み、複数人の足音が遠ざかっていく。僕の意識も、あと少しで現世から遠ざかっていくところだった。
「行った、か……」
緊張感に縛られていた汗腺が解放され、全身から汗が吹き出す。汗を吸ったアキのワイシャツの濡れた感触が、人気のグラビア写真よりも扇状的だった。
「フミ?」
「ふー……♡ ふぅーっ……♡」
アキの、汗……僕の体にも張り付いて……。
「だ、大丈夫か?」
「だい、じょぶ……♡」
すっごい……ドキドキした……♡
こ、これはダメだ……クセになりそう……♡
人通りの少ない坂道を、僕らは手をつないで歩いていた。
「ふふ……下校デートだ」
「なんでもデートって言えばいい訳じゃないだろ」
アキは恥ずかしがっていたが、僕が全力でだだをこねて手をつないでもらった。
ちらちらと同じ学校の制服を着た人の視線を感じるのが、少し気持ちいい。こいつは僕の彼氏なんだぞ。
「しかし、さっきは焦ったな」
アキは先ほどのことを思い出して、胸を撫で下ろしていた。
「見つかるかと思ったね♡」
「なんでお前はそんなに上機嫌なの……」
ドキドキして楽しかった、と言ったら、アキは呆れるだろうか。アキだけに。
……今のはつまらない冗談だった。
「僕は見つかってもいいけどな。別に。今更」
夏祭りの時点で、ほぼ決定的な瞬間を見られているのだ。
あの時はまだ恋人ではなかったとはいえ、その日のうちに好意を確認し合ったのだから、誤差みたいなものだろう。
「恥ずいだろ……イジられたくねーし」
アキは照れくさそうにそっぽを向いた。少し前までセクハラ三昧だったクセに、急にかわいいこと言いやがって。
しかし、アキが嫌だというのなら、しばらくは秘密のお付き合いということにしておこう。それはそれで、気付かれるかもしれないというスリルが楽しいし。
「またやろーね、かくれんぼ」
「もうしねーよ!」
語気強めなツッコミだったが、アキの顔には笑顔が浮かんでいた。素直じゃないヤツ。
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます。感想、評価、お気に入り、ここすきなども大変励みになっております。
アンケートのご協力ありがとうございました。想定の数倍の回答が集まって驚いております。
あと純愛過激派の数にも驚いております。みんな厳しいね。適当に展開作る前にアンケート取っといてよかった……。