ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 おぼろげながら浮かんできたんです。メス堕ちという単語が。




その22、カフェというより◯っパブ

 

「ABCから、Aをとったらびーしっ♫」

「なんか違くないそれ」

「いつもCのヤツばっかりハブられててかわいそうだろ。おら、びしっ」

「ちょ、脇腹はやめろ! 今ハサミ使ってるの!」

 

 とんちきな鼻歌を漏らしながら、アキはいよいよ明日にまで迫る学園祭の前日準備に勤しんでいた。

 書き割りの設置完了、演者の(かなり過酷だったらしき)リハーサルも完了。視聴覚室全体の飾り付けや、テーブル設営が終われば、もう舞台は完成だ。

 

「これで500枚……終わりっ」

「お疲れちゃん。あー、肩痛ぇー」

 

 学内関係者向けの事前整理券の2倍ほどの当日整理券を、僕とアキ含めた4人がかりで何とか完成させ、僕らは目蓋や唇をきつく結んで伸びをした。

 背中や腰の辺りから、パキポキと小気味のいい音がする。前日準備ということで、1限から全ての時間が準備時間に充てられた訳だが、その間ほぼずっと椅子に座っていたので、体が固まっている。

 

「それにしてもさ、当日整理券、500枚も必要かな。多くない?」

「まぁいいんだよこういうのは。余ったら余ったでさ。足りなくなるよりはいいだろ」

 

 画用紙に番号を書いて切り取っただけの整理券を数字の昇順に集め、廊下に出した受付用机の道具箱に入れて、今日の準備は終わり。

 企画が企画なので、当初は途中で頓挫してもおかしくないとすら思っていたが、40人弱が協力すれば大体のことは何とかなるらしい。

 

「よし。フミ、今日はHRなしで勝手に帰っていいみたいだし、オレ達も行こうぜ」

「そうだね。はぁー、帰って寝たい……」

「昼休みにも寝てただろ。お前そんなにずっと寝てるから胸がよく育ったんじゃね」

「突然降ってわいてきたものだろ、これは」

 

 だったらなぜ男の時はそれが身長に表れてくれなかったのか。というか、この体になってむしろ背は一回り以上低くなったし。

 胸は邪魔だし、歩幅が小さくなかったためか男の時より疲れるしで、大変なんだぞ。

 

「玉崎さーん! もう帰り?」

「え、あ、は、はい。そうです」

 

 鞄を取って教室を出ようとした時、調理室のほうから走ってきた女子生徒に呼び止められた。

 

「なんで敬語だよ」

「うっ、うるさいなっ……! ほっといて……!」

 

 体が女の子になったからと言って、女子と普通に話せるようになった訳じゃない。

 最近話すことが増えた結城さんとかはともかくとして、陰キャからすれば女子なんてそれだけで恐怖の対象みたいなとこあるだろ。

 

「パンケーキに使うお砂糖とチョコペン、当日足りないかもしれなくてさー! ほら、私達かなりこだわって試作を作りなおしたじゃん」

「う、うん……あー、確かにね……」

 

 短時間に大量に調理できて、かつ劇の世界観を損なわない見た目、というのが難題だった。

 調理者のスキルは一定ではないし、とはいえ工程を簡略化しすぎるとあまりにもチープなものになってしまい……などと議論を重ねるうちに、10回ほどは作り直した。

 

「玉崎さん、当日は調理係でしょ? 一応お砂糖持ってきてくれないかな? 私はチョコペン用意するから!」

「わ、分かりま……分かった。砂糖ね」

「うん! ごめんねー」

 

 女子生徒は要件を終えると、忙しなく体育館につながる渡り廊下のほうに走っていった。彼女は実行委員会を兼任しているので、クラスの準備との板挟みで大変なのだろう。

 

「要件終わりか? じゃ、帰ろうぜ」

「あっ、ちょっ……!」

 

 走っていく女子生徒を見送ったアキは、振り向き様に僕の手を掴んで、固く握った。

 

「こ、校内だぞ!」

 

 外に出てからならまだしも、廊下で手なんか繋いでたらめちゃくちゃバカップルだろ!

 

「こうしないと言い寄ってくるヤツいるだろ」

「えっ」

 

 アキはほんの一瞬だけ、階段の曲がり角のほうに視線を送って、すぐにこちらを向き直した。

 階段近くには、以前僕に学園祭のお誘いをくれた男子生徒が、残念そうな表情で立っていた。

 

「あ、アキ、知ってたのかよ!」

「最初からじゃないけどな。つか、それで困ってたりしたんだろ! オレに言えよ!」

「そ、それは……」

 

 だって、アキは貴重な裁縫が得意な人材で、しかも(壊滅的な僕とは違って)絵の才能もあるときている。

 学園祭の準備で方々から引っ張りダコだったのというのに、僕の極めて個人的な都合で頼る訳にはいかなかったから。

 

「これは罰な、罰。羞恥プレイをくらえ」

「う、うん……」

 

 で、でも、これ、正直……。

 

「えへ……」

「おい。笑顔じゃねーか」

 

 だってこれじゃ、全然罰になっていない。準備に追われてあまり触れ合えなかった分、嬉しさが勝ってしまう。

 

「まぁいいか……ほら、帰ろうぜ」

「えへへ。彼氏の手厚い護衛付きだ」

「すぐ調子に乗りやがって」

 

 仕方がないとは思わないか。だってほら、自分の気持ちに嘘はつけないとかいう頻出フレーズがあるじゃないか。この世には。

 

 

 

 10月も間近だというのにまだ暑い外から帰ってきて、僕は多少自堕落な格好でフローリングの冷たさを小一時間確認してから、ようやくやる気の出た体を起こした。

 

「明日の準備しないとな……」

 

 まずはこれ。衣装。

 

 学校でも何度か採寸やら一部分の試着やらで確認したものの、一応自宅で全身を確認しておいてくれと渡されたものだ。

 

「…………」

 

『ほら、玉崎さん! 暴れないで!』

『だっ、だって、ぬ、脱ぐのはっ』

『脱がないと採寸できないでしょ! 何も下着まで脱げって言ってるんじゃないんだから!』

『やっ! 測るのなんか、自分でやるっ!』

『いいから任せときなさいって!』

 

 衣装係の女子生徒数名に拉致され、女子更衣室に閉じ込められたかと思ったら、彼女らはいきなり僕の両手を押さえ付け、ワイシャツのボタンを勝手に外し始めた。

 

『うーわ、玉崎さん、おっぱい大きいね』

『大変そー。バンドTとかロゴが引き伸ばされちゃうから着れないでしょ』

『う、うぅ……! み、見るなぁっ!』

『敷島のヤツが玉崎さんのことイジメたくなる理由も分かるわこれ』

『このデッカい胸があんな変態に好き勝手されてると思うと、なんかムカつくわね……』

 

 あの時は僕も足下が不確かになった。アキ以外の誰かにあれほどの辱めを受けるとは。

 

 あまり話さない女子生徒に囲まれて、両腕を一人ずつに固められ、3人目は採寸を始めようともせずにずっと僕の体を見回してくるものだから、もうトラウマになるかと思った。

 身長の低さも相まって腕力で敵わず、好き放題に触診されながら採寸が終わった頃には、女性不信一歩手前になっていた。

 

「はぁ……」

 

 このメイド服を見ていると思い出す。

 

『これは玉崎さん専用だから。着回さないから持ち帰っていいよ』

 

 胸と尻がデカすぎて、標準サイズのものは着せられないと言われた時の屈辱ときたら……。

 

「サラシ巻くって言ってるだろ……」

 

 そもそも、僕の体型に合わせて別で1着を作らせること自体、コストや時間を無駄にしているというのに。

 僕のだけフリルが少ない。あまりフリルを縫い付けると、布の伸縮性を損ね、接客中に胸の辺りが破けて大変、なんてことになりかねないから、だとか。

 

「なんでピッタリなんだよ……」

 

 送られてきた着用方法の動画を元に、ふらつきながらも試着したメイド服は、窮屈さを感じず、かといって布が余ってだらしなく見える訳でもなく、着慣れた服であるかのように自然だった。

 

「恥っず、これ……」

 

 ワイヤーか何かでウエストをしっかり絞っているのか、上下の凹凸が強調され、布は多いのになぜか扇状的に見える。

 

 ただ、確かにメイドはメイドだ。これは単に僕が一番僕自身の体を邪に見てしまっているだけなのだろうか?

 

「お帰りなさいませ……な、なんちゃって」

 

 うわ、キツ。

 

 鏡に映っているのが、男なら10人が10人振り返る美少女であっても、自分がやっている姿はかなり痛々しい。

 実際にコンカフェ等で働いている女性を見ても、特に不自然さなどは感じないのに、自分の姿というのはどうして珍奇に映るのか。

 

「はぁ……これ見られるのかぁ……」

 

 ノリノリで宣伝係に立候補した一軍女子達の気が知れない。

 

「もう脱ご……」

 

 サイズが合ってるのは確認したし、こんなの目に毒だ

 そんなことより、同じ調理係の子から頼まれごとをしていたような気がする。

 

「あ、そうだ。砂糖」

 

 砂糖が足りないと言っていた。紅茶に入れるものも白砂糖にすることで、スティックや角砂糖を買うよりも格段に費用を抑えているまではいい。

 それはいいのだが、パンケーキの生地を作る過程にも白砂糖を使うので、消費が集中し、他の粉類やチョコペンよりなくなるのが早い。

 

「えーと……上の棚にストック入れておいたよな」

 

 少しだけ背伸びをして、台所上の両開きの収納を開く。やはりここにあったか。

 

「ってあれ、二つある……?」

 

 赤いロゴがあるものと、全くプリントがない透明のものがある。

 

「多分こっちのほうが古いよな……」

 

 こちらの赤いロゴが入っている砂糖は、昨日たまたまセールをやっていたところを購入したものなので、逆説的に全く無地のほうの袋が古いということになる。

 

「というか、これホントに砂糖……?」

 

 ロゴどころか何の表記もないけど、こんなのいつ買ったんだ? 僕……。

 

 とはいえ、重いけど一応どちらも持っていくことにしよう。これの購入費ならあとで返してもらえるし。

 

 

 

 当日、朝の6時だというのに、校門前には既に開門を待つ生徒が集まっていた。

 

「アキまで早起きする必要なかったのに」

 

 僕ら調理係のように、メイド服を着せられるという憂き目に遭った女子生徒や、主役級の役を演じる生徒は、着替えやメイクで時間が必要になる。

 その上演じる人達はギリギリまで最終リハーサルをおこなうつもりのようだし、僕らは僕らで調理の準備をしなければななない。

 そのための早起きだったのだが、アキを含む製作系の係は、当日はそこまで忙しくないはずだ。

 

「別に早起きじゃねーぞ。楽しみで眠れなかっただけだ」

「何そのかわいい理由」

 

 遠足前の小学生みたいなことを言ってる。気持ちは分からなくもないが、3日あるうちの初日からその様子では、最後まで体力が持つかどうか。

 

「お、開いたぞ」

「じゃあ僕着替えてくる。また後でね」

「女子更衣室使うのか? あんなに嫌がってたくせに」

「構造が複雑なんだよこれ。トイレだと狭すぎる」

 

 朝のなるべく人の少ない時間にさっさと着て脱出する。電撃作戦だ。

 

 

 

 校内スピーカーから学園祭開始のお知らせが流れると、学校中が一斉に色めき立った。

 

「はい、これはもうできあがりね」

「そろそろ配膳と調理、交代の時間だよ」

「あー! 焦がしちゃった!」

 

 調理室も大騒ぎだ。主に僕らのクラスに限定されるのだけれど。

 騒ぎたくなる気持ちも分かってほしい。学園祭の熱気にあてられ、しかも20分間隔で回る客の人数分のパンケーキと紅茶を作る訳だから、忙しさで変なテンションになる。

 

 その点、C組の模擬店は賢い選択だったと言ってもいい。

 焼きおにぎりとフランクフルト。米は学校にあるデカい炊飯器で炊けるので、不足の心配はなし。どちらも調理工程は焼くだけ。かつ後者は市販品なので、整形や味付け作業のようなものもない。

 

「みんな頑張って! 午前の部はあと2部で終わりだからね! 残り1時間弱の辛抱だよ!」

「あと2部もあるの……!?」

「粉混ぜる腕が死ぬ」

 

 C組の男子達が和気あいあいと作業をしているのを横目に、僕らはドタバタと足音を立てていた。

 

「はい。焼き上がりました」

「玉崎さんが焼いたヤツ、めっちゃ形綺麗だね。私が焼いたヤツの隣に並べないで〜……」

「三芳さんが焼いたのも綺麗だよ」

 

 それに、多少無遠慮な言い方をすると、演劇中は照明が消され、書き割りに当てられる下からのライトのみが光源になる。客には皿がよく見えていないはずだ。

 

「って、そうだった! 話してる場合じゃない、今のうちにお皿洗わないと!」

「大丈夫、ほら」

「あれ!? 玉崎さん、生地焼きながら食器洗いもやってたの!? すごいね……」

「すごいなんてことは……えへへ。ありがと」

 

 布巾でコップの底を拭き、次の客に出すための皿も準備した。あとは最後の2部を終えるだけだ。

 

「玉崎さんありがと〜! ホントに助かった! 午後は調理代わるから!」

「あ……配膳もお疲れ様です」

 

 女子にモテるために始めたと言ってもいい料理の腕が、もう必要がない時になってから僕を持て囃してくれている。

 奇妙な気分だ。頼られるのは嬉しいけど、男の時から料理の才能を発揮する場があったらなぁ、とか思ってしまったり。

 

 

 

「はぁ〜……疲れた」

 

 大量のパンケーキを焼き上げ、それがメイド服を着た女子生徒に運ばれていく様子を見守るうちに、4時間が経過していたらしい。

 

「おす。お疲れ」

「アキ。手洗いした? 手を洗ってアルコール除菌してからじゃないと、立ち入り禁止だよ」

「知ってるよ。ちゃんとした」

 

 手指消毒用エタノールの匂いをさせたアキが、調理室の二重引き戸を開けて入ってきた。

 

「どう、お客さんの入り」

「盛況だぞ。楽そうだから受付係になるって言ってたヤツが悲鳴をあげてる」

 

 パンケーキが運ばれていく頻度から大体察するものはあったが、飲食と劇の組み合わせは、目新しさもあってか、好評を博しているようだ。

 目新しさというか、単に求められる労力の大きさを嫌って、あえて誰も言わなかったことなだけかもしれないが……。

 

「オレにも焼いてくれ。生地余ってるだろ?」

「えー……仕方ないな」

 

 ではお昼休憩も兼ねて、内緒で二人分のセットを作るとするか。

 

「アキは紅茶に砂糖いる?」

「いらない。冷たいままでくれ」

「はい」

 

 紙パックの紅茶を、マグカップに出してレンジで温めるという力技で、無理やりホットティーを演出しているが、温める際に風味が飛んでいやしないかが心配だ。

 試飲の時は特に何も思わなかったが、一応僕の分は温めて味を確かめてみよう。

 

「あ、そうだ、砂糖切れてたんだ……」

 

 予備を頼んできたあの子は正解だった。僕は透明な袋の風を切って、紅茶に砂糖を混ぜてから加熱を始めた。

 

「それにしても……エッチだねぇ〜。胸とケツが強調されててよ」

「最悪の感想だね」

「その上にエプロン着てるのがよりエロい」

「他の生徒もいる前でよくそんなこと言えるな」

 

 このあとは劇中の一員となって配膳する係に回るので、調理係の中にはちらほらとメイド服を着たままの子がいる。

 僕もそうだ。ホワイトブリムの代わりに三角巾とマスクをした奇妙な格好だが、顔から下はそれなりに異世界の風味を感じさせる。

 

「はい。できたよ」

「早っ。焼けるの早くねーか」

「薄いからね」

 

 それに、劇用のチョコペンや飾り付けも、面倒だから一切していない。殺風景な焼き色の荒野が円形に広がるのみだ。

 

「じゃ、いただきまーす」

「どうかな」

「んー! まーまー!」

「はは。そうだよね」

 

 たまに僕が趣味で作っているようなものと比べると、手間や材料に違いがありすぎる。それでも食べるのが苦痛というほど味が薄かったり、粉っぽい風にはなっていないはずだ。

 

「でも思ってたよりうまいぞ!」

 

 切り分けずにかじりつくアキを横目に、僕は加熱の終わった紅茶を取り出して一口飲んでみた。

 

「あれ?」

「お? どうした?」

「砂糖入れたのに、全然甘くない」

 

 小さじ2杯程度の量の砂糖しか入れていないとはいえ、ストレートと変わりない味だ。

 風味には問題ない。意外とレンジの加熱でも味を損なうことはない、というのを知れただけでも収穫だが、もっと砂糖を入れるべきなのだろうか?

 

「お、おい、フミ、それ……」

「何?」

「な、何じゃねーよ! それ砂糖じゃねーだろ!」

「え?」

 

 砂糖ではない? 確かに味を感じられないし、袋もロゴのない変わったものではあったけれど。

 しかし、色も質感も上白糖そのものだし、紅茶に溶かす時の様子にも、特に変わったところは……。

 

「忘れたのかお前! それは砂糖じゃなくて、あの悪趣味なガチャから出てきた……」

「えーと……」

 

 最近あのガチャを引いた時に排出されたものといえば。

 小道具作成で大活躍した〝自在定規〟と、倫理的に即封印した〝目鼻口出し帽〟と、それからあまり使い道のなさそうな〝強圧ハンディファン〟も出てきたのだったか。

 

 これらは全て無関係だ。粉状で、かつ戸棚で保存しようと思うようなもの……。

 

「え、あっ…………」

 

 ま、まさか、これ……!!

 

「もしかして〝母乳薬〟か、これ……!?」

「どう考えてもそうだろ! 見覚えあるぞ!!」

 

 えええ!? の、飲んでしまったぞ!? ということは、今から僕の胸から、ぼ、母乳が出るというのか!?

 

「まずいよ! そ、そんな、配膳中に何か垂れてきたりしたら……!」

「い、今はどうなんだ!? 何か体に異変とか感じないかッ……!?」

 

 違和感、違和感と言われても。

 

「あれ、確かに、何も違和感は……」

 

 ホルモンの勾配に変化があれば、気分や体調にも変化が起きるはずだ。あるいは胸が張るような感覚がするかもしれない。

 あるいは、反応が出るのに時間がかかるのかもしれないが……。

 

「平気だったのかな……?」

「と、とにかくその袋のほうは使うのやめろ! そっちの確実に砂糖だって分かるほうだけ使えよ!」

「う、うん」

「ていうか、お客さんに出すものだぞ! 確認もしないで持ってくるなよ!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 飲んだのが僕だけだったからよかったものの、お客さんに飲ませていたら、どんな異常が起きていたことか。

 

 というか、本当にこれ、母乳薬なのか? 何か他の料理用粉末と間違えただけ、ということはないだろうか。

 

 まぁいいか。変化なんてないほうがいい。実際に母乳なんか出てきてもいいことは何もない。困るだけだ。

 

 

 

「おお、我が長子よ、いかなる悪心に唆され、お前はこの父王を裏切ったのか」

「愚かな末の王に返じよう。私は幾度と悔悛の機会を与えたではないか」

 

 舞踏会で実子に裏切られ、流浪の身に貶められる王……とかいうシーンだが、意外と演技に熱が入っていて、見ていられるものだ。

 配膳したあとは、セリフのない脇役として舞台に上がったり、壇上に登らないところで劇中世界の人間を演じたり。

 

「お紅茶は熱くなっておりますので、お気をつけください」

「はーい」

 

 配膳中、この恥ずかしい格好をニヤニヤと眺めてくる他のクラスの知り合いや、興味100%の子供の無邪気な視線に耐えながら、僕はそそくさと席を離れる。

 

「はぁ……みんなノリノリだな」

 

 僕以外の女子生徒は、メイド服の着用に関しては意外と乗り気だった。学園祭が始まる前の時間に、その格好のままショート動画を撮っている子達もいた。

 あの胆力は僕にはない。堂々と演技をしているので、本当のメイドさんに見えるほどだ。

 

「僕もあれくらい開き直れたらなぁ」

 

 壇上では、耳に痛い忠告ばかりをしてきた三女こそが、真に父王を案じていた、ということが分かるシーンを演じていた。

 そこで父王は、隣国の王子と新たな愛を育む三女の幸せを喜び咽び泣く……。

 

 あくまで主人公は父王のはずだが、客は全員二人の男女に視線を奪われていた。

 

 三女役の女子生徒と、隣国の王子役の男装をした女子生徒が、熱い抱擁を交わし、さらに激しく口付けを交わす(フリの)演技をしていた。

 

「お、おぉ……」

 

 王子役が背を向け、自分の顔で三女の顔を隠すことで、あたかも本当に唇を交わし合っているように見せている。

 

 側から見たら、僕とアキもこんな風に見えているのかな。

 

 お互いにお互いのことしか見えていない、他に何も要らないという風な……。

 

 じわ…………。

 

「じわ?」

 

 僕は咄嗟に暗がりに乗じて、厚いカーテンの裏に隠れ、メイド服の下に無理やり自分の手を突っ込んでみた。

 

 あっ。

 

「これは、やばい……かも」

 

 

 

「おー、秋生(アキオ)。来てやったぞ」

「結構出来いいな。チラシまで配ってよ」

「だろ。ほらよ、3人分。大体1時間くらいしたら見に来い」

「サンキュー。じゃ、また後でな」

 

 受付を交代し、オレは視聴覚室の前で整理券の配布と確認の係に専念していた。

 

「大方捌ききったか……」

 

 整理券のために並ぶ列は、午前が一番最強だった。午後はほぼそれを回収する作業だ。

 夕方5時あたりのギリギリの回を狙って整理券をもらいに来る層を除けば、午後の受付はそこまで大変な作業ではなかった。

 

「おっす敷島。そろそろ交代の時間だろ」

「まだいいぞ。30分あるし」

「行きたいとこ回り終わったんだよ。整理券の仕分け手伝わせろ」

 

 次の受付係である友人が、ラムネを片手に持ちながら、隣に置かれた予備の席に腰かけた。

 

「お、まだ初日だよな。整理券めちゃくちゃ減ってるじゃん」

「うまくいったよな。オレの提案のおかげじゃね」

「チョーシ乗んな。敷島のクセに」

「クセにって何だよ」

 

 事前のチラシ配りと、メイド服を着た宣伝係の当日プラカード外回りが利いているのだろうか。

 

「そろそろ玉崎さんも上がりだろ。二人でデートしてこいよ」

「余計なお世話だよ。つーかまだ――――」

 

 ガラガラッ!

 

 突然大きな音を立て、視聴覚室の引き戸が内側から開けられた。

 おかしいな。変なヤツが邪魔しにこないように、公演中は内側から鍵をかけ、開けないようにしているはずなのに。

 

「ちょ、まだこの回は終わってなっ……!?」

 

 視聴覚室の扉から飛び出てきたのは、なぜか胸を庇っているフミだった。

 

「お、お? 玉崎さん?」

「お、おい、フミ! どうした……!?」

 

 フミは前屈みで胸の辺りを押さえながら、酷く取り乱した様子でオレの足下にしゃがみ込んだ。

 

「あ、アキ……」

 

 彼女の口から漏れた吐息のようにか細い声は、情事の最中を思わせるほどに熱を帯びており、また弱々しかった。

 

「助けてっ…………」

 

 

 

 受付を任せ、オレはフミを伴って保健室のベッドを借りにきた。

 

「あれ、保険の先生は……」

「熱中症対策で外の仮説ブースにいるぞ。ま、今は好都合だろ」

 

 息の荒いフミをベッドに座らせ、呼吸を苦しめる原因となっていそうな、腰部の簡易コルセットを緩めてみた。

 

「まだ苦しいか?」

「そこじゃなくて、胸の……」

「あ、あぁ。待ってろ」

 

 気道に近い胸の部分の締め付けも、確かに要因となっていそうだ。

 ここは服飾係や家庭科部と散々協議して、気合いを入れてデザインした部分だから、緩め方は分かる。まずは下の紐を引っ張って……。

 

「はっ、んん……」

「ちょ、な、何だそのエロい声は!」

「ご、ごめ……擦れて……」

 

 くそ……気が散るな……とにかくこれでいい。あとは背中の紐を緩めれば……。

 

「あっ……」

 

 どぷん、とか、そういう類の擬音が聞こえてきそうな勢いで服が緩まり、フミの背中側から何かに強い力がかかって壊れる音がした。

 それから、熱っていた彼女の顔が青ざめる。

 

「ぶ、ブラ紐……切れた」

「えええ!? い、今か!? サイズ間違ってたのか!?」

「そ、そうじゃなくてね、あの……」

 

 フミは何かを言いにくそうにしながら、己の胸の付け根を指で軽く押すようにして、前に突き出してきた。

 

 すると、彼女の着ているメイド服に突起が浮かび上がり、そこから湿った時に特有の、反射率が低まった布の暗色が……。

 

「お、おい……これ、もしかして」

「うん……()()きちゃった……」

「出てきたっていうのはつまり……」

「ぼ、母乳…………」

 

 いつもより一回り大きく見える胸の下を腕で支えながら、フミは表情を真っ赤にして、蚊の鳴くような声でそう言った。

 

「おいおいおい……ま、マジでか」

「これじゃ配膳はできないし、調理も……」

 

 突然飛び出してきた時に、胸を庇っていたのはそう理屈か。ふとした拍子にこんな風に滲むのであれば、隠していないと周囲にバレる。

 

「こ、これ、確かグラムで効果時間が明記されてたよな。何グラム入れた?」

「分かんない、けど、小さじ2杯くらい……」

「200ミリで時間だろ? 飲み干してないとはいえ、3日は続きそうだな。一杯飲んでたら二週間は止まらなかったんじゃないか」

「み、3日っ!? 3日ってことは、学園祭の期間中ずっとこれなの!?」

 

 フミは肩紐が落ちて肌けそうになる胸を腕で押さえながら、座ったまま慌てふためいて足をバタつかせ始めた。

 

「どうしようもないだろ。突然染みてきてもいいようにティッシュを噛ませておくとか、体調がよくなければ休みにも……」

「休んだら……調理が……」

 

 確かに、パンケーキの焼きが一番早く、そして一番形が綺麗なのはフミのものだとか、調理係の女子達が自分達の完成品を品評し合っていた。

 それに、調理は他の係と違って、事前に届出を出している生徒しか参加できないので、フミが空いた分を埋める要員がいない。

 

「あ、あのさ、お願いがあるんだけど」

「な、何だ? オレにできることなら……」

 

 フミは耳まで赤くして、湯気が出そうなくらい顔を赤らめたまま、俯きがちにオレのワイシャツの袖を掴んだ。

 

「す、吸い出して……」

 

 え?

 

「な、何を……?」

 

 と、聞き返すと、フミは錯乱気味の混濁した目で睨み付けてきた。

 いや、確かに聞き返すべきではない何かを指しているのは分かる。言わせんな恥ずかしいということだろう。

 

 し、しかし、普通聞き返してしまうものではないか、こんなの。

 つまり、あれだろ、胸の先端を口で吸って、胸が張る原因を出してくれということだろ?

 

 い、いいのか……!?

 

「は、早くっ……♡ じゃないと、また……♡」

 

 フミのメイド服の水濡れのシミが、円形に広がり始めている。まるで吸われることへの期待が溢れるかのように。

 

 思わずといった風に生唾を飲む音がした。フミの喉から、あるいはオレから。

 

 

 

 味の感想。

 

 薄かった。まずいということではない。

 

 甘さや乳味はそこまで強く感じない。風味も見つからなかったし、多少口当たりのいい水を飲まされているような気分だった。

 

 ただ、味とかではなく、よかった。よかったというのはつまり、舌に感じる感触とか、フミの反応とか。

 

「はぁっ……♡ はぁっ、ぁん……♡」

 

 フミはベッドに横たわり、丸出しのままの胸の先端を腕で隠しただけの格好で、時折余韻で肩を震わせていた。

 

「ふ、フミ……大丈夫か……?」

「ふーっ……♡ ふーっ……♡」

 

 ダメだ。跳ねる体を抑えるので忙しいらしくて、まともに会話にならない。

 

 ()()をしている最中、彼女の口を手で塞がなければならないほどだった。外に聞かれたら校内で淫ら行為をしていると間違われる……いや、淫らな行為ではあるか……。

 

「弱すぎるだろ。毎日いじってるからだぞ」

「んっ……♡ まい、に……じゃ……♡」

 

 そんなに弱いと日常生活からして支障があるのではないかと疑問に思ったが、ブラのあるなしではやはり変わるのだろうか。

 

 しかもそんな声を至近距離から聞かされていたものだから、もうこのまま()()に至っても不可抗力ではないか、と悪い考えが頭に浮かんできた。

 

「……まだ一日目が終わるまで1時間はある。オレはここにいるから、休んでろ」

「はっ……はっ……♡」

 

 フミは頬を真っ赤に染め、口を開けたまま小刻みに震えながら、かろうじて首だけは動かして、小さく頷いた。

 

 こいつマジでこのまま押し倒してやろうか。最早合意だろこんなの。せめてちゃんと服を着ろ。胸を隠せ。

 

 





おまけ 認識

フミの場合
 アキより自分のほうがしっかりしていると思っている。

アキの場合
 フミより自分のほうがしっかりしていると思っている。
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