ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 実は原案のフミちゃんはこんなに卑しか女になる予定ではなかった。




その19 (性的観点における)恵みの雨

 

「冷たいっ!?」

 

 赤いほうのハンドルを回したのに、シャワーから冷水が飛び出してきた。

 よかった。僕がウサギなら今ので心臓発作を起こして倒れていた。

 

「壊れてる……?」

 

 どうやら、給湯器か何かが壊れたらしい。水しか出さなくなったシャワーを手に当てながら、僕はため息を吐いた。

 

 

 

「お風呂貸ーしーて」

 

 かろうじて髪を濡らす前だったので、僕は一式のお風呂用具を洗面器に入れて、隣の部屋の呼び鈴を鳴らした。

 

「フミ? どうした? もう8時だぞ」

「お風呂壊れた」

「壊れた?」

「そう。温水が出なくなった。アキの部屋は?」

「オレんとこは普通だけど……」

 

 ということは、僕の部屋のお風呂にだけ、何らかの問題が起きているということか。

 

「よかった。じゃあお風呂貸して」

「いいけど、修理呼んだのか?」

「呼んだ。来るのあさって」

 

 アパートの管理者には連絡済みだが、修理会社のスケジュール上、即日と明日は不可。明後日の昼が最速らしい。

 僕が学校に行っている間に、大家のおばさんが修理会社の人の応対をしてくれることになっている。

 人に任せるなんて不用心だと思われる向きもいるかもしれないが、大家さんは父さんの昔からの知り合いだし、僕の部屋を荒らしたりするような人ではない。

 

「入れよ。洗剤も好きに使っていいぞ」

「同じ匂いがするって噂になっちゃうかもね」

「誰も気付かねーよ」

 

 ペシ、と、お尻を叩かれて中に入れられる。軽い調子でやってるけど、他の人にやったら犯罪になるぞ。

 なんて。アキが僕以外にそんな気安いことをしないのは知っている。

 

「へへ、お邪魔しまーす。このままお泊まりしようかな。ゲーム大会しよーよ」

「明日も学校だろ。てか、危機感を持て危機感を。簡単に男の部屋に泊まろうとすんな」

「ケチ。前はよく泊まりでゲームしてたのにさー」

「今のお前は女だろ。いいから入ってこい」

 

 紳士みたいなこと言いやがって。僕らはお付き合いをしている男女だ。ちょっとくらいエッチな気を見せてきたって、幻滅したりしないのに。

 

「じゃ、なんかあったらデカい声だして呼べ」

「ありがと。ごめんね夜遅くに」

「気にすんな」

 

 奥に戻ってしまったので、僕もおとなしくお風呂を借りることにした。お泊まりはまた今度だ。そちらも僕はまだ諦めてないからな。

 

「さ、お借りしまーす」

 

 アキの部屋のお風呂はどんなもんか、などという好奇心を発揮してみたが、なんてことはない。僕の部屋と同じ形のユニットバスだ。

 出しっぱなしのゲームや服で散らかっている居間とは違って、ちゃんと掃除がされている。

 まぁ、掃除をサボったらすぐに変な匂いがするからな……ユニットバスとかいうものは。

 

「うわ、お風呂上がりのアキの匂いだ」

 

 なんか、変な気分になるぞ……。

 

 まるで、アキに包まれてるみたいに……。

 

「い、いやいや……」

 

 人の部屋で何をする気だ、僕は。あまり長居しても迷惑になるし、さっさと済ませて退散しよう。

 

 

 

 今日から学園祭の準備期間となり、週に2度ほど、6限が学祭準備に使われる。それから放課後も。

 

「脚本の進捗どうなってるか知ってっか?」

 

 提供する食品の議論をしている傍らで、飾り付けで使いそうなものを先んじて作っていたアキがそんなことを聞いてきた。

 

「いや、特には……書いてる人は、アイデア欲しさで図書室にこもりきりらしいけど」

「まだ図書室かよ。舞台の規格早めに聞いておきたいんだよなぁ」

「そっか。劇の内容聞いておかないと、衣装とかも決まらないしね」

 

 アキは美術係だ。セットとか、視聴覚室内の飾り付けとか、工作が好きなクラスメイト達と集まってああでもないこうでもないと言い合っている。

 今は、家庭科部にもらった端材で、使えそうなものを選別しているところだった。ラウンドテーブルの上に敷くクロスを作るのだとか。

 

「明日聞いたらどうかな。英語の教室だと、隣の席なんでしょ?」

「肯定ペンギン」

「何言ってんの」

 

 アキは手元で薄い布の色合わせをしながら適当な返事をした。脳を介していたら出てくるはずがない冗談だ。

 というのも、クロスを作る作業の他、窓に貼る用の暗幕の縫い合わせもしているので、会話にかけるリソースがもうないのだろう。器用にも僕と話しながらでも手元を失敗する様子はない。

 

「敷島ー! 木の板って今何枚ある?」

「今もう2枚しかねーぞー! ミシン室行ってくるから、ついでに廃材取ってくるわー!」

「サンキュー!」

 

 去年の学園祭で使われた廃材、小道具、大型で解体すれば使えそうなものなどは、学校が倉庫に保管している。

 そこから血のりだらけのマネキンを引っ張り出してお化け屋敷に使ったり、看板とかを塗り直して別の看板にしたり……学校も各クラス分の予算は出してくれているものの、廃材で事足りるものは買い出ししないでくれ、というスタンス。

 

「じゃ、オレ、ミシン室行ってくる」

「家庭科部の女の子と浮気しないでよ」

「するか! 終わったらすぐ戻ってくるから、拗ねて一人で帰るなよ!」

 

 普段ミシン室を部室にしている家庭科部は、部員が全員女子生徒だ。

 女子力の高い女の子に囲まれて、コロッとアキが懐柔されやしないか、不安で仕方がない。というのはやはり、自分が真っ当な女の子ではないことに引け目を感じているのだろうか。

 

「浮気なんかしねーよ。今日も一緒に帰ろう」

「うん……ありがと」

 

 去り際、アキは教室にいるクラスメイト達に聞かれないように、小声でそう言ってから走り去って行った。

 

「ふへ、ふへへへ……」

 

 僕、さっきまで何を悩んでたんだっけ……♡

 

 

 

 いつからか、フミの様子がおかしい。

 

 いや、本当は気が付いている。恋仲になってからだ。明確に言動が変わった。そのことに彼女自身は気付いているのだろうか。

 

「アキ、靴紐解けてるよ」

「え? あ、あぁ……」

 

 考え事をしていたせいで、靴紐が解けていることに気が付かなかった。

 こういうところは以前と変わらない。彼女は男の時からよく気が付くヤツだった。あるいは男の時からオレに対してお節介を働いていただけかもしれないが。

 

「どうしたの? 悩んでる?」

「いや……悩みってほどのことじゃない。上の空になってた」

「えー? こんなかわいい彼女と並んで下校してるのに?」

 

 変わったのはこういうところだ。

 

 フミは何というべきか、過度に〝女性〟であろうとしているような気がする。

 体が女になって、さらに誰かの彼女になったのだから、彼女らしく振るまうべきだ、とか考えているのだろうか。

 

 なぜそんな風に考えているのか、までは分からない。大体、今の考え自体、オレの取り越し苦労かもしれない訳だし。

 

 ……いや、聞いてみればいいことだ。気を遣って隠されるよりも、彼女はストレートに言われてしまうことを好む。

 

「なぁフミ、お前のほうこそ、何か悩――――」

 

 オレの呼びかけに気が付いてフミが振り返った途端、鼻先に小さな雫が落ちてきた。

 

「今なんか――――」

 

 上を見上げた瞬間だった。ぽつぽつと雨が制服を黒めていき、見上げている多少の間、10秒とかからないうちに大降りとなった。

 

「うわっ! あ、雨だ!」

 

 オレは慌ててリュックを背から下ろし、抱えるようにして持ち直した。合成繊維の安い鞄なので、雨に濡れれば中の教科書まで濡れる。

 

「やっべ! めっちゃ降ってきてるぞ!」

 

 即座にリュックを庇ったのは正解だった。まるで冷たい打たせ湯かのようだ。落雷を予報する低い破裂音と共に、雨の白糸が一気に降り注ぎ、たちまち地面で一本の雨川になっていく。

 

「冷てぇ! い、いきなり降ってきやがって!」

「と、とにかく帰ろう! 走って帰れば5分もかからないし……!」

 

 脱いだベストで鞄を覆い隠したフミが、雨で額に張り付く前髪を避けながら走り始めた。

 

 雨で濡れたワイシャツの下に見えるのはブラ紐ではなく、その上に着た薄い下着だった。

 ガードが固くなっている。女になってすぐの頃は下着なんて何でもいいなんて言っていたほどなのに、適応するもんだな……。

 

「ってやべ! オレも行かねーと!」

 

 

 

 息を切らして走った甲斐もなく、アパートの心許ない屋根に辿り着く頃には、オレもフミも濡れ鼠になっていた。

 

「教科書は……無事か」

「中入りなよ。このままじゃ体が冷えちゃうから」

「ああ」

 

 いつまでも濡れた服を着ていては風邪を引く。とりあえずワイシャツだけでも脱いで、急いで風呂を沸かしたら……。

 

「あっ」

「ど、どうしたの?」

 

 そうだ。フミの部屋の風呂は今……。

 

「フミ、お前脱いだらどうするんだ」

「ど、どうするって……洗濯機に……」

「そうじゃなくて、お前の部屋の風呂、今使えないだろ」

 

 オレに言われて気が付いたのか、フミはあからさまにハッとして口を半開きにした。

 

「あ、そ、そうだった……でも、一応着替えないことには……」

「とりあえずこっちこい! ここに立ってたんじゃ体力使うぞ」

「え、あっ……!」

 

 フミの手を引いて、急いで彼女を部屋に引き込んだ。

 戸惑う彼女を玄関に座らせ、オレは上衣を乱雑に脱ぎながら、風呂場の栓を閉めに向かった。

 

「今お湯張るから! フミ先入れよ!」

「え、え? か、借りていいの?」

「そのままじゃ冷えるだろ! 適当な着替え出してくるから!」

 

 赤い回しを全開にして、帰りしなに洗濯機にワイシャツを雑に突っ込みながら、玄関で縮こまっていたフミに声をかけた。

 

「でもそれじゃ、アキが冷えるよ!」

「オレのことは気にすんな! そんなに寒くねーからさ!」

 

 嘘だ。実は先ほどの通り雨で体が冷えたのか、かなり寒気を感じている。

 ということは、だ。オレがこんなに寒さを覚えるほどなのだから、彼女はもっと寒い思いをしているのではないか。

 

「ぼ、僕はいいから、アキが先に入ってよ」

「震えながら言うことじゃねーだろ。いいから先に入って来いって」

「あ、アキだって、震えてる……!」

 

 フミに指摘されて、オレは無理やり深呼吸をすることで震えを誤魔化した。

 さっき部屋に入れた時に掴んだ腕も、冷え切って冷たかったのだ。オレは待っている間タオルにでも巻かれていればいい。

 

「オレは平気だって。ほら、風邪引くぞ!」

「でも、ここ、アキの部屋なのに、僕が先にお風呂入るのは……!」

 

 強情な……! そりゃオレだって寒いことは寒いけど、男がカッコ付けてるんだから、甘んじて受け入れてくれよ。フミだって元は男なんだから、オレの気持ちが分かるだろ。

 

「いいから! つか、こんな押し問答してるうちにもっと冷えるぞ!」

「だ、だったらさ!」

 

 罪悪感で立ち往生をしていたフミを脱衣所に押し込もうとする手を、突然彼女に掴まれた。

 

「い、一緒に! 一緒に、入る……?」

 

 

 

 断るべきだった。オレのことはいいからと意固地に言い続けるべきだった。

 

「…………」

 

 フミは、脱いでいるところを見られるのが恥ずかしいということで、さっさと脱ぎ終わったオレから先に湯に浸かっていた。

 

 湯船に浸かりながら、脱衣所のほうから聞こえてくる音から、必死に意識を逸らす。

 パチ、とか、するする、とか、単なる布擦れの音なのに、なぜか男のそれより品性とエロティシズムを感じるのは、まだ2分も経っていないのにのぼせてしまったのか。

 

 布が床に落ちる音が止み、服を畳むような音もなくなると、向こうから深呼吸をするような声がうっすら聞こえてきた。

 

 い、いよいよか……。

 

「は、入るよ……?」

「あぁ、わ、分かった……」

 

 扉越しに聞こえてきた声は上擦っていた。折れ曲がる形の扉が音を立てて開き、中を覗き見るフミと目が合う。

 

「あ、わ、わり……」

 

 オレはすぐに目を逸らした。漫画表現やテレビのリポートみたいに、風呂に大きなタオルを持ち込む訳がない。

 半透明の扉越しに見えたフミは、何もまとっていなかった。

 

「じゃ、か、借りるね……?」

「お、おう……」

 

 なるべく壁のほうを見て、フミの姿や鏡から目を逸らす。

 これはただの親切だ。邪な気持ちで風呂を貸した訳ではない。それに、先ほど一瞬だけ目が合ったフミの顔は真っ赤だった。彼女自身が恥ずかしく思っているなら、無闇に眺めたりしては、体を流しにくいだろう。

 

「さっきはびっくりしたね……いきなり雨……」

「そ、そうだな」

 

 ハンドルが回る甲高い音がして、シャワーの水勢が段々強まっていくのが分かる。フミの体に当たって流れ落ちる音も。

 

「ネコ、大丈夫かな……」

 

 スポンジに洗剤を出す音に続いて、泡立てた面で体を洗う摩擦っぽい音が聞こえてきた。

 

 耳に毒だ。どんな音がしても、フミが何をしているのかばかりを想像してしまう。しかも想像の中の彼女は、何も隠すものを着ていない……。

 

「ふ、フミ、寒くないか?」

「え? 大丈夫。湯気であったかいし」

「そ、そっか」

 

 フミが寒いと言えば、湯船に浸かれと言って退散する口実にできた。

 とはいえ、無理やり出て行こうとすれば、さっきの押し問答みたいに引き止められるだろう。

 

 そんなことをされたらまずい。彼女の肢体を見てしまったら、下のアレがヤバいことになる自信しかない。というか今ですらヤバい。

 

「そういえばさ、ここ、僕の部屋の浴室と内装一緒なんだよ」

「そりゃ、そうだろ。同じアパートなんだから」

「部屋毎にちょっとずつ違ってたら面白かったのにさ。この分なら他の部屋も同じかぁ」

 

 あんまりそっちの部屋の浴室が想像できるようなことを言うな。ただでさえ壁が薄くて、時折シャワーの音がこちらにまで聞こえてくるのだから。

 

「よし……」

「あ、洗い終わったか?」

「うん」

 

 シャワーの音が止まった。一々音を拾って悶々とする必要がなくなり、オレは思わずため息を吐いていた。

 

 さて、ではオレは温まったし、夜にでももう一度入ればいいから、ここは退散しよう。

 

 と、腰を上げようとした瞬間。

 

「よいしょっ、と……」

 

 視界いっぱいにフミの滑らかな臀部が飛び込んできた。

 肌理は目視では分からないほどに細かく、適度に白くて、そして見る者を何人も包み込んでしまいそうな曲線が……。

 

 じゃ、じゃなくて!!

 

「ちょ、お、おい!? 何で入ってくる!?」

 

 オレは慌ててそっぽを向いた。足を開いているところを見たら、尻どころかもっとセンシティブなところが見える。

 

「だって……寒いし」

「さ、寒いしって、まだオレが出てないだろ!」

「え? 一緒に入るって言ったでしょ。アキ、まだ寒そうだよ」

 

 そう言うと、フミは本当にそのまま浴槽の中で腰を下ろして、オレの前のスペースで湯に浸かり始めた。

 彼女の体積分の湯が浴槽から溢れる。小さな滝のような音がして、湯が排水溝に一気に流れていった。ユニットバスで床を思いきり濡らすのはやめてくれないか。

 

「アキ、見ないようにしてくれてるんでしょ?」

「え? あ、そ、そりゃ……」

「大丈夫。背中向けてるから、こっち見ていいよ」

 

 恐る恐る目を開けてみると、確かに見えたのは彼女の背中だった。湯に浸からないように持ち上げた髪が、肩の上を通って前に流れている。

 そのせいで、うなじのほくろも、少しだけ浮いた肩甲骨も、何もかも見えている。うなじのほくろは本人も存在に気が付いていないのではないだろうか。

 背中とはいえ、こんなに際どいところを見ていいものなのか。その豊満な胸は背中に隠れきっておらず、横から一部が見えている。

 

「付き合う前はセクハラ三昧だったのに、急に紳士だよね」

「それは……それだけオレが本気だって……」

「知ってる。ありがとね」

 

 フミはそう言うと、体育座りのまま、オレに背を預けてきた。

 

「ちょ、ま、待て! 近いぞ!」

「いいじゃん。アキに触りたいんだ……」

 

 くっ……彼女の頼みとなると、さしものオレも断ることはできない。

 特に最近はなぜか甘えたが強いというか、何かを不安に思っているようだし、不安に思う必要はないと思わせるためにも、接触を断る訳にはいかない。

 

 し、しかし、しかしだ……。

 

 なんでオレと同じシャンプーを使って、こんなにいい匂いがするんだよっ!!

 

「あっ」

 

 最悪のタイミングで思い出したことがある。

 

 オレは浴室の出窓に〝サードアイ(置き型)〟を放置している。ここはいつもそれなりに湿度があるので、放置しても壊れずに済むと思ったからだ。

 

 それが、意識したせいで起動した。出窓はオレとフミの前。つまり、オレとフミの姿を見下ろす場所にある。

 

「うおっ!!?」

 

 ほ、ほぼ見えてるじゃねーかッ!!

 

「な、何!? どうしたの!?」

「わ、わり……いや、フミの抜け毛に鼻をくすぐられたから……」

「そっか。ご、ごめん」

「いや……………」

 

 ま、まずい。今はまだ、フミが体育座りをしているおかげで、際どいところは見えていない。

 しかし、もし彼女が膝を抱える腕を解き、足を楽にしたら……。

 

「そういえば、クロスの作成はどうなの?」

「お、お? おお」

「……アキ? 聞いてる?」

 

 フミの声が全然頭に入ってこない。サードアイの情報は、オレが目を瞑っていても共有される。

 

 つまりオレの視界は今、フミの裸一色だ。

 

 地獄……いや、天国か……。

 

「ねぇ、テーブルクロスだよ。さっき学校で作ってたよね?」

「あ、ああ。クロスな。まだ半分、くらい」

「そっか。大きいもんね」

「そ、そうだな。大きいな」

 

 確かに巨乳だ。指が沈んでいく感覚をよく覚えている。あの時のオレはよくもあんなことができたものだ。

 というのも、まだ親友気分から抜け出せなかったので、悪ふざけの感覚でイタズラをしていた。

 今は同じことをしようとも思えない。今更彼女に嫌われることもないだろうが、良心が激しくオレを攻撃する。

 

「気持ちいいなぁ……今度温泉いこっか。お金貯めてさ、部屋に露天風呂あるところ」

「ろ、露天?」

「一緒に入ろうよ。こんな感じで」

 

 オレの胸にかかるフミの体重が増した。甘い匂いが顔の下で巻き、彼女の陶器のように滑らかな肌がオレの肌と擦れ合う。

 

「い、いつかな」

「大学生になったらかなぁ。バイトできるし。アキは校則破って内職してるけど」

 

 段々と、体が温まったフミがリラックスしていくのが分かる。足も前に伸ばしていて、居心地よさげに壁を眺めていた。

 

 ま、まずい、このままでは、フミの全てが見えてしまう。かといって、上がろうにも彼女が寄りかかっていて上がれない。

 出る、と言えば、彼女は一度体を起こして立ち上がるだろう。そうなったら結局、サードアイに全てが映る。

 

 は、八方塞がりか……。

 

 もうこうなったら…………。

 

「ね、約束ね」

「ああ、そうだな……約束……」

 

 正直言って、この後のフミとの会話は一つも覚えていない。

 

 ただ一つ言えるのは、彼女の体は綺麗だったということだ。

 

 

 

「わり……」

「もぉー! のぼせたなら言ってよ!」

 

 腕を目で覆いながら、オレはフミの膝枕で扇がれていた。

 

 あの光景は刺激が強すぎた。エロ漫画のヒロインがそのまま絵から飛び出してきたのかとすら思ったほどだ。

 しかもそれを小一時間ほど見せられたのだ。正直忘れられる気がしない。しばらくはオカズに困りそうにない。

 

「はい。水飲む?」

「ああ……ありがと」

 

 渡された水を口に含んでみると、期待していたよりずっと温かった。いきなり冷たい水を飲んでは体によくないので、冷水をお湯で埋めたらしい。

 

「というかさ、珍しいよね。アキ、サウナとか好きだし、暑いの弱くないでしょ?」

「え? あ、そ、そうだな」

 

 サードアイであなたの生まれたままの姿を目に焼き付けてました、とは言えない。

 

 そんなことを言った日には……。

 

『う、うわ!! 変態!! ドスケベ!! 最低のおこないだぞっ!!』

 

 覗き魔の謂れを受けること間違いなしだ。

 

 いや……最近のフミなら……。

 

『そんなに見たいなら早く言ってくれればよかったのに……♡ ほら、全部見て……♡』

 

 こうでもおかしくないか。

 

「やっぱり雨で体力奪われたのかな……」

 

 フミは膝上でオレの湿った髪を撫でながら、左手でうちわを扇ぎ続けていた。

 扱いが雑なせいでよく軋むオレの髪の毛のどこを気に入っているのか。彼女が楽しそうなので止める理由もないが、まるで子供扱いされているようで、多少むず痒い。

 

「なぁ、さっきは聞きそびれたんだけどさ……」

「何?」

 

 不意の雨も、テクニカルすぎるラッキースケベもない。今なら落ち着いて聞くことができる。

 

「フミのほうこそ、何か悩んでねーか?」

 

 照明の影となるフミの顔を見上げ、見上げ……。

 ダメだ。フミの胸が邪魔で顔が見えない。何なら右耳は彼女の胸に完全に埋まっている。幸せな重さだ。

 

 いやいやそうではなく、真面目な話をしているんだぞ。こうやってすぐエロいことを考えるのがオレの悪いクセだ。

 

「悩んでること?」

「ほら、何か、最近色々あったしよ……」

 

 オレが彼女の立場だったら、男から女になる、という変化からして受け止め切れる気がしない。

 それだけではない。オレを除いた周囲の認識も男から女に変化しており、彼女を取り巻く世界は文字通り一変した。性別が変わるというのはそれだけのことであるはずだ。

 オレの恋人になってくれたのだって、もしや自棄を起こしたのではないか、と時折心配になることすらある。

 

「どうなんだ? 教えてくれよ」

 

 何かあったら、オレはフミの力になる。

 

 オレみたいなどうしようもないヤツに文句も言わずに振り回されてくれて、一緒に笑ってくれる友達は今までいなかった。

 だから、本当は女であることに悩んでいるというのであれば、元に戻る手伝いに労力は厭わない。

 

 そのためにオレ達の仲が変わったとしても……。

 

「ないよ?」

「え?」

「悩みなんて……あ、強いて言うなら、バス停前のスーパーの卵、値段上がったよね」

 

 卵?

 

「い、いや、そういうのじゃなくて」

 

 気を遣って嘘をついているのか? それにしては声色が落ち着いている。フミは情けないほど嘘の類が下手くそなので、聞けば分かる。

 

 では、本当にそれだけなのか……?

 

「うーん? すれ違う人がみんな胸をチラ見してきて鬱陶しいくらいかな。それだって別に今まで実害があった訳でもないし」

 

 確かに、たった今オレの視界の半分を占領しているこの恵まれた胸は、男の視線を引いてやまないだろう。

 それにしても、悩んでいる、というほどの含みは感じさせないトーンだった。

 

「そのくらいかな」

「そ、そっか」

 

 頭を膝枕の上から少し横にズラして、彼女の顔色を窺ってみるも、いつも通りの柔和な笑顔がそこにあった。

 オレの取り越し苦労だったか? 杞憂ならば杞憂でいいのだが……。

 

「それより、ちょっと早いけど夕ご飯にする?」

「あ、ああ……今日はロールキャベツ作るって張り切ってたよな、そういえば」

 

 いつもキャベツを巻く時に破れて上手くいかないので、手先が器用なアキが手伝ってくれ、と昨日の夜、彼女に頼まれた。

 

「へへ。言っとくけど、僕の家のはコンソメ味だからね。トマトスープがいいって文句は受け付けてないです」

「どっちでもいいよ。要するにハンバーグだろ?」

「全然違う!」

 

 その日は結局、フミの隣で肉ダネをキャベツの葉に包んだり、彼女の料理の手伝いをした。

 いつものように同じ卓を囲み、表情を綻ばせながら夕食を楽しむ彼女の様子には、特段変わったところもなかった。

 

 





おまけ 好きなもの苦手なもの

フミちゃんの好きなもの
・猫(片想い)
・料理
・サッカー

苦手なもの
・水泳
・絶叫系アトラクション
・階段(胸のせいでつま先も見えない)

アキくんの好きなもの
・純愛モノ
・CMNF
・巨乳

苦手なもの
・女体盛り
・ス◯トロ
・リョナ
・かわいそうなヤツ全般
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