ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
「E組の出し物、あれ何?」
「アナログパチンコだってよ。手動で上からビー玉流して、客は手元のハンドルみたいなので、流れてくる球の入り口を開閉して調整するんだと」
キャンバスほど広さの木製の板に、所狭しとクギが打ち付けられたものが3枚、廊下に並べられていた。
あれをあと7枚作るらしい。E組の教室だけ見ると、ほぼ大工さんの集まりだ。全員白い手拭いを頭に巻いて釘を咥えている。
「力仕事だな……」
「オレらも人のこと憐れむ立場じゃないぞ」
「まぁね……」
イメージ図と睨めっこしながら書き割りを塗装するアキの隣で、僕は宣伝用のプラカードを組み立てていた。
「全体の進捗度で言うとどれくらいなの」
「結城のヤツによると5割。書き割りはこれで全部完成だしな。オレは衣装担当と合流して服作る」
「それが一番大変そうだね」
僕もこれを終わらせたら、提供するメニュー候補のパンケーキの試作、試食のほうに合流することになっている。
ちなみにパンケーキは極薄だ。クレープよりは厚いくらい。見栄え重視で上にトッピングを乗せる都合上、予算が足りなかった。
「衣装のサンプルできたよー!」
組み立てたプラカードに宣伝用の紙を貼り付けたところで、教室の後ろの扉が乱暴に開かれた。
足で引き戸を開いた女子生徒は、両手にヒラヒラした服を掲げながら、ずけずけと教室中に見せびらかして回り始めた。
「意外とそれっぽいヤツになったなぁ!」
「あ、ちょっと。あんまり近くで見ないで。素材の安さがバレる」
「ホントだ、うっすいなこれ」
作業の手を止め、教室中の生徒が完成した衣装に集まっていく。僕とアキはその様子を遠巻きに眺めていた。
赤いパーティードレスと、白黒のメイド服。どちらも遠目にはかなり造りがよく見える。
「すご。アキも手伝ってたよね。型紙とかデザインも含めて1から作ったの?」
「いや、元はド◯キのコスプレ棚に並んでた仮装を改造してる。流石に全部手作りは無理だった」
アキはスマホを取り出し、元になったコスプレ用衣装のパッケージ画像を見せてくれた。
「うわ……」
ミニスカメイドだ。完成した脚本はリア王を原案にした物語なので、とても雰囲気に合わない。
それを改造して布を増やしたらしい。足下までしっかりとドレスが降りている、クラシカルなメイド服が出来上がっていた。
「衣装は1着ずつなの?」
「メイド服は6着作る。そのうち二人分は外でプラカード持って歩き回る用」
「はー……羞恥プレイだ」
「宣伝回りたいって女子結構多いぞ」
それは僕みたいな根っこが陰キャのジャージ女とは違う、動画投稿系SNSに上げるためのダンスを毎日踊っているような、一軍女子達の領分だ。
「フミは調理だろ?」
「うん。まぁ、給仕もするけど」
案としては、会食のシーンでメイド服を着た女子生徒が、観覧客のテーブルを回って食事を提供する、という形だ。男子向けの衣装は予算と時間の都合で諦められた。
その劇の一員になったような気分をお楽しみくださいというコンセプトだが、入ってくる客は普通に学生服なので、むしろ己に異物感を感じるのではないかと思わなくもない。
「フミも着るんだぞ」
「言うな……」
一度しか交代がない主演の数人よりはマシとはいえ、4着を着回してメイド役と調理を兼任するのは中々に骨が折れる試みだ。
「いくら撮影禁止って張り紙しても撮影されるんだろうなぁ……」
「視聴覚室に案内する前にスマホ没収するか」
「それはやりすぎ」
簡単に人を撮影して、簡単にSNSにアップする奴が多すぎる。が、これはもうどうしようもない時流だ。
何億人もの人間が手軽な撮影機を持ち歩けるこの時代には、自衛しか術がない。
「いっそ金稼ごうぜ。チェキとか置いとくか」
「ダメだよ。届け出提出してないでしょ」
学園祭の予感に色めき立つ校内では、男女の組み合わせが目立つようになってきた。
これが純粋な好意の交換だと思う向きは、恋愛に誠実な人だ。僕としては、そういう人にこそ好感を覚える。
実際には「クリスマスに独り身だと恥ずかしいから、数日の間だけでも彼氏/彼女になってもらう誰かを見つけよう」みたいな考えの延長。
そうやって、人によっては嫌悪感を催す観念から生まれたカップルが5割。
「玉崎フミちゃん、だよね? 前に金工室の前で見かけんだ。かわいい子だなーって。野球部でも噂になってるよ」
「は、はぁ……」
「フミちゃんは俺のこと知らない? ほら、野球部でリリーフやってる」
「えと、ぼ、私……野球詳しくなくて」
「そっかー」
昼休み、僕は野球部の先輩に呼び出され、学園祭当日に、一緒に校内を回らないかというお誘いを受けていた。
「それでさ、フミちゃん、当日一緒にどうかな」
「ご、ごめんなさい。約束があるから……」
「そうなんだー。残念」
少し長めの坊主の先輩は、断りを入れるとすぐに引き下がり、笑顔で去って行った。
初対面にもかかわらず、許可もなしに下の名前で呼んでくる馴れ馴れしさは差し置いても、口で言えば分かってくれる人で助かった。
「みんなおかしいだろ……中身は元男に……」
実は今の先輩以外にも数人から、一緒に学園祭を回りたいと申し出を受けていた。
多少のリアクションの違いはあれど、大半は今の先輩のように一度断れば諦めてくれるのだが、たまにしつこく食い下がってくる人もいる。
「あぁ、またチャット来てる……」
内容は見なくても分かる。
『君の友達にチャットのID教えてもらったんだけど、俺と友達になってくれない?』
こんなのが直近の2週間で5件は来ている。勝手に僕のIDを教えてる不届なヤツはどこのどいつなのだろうか。
ちなみに僕の返答は全てこれ。
『ごめんなさい』
TSCの効果で見てくれだけはよくなって、しかも中身は陰キャなものだから、垢抜けていない雰囲気を醸しているのは自覚している。
それがチョロそうというか、チャンスがあるという風に見えているのだろうか。学園祭を口実にお近付きになろうという男子が次から次へと僕を呼び出してくる。
「はぁ……」
好意を向けられることそのものは、悪い気はしないでもない。
何なら想像の中に留まるならば、僕をどのようなあられもない目に合わせようと(僕自身の快不快は考慮しないものとして)その人の自由だろうが……。
たまに、本当に極めて稀な場合の話だが、悪質な者がいる。
僕はすっかり出会い系みたいになってしまった自分のチャット欄の、下のほうに埋もれていた結城さんからのチャットを開いた。
『大河子が「玉崎さんが学園祭デートを了承してくれた」って騒いでるけど本当?』
『してない。アキと回る』
『そうよね』
悪質ってのはこういうヤツだ。
嘘を広めて外堀を埋めようとしているのか、単に暴走しているのかは分からないが、なあなあにしておくと僕が悪者にされる可能性があるので、しっかりと公に否定しておかなければいけない。
「どうしよ……」
あれから音沙汰はないが、いっそ伊町が本当に僕とアキが写っていた写真を拡散していれば、とすら思う時がある。
そうなれば、最初からチャンスがないと分かってくれるので、今より誘ってくる人が減るはずだ。
「自分から言いふらすのもなぁー……」
痛いカップルみたいになるし、学園祭が終わるまでの男除けだと邪推して、変わらず近付いてくるヤツがいそうだ。
例えば、最近よく目をかけてくれる結城さん経由でアキと僕の仲が広まればいいと思うことはある。
ただ、彼女は真面目な人だから、他人の関係性とかをベラベラ人に聞かせるようなことはしない。だからと言って「言いふらしてくれ」などと強要したくもない。
「なんか、こう、いい感じにカップルアピールをしてみるか……」
アキを利用しないで……つまり、学園祭の準備で引っ張りダコの彼の手を借りずに、何とか僕も準備に参加しながら、かつ男避けができるような印象付け。
自分の考えとはいえ、中々無茶だな……。
とにかく、作戦開始だ。作戦とか言ってまたものの、無計画なんだけれど……。
ええい! とりあえずやってみろ!
試みその1。
「あ、アキー?」
「何?」
「え、えと、何してるのかなって」
人前で露骨なボディタッチをしてみる。
昼休みの教室で何らかの作業をしていたアキの腕に絡みついて、慣れない猫撫で声を出して下目遣いをしてみた。
む、難しい。気を抜くとすぐに普段のかわいげに欠ける声が出そうになる。だが、近くにいた数人の男子が、こちらを振り返るような気配がしている。投げ出すにはまだ早い。
いいぞ……これなら言外に……。
「危ないからあんまくっつくな」
「あ、ごめん……」
た、タイミングを間違えた……アキに怒られてしまった。
アキはカッターで用紙を規定の大きさに切る作業をしていた。これでは怒られるのも仕方がない。
「暇なら調理室行ってこいよ。綺麗なパンケーキの焼き方知りたいって困ってたぞ。得意だろフミ、そういうの」
「そ、そっか。行ってくる」
「ついでに試食もらってきて。オレも気になる」
色気より食い気か……! 前までむしろ食い気より色気だったくせに、学園祭が始まってから作業のことばかりを気にして、この職人肌め……!
試みその2。
「あ、アキさ、歯ブラシ切れてたよね?」
匂わせだ。
なんかこう、生活圏まで把握しているみたいな風の会話をすることで、暗にあいつらただならぬ関係性なのか、と思わせる……!
「まだ予備あるぞ」
「え」
「ってか、なんでフミがオレの歯ブラシの心配するんだよ? え、もしかしてオレの口臭い……?」
「ぜ、全然臭くない! な、何でもないから!」
だ、ダメか。これも失敗だ。決め打ちで適当なことを言っても、違った時のリカバリーが難しい。今も不用意なことを言って、アキに要らない心配をさせてしまった。
あ、そうだ。アキと同じシャンプーを買ってくるか? それを使えば、アキと僕が同じ匂いがするということで、噂に……!
……いや、無理か。学校などという人の集まりでは、そう簡単に誰かの匂いを判別することなどできない。
あるいは鼻のいい者が一人や二人いたとして、それを僕とアキの関係性にまで紐付けるような読みの深い者が何人いることか。
試みその3。
うっかり(故意)アキとツーショットのプリクラを机に置いたまま教室を出る。
一年前に撮った思い出深いほうではなく、最近になって撮った、猫耳エフェクトとか付けている浮かれポンチのほうだ。
あれを見れば、流石に誰でも、僕達が普通の友人ではないと思われるはずだ。
「今のうちにトイレ行っとこ……」
一階の多目的トイレ。保健室の前にあって、体調の悪い生徒の駆け込みくらいでしか使われないお手洗いだ。
未だに女子更衣室でみんなと着替えすらできない僕には、女子トイレにも大きなハードルを感じている。緊急の時は使うけど、やっぱりまだ罪悪感がすごい。
さて。トイレを済ませて、ついでに清掃委員会のゴミ出しを終わらせた頃には、教室を出てから10分ほどが経過した。
一度教室に戻って、「うっかり」置き忘れたアキとのプリを回収してから、調理室に戻ってメニューの改善に加わろう。
「あれ?」
机の上にプリがない。
「飛ばされたかな……」
作業をしている生徒が何人も往来するので、風が起きて吹き飛ばされてもおかしくない。
「あれ、あれ?」
僕は机の下やその周辺を探してみたが、どこにも見当たらなかった。
いくらプリの写真は小さくて薄いので見落としやすいとはいえ、ピンク色のエフェクトを使っている目立つ写真なので、茶色い床にあったらすぐに気が付くはずだ。裏返っていてもやはり白いから分かる。
「ど、どこ行っちゃったんだ……!?」
や、やっぱり変なことしないで、大切に保管しておけばよかった……! あれも僕にとっては大切な思い出の一つなのに。
「フミ、困り事か?」
スカートの端が床につくことも厭わず、その場に座ってプリを探していたところ、作業が一段落して休憩しようとしていたアキが寄ってきた。
「あ、アキ! こ、ここにあった僕の――――」
「ほらよ」
アキは僕が全てを言う前に、懐から見覚えのある小さな写真を取り出した。
僕のプリだ。時折寝る前に眺めたりしているので見分けが付く。アキのものではなく、僕がもらったほうのプリだ。
「み、見つけてくれたの!?」
「違う。飛ばされそうだったから、保管しておいただけだ」
そ、そうだったのか。僕の無計画な思いつきのせいで、アキに余計な心配をさせてしまった。
「よかった……ありがと」
「いいよ。なくすなよ」
「うん」
この方法も諦めよう。アキの力を借りず、自分で何とかするための作戦だったというのに、これでは本末転倒だ。
5分で思いつくような雑な作戦ではダメだ。それに、勇気を出して話しかけてくれる相手を無碍にするような態度もよくない。誠実にお断りするべきだ。
なんか、自分のことモテ女だと思ってるヤツみたいで中々アレだな……。
い、いや! 耳目を集めているのは確かだ。それが単なるTSCの効果による美化であって、僕自身の内面に関係ないものだとしても、困っているのは確かだし。
「ふぅ……」
この体になってからトイレが近い。男性より尿道の長さがどうこうとか聞いたことがあるけれど、それに含めて体が熱しやすく冷えやすいので、内臓が冷えているのだろうか。
「あれ……」
保健室横の幅広な階段の踊り場に、昼休みに僕を呼び出した野球部の先輩と、その部活仲間と思わしき坊主頭の数人の男子生徒が集まっていた。
「で、あの2年の後輩どうだった?」
ぼ、僕の話してる……! さっきの今だ。2年の後輩という符号が僕を指している可能性は高い。
な、何の話をしているんだ……?
「断られた。なんか暗い女だなあいつ」
「フラれたこと根に持ってんじゃねーよ」
「違ぇーよ! マジでずっと下向いてて、つまんなそうな女だった」
ぎゅ、と胸に違和感を感じた。それは無意識に胸の前で握った僕の両手だった。
つまらなさそう……やっぱり、僕は全然、人としては……。
「断られたの意外だわ。玉崎って押せばヤれそうなのにな」
押せば……僕の体ばかりが目当てで、僕の気持ちなんてどうでもいいってことか……。
はは……そうだよな。やっぱり僕は思い上がっていた。
僕みたいな、男でも女でもない、中途半端なヤツが、男子相手にとはいえ突然モテるなんてことはあり得ない。
みんな僕の女の部分に興味があるだけなんだ。見てくれがいいだけ。だってそうじゃないか。最近仲良くなってくれた結城さんだって、僕が男の時は、僕に見向きもしなかった。
「全然だぞ。サッカー部の後輩の伊町? あいつも断られたらしいからな」
「マジ? あの感じでお高く止まってんの? オタク女のくせに?」
「顔だけはいいから調子乗ってんだろ」
「胸もデカいじゃん」
「そうだったー! 下品な体だよな。もったいねーことしてるわ」
ほら、やっぱり僕の体を見ている。内面が彼らの嫌うその「オタク女」だとして、体さえよければそれでいいんだ。
だったらもっと、もっと女の子みたいにならないといけない……男が喜ぶような、従順で思い通りになる女に……。
アキだって、そのほうが……。
「あの」
下卑た笑い声の中で、突然聞き覚えのある声が僕の沈むばかりだった知覚を切り裂いた。
壁に隠れて踊り場を盗み見た時、そこに現れたのはアキだった。
「やめてくれませんか。そういう話」
「あ? こいつ知り合い?」
「知らねー。誰お前?」
アキはいつもの不真面目な、しかし朗らかな表情ではなかった。
「フミのこと悪く言うのやめてください」
「は? 何で? 何こいつ、キモ」
「いきなり出てきて何なの。後輩だろお前」
「関係ありませんよね。悪口を注意するのに、先輩とか後輩とか」
アキは怒っていた。
ボルダリングジムで変な大学生に絡まれた時以来に見るような、険しい表情をしていた。
「お前だって少しくらい陰口とか言うだろ。別にいいじゃん、迷惑かけてねーし」
「それでもやめてください」
「何でやめねーといけねーの。つか、正義漢ぶるのやめたほうがいいよー? ダサいし」
「いいから、やめてください」
怒ってくれているのか? 僕のために?
見てみぬフリをしてもいいはずだ。絡んでもいいことはない。放置して、実害がある時以外は知らぬ存ぜぬでもよかった。
むしろそうすべきだ。事態を荒立てても何もいいことはない。アキからすれば、僕がこの場を見ていることすら知らないのだから、僕に対する好感度稼ぎにもならない。
それなのに、たとえそこに僕がいなくても、僕が馬鹿にされているのを、怒ってくれるのか?
僕は…………。
「お前さっきから――――」
「アキっ!!」
僕は思わず彼らの前に飛び出していた。やっぱり考えなしに、このあと何の策もなく。
「ふ、フミ!? お前、いつからそこに……!」
「僕、その……」
出てきたはいいものの、特に何か言うべきことを用意していた訳でもないので、僕は数人の野球部員とアキが見下ろしてくる視線に耐えることしかできなかった。
「あのね、アキ……ありがと……」
この場で言うべきこととしては絶対に間違っているが、そう言わずにはいられなかった。
だってアキは僕のために怒ってくれたんだ。それができる人間が果たしてどれだけいる?
「お、お前……こんな場面に飛び出してきて言うことかよ」
「だ、だって……言いたかったから……」
もしもアキの目当てが、僕の女性の肉体それだけだったとしたら、彼はこんなことはしなかったはずだ。
アキは僕を認めてくれているから……。
「何だ、こいつら……」
「俺達、年下の惚気に利用された訳?」
「白けるわー……行こうぜ」
野球部の先輩達は、つまらなさそうな表情で階段を上がっていった。踊り場に残されたアキだけが、驚いた表情のまま僕を見下ろしている。
「…………フミ、大丈夫か?」
「大丈夫」
あんな奴らに何を言われても、何も痛痒を感じない。いや、さっきまでは感じていたけれど、今はもう違う。
自分のために怒ってくれる誰かがいる。それだけのことに、こんなに心満たされるなんて。
「少し話さないか。どっか……中庭とかで」
「うん……」
僕を見下ろすアキの表情には、まだ剣呑な雰囲気が残っていた。
それが、振り上げた怒りの矛先を見失って、怒りが萎んでいく途中の不全な情緒であることは、一目見れば分かった。
「はいこれ、ウーロン茶」
「ああ、悪い……」
多少のお礼にもならないが、自販機でお茶を購入した僕は、そのうち一本をアキに渡した。
話すべきことを整理しているらしい彼の険しげな表情を窺いながら、僕は慎重にベンチに座った。
「実はさ……」
僕が座るなり、アキは待ち構えていたかのように話し始めた。
「最近、たまにフミを目で追ってた。ストーカーみたいなことして、悪かったな」
「へ? 僕の?」
ぜ、全然気が付かなかった。僕の認識では、僕ばかりがアキを追いかけていて、気持ちが空回りしていると思っていた。
「別にいいけど、な、なんで?」
「フミの様子がおかしかったから……」
僕の様子が?
そういえば、前にもそんなことを聞かれたような気がする。
雨に打たれて、アキと一緒にお風呂に入った日のことだ。シャープなアキの筋肉がカッコよかった……ってそうじゃなくて。
あの時も僕の様子を気にするようなことを言っていた覚えがある。酷いどしゃ降りのせいで有耶無耶になってしまったが、悩みがどうとか話していた気がする。
「フミ、最近変だぞ。どうしたんだよ」
「変って……」
それは、そうだろう。
変にもなる。性別が変わるというのは、それだけの大事ではなかろうか。身の振りがおかしくなるのも仕方がないことではないか?
あるいは、性別が変わったから、おかしいことを言うのも仕方ない、では済まないほど変なことをしていたのかな、僕は。
「例えば、どんな風に?」
「どんな……? それは、何つーか、無理してるみたいに見える」
無理をしている、か……。
「それはさ……つまり、僕が無理して女の子っぽく振るまってるように見えるってこと?」
「……聞き返してくるってことは、自覚があるのか」
「うん…………」
アキの言う通りだ。僕は無理をしていた。
アキに気に入ってもらえるように、努めて彼女らしく振るまおうとしていた。女の子との交際経験もないくせに、想像で……。
その歪みが、彼にはお見通しだったようだ。嘘や縁起の類が得意ではないことは自覚していたけれど、こんなに簡単に気付かれるとは思わなかった。
「何でだよ。女っぽくしないと、オレがお前のこと捨てるとか思ってたのか?」
「そ、そこまでは思ってない、けど……」
確かにアキはスケベだし、エッチな意地悪をしてくるし、僕の泣き顔を見てニヤニヤしながら写真を撮ってくるようなヤツだ。
でも、本当に嫌なことはしない。僕が一番助けてほしい時には必ず側にいてくれる。
アキはずっと、僕のことを近くで見ていてくれると、分かっている。
だからこそ……。
「アキから、もらってばっかりだから」
だから何か、僕のほうから彼に返せる価値が欲しかった。
「アキは、僕の〝女〟の部分が好きだと思ってたから……変なことした」
アキを困らせるくらいなら、もう何も余計なことはせずに大人しくしていよう。
「ごめん……もうしない……」
結局ごっこ遊びのようなものか。僕はどういう風にしても、〝女〟の代替には決して……。
胸が縮むような気分だった。見てくれが変わっても、内にあるのは陰気なつまらない人間。どうせなら心まで美少女のそれに変えてほしかった。
「オレが悪い」
「え、あ、アキ……?」
アキは眉を落として、彼から遠いほうの僕の肩を引き寄せた。
彼の腕に僕の頭がぶつかる。身長差のせいで、こういう時、ラブコメのように肩に頭を乗せられない。
「オレのほうこそごめん」
アキは僕を抱き寄せたまま、突然苦々しげな声で謝ってきた。
「な、何でアキが謝るの」
僕が余計なことをしたという話だったのに、いつの間にかアキのほうが申し訳なさそうな顔をしている。
「もっと態度で示すべきだった。大切にしたいって言って遠ざけるのは、違うよな……」
やっぱり彼も彼で、人生初の「恋人」という関係に対する接し方に悩んでいたのか。
「最近、ちょっと素っ気なかったのは」
「お、オレにとって初めての彼女だぞ。大切にしたかったんだよ。わ、分かるだろ……」
「ああ……」
それは、分かる気がする。
僕も女の子と付き合ったとしたら、その子に性的なことを積極的にしようとは思えない。
単に臆病なだけだろ、と言われると、そうかもしれないけれど、しかしそれだけではないのだ。
好きだから。大切だからこそ、自分の欲望で相手の心身を傷付けたくないと思うことは、果たしてそこまで不自然なことだろうか?
「……オレ、いつものフミが好きだよ」
「すっ……!?」
今度は別の意味で胸に緊張が走った。身構えていない時に聞かされる「好き」は心臓に悪い。
「積極的なのも悪くないけどさ、悩むくらいならいつも通りでいてくれないか」
「…………」
ここまで滑稽な一人相撲だったらしい。
もっと女らしくとか、アキに喜んでもらえるような女性像とか……全部、女性という外形に囚われた偏狭な早とちりだったようだ。
「いつもの僕で、いいんだ」
「いいよ。元の姿を知ってて、それでも好きだってこと」
「…………そ、そっか」
照れもせずに正面から好きと言われると、咄嗟に俯いてしまう。
でもそうか。アキは別に、僕が過剰に女性を振るまうことを望んではいないのか。いつも通りの、本心の僕を、アキは……。
「あっ……」
そ、そう思うと、僕、このところとんでもないことをしでかしていないか。
自分からスカートをめくって中を見せつけようとしたり、両手を掴まれて股ぐらを踏まれたり、お姫様抱っこをしてもらったり、
い、一緒にお風呂に入ったり……。
う、うわ……じゃ、じゃあ、最近の僕がやってたことって、ほぼ痴女じゃん……!
うわうわうわ、さ、最悪だ……!!
一時の不安や欲求に流されて、普段の僕にあるまじきことをしでかした。
ここ一週間ほどの出来事を全て、どうにかしてなかったことにできないだろうか。なんかそういう都合のいいアイテムが出てくれないかな……。
「とにかく、オレも反省した。これからはちゃんと行動で示していくから」
「え、な、何――――!?」
腕を引かれると同時に、後頭部を掴まれ、押し付けるように激しく唇を奪われた。
「はっ、きゅ、急にそんな――――!?」
その上、息継ぎをしようとする僕の息切れを無視して、アキの腕が僕の脇の下を通って胸を鷲掴みにしてきた。
「ちょ、だ、だからってすぐさまセクハラしてくるのは違うだろっ!!」
「でもこうしてほしかったんだろ?」
「そっ、それは……待っ、んっ……♡」
た、確かに、最近全然そういう目で見ようとしてくれなかったから、ちょっと嬉しいような気もするけど……!
こんな中庭の人目があるところですることではないだろ! こんなの伊町の写真なんてなくても一発で変態認定されるって!
「ね、ねぇってば……! せ、せめて家で……!?」
アキの手が僕の太ももの付け根を撫で、その内側の際どいところに指を滑らせた。
胸を掴んだ手に引き寄せられ、アキの唇が僕の耳に当たった。湿った温い吐息が耳の入り口をくすぐってくる。
「かわいいよ」
「んあぁっ……♡ ちょ、ズルいっ♡」
こ、こいつ、調子に乗って!
ここまで全部、好き勝手僕の全身を触りまくるための長ったるい大義名分を語ってたんじゃないだろうな。
「これからはフミの好きなとこ、沢山触ってやるからな」
「そういうことじゃっ……!」
ぼっ、僕のこと、好きだって言ってくれるのは、嬉しい、けど……!
こんな身が持たないっ♡ か、加減しろっ……♡
「ふーっ……」
「やああっ♡ 息かけるなぁっ♡」
やめろっ! 見られてるからっ!!
おまけ 幼い頃の将来の夢。
フミ
・5歳
ルカ◯オになる。またはバ◯ャーモになる。
・8歳
駄菓子屋のペペロンチーノを買い占める。
アキ
・5歳
幼稚園の先生と結婚する。
・8歳
AからFまでのおっぱいを揉み比べする。
AからFまでのおっぱいの拓を取る。