ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
学園祭の3日目も無事に終わり、僕達は撤収作業の傍ら、再利用できそうにない廃材を校庭に集めていた。
毎年恒例、後夜祭の送り営火。
平たく言ってしまえばキャンプファイヤー、焚き火だ。火を囲んで踊ったり、太鼓部が張り切ってドカドカ打音を鳴らす。
「ふぃー……重かった」
「お前、去年はそれくらいの廃材、軽そうに運んでただろ」
「去年と比べないでよ」
この細腕に、しかも胸部と臀部に重り付きの体では、筋力も体力も比較にならない。
慣れるまでは日常生活にすら不便を感じていたほど(瓶の蓋が開かなくてアキに開いてもらったりとか)なのだから、運べる荷物が小さくなるのも仕方なくないか。
僕は校庭の中心に集められた廃材の山に、看板用のペンキで汚れた下敷き板を乗せ、痛む腰を反らしながら伸びをした。
「もう夕方だね」
「あとは後夜祭だけだな」
いよいよ本当に学園祭が終わってしまう。3年生の女子の中には、既に卒業を想起して涙ぐんでいる生徒がいるほどだった。
組み上がっていく巨大な火種が完成を間近にするにつれて、日暮れを待つ生徒達は色めき立っていた。
仲のいい者同士で集まって騒ぐ女子生徒、自分達の仕事を終え、暇潰しにサッカーを始めた男子生徒、それを注意する教員……。
それに、焚き火の前に陣取って、後夜祭をダシにイチャつく気満々のカップル。
「あの連中の何組が1ヶ月以内に破局するんだろうな。オレは5割残らないと見た」
「意地悪な予想……」
イベント事に乗じて成立したカップルは冷めやすいとかどこかで聞いたことがあるが、そんなの当人らにしか分からないことだ。
「フミも前までそういう毒吐くほうだっただろ」
「心境の変化ってヤツ。もう昔の僕とは違うの」
「何だそれ。オレにはそんなに変わってるようには見えないぞ」
全然違う。だってこんなに大好きな恋人ができてしまったんだ。
確かに非モテ男のままだったら、アキの言うことに便乗して、カップルは一刻も早く別れろとか言っていたかもしれない。
しかし、彼氏ができた今、彼氏に捨てられるかもしれないという不安が、どれだけ胸に痛く、心臓を押し潰してくるものかを知ってしまった今では、不用意に他人の破局を願ったり笑ったりできない。
「他の男女のことなんていいでしょ。僕がいるんだから」
そもそも、こんな想像上の産物みたいな美少女を隣に置いておいて、他の女のことを考える暇なんてあるのか。
自分で言うのも変な話だけど、ほぼノーメイクでこんなにかわいいの、すごいと思わないか。知らないカップルの不幸を探るより、もっとこう、僕に「かわいい」とか「愛してる」とか「結婚しよう」とか、言うことがあるだろう。
「言っとくけど、母親とか姉にすら嫉妬するタイプだからね、僕」
「家族はノーカンだろ」
「ネコにもね」
「それはネコにっつーか、ネコに好かれてるオレにだろ」
「チャットの友達欄チェックさせて、とか、女友達の連絡先全部消せとか言うよ」
「実生活に実害ある系のメンヘラか……」
冗談を飛ばし合いながら笑っていると、アンプみたいに大きなポール式拡声器から、放送委員の声が流れてきた。
『ただいまをもちまして、第51回、東多摩川高校学園祭を終了、並びに後夜祭を開催します。生徒の皆様は、校庭にお集まりください』
聞き取りにくい放送を聞くために、示し合わせたかのように話し声が止まる。そして続々と校舎から出てくる生徒達の一団に感化され、またどよめきが伝播していく。
「始まるみたいだな」
まだ紺色か日暮の橙か、何らかの色を発する空の催いにかかわらず、焚き火台の組み木の一番下に火が付けられた。
チャッカマンを持った事務員さんがそそくさとその場を退散し、教師陣が浮かれる生徒達を牽制しながら、パイロンと連結棒で火元を囲み始めた。
そうしている間にも火勢は増していく。下のほうで新聞紙を燃やしていた火から、パチパチと火花が他方へと散り、まだ水気の抜けきらない新しめの木材でできた木組みを炙った。
徐々に大きさを増す火の音に、組み木を囲んでいた生徒達はまとまらない歓声をあげた。その場の雰囲気に当てられて、何でもない景色までが楽しく見えているらしい。
「ちょっと、こっち」
「何だよ。火の近く行かなくていいのか?」
「うん。暑いし、人多いと、ほら……」
僕はアキを引っ張って、ボールが校庭を超過防止用のネットに寄りかかった。
催し事で焚かれる焚き火などは、こうして遠巻きに眺めているくらいが丁度いいのだ。
こうして後ろから、揃えて足を踏む男女の和気あいあいとした姿を眺め、その気分を少しだけ分けてもらうだけでいい。
「すごい勢いだね……あんなに燃えるんだ」
「見たことないのか? 去年もやっただろ」
「一人だったし……後夜祭なんて陽キャとカップルのためのお祭り会場じゃん」
友達の少ない陰気な男が、一人で耐えられる環境では到底ない。
それに、仲睦まじい男女を見せ付けられて穏やかでいられる自信もなかった。惨めにさせられるよりは、さっさと帰って筋肉痛を訴える体を休ませたほうが、次の日の振替休日も楽しめるというものだ。
「今年は見る気になったのか」
「アキがいるからね」
我ながら現金な考え方だ。彼氏がいるなら参加してもいいなんて、発想がどっかのミーハーな女子とさほど変わらない。
「えへへ。好きだよ」
「……急にそういうこと言うなよ」
「いいじゃん。嬉しいでしょ」
意外と僕は軽率に好きとか言ったり、好意を前面に出すタイプだぞ。
「後夜祭ってこんな感じだったんだ……」
火が僕らの身長より高くなった頃、パイロンの前に立っていた先生達が傍に避け、放送部の連絡事項に被って軽妙な音楽が流れ始めた。
それに合わせてぎこちなく踊ってみたりする男女の連れ合いや、多少悪い騒ぎ方をする男子達。
その間を縫って、太鼓部やダンス部が7時予定のパフォーマンスの準備を進め、校庭は1時間もしないうちに混迷を極め始めた。
「なぁ、フミ……」
「どうしたの?」
アキを見上げてみると、彼は高く昇る火の白い煙を遠目に眺めながら、あまり目蓋の開きがはっきりしない表情で肩を下げていた。
「あー……」
「何だよ。はっきり言ってよ」
「ほら、昨日のことだよ。あの邪魔くさい箱」
ガチャボックスのことか。
昨日、ガチャボックスが半透明になっているのを見て、僕らはコインの挿入口から、景品入れと思わしき直方体の箱、ボックス足下の滑り止めゴムまで、全体をくまなく確認した。
箱は僕らが触れることによって、半透明であった形を取り戻した。それから二人で小一時間ほどいじくり回してみたが、もう一度半透明になることはなく、その日は解散となった。
「今朝見たらさ、また半透明になってたんだよ」
「そうなの?」
「ああ。また触ったら戻ったけど」
思わせぶりに消えかけたり戻ったり、一体どういうつもりなのだろう。構ってちゃんか。
そう思うと少しだけシンパシーを感じる。最近は僕らがあまりガチャを引いてくれなくなったので、拗ねてしまったとか。
「…………なぁ、フミ、これが最後のチャンスだと思わないか」
「チャンスって、何の」
アキは言葉を選んでいるというより、表現は既に見つかっているものの、それを口にすべきか迷っているかのように言い淀んだ。
「ガチャが消えたらさ、当然もうあの変なアイテム群を引くことはできなくなる」
「だから、それが何なのさ」
何を言いにくそうにしているのだろうか。話ぶりからして、というかトピックからして僕とアキのどちらかに関係する話であることは理解できるが、肝心な部分をぼかされては、何とも返事のしようもない。
「ここまで言えば分かるだろ! お前が男に戻れる望みも、完全になくなるって話だよ!」
「え、ああ。そういうこと」
神妙な顔をしているものだから、てっきり別れでも切り出されるのかと思った。足にしがみついてでも嫌がる構えだったが、全くの杞憂だったらしい。
だとしたらそんな紛らわしい表情をするな。僕はいつでも不安なんだぞ。最初から本当の女の子ならよかったのに、とか夜に突然情緒が乱れたりするんだぞ。
「そういうこと、って……お前、本当に分かってるのか?」
「この話前にもしたじゃん。僕はいいの。これで」
この体になっていい加減、2ヶ月足らずは経っている。それだけの時間があれば、女子同士の社会性とかはともかく、体のほうに関しては慣れてくる。違和感はない。
「いいのかよ、だってお前――――!」
「アキがいるから」
これは本当に究極の話だが、アキさえいればそれでいいんだ。月並みな表現になってしまうけれど。
確かに、男の頃の僕とはかけ離れた他人評や、僕の知らない僕の幼少期の思い出を語られる時に、全く知らない世界に放り込まれたような疎外感を感じることがある。
誰も僕のことを知らない、誰もが知らない僕の話をしているかのような、世界から弾き出されたような不安感。
男に戻りたいと一度でも思わなかったかと聞かれれば、何度も戻りたいと思った。
しかし、それはもういい。以前の僕も、新しい僕も、全てアキが知っていてくれるのだから。
「わざわざ聞いてくれたのはつまり、僕が男でも女でも、アキは一緒にいてくれるってことでしょ?」
「それは……そのつもりだけど……」
「じゃあいいんだよ」
姿や見た目は重要ではない。どんな姿であっても君が側にいてくれる。それが一番重要なことだから。
いややっぱり重要かも。アキがより僕を見てくれるほうがいい。だとすると、余計にこのまま女の姿でいるほうが都合がいいかな。
「逆に言えば、僕にはアキしかいないから。アキに捨てられたらどうなるか分かんないよ」
「重いって! 何でそう極端なんだよ!」
「でも重い女の子っていいじゃん。アキもそういうキャラ好きだったでしょ」
「まあ、好きだけど……」
今更、君が僕から逃げられる訳がないんだ。僕が君から逃げられないのと同じで。
「ね、だからいいの。この話終わり。あのガチャはなくなったら仕方ないでいいし、残ってたら余りのコイン消化しよう、くらいの気持ちでいいよ」
「……フミがそれでいいなら、分かったよ、
もうこの話はしない」
アキは眉間に寄せていた難色をふっと消してみせると、今度は意趣返しを目論むような表情で、意地悪気に笑ってみせた。
「その代わり、オレも束縛激しくいくからな。大学でもサークルの飲み会とか行かせないから、そういうの諦めろ」
「えー? へへ。嬉しい。アキ以外の男の子の連絡先も、この場で全部消そうか?」
「嬉しがるなよ!」
嬉しいのだから仕方がない。心配しなくても僕は単純な同性愛とかでもないし、他の男に魅力を感じることはないが、それはそれとして気分がいい。
「つーか、なんでさっきから連絡先にこだわる」
「昨日テレビで見た。浮気防止には、連絡手段から断つのがいいって」
「また変なもんに影響されやがって……そんなもん外に出なきゃ病気移されないみたいな極論だろ」
「本気で言ってないよ。ま、本当にアキが消してほしいって言うなら消すけど」
「やめろやめろ。お互いしか見えてない関係はそのうち破綻するぞ」
自分だって初彼女のくせに、分かったようなことを言うヤツだ。
僕自身のことだ。分かっている。今の僕はかなり舞い上がっているな、と。
しかし、まだ3ヶ月も経っていない付き合いたての学生なんて、みんなこんなものではないだろうか。
……という風に言い訳をして、もう少しだけ長く甘えていたいのだ。
『続きまして、優秀クラス、および部活動の発表を始めます』
ここまで放送室からの校長の挨拶をガン無視して騒いでいた生徒達が、いざ放送部の声に切り替わると、途端に声をひそめ始めた。
今年の最優秀賞がどのクラスなのか、どのクラスも気になって仕方がないらしい。
「表情ねー……どっちでもいいけどな」
とかなんとか言っているが、僕はアキが体の重心を左右の足でいったり来たりさせているのを見逃してはいない。
そわそわしちゃって。本当は気になるくせに、強がってどうする。
『校長賞は、3年D組。工作教室』
「そんなのやってたんだ」
「金工室で子供向けにやってたぞ。真鍮からダイスでネジ作るとこからな」
「詳しいね」
「指導側で手伝ったからな」
僕が調理とフロアで忙しい間、何をしていたのかと思っていたが、彼なりに満喫していたらしい。
どおりで1日目、多少はんだごての匂いがすると思った。気のせいではなかったのか。
『第51回、東多摩川高校学園祭、今年度の最優秀賞は、2年A組。2年A組のステージカフェ』
あれっ、いつの間にか優秀賞の発表が終わり、最優秀賞の発表になっている。
しかも、演出というものを知らないらしい無愛想な放送委員が、ドラムロールどころか一呼吸の勿体付けもなしに、しれっと、最優秀賞を発表した。
「おー、オレ達のクラスだ」
焚き火に近いところに集まっていたA組のクラスメイト達が、飛び上がって歓声を上げている。
校庭に響く拍手に包まれ、僕らA組は、一年の頃から数えて初めての優勝を獲得した。
「はは、見ろよ。高本のヤツ泣いてるぞ」
「ホントだ」
企画の全体を監督し、クラスを率いた学級委員の二人は、特に感動の工合も大きいようだ。クラスメイトに背を撫でられながら、恥ずかしそうに俯きながら笑っていた。
「そういえばさ、あのメイド服どうした?」
「返したよ。学校で保管するって」
こうして先人達が作った衣装やら道具を保管することで、次に学園祭をおこなう後輩達がそれを利用できる。
僕らもその先人の成果をいくつかお借りしている身であるため、僕らの作ったものを学校に残しておくのは、半ば義務のようなものだろう。
「写真撮っとけばよかった」
「昼間に散々撮ったでしょ。パシャパシャ」
1年のどこかのクラスがやっていた展示スペースで、人気がないのをいいことに、ポーズまでアキの言う通りにしてやったのを忘れたか。
「それに、人に見せたくないからって、後夜祭の前に着替えさせたのは君だろ」
僕とアキ以外の生徒達は、まだ劇や部活の衣装をそのまま着ているし、僕が着ていたものと同じく、メイド服の子もいる。
早々にクラスTシャツに着替えたのは、僕らを含めても数人程度しかいない。
「何か言ってよ」
「でもお前、独占欲とか向けられるの好きだろ」
「…………」
この話はここでやめにしよう。折角このクラスで1番を取れたんだ。今はそんな話より。
「ほら、僕達も行こう!」
「引っ張るなって」
火元のほうで、結城さん達が手を振っているのが見えた。どうやらみんなで写真を撮るらしい。
いつも気怠そうな顔をしている担任も、今日ばかりは少し楽しそうだ。普段からそういう顔をしていればいいのに。
「……よかったな」
写真なんて、どうして撮る必要があるのか、とすら思っていたけれど。
こういう日くらいはいいか。
後夜祭の焚き火が燃え尽きるのを見届け、時刻は8時前。
校門前では夜道に気を付けるようにと、教師達が口酸っぱく言い含めていた。
「ただいまー」
「はい。おかえり。ただいま」
「おう、おかえり」
作業で使ったアキの道具を持ち帰るのを手伝って、僕は彼に続いて部屋に入った。
「終わったねー。見てほら、写真」
「夜なのに綺麗に撮れてんなー。最近のスマホってカメラの性能いいな」
「僕ら二人とも型落ちスマホだもんね」
ハイエンドのモデルにダブルスコアの差を付けられている古いスマホで、僕はアキに先ほどの写真を見せた。
「よし、じゃ、悪いけど荷物整理すんの手伝って」
「うん」
汚れっぽいものを玄関に残して、僕はそう広くない6畳の部屋の奥に入った。
「お、おい、見ろよ、フミ」
入るなり、荷物を置かせてくれる間もなく、アキが多少慌てた風に部屋の隅を指差した。
「あっ」
なくなっている。あの箱が。
「半透明でもないぞ。完全に無くなってる……」
アキは、昨日までそこに箱があった何もない場所を、手ですかすかと切ってみせた。
「最初から何もなかったみたいに……」
僕のカバンの中には、あの趣味の悪い粉末の薬がまだ残っている。部屋の端には例の鉄パイプが立てかけられているし、アイテム自体は消えていない。
もっと言えば、僕の姿は女性のままだ。あの箱が消えたところで、あの箱が存在しなかったということにはならないらしい。
「なんだったんだろうな」
結局、あのガチャボックスの正体は分からず終いだった。その因果も、正しい使い方も、誰の思惑による設置かつ退散だったのかも。
あるいは、人生の全ての選択に意味があるとかいう、どっかの誰かが考えた詩文的耳触りのよさ以外に価値がない妄言に、実は人生の全てが無意味であるという、冷笑系ニヒリズムで対抗したかったための産物だろうか。
というのもやはり人間本位的な考えだ。人間からして理屈では説明の付かない生物だ。高度な知性に感情を付属させるべきではなかった。
などと、生意気なメタ認知で自分の姿を客観視してみる。やはり僕の自我を二元的な性別の左右辺に置くことはできないらしい。
「これでよかったよ」
世の中は、僕らに理解できるような意味があるもののほうが、むしろ珍しいとは思わないか。
だからこれでいい。今の僕達が全てだ。
「そうか」
アキはこれ以上何も言わない、という約束を忠実に守り、このことに関して、僕に真意を問いただすようなことはしなかった。
「あ、そうだ」
学園祭のゴタゴタですっかり忘れていた。今日はアキに渡したいものがある。
「どうした?」
工具箱を押し入れの奥に突っ込みながら、アキは目だけこちらに向けて疑問符を浮かべた。
「はい、これ。誕生日プレゼント」
厳密には明日だが、明日になる前に渡しておかないといけないのだ。
「あ、そうじゃん。忘れてた」
「学園祭が忙しかったもんね。はい。あげる」
「おー、ありがとう。覚えててくれたのか」
やっぱり忘れていたか。去年は自分から誕生日をアピールしてきて、プレゼント乞食までしてきたというのに、今年は全然言い出さないな、と思っていたのだ。
「開けていいか?」
「どーぞ」
正直なところ、これしか思いつかなかったというのが本音だ。アキが喜ぶものを考え続けて、徹夜で寝不足になってしまってから、潔く最初に思い付いたものを買おうと決めた。
アキはリボン付きの包装を大胆に真横から破って開けると、その中身を見て目を丸くした。
「これドラハンの新作じゃん!」
定価8800円。バイト禁止高校生の懐にはかなり痛かったが、折角だから自己満ではなく、本当にアキが喜ぶものを用意したかった。
「明日振替で休みだし、マルチしようよ。前みたいにさ、泊まりでゲーム大会」
前日に渡した理由はこれ。ソフトもプレゼントの一つだが、明日のゲーム大会で、僕もその楽しみにあやからせてくれ、ということ。
「今からコンビニ行ってさ、2日分買い溜めしようよ。
1年の頃はほぼ毎週そんな生活だった。二人して学校に寝坊し、反省文に馬鹿正直にゲームで徹夜して寝オチしました、と書いて怒鳴られた。
「…………」
「も、もしかして嫌だった?」
「嬉しいけど……」
よかった。嫌な訳じゃないのか。ならばその微妙な表情は何だというのか。ややこしい顔をするな。
「何が心配なのさ」
「心配っつーか……あのさ、ゲーム大会ってあれだろ? 去年のオレ達みたいな」
「うん」
「罰ゲームでくすぐりあったり、喧嘩して布団の上で取っ組み合いになったりしたアレだろ?」
「それだよ」
我がことながら、小学生みたいなはしゃぎぶりであったことは覚えている。
流石に成績がまずくなって、毎週末同じことをするというのはなくなったが、アキの誕生日くらいは、少しハメを外しても問題ないのではなかろうか。
「あー……もう先に言っとくけど、血迷ってお前のこと襲っても恨むなよ」
「え?」
何の宣言だそれは。ムードも何もあったものじゃないし、責任逃れだし。
中学生のカップルじゃあるまいし、付き合っていればそういう気分になることもある。遅かれ早かれのことだ。
……問題といえば、お互い全くのチェリーということか。勝手が分からない者同士、初めてがすごい失敗になりそうな予感がする。
でも、それも僕達らしいじゃないか。
誰かに自慢したいからいる訳じゃない。ただそこにいてくれれば、きっとそれでいい。
「じゃあ、コンビニでアレも買っておかないとね」
「アレ? アレってなんだよ」
「アレだよアレ」
「コンビニまでに勇気出して言えたほうが奢ってもらうことにするか」
「変なルールだな……思い切って言えよ! 何の話か分かってるくせに!」
「じゃあフミが言えよ。言ったらオレが金出してやる」
「ぐー……」
くだらないことを言いながら、僕らは隣り合ってアパートを出た。
服には焚き火の煤の匂いが残っている。坂の上に見える学校からは、僕達と同じように煤の匂いを漂わせた生徒達が、楽しげにお喋りをしながらそれぞれの帰路に曲がるのが見えた。
僕らはこれからどうなるのだろう。ずっと今日のように一緒にいるのだろうか。あるいは喧嘩別れでもするか、もしかしたら男に戻っているかもしれない。
先のことは知らないが、元から知る術のないものを知ろうとする意味はない。
でもそうだな……希望を言うとすれば、特に誰の心を揺らすこともない、陳腐なハッピーエンドがいい。何の教訓も芸術もない、ありがちな幸せだったら、嬉しい。
「好きだよ」
「…………知ってるって」
「そこはオレも好きだって言うとこだろ」
「うるさいな。愛してるよ」
分かることがあるとすれば、この瞬間、僕らの手は確かに熱平衡だった。
次回後日談。