ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 メス堕ちか、メス堕ち以外か。




その23、互助法により、最大公約数「♀」

 

 アキの角張った指が、僕の豊かな双丘に深く沈み込む。

 

 時折指を立てるように胸を掴みながら、その手のひらを滑らせ、勝手に刺激を求めて突き出される先端から逃げる。

 

「あ、待って……そんなっ……」

 

 お互いの脚が絡みつき、離れようにも離れない僕の体の上を、アキの手が上下に往来しては、一番触れてほしいところを避けていく。

 

「やっ、触、って、触って、よぉっ……♡」

 

 サディスティックな笑顔で僕にのしかかる無言のアキは、いやらしく腰を浮き沈みさせ、自分からは何もできずに情けを待つだけの僕を、まるで所有物でも見るかのように容赦のない目で見下ろしていた。

 

 制服姿のアキに対して、僕だけがその身の全てを暴かれ、身動きもできず、彼の好奇の眼差しに耐え続けるしかない。

 

 僕は彼の意のまま。彼を求め、彼に求められるために、娼婦のように媚を売り、頭を低くしてその足に縋りつく。

 自ら優越やプライドを放棄し、明確な雌雄、上下関係に置かれようとしている。もちろん僕が雌にして、下であり……。

 

 僕自身が、それを望んでいる……。

 

「あっ、はぁっ♡」

 

 突然アキの両手に顔を包まれ、視界が真っ暗になると同時に、口内を脅かす柔らかい感覚が襲ってきた。

 中太りした蛇のようなアキの舌が、僕の舌を絡め取り、歯の裏を舐め、口蓋を擦り、己の所有を言い付けるかのように唾液を流し込み続ける。

 

「んん、んむぅっ♡」

 

 僕はそれをただ飲み下し、飲み下す度に体内まで彼に侵食され、支配され、征服されることに悦んでいた。

 

 僕を支える全てを彼に明け渡し、彼の許しと気まぐれの中に、かろうじて生かされる哀れな奴隷になりたがっていた。

 

 アキに負けたい。

 

 負かされ、見下され、心と体の隅々までを蹂躙されたい。生涯覆されることのない力の差を、丹念に教え込まれたい。

 

「アキ、おね、がい……挿入()れっ……♡」

 

 

 

 ピー、ピー、ピー!!

 

 ……ゴミ収集の音が外から聞こえてくる。

 

「あ…………」

 

 窓の外には、若くない光に溢れる青空、枕の隣に置いた目覚まし時計は6時を指している。

 そして、下半身に、というか特に()()一点に感じる不愉快な違和感……。

 

「うわー……」

 

 なんという夢を見ていたのだ、僕は。欲望丸出しの酷い夢だった。もしも誰かに頭の中を覗かれでもしたら、その場で自ら命を断つしかないような。

 

「これは、匂いとか……ダメか」

 

 汗もそうだが、確認のためにズボンとショーツを広げた時、自分でも引くほど()()の匂いがした。

 なんだよ()()の匂いって。それが判別できるようになった自分にも嫌悪感がわく。

 

 学校行く前にシャワー浴びないと……。

 

 うず……。

 

「いや僕は思春期の男子中学生かッ!!?」

 

 こんなのオナ禁を続けていた中学生が夢精してしまって、努力が全部無駄になってしまった時みたいなもんだろ!!

 

 思春期の男子までは合ってるか……いや合ってはいないか、性別も、今は……。

 

「はぁ……」

 

 自分でも呆れ返るほど、僕の心は彼に独占されてしまったようだ。

 もうアキに土下座して一発ヤッてくださいとでも頼むべきか、これは。そんな女子高生は見たことも聞いたこともないけど。

 

 

 

 風呂場の鏡で確認した時、桃色のハートになっていた瞳孔(どういう原理だ!)を戻すのに5分弱をかけ、僕は何とか支度を整えて部屋を飛び出した。

 

「お、奇遇だな。フミも今準備できたのか」

「あっ、あ、アキ……!」

 

 じわ…………。

 

 ささっ、と、僕は思わず胸を両腕で覆い隠した。

 

「何でだよ」

「あ、いやっ……別に……」

 

 アキの顔を見ると、昨日のことを思い出して、もう出し尽くしたというのにまた滲みそうになる、とは言えない。

 

「フミが頼んだことだろ」

「わ、分かってるけどっ……!」

 

 ぐっ……お、おい! 僕のおっぱいめ、反応するんじゃない! 浮いたらバレる……!

 

「別に何も出なくても、吸ってほしいならいつでも吸ってやるよ」

「何も言ってないし!」

「でもそういうことだろ?」

「…………うううぅ〜〜っ!!」

 

 この! 変態!! 変に距離を取らなくなったかと思えば、調子に乗って!!

 

 何がムカつくって、吸ってほしい訳じゃないって言えない自分が一番ムカつくっ!!

 

「もう行くよ!!」

「怒るなよ。あ、お前、スカートの後ろパンツに巻き込んでるぞ」

「えっ!?」

 

 お尻に手を当ててみる。あるべき布の感触を見つけることができず、代わりに心許ない小さな布の感触だけを覚えた。

 

「ほぉー。今日は横シマか。もう女モノに抵抗とかないんだ。尻の形が浮いててエロいな」

「批評するなっ!!」

 

 今日はダメかもしれない。誰しも、何をやっても裏目になる日に心当たりがあるはずだ。

 もうサボりたくなってきた。性欲が溜まったくらいで頭が悪くなりすぎじゃないか、僕。

 

 

 

 2日目。現時点での集客率、満足度、教員評価などの中間発表が午後におこなわれる。

 それは結城さんが確認に行くとして、僕らはとにかく提供する品目を切らさないことに終始していた。

 

「玉崎さん、今日これで焼くの何皿目?」

「えっと……20かな」

「盛況だねぇ。ウチらのメイド服がキュートすぎたのかな?」

「はは。そうかも」

 

 今日は午後から調理場を交代してもらえることになっている。

 今から楽しみだ。同じ学年の出し物は一通り回るとして、あとは体育館でおこなわれるステージ公演も見に行きたい。

 

「そういえばさ、玉崎さん、あの噂聞いた?」

「あの噂?」

 

 何だろう。学校の七不思議とかだろうか。そんなものが噂されるなど小学生以来だが。

 

「学園祭中に校内でエッチなことしてるカップルがいたんだって」

「えー……」

 

 自分達以外の教員や生徒がいる学校で、あまつさえ直接の学校関係者以外も多く訪れる学園祭のこの日に? とんでもないカップルがいたものだ。

 お互いを想う心のあまり、周囲の目が気にならなくなってしまう気持ちは、多少は(多少は!)理解できるが、小さな子供もくるような学園祭で、よくもそんなことができる。

 

「保健室行ったらさ、女の子の喘ぎ声と、彼氏っぽい名前呼びながら好き好き連呼してる声が聞こえてきたんだって……」

「へっ!?」

 

 ほ、保健室って、まさか……。

 

「やばくない!? 学校でそんなことして。そんな猿みたいなカップルいるんだねぇ〜」

 

 さ、猿っ……!!

 

「そ、そそそうだねっ!? す、すっごい迷惑だねそれ! ほ、他の人も来る保健室でそんなことしてるヤツがいたんだ!?」

「ねー? 玉崎さんは真面目そうだし、やっぱりそういうのよくないと思うよねー」

「と、当然でしょ! ぼ……私は全然、学校でとかあり得ないしっ!」

 

 猿呼ばわりにショックを受けつつも、僕は何とか声の震えを押さえ込み、彼女に同調するような言説をうそぶいた。

 

 ま、間違いない。これはあのやむを得ない事情によりおこなわれた()()()()のことを指した噂だ。

 僕には全然疾しい気持ちなんてなかった。ただその()()()()が偶然そうした欲求を刺激する方法になってしまっただけだ。

 

「ホント何してたんだろうねー」

「あ、はは……」

 

 その舌遣いどこで覚えてきたの、とか、ベッドに押し倒されて、馬乗りで見下ろされるのすごくイイとか、そんな不純なことは一切考えていなかったのだ。誓って。

 

 と、とはいえ、隠し通さなければならない。そうでないと、今度こそ僕のあだ名がスケベ女になる。あの敷島とお揃いじゃんとか言われることになる。

 

「すごい激しかったらしいよ? びちゃびちゃ水音がしてさ、ちらっと扉の隙間から見えた女の子、ほぼ裸だったって」

「そ、そんなの犯罪だよね!? つつ、捕まっちゃえばいいのに!」

「ねー。私なら職員室に通報してたよー」

 

 ほ、ほぼ裸な訳あるかっ! 確かにアキの邪魔にならないようにエプロンは脱いだけど、スカートは履いてたし……!

 

「あ、ちょ、玉崎さん!? 焦げる、焦げちゃうよ!?」

「えっ、ああっ!?」

 

 少し苦い匂いがすると思ったら、僕の手元で焼いていた生地を焦がしてしまった。

 生地が薄いので、油断しているうちにすぐに火が通る。これはもうダメだ。僕の今日の昼飯にしてしまおう。

 

「珍しいね。試作の時でも一回も失敗してなかったのに」

「あ、う、うん……ごめん」

「謝んないでよ。ウチは10倍焦がしてるし」

 

 酷い失敗だ。むしろ試作の段階で焦がす分にはいい。本番の日にそうならないようにするための練習だというのに。

 

「それとも、噂の変態カップルが、実は玉崎さんと敷島のヤツで、動揺しちゃったとかぁ?」

「ち、違っ……! 違うしっ! 僕……私そんなことしてなっ……!」

「はいはい、分かってるよ。ほら、新しいの焼かないと、次のお客さん待たせちゃうよ」

「う、うん…………」

 

 どちらがいいものか。女子との接点なんて皆無の陰キャ男の頃と、全員にうっすら侮られている今のいじられキャラと。

 

 はぁ……僕だって、したくて学校であんなことした訳じゃないっての……。

 

「ぼーっとしてたらまた焦がしちゃうよ?」

「だ、大丈夫!」

 

 このことは、あとでアキにも知らせておかなければ。僕の失態のせいで変な噂を立てられているのだから。

 

 

 

 1日目より慣れてきた手際をお互いに褒め合いながら、僕らは4時間程度の作業を終え、調理室の前で解散した。

 

「おう。お疲れ」

「アキも。今日は1日目よりお客さん多いみたいだね」

「午後の連中はこれから大変だな」

 

 昼頃の一番混み合う時間の担当になったのは、事前準備で役に立てなかったからと、自ら志願してきた生徒達だ。

 誰もにしていないのに、手先が不器用なばかりに簡単な雑用しかできなかった、と、悔いているヤツが多かった。

 

「差し入れでも持って行ってあげようかな……」

「やめとけ。たかられるぞ」

 

 そうだった。僕らは全員バイト禁止の金なし集団なので、もらえる時はもらうの精神が根付いて良心を雁字搦めにしている。

 

 まぁいいか。今日くらい。

 

「じゃ、行こっか」

「おう。ほら」

 

 アキは当然のように手を差し出してきた。

 

「う……」

 

 彼の瑞々しくも骨張った手を見ていると、今日の夢を思い出す。

 というのは同時に、余計なものの分泌も促進するようで……。

 

 じわ、という感覚がして、僕は思わず俯いた。

 

「ご、ごめん……あの、また……」

「また、って……おいおい」

 

 うるさいぞ! 元はと言えばアキが悪いんだ! 僕がこんな風になるまでかわいがってきたのが悪い。責任取れ。

 

 

 

「ふ、ぅ……♡」

 

 保健室……は変な噂が立ってしまったので、4階の図書室前、学園祭の出店もない静かな場所まで逃げてきた僕は、そこの多目的トイレを使って、何とかアキに症状を治めてもらっていた。

 

「早く着ろって。ここだって人来るかも分かんないんだぞ」

「ま、待って……! 今、敏感で……♡」

 

 擦れないようにブラを付け直してから、僕はアキの介助でメイド服を着直した。

 

「マジでさ……吸ってる時股間パンパンだったんだけど。オレの気持ちにもなってみろ」

 

 吸われている間、アキはずっと太ももに力を入れていて、何だったのかと思ったが、なるほど()()の準備が整うのを必死に誤魔化そうとしていた訳か。

 

 それは……僕のせいだな。男からしてみれば、見た目以上に声とか、匂いとか、感触というものがより興奮材料になる。

 というのも、匂いや感触は特に、ポルノでは体感することのできない感覚なので、反応してしまうこともあるだろう。

 

「いいよ、大きくなっちゃっても」

「オレが恥ずいんだよ!」

 

 別にいいのに。他の男ならまだしも、アキがそうなっていても嫌悪感はない。

 と言っても、本人の羞恥心とはまた別の問題だというのは分かっているので、これ以上何も言わないことにしておいた。

 

「あとさ、こういう時ばっか好き好き言うのやめてくれ。お前本気で学園祭中におっぱじめたいとか思ってる?」

「お、思ってないよそんなことっ! だって、何か、胸がいっぱいになって……」

 

 アキの体が密着し、あまつさえ感覚の鋭い場所に彼の吐息が当たる。それが、今まで知ることのできなかった未知の多幸感を僕に与えるのだ。

 

「それは乳が溜まってるからだろエロ女。オレよりお前のがずっと変態だろ」

「ご、ごめんってば! もう大丈夫だから!」

 

 自然にしているよりは出してしまったほうが治りも早いだろう。胸の張りも収まった。

 

「早く行こうぜ。体育館ステージ」

 

 そうだった。アキの友達が組んだコンビを冷やかしに行くとかいう話だった。

 

「ほら、今度こそさ」

「あ、うん」

 

 僕のほうが少し肘を上げなければいけないくらいの差があって、手をつなぐのに何の負担も感じないのは、慣れか、アキの優しさのどちらだろうか。

 

「渡り廊下までは……南階段のほうが早いか」

 

 図書室前の北階段は全然人がいない代わりに、人が来ようとも思えない奥まった場所にある。

 少し急がなければステージが始まってしまうかもしれないな……と、小走りで向かおうとしたところで、向かう先の道に一組の男女の影が見えた。

 

「あれ、結城さんと……高本くん?」

 

 尋常ではない雰囲気を醸す結城さんが、高本くんのネクタイを引っ張りながら、その顔を一周するように睨め付けていた。

 

「ふ、フミ……? 何で隠れるんだよ」

「だって、なんかいかがわしい雰囲気だよ」

「デバガメ……」

 

 アキは呆れた風に言っているが、彼らの関係性には少し興味がある。

 僕は咄嗟にアキを物陰に引っ張って、窓際に追い詰められた高本くんと、目を細くした結城さんの様子を窺った。

 

「だ、ダメだ……! ここは学校で……!」

「いいじゃない……私達、今日まで頑張ったんだから」

 

 本当に結城さんかと疑うくらい、官能的で低い声が聞こえてきた。

 慌てている高本くんの胸に片手を置き、もう片手で舐め回すように彼の体を撫で回している。

 

「う、うわー……すっご」

 

 あんな風にするのがいいのだろうか。高本くんはタジタジだ。

 もしかしてアキも、あれくらい攻めっ気のあるほうが好みだったりしないだろうな。今から練習してどうにかなるだろうか。

 

「ねえ、今なら誰もいないから……お願い」

「ゆ、結城さっ…………!」

「下の名前で呼んでよ……ね?」

 

 同い年とは思えない色香を放つ結城さんから、僕は目が離せなくなっていた。彼らの唇が重なり合うまで、もはや秒読みだ。

 

「お、おい……フミ、趣味悪いぞ。そっとしておいてやろうって……」

「こ、これだけ見たら行くから……!」

「だからそれが趣味悪いんだって……」

 

 分かっているが、ここまで見てしまったら気になるじゃないか。

 別に誰に噂を流すつもりもない。彼らが公表するまで、ここで見たことはずっと心にしまっておくつもりだ。だから、もう少しだけ……!

 

 ガタっ!

 

「あっ」

「だ、誰っ!?」

 

 や、やばっ!? 消火栓が足に当たって……!

 

「た、玉崎さんッ!? それに、敷島ァ!?」

「あぁ……だからやめとけって……」

 

 悪さをした子供を引っ張り出すみたいに、アキは僕を物陰から引きずり出した。

 

 結城さんの混濁した視線が痛い。彼女は呆気に取られつつも、段々と状況を理解してきたのか、その顔色がじわじわと赤に変わっていく。

 

「あ、あの……結城さん、ご、ごめんなさい。二人の関係、見ちゃって……」

 

 結城さんと高本さんが、普通の友達同士よりも仲がいいこと自体は、クラスの誰もが薄々勘付いていたことだ。

 

 しかし、まさか結城さんがあんなに積極的な性格だとは思いもよらなかった。

 てっきり僕は、ファーストキスの日程すら細かく決めているような、ガッチガチのお付き合いをしていると思っていたものだから。

 

「い、あ、あ」

「ゆ、結城さん?」

「うあああぁぁ…………」

「ご、ごめん! 別に囃し立てる気は……!」

「わ、私は卑しい女よ……! 敷島のことを言えないくらい、いやらしい女なのよおぉっ……!!」

 

 耳どころか指の先まで真っ赤にして、結城さんはその場にしゃがみ込んでしまった。

 

「お、おう。高本。悪いな。文句ならフミに言ってくれ」

「い、いや……それより、君達も……」

 

 高本くんは、僕らのつながれたままの手を見て、何かを察したように言いかけた。

 

「あー……お互いに、内緒、ってことで……」

「そ、そうだね……それがいいな」

 

 頭から湯気を出してうずくまってしまった結城さんに、かけられる言葉はなかった。次に顔を合わせた時までに、謝罪の言葉を考えておかないと。

 

「4階ってそういうカップルの御用達スポットなのか……?」

 

 その理屈だと僕らもそれに当てはまることになるけど、それでいいのか?

 

 あながち間違ってもないか……。

 

 

 

 一人の友人に耐え難い恥辱を覚えさせてしまった僕は、今後は興味本位で他人の関係性を覗き見したりしないようにしようと固く誓ってから、アキを伴って体育館ステージにやってきた。

 

 多少端に近い場所ではあるものの、十分ステージが見える場所に空いていた席に並んで座り、僕らはアキの友人の出番を待っていた。

 

「お、来るぞ」

 

 ちゃんちゃんちゃん、と、オリエンタルな弦楽器の小気味いい出囃子と共に、幕の裏から二人の男子生徒が真ん中のマイクに走り寄ってきた。

 

「はいどうも。C組漫才のシーマンと申しますー」

「一昔前の魚を育成するゲームみたいな名前でやらせてもらってますー」

 

 …………。

 

 掴みは当然のようにスベる。中心の列の先頭席に座る陽キャがはしゃいでいるが、会場全体としては冷たい笑い声が漏れていた。

 

「いやー実はね、この前ダジャレしか言えない体になりましてね」

「また意味分からんことを言い出したな」

「で、病院行ったんですよ」

「病院で治るか分からんけどね、それで?」

「そしたらね、こいつを周りの人に飲ませろって薬もらったんです」

「周りの人に? 何でよ。自分で飲む用じゃないんですか?」

「そうなんです。これを飲ませれば、誰でもクスリと笑ってくれるってね」

「それダジャレ病かかってんの先生じゃねえか。そんで爆笑は取れないのかよ」

 

 …………。

 

 中心列はやはり大笑いの渦だった。中には手で膝を叩いて笑っているヤツもいる。それだけに彼らは浮いていた。

 いや、全くつまらないゴミのような漫才だとまでは言わない。それにしてもあそこまで大げさに爆笑している集団がいると、内輪の楽しさばかりというか、僕らとしては蚊帳の外に閉め出されたような感覚がする。

 

「…………あと5分だ」

「な、何も言ってないよっ!? し、素人にしてはむしろ、結構出来がいいんじゃ……」

 

 まず、このあとの軽音部パフォーマンスのために大勢集まった生徒の前で、あそこまで堂々と漫才を演じられる胆力がすごい。

 僕だったら恥ずかしがって声が小さくなって、全然笑いが起きなかったところだ。

 

「いいんだフミ。オレが悪かった。学生漫才なんかスベることが確約されてるようなもんだってのに」

 

 アキはまるで我がことを眺めるかのように、青い顔でステージに立つ友人を見守っていた。

 せめて僕も応援しよう。笑いのツボは少し僕とは違うかもしれないが、彼らがステージに上がったことを後悔しませんように、と。

 

 

 

 軽音部の演奏に続いてダンス部のパフォーマンスまで、一通り楽しんだ頃には、3時半を過ぎていた。

 

 時間も少ないので、今日は比較的入りやすい出し物を回ろうと、僕らはお菓子のバラエティパックをつまむみたいにふらふらと校内を歩き回った。

 

「あなたと彼氏さんの相性は……71%です!」

「なな……なんか、いいとも悪いとも言えない……」

「ですがご安心ください! この超絶開運健康金萬ブレスレットをお買い上げになられますと――――」

「だぁーっ、行くぞ!! こんなもん買わなくても100パーだ100パー!!」

 

 怪しい占いの館で一頻り性格やら相性を占ってもらったり、

 

「VRジェットコースター?」

「この装置を付けて、椅子に座っていただくと、めくるめく遊園地の世界がすぐそこに!」

「これVRっていうか、ヘルメット型の段ボールにはめ込んだスマホ……」

「さあどうぞお楽しみください! それでは、夢の世界へレッツゴー!」

 

 3Dですらない似非VRで、ちょっとしたアトラクションの気分を楽しんだり、

 

「はいよー、焼きそば」

「おお……すっごい量の紅しょうが」

「牛丼屋の紅しょうがも、一人で容器の半分くらい使うタイプです」

「SNSで賛否起こすタイプだ……」

 

 定番の焼きそばを二人で分けたりして、今日中に行けそうなところを回りきった。

 

「結構回ったなー」

 

 ビニール袋にお土産を入れたアキは、帰って行く一般参加の父兄や生徒達を窓から眺めながら、3年の出し物のクイズ大会でもらった折り紙のメダルを振り回していた。

 

「オレ達もそろそろ帰るか。明日もあるし」

「うん」

 

 まだ一日残っているとはいえ、学園祭の終わりを感じつつある。あるいは夕暮れが切ない気分にさせているだけか。

 

「…………」

 

 当たり前のように手をつないでくれることが嬉しかった。喧騒の去るとともに浮き彫りになる物悲しい気分も、信じられる誰かが隣にいると、少しはマシになる。

 

「寂しそうな顔すんなよ。後夜祭もあるだろ」

「そうだね」

 

 そんなに分かりやすい表情をしているのか、僕。

 

 

 

 学園祭の出し物でもらった雑貨やら、メイド服の入った手持ちの鞄やらを、整理もせずに部屋に投げた僕は、着替えもしないままアキの部屋に勝手にお邪魔した。

 

「疲れたー。ねー、足揉んで。疲れた」

「帰ってきたばっかりだろ。もうオレの部屋来るのかよ」

「だってー。寂しいから……」

 

 男だった時は、一人の時間が何日か続いたくらいでは特に何も感じなかったのに、最近はアキの姿が視界のどこかにないだけで、寂しさを感じる。

 

 情緒の過剰だ。たった1日会えなかったとかで人が死ぬ訳でもないが、僕はもしかしたらそれに準じるくらいの気落ちをするかもしれない。

 メンヘラってやつか? あるいは依存? どちらにしても健全ではないが、今更離れることはできない。

 

「学校じゃできなかった分さ……ね?」

「……ほら」

「えへーっ!」

 

 膝を立てて座っていたアキが足を開く。僕はその間に飛び込んで、彼の胸に抱き付いた。

 

「この暑い日によくやるよ」

「暑いのがいいの」

 

 そんなことを言って、アキも僕の背を抱き寄せて離そうとしないじゃないか。

 

 人の熱を肌に感じる。暑苦しいのがむしろ心地いい。涼しいと心細くなる。暑いくらいのほうが寂しさが紛れていい。

 腰を引き寄せられ、頭を撫でられていると、彼のたった二つの手中に、全身を捕えられているような気分になる。

 

「小さいな……子供みたいだ」

「ちゅー♡」

「ほっぺにちゅーしてくるのも、お父さん大好きな子供みたいだな」

「折角立ってる時より顔が近いんだもん」

 

 力の強さを感じつつも、慈しみを感じる抱擁。このまま体を溶かして、アキの一部になってしまいたい。

 

「不思議だよね……あのガチャを回して、女の子になるまで、こんなに感じになるとは思わなかった」

 

 アキにメロメロだ。ハートを奪われた。自分でも恥ずかしくなるくらいゾッコン。

 

 もしかしたら、本当は最初からこうなりたかったのかもしれない。

 強がっているのに疲れたのか、アキが僕のことを理解してくれるからか……どちらにせよ、女になったから男を好きになる、なんて単純な反転ではない。

 

「そう思うと、変なものばっかり出してきたあのガチャのことも――――」

「ふ、フミ、あれ見ろ」

「え、何?」

 

 僕はアキに目を奪われて、アキに夢中だったというのに、君は余所見をしていたのか、と、頬を膨らませながら、彼の指差したほうを見てみると。

 

「あれ……」

 

 壁際に置いたまま、半ば存在を忘れていたガチャボックスの様子がおかしい。

 

 何というか、薄い。

 

 薄いというのはつまり、半透明。なぜか箱の後ろの白い壁が透けて見える。

 

「これ、もしかしてさ……」

 

 思えばあのガチャが現れたのも突然だった。

 

 だとすると、この突然の異変は、その反対のことが起こる前触れなのではないか?

 

「なあ、フミ、あのさ……」

「何?」

 

 僕を抱きしめるアキの手がきつくなる。より彼の力を体に感じられて、僕としては気持ちいいばかりだが、アキのほうは僕みたいな浮かれた恋心だけではないようだった。

 

「なんでもない」

 

 何かを言いかけて、アキは全部なかったことにするかのように、僕の後頭部を掴んで引き寄せてきた。

 

 最後まで言ってよ、と聞き返したかったのに、これで誤魔化される僕のゾッコンぶりに、自分でも少し呆れる。

 

 





おまけ 悩み

フミちゃんの悩み
・高校生割引の店で小中学生に間違われ、胸を見て納得される
・男の頃には届いたものに手が届かない
・ネコに好かれない

アキくんの悩み
・学校生活が忙しくてボルダリングに割ける時間が減った
・AVを見るとフミが不機嫌になる
・童貞すぎて誘い方が分からない
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