ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
フミちゃんの弱点(弱い順)
・乳首 ←クソ雑魚。未開発なのによわよわ。絶対負ける。女の子より女の子。周りをなぞられるだけで触られてもいないのに軽く達する。
・耳
・鼠蹊部
・背中
・脇
「ほい、こっちこっち、どわ! お、おい! 暴れんな!」
顔を引っ掻かれながらも、アキは何とか若木から降りられなくなった子猫の脇に手を入れて持ち上げた。
「もう大丈夫だぞ。よしよし、ほら」
ニーニーと未熟な鳴き声をあげながらバタついていた子猫だったが、ゆっくり地面に降ろされていることに気が付き、やがて大人しくなった。
「よっ……と。よし、フミ、脚立押さえてくれてサンキューな」
地面に降りた三毛の子猫は、先ほどよりも険の取れた声で鳴きながら、お礼でも述べているかのようにアキのジーパンに頭を擦り付け始めた。
「これで人助け、猫助け? 完了だな」
彼は足下の猫をあやしながら、スクリーンを出してステータスを確認し始めた。
表示されている数字は9。あと一つ上がれば3枚のコインがもらえることになる。
僕はまだ8のままだ。あのミッション群にかかるには、別種の勇気がいる。主に男としての自我とかアイデンティティみたいな方面で。
「いいペース……かな?」
「まだ三日目だからなー。ま、とりあえずレベル上げてくしかねーわな」
僕らはコインを集めるために、朝からアキのミッションをこなしていた。
「この〝盗聴のイヤリング〟とかいうの、結構役に立つな」
「まさか動物の鳴き声も翻訳してくれるとはね。シンプルに〝助けて〟で、探してたら、子猫の鳴き声が人の声に聞こえるんだから、びっくりしたよ」
こんな感じで夏の暑い外を駆けずり回りながら、おばあさんの荷物を持ってあげたり、この辺に不慣れな人の道案内をしたりと、アキは苦もなく人助けをしていった。
前からお人好しなヤツだったから、むしろ日常の風景だ。今日のところはこのイヤリングのおかげで、それに拍車がかかっている。
「つかお前、それにしてもよ……」
アキにしては珍しく、歯切れの悪い様子で言葉を選び始めた。
「何?」
「いや……その、さ……」
アキの視線は、僕の顔ではなく、下のほうばかりに向いている。人の視線の方向ってこんなに分かるものなのか。
「また胸ばっかり見てるのか君は」
こいつ、どれだけ僕の胸を意識してるんだよ。女になったその日もそうだけど、彼の興味はそればかりなのか? 僕にも気持ちは分かるけど、少しは遠慮してほしい。
そんなに好きならアキにあのカプセルを開けさせて、思う存分堪能させてやればよかった。自分自身の体で。
「視線が露骨過ぎるだろ。他の人をそんなに見たらダメだよ」
「ち、違っ、透けてんだよ! 汗で!」
「え?」
僕は思わず俯いて、今着ているTシャツを見た。
「あ……」
サイズが合わないものであるせいか、男用の安物だからか、汗で張り付いたところが透けて、中の下着が見えていた。
「ほ、ほらな! だからこれはオレのせいじゃない。そんなエロいもんが見えてたら誰でも凝視するから。だからお前のせい」
「なんか早口だな……」
男の頃に来ていたビッグシルエットのシャツは、今の僕が着るともはやワンピースかという丈になっていた。
ズボンもズルズルだ。ジャージの紐を引っ張って無理やり絞っている。
ここでアキが気を違え、僕のズボンに手をかけたら、そのまま何の抵抗感もなく脱がされてしまいそうだ。しかし、意外と尻がデカいせいで止まっている。なぜか屈辱的だ。
「だぁーもう! いいから服買い行くぞ! 目のやり場に困るんだよ!」
「買いに行くってどこに」
「バスでモールまで行けばあるだろ! ほら、行くぞ! まずはその服着替えてこい!」
アキは僕の腕を掴むと、来た道を戻ってせかせかと歩き始めた。
ま、いいか。折角夏休みなんだし。二人で遊びに行く日があったって。
「あ、暑い……ねぇ、これ脱いでいい?」
アキがタンスから引っ張り出してきたコーチジャケットを羽織って、僕は彼に連れられて郊外のモールにまでやってきた。
「中に入れば涼しいだろ。というか、透けてるからダメだ」
「何でよ。別に見られて困るものじゃないでしょ」
「困れって言ってんの。オレはお前の中身を知ってるけど、周囲は知らねーんだぞ」
彼は僕の格好を頻りに気にしていた。自分の格好だってTシャツとジーパンで雑なくせに。
「あぁー、涼しぃー」
「胸元をパタパタさすな!」
うるさいなー。今はどうせジャケットを羽織らされてるんだからいいじゃん。
「ほら、さっさと行こうぜ。レディースは一階の……」
「え、ウニシロでよくない?」
女性用売り場は高そうだし。
「そしたらお前、またダボダボの適当な服ばっか選ぶだろ。この機にちょっとファッションにも気をつかえよ」
「自分だってシンプルな服装じゃん」
「オレはあえてなの」
アキに連れられて、僕は小洒落た名前のテナントにやってきた。暖色の垂れ照明が独特の間隔で吊るされた、木製の棚の店。
「ほら、見てこいよ」
「え!? い、一緒に来てくれないの?」
床板がカーペットタイルからフローリングに変わる寸前で、突然アキが足を止めた。
「オレが入ったら変だろ! ここどう見ても婦人服しかねーし!」
「い、いいじゃん別に! 変じゃないよ! 下着屋さんとかじゃないんだから!」
こんないかにもな女性のテリトリー、一人で入るのは心細い。というか無理だ。
気恥ずかしさでまともに服を選べる気がしない。店員さんに話しかけられたら逃げ出してしまいそうだ。
「おっ、お願いだから一緒に来て! 隣で見てるだけでいいから! 一人じゃ無理!」
「はぁ……仕方ねーな」
何とかアキの腕を引っ張りながら、二人で店内に入る。笑顔の店員さんが微笑ましいものを見る目で見てきた。絶対勘違いされたけどまぁいいや。
ハンガーにかけられているのは全て婦人服だ。悪いことじゃないのに、犯罪をしているような気分になる。というか、普通に男の姿の僕が見に来てきていたら、そういう目で見られたかもしれない。
「う、うーん……どれもなんか、ひらひらしてるね」
フリルが付いているものやら、袖口が異常に広いTシャツとか、くるぶしまで丈が続かない中途半端なパンツとか。
「う、うわ、スケスケ!? こ、こんなの誰が……」
「あれだろ。シースルーワンピっての。重ね着で着るヤツだよ。お前が想像してるようないかがわしい着方じゃないぞ。むっつり」
むっつりじゃないし! というか、よくそんなことを知っていたな。僕なんか、こういう服自体を初めて見るのに。
「何でそんなに詳しいの……」
「言ったろ、意外とファッションとか気にしてんだよ」
ぐぐぐ……アキはそこそこ身長がある上に、ボルダリングで筋肉が鍛えられているので、シンプルな服装でもそれなりに見られるまとまりになっている。
店内にぽつぽつと置かれている姿見を覗いてみれば、今の僕は彼氏の服を着てはしゃいでいる小柄な女の子にしか見えない。
「じゃあアキはどんなのがいいの?」
「そうだな。これとかは?」
「うえぇ!? す、スカートじゃん!」
彼が指差したのは、膝丈よりも短いオレンジのスカートだった。
こ、こんなの履けるか! ちょっと風が吹いたら中が見えるかもしれないだろ!
「最初はマネキンを参考にしてみるのもいいぞ。ああいうのはどうだ?」
アキが次に提案してきたのは、店の入り口側に展示された、膝丈の黒いスカートと、深緑の長袖ボタンシャツが組み合わさったマネキンだった。
「えぇー……これもスカートだし。っていうか夏でもこんなに着るの……?」
何だか暑そうだ。それにこんなフェミニンな服装、僕には似合わないだろ。
「文句の多いヤツだな……いいから試着してこい! とりあえずこれと、あれな!」
「え、えぇ〜……?」
彼は自分で選んだ服と、先ほど指差したマネキンの服を持ってきて、ついでに店員さんも呼んできた。
「すいません、試着室借りられますか?」
「はい! 奥のフィッティングスペースをご利用ください! ご案内しますね」
女性の店員の案内に従って、四つほど試着室が並ぶ廊下のような場所に着くと、アキは服と一緒に僕を試着室に放り込んでしまった。
「着替えたら呼べよー」
「ど、どっか行かないでよ? 前で待っててね!」
「いるいる。何なら一緒に入るか?」
「着替え見たいだけだろ! いいよもう!」
「悪いって」
カーテンではなく扉式の試着室だ。中から鍵がかかるので、なんとなく安心感があるが、途端に一人きりになってしまったみたいな気分になって落ち着かない。
「うわ。み、短い。アキ、こういうのが趣味なのー!?」
アキに渡されたコーデの一つは、太ももまで見えるデニムのショートパンツと、ワインレッドのサッカーユニフォーム風シャツだった。
「そうだー! 見たいから着ろー!」
「清々しいな……」
男のスクール水着くらい短いぞ。こんなの履いて外を歩くのか……?
反対にシャツは大きすぎて、短いズボンの半ばまでを上から隠してしまっている。ほぼワンピースだ。
と、とにかく一度は着てみるか。折角アキが選んでくれた訳だし。こんなの僕には似合わない気がするけど。
僕はさっさと着替えて、おそるおそる扉を開けた。
「あ、アキ、どう?」
自分で言っといてあれだけど、どうって何だよ。流れで聞いてしまったが、彼氏と服を買いに来た女の子じゃないんだぞ。
「エッッッロ」
「最悪だっ」
聞く相手を間違えた。なんとかして僕を辱めようという顔にしか見えない。
「顔が真っ赤なのも余計にエロいぞ!」
「他に言うことないのかよっ!」
彼は舐めるように上から僕を見下ろすと、それから突如しゃがんで、僕の太ももを間近に迫って確認してきた。
友達のこんな姿、僕のほうが情けない気分になるから、本当にやめてほしい。
「もっとちゃんとした感想ないの?」
「ケツと太ももがムチムチで最高。触っていい?」
「あのさ」
「悪かったって。いい感じだぞ。少なくともジャージよりはずっとマシだな」
うるさいな。他のズボンはブカブカで、それくらいしか履けるものがなかったんだよ。
「で、でもこれ、下が……」
夏でも長ズボンの(ボトムスとかパンツなんて洒落た言い方もできない)陰キャには、この丈の短さは恐怖でしかない。足の9割が見えているじゃないか。
僕らの世代から二回りくらい昔に、腰を振る芸で一世を風靡したとかいう、あのハードな芸人みたいになっていやしないだろうか。
「いいんだよ。ドエロいから」
「それはアキの趣味だろ! てか着てるのは僕だぞ!? いいのかそれで!」
「今のお前はどっからどう見ても美少女だ」
外形が女だったら何でもいいのかよ……? 生まれてから彼女いない年数を更新しすぎておかしくなったのか?
いや、いい。とにかく着替えよう。これは買わない。
「人前で着れるか……!」
ちゃんと足を入れる場所が二股に分かれているとはいえ、短いにもほどがある。アキに見られるだけでも顔から火が出そうなんだ。
僕は扉を閉めて、もう片方のコーデに手を伸ばした。
こっちもこっちで大概だな……深緑のボタンシャツは、ウエストの女性的なくびれ方にさえ目を瞑れば、男でも着ている人がいそうな部類だ。
ただ、スカートか……膝丈より少し下までは布があるとはいえ、これ、風呂上がりにバスタオルを腰に巻くのと何が違うんだ?
「や、やっぱり落ち着かない……」
慣れないながらもなんとか着替えてから、ニーソックスを履く。こんなに長い靴下を履くのは、中学生の時分にサッカーをやっていた頃まで遡る。
「う、うわ……めちゃくちゃ美少女」
って、何を言っているんだ僕は……我ながらナルシズム全開だが、姿見の中の僕は確かに、マンガに出てきそうな美少女だった。
「で、でも、ホントに大丈夫かな」
アキは何と言うだろうか。自分で着せておいて似合わないとか、変だとか言いやがったら、絶対許さない。
さっきよりも手が震えている自覚がありながらも、あえて堂々と扉を開けた。
も、もうこうなったら、好きなだけ見ろ!
「お、おぉ……!」
今のはアキの感嘆の声。もしかして似合ってる?
「とってもお似合いですよ!」
「え!?」
突然店のほうから戻ってきた店員さんが、目を輝かせながら両手を顔の前で組んだ。
「シンプルで上品な雰囲気がよく出ておりますよ! とってもかわいらしいです!」
「は、はぁ……」
他の服を着た時にも同じ文言を使い回せそうな褒め言葉だが、店員さんの目は光り輝いている。
「かわいいぞ!」
「か、かわいいっ!?」
ドキ……!?
ど、ドキってなんだ!!
店員さんにかわいいと言われてもピンとこないのに、アキに言われると、頭の上に疑問符が沢山飛び回る。
「そ、そうかな……?」
「めっちゃいい! ウエストが締まってる分胸のデカさが目立っててエロいねッ!」
「結局それかよッ!」
真面目に受け答えして損した。こいつの脳内はそればかりなのか。というか、よく店員さんの前でそんなこと言えるな。
「あ、あはは……仲がよろしいですね」
ほら見ろ、すごい引いてるぞ。そういうプレイをしてる迷惑カップルだと思っていそうな目だ。
「てか、さっきは目のやり場がどうとか言ってたくせに」
「違うんだよ。ちゃんと女子の格好を自覚して、それを恥ずかしがってるのがエロいんだよ」
「中身は僕なんだぞ……」
オープンスケベめ。あるいはこの男、僕相手なら何を言ってもいいとでも思っているのだろうか? 思っていそうだな。
女扱いをするなとは言ったが、それは別にセクハラしていいという意味ではないんだけれど。
まぁ確かに、鏡で見る分には、どうやら僕の好みが反映されたみたいな美少女だったし、こういうのが似合うのかな……。
Mission cleared!
「うわびっくりした!」
「ふ、フミ? どうした?」
「あっ、ご、ごめん。何でもない」
突然頭の中に響いた、パンパカパーンみたいな、おめでたい音に驚いて、思わず声をあげてしまった。
今のはミッションを達成したから流れたのか。ということは、アキも今日、実は人助けをしている最中にこの音を聞いたのだろうか。よくびっくりせずにいられたな。
僕は背中を向けてアキと店員さんに見られないようにしながら、ミッションを確認する目的で例のスクリーンを開いた。
ランク2
・異性にかわいいと言われる Success!
「…………」
まるで人の恋路を応援したがるおせっかいな誰かの祝福みたいで、非常に決まりが悪い。
大体、相手はアキだぞ。敷島秋生だぞ。
高校生活初日にエロ本持ち込みがバレて、女子の9割に必要時以外無視されているあのアキだぞ。
なんでこいつに少し容姿を褒められた程度(しかもセクハラまでされてる)で、心の均衡を失わなければならないというのか。
「う、うぅ……」
「何だよ」
「何でもない!」
アキにかわいいって言われた時、もしかして僕、ちょっとだけ嬉しかったとか……い、いやいや……そんな訳ない!
確かに、入浴中に意図せず覗いてしまった鏡には、アキの持っていたグラビア写真集のどの被写体より端正な美少女が映っていた。
けど、それを言われて嬉しいかと言えば違う。違うはずだ。それも男に!
万が一嬉しいと思ったとして、それは彼と僕の趣味が一致していることに対する喜びであり、つまり、同好の士を見つけた感覚だ。それ以外あり得ない。
「このまま着ていくので、タグ切ってもらえますか? あと、これもお願いします」
「返品は不可能となりますが、よろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
たまに聞く「そのまま着ていく」とかってのは漫画的表現じゃないのか?
アキは慣れた雰囲気でそんなことを言っているが、実は店にすごい迷惑な行為だけど、店側はニーズを考えて断れないとかではなく?
「ほら、一回脱いでこい。切りにくいから」
「えっ? わ、わっ……」
アキに押されて、また試着室に突っ込まれた僕は、慌てて着ていた服を脱ぎ、少しだけ開けた扉の隙間から商品を出した。
「では少々お待ちください。すぐにお持ちしますね!」
店員さんは本当に着ている服のタグを全部切ってしまうと、アキが選んだ服と共に、タグを持ってさっさと会計に行ってしまった。
「彼女さんにプレゼントですかー? 羨ましいです」
「えぇ、まぁ、へへ。実はそうっす」
小さくて聞きにくいが、なんかロクでもない会話が聞こえてきた。というかアキのヤツも否定しろよ!
それにしても、どうやら本当によくあることのようだ。1分も待っていると、試着室の扉をノックする音が聞こえてきた。
少しだけ扉を開けて外を覗いてみると、さっさと会計を済ませたらしいアキが、先ほどの緑のシャツとスカートを持っていた。
「ほら、着てくれよ。折角だしさ」
「ちょっと待って。着替えたらお金を……」
「いいよ。新しい服買えって言ったのはオレだしな」
「あ、ありがとう……?」
Mission cleared!
ランク3
・異性からプレゼントをもらう Success!
「…………」
頭の中でクリア通知が鳴る度に、第三者に様子を盗み見されているかのようで嫌な気持ちになる。
同時に何をやっているんだという気分にもさせられる。これじゃ本当に、デートで連れ回される女の子みたいじゃないか。
「こ、これを着て歩くのか……」
試着室でアキ相手に見せびらかす程度ならまだしも、人前をこんな格好で歩くのは、心情に多大な防備を要する。
「さっきのダサいジャージより恥ずかしくねーよ。むしろずっとそういうの着てろ」
簡単に言って……! じゃあ自分も女装して歩いてみろ! どれだけ小っ恥ずかしいことか……!
「絶対変じゃない。反対から歩いてくる男全員振り向くぞ」
「それって変ってことじゃ……」
「そんだけかわいいってこと!」
…………まぁ、アキがそこまで言うのなら、騙されてやってもいいか。
これでもし、やっぱり全然似合っていなかったとかだったりしたら、それはこいつの責任だ。
それから僕らは、特に目的地も定めないまま、ショッピングモールの中をそぞろに歩き回った。
「いやー、流石オレ。さっきから男共が羨ましそうにこっち見てくるわ。服選び正解だったな」
「まぁ……確かに、見られてるけど……」
この視線の全てが僕の容姿に惹かれているからだとは到底思えないが、確かに見られている。
主に胸の辺りを。あと臀部。
「服が似合ってるというか……」
「まーまー。つか、どっちにしろさっきの意味分からん格好よりは絶対いいぞ」
服自体には、少しは慣れ始めてきた。
歩き始めこそ、股の間に布が当たらない感覚が心許なかった。人前ですごいことをしている気分が絶えなかった。
そのために何度も足を止めてしまったが、流石に1時間も歩いていると、抵抗感は未だ拭えないものの、気分は落ち着いてくる。
「二着じゃ着回せねーし、もう何着か見ていこう。それから、あとは小物だな。靴とか、帽子とか」
アキは慣れきった足で迷いなくモール内の店を行き来して、僕を連れ回した。
「ローファー? 通学用でもないのに?」
「上が綺麗めに纏まってるのに、靴がそんなビーサンじゃ意味ないだろ」
とか、
「なんでリボンなの。コンビニでヘアゴム売ってるじゃん」
「真っ黒なヤツがな。こっちのほうがかわいいだろ。ほら、フミには緑が似合うぞ」
みたいな感じで。
「初めて知った……アキって結構ファッションとか好きなんだね。おしゃれボーイだ」
アキに渡された緑のリボンで、後頭部の中途半端に長い髪をまとめながら、僕は彼の腕をつついた。
「健全な高校生の範疇だろ。それに、オレって意外と自分色に染めたいタイプなんだよね」
「何じゃそりゃ」
確かに、今の僕は上から下までアキの選択したアイテムを着用している。靴や靴下までもが彼の選択した品物だ。アキの色に染まっていると言えなくもない。
この勢いで下着まで何か言ってくるかと思いきや、流石にそこまではいかなかった。
アキのセンスにぐうの音も出なくなっている今の僕なら、あるいは彼に言われるままに下着までそれにしてしまうかもしれない。
「つか、髪結ぶの下手くそだな……」
「う、うるさいな! 慣れてるほうがおかしいだろ!」
「ほら、そこのベンチ座れよ。いい感じにしてやる」
「あ、ありがと……」
そういうと、アキは僕の髪を手ぐしで優しくほぐすと、強く引っ張らずに丁寧にリボンを巻きつけた。
「よし、これでいいだろ。確認してみ」
内カメで見た僕の黒髪は、高めの位置でポニーテールにされていた。
「お、おお……」
うなじに届くか届かないくらいの短いポニーテールは、真面目な風にも溌剌な風にも印象付ける。
「似合ってる。かわいいぞ」
「…………うん」
こういうことばかりは小器用にこなすものだ。だったら部屋の片付けも自炊も、ちゃんとやればいいのに。
「ふぅー……粗方見たいものは見たか」
「そうだね」
僕の新しいスポーツウェアを見たり、一階のスーパーで食材を買い足してから、僕らは横抜けの通路にあるベンチに腰を休めていた。
何度か頭の中でクリア通知が響いたので、コインがもらえるかもしれない。とりあえず確認してみるか。
ランク3
・(r)異性に手料理を振るまう Success!
・異性からプレゼントをもらう Success!
・(r)異性と手をつなぐ
・異性に髪を触らせる
・異性とデートをする
・unknown
etc…
新たに「手をつなぐ」「デートをする」などの項目が浮上してきたものの、隣に達成マークは付いていない。
今日のことはデートに含めてくれないのか。ちゃんと約束して、お互いにそうだと自覚しないといけないということだろうか。
「あ、最後にさ、あれやってかねーか?」
アキが指差したのは、ゲームコーナーの壁際に数台設置されたプリクラの機械だった。ピンク色の布やらチラシが貼られた、過度にガーリーな四角い写真機。
「プリクラって男だけだと入れないでしょ」
男だけでプリクラを使えないというのは、身をもって知ったことでもある。
一年前の話だ。アキは覚えているだろうか。高校一年生の春。あのアパートに入居したばかりの頃。
『フーミーくーんー! いーまーすーかー!!』
親睦を深めようなんて言って、いきなり僕の部屋の扉をノックした彼は、出てきた僕を引っ張って、そのままゲームセンターに連れ出した。
『え、えぇ!? ぷ、プリクラって……! 男二人で撮るもんじゃないでしょ!』
『う、うるせぇ! ここまできたらやるしかないんだよ! 腹決めろ!』
男二人だっていうのに、変なテンションになっていた彼は、年上の女子高生が何人かたむろしていたプリクラエリアに突っ込んだ。嫌がる僕を引っ張って。
その勢いで、二人して白い目を向けられながら、ヤケになって金額分キッチリ撮影した。誰が喜ぶのか分からない男二人のプリを。
「今のフミは女なんだから、いいだろ」
「あ、そ、そっか……」
その時に知ったことだが、盗撮だか猥せつな利用方法だかが問題になって、近年は男性客のみでプリクラを利用することはできないらしい。
男だけでプリクラコーナーに進入したことを、女子高生の一団の誰かが店員に言ったのだろう。プリ機を出た僕らは、苦い顔をした店員に訥々と説教をされた。
ただ、アキの指摘で思い出したが、今の僕は女ということになっているのだった。プリなんて別に興味もない僕の心情はとにかく、撮影コーナーの進入が、別に悪いことではなくなったのは確かだ。
「リベンジしようぜ! 今度こそいい感じにさ」
と、撮るのか……? アキと、プリクラを。
女の姿で……?
「じゃ、じゃあ、撮ってみる……?」
「お、おう……いっ、いや、お前、顔を赤くするな! べっ、別に普通だろ! 友達同士でプリクラ撮るくらいのことはさぁ!」
「あ、赤くなってない!」
「なってるじゃねーかっ! そっ、そんなに意識することじゃねーって別にさぁ!」
ち、違うっ! アキが「フミは女なんだから」などと言うものだから、途端に気恥ずかしくなってしまったんだ……!
いや、多分これもいずれかのランクのミッション欄に隠されているだろう。ミッションのためだ。ミッションのため。そう思えば、この奇妙な気分も、少しはマシになる……。
「よし、行くぞ……! いいよな、フミ!」
「気合い入ってるね……」
鬼気迫る表情でプリ機に近付くアキであったが、近くにいる女子高生らしき集団の目は、幸いそこまでこちらに向いていない。
というのはやはり、僕が隣にいるからであろうか。彼女らには僕らが〝そういう〟関係に見えているのかもしれない。そう思うと、余計に赤面が抑えられなかった。
「よ、よし、入るぞ」
「その前にお金」
「あ、あぁ。そうか。そうだな」
テンパリ気味のアキと折半して600円を入れると、外側のモニターに撮影人数の指定画面が映し出された。
「おっ、おい。見ろよ。二人のとこ、ふりがなでカップルって書いてあるぞ……」
「ふ、二人用! 二人用なだけだから!」
余計なところに気が付くんじゃないっ! 別に女の子同士で撮影することだってあるはずだ。
これ以上女子高生達のカップルを見つめるような生温い視線に晒されたくなかった僕は、さっさと機械の中にアキを押し込んだ。
「ん? このボタンか……? あれ!? こっからどうするんだっけ!?」
「ちょ、始まる! アキ! もうカウントダウン始まってる!」
二人して段取り悪く、プリ機の中でてんやわんやしながら、僕達はなんとか5回ほどのシャッター音を乗り切った。
お互いの顔写真に変顔やら猫耳の落書きをいっぱい書いて、どこに出しても恥ずかしい大はしゃぎのプリを印刷した。
「あはは……ちょっとやりすぎたかな」
機械の前で待っていると、驚いた顔で撮影に失敗した僕らや、指を閉じて猫のポーズをした僕らの写真が出てきた。浮かれている。
「でも、意外と楽しかっただろ?」
「1枚目失敗しちゃったけどね」
シールを一枚アキに渡して、手元に残ったもう一枚を眺めてみた。
ナルシストみたいなことを言うが、写真に映る僕らしき女の子はすごくかわいい。
特にメイク加工はしていないのに、誰にでも自慢できそうな工合に目鼻立ちが整っている。
それが、アキの隣で輝くような屈託ない笑顔を浮かべているのだから、面白い写真だ。彼の隣にいる時の僕は、いつもこんなに楽しそうな顔をしているのだろうか。
「携帯のカバーの中にでも入れておこうかな」
この写真は、男に戻ったらどうなるのだろうか。女の子のままなのか、あるいは男に戻っていて、余計に恥ずかしい写真にでもなっているのか。
どちらでもいい。どちらにせよ、たまに見て思い出し笑いができそうなくらい、二人とも楽しげな写真だった。
「オレもそうしよ。無くしそうだし」
アキが自分の携帯のカバーを開けた時、彼の携帯の裏側から、一枚のシールのようなものがすり抜けて落ちてきた。
「あ、やべっ……」
アキが拾う前に、反射的に拾ってしまったそれは、僕にも見覚えがあるものだった。
「これ……!」
あの時の、一年前に撮ったプリクラだ。これも僕だけ女になっているが、間違いない。
二人で着慣れない制服で、気まずい笑顔を浮かべたままカメラに向かってピースする写真。そんなに仲良くもなかったのに、お互いに意地を張って、引けなくなっている。
高校生活が始まってから初めて撮影したものだ。実は僕の部屋にも、同じものを保管してある。大切にファイリングして。
「ははは……こっ恥ずかしいから隠してたんだけどさ」
あの時のことをちゃんと覚えているのは、僕だけだと思っていた。だってあんな恥ずかしい話、普通なら忘れたいじゃないか。
でも、僕にとっては高校が始まってから初めての友達で、それから今日までずっと仲良くしていたから、やっぱりいい思い出だ。
アキもそう思ってくれていたのか?
「そっか……」
そこに映る僕らは、今撮ったプリクラほどいい笑顔ではない。どちらも引きつっていて、緊張か恥ずかしさからか、無理をしているようにも見える。
「ど、どした? それ、恥ずいから、もう返してくれよ……」
アキに言われて気が付いたが、僕は思わず胸の前で、そのシールを両手で抱きしめていた。
「あっ、ご、ごめん」
「いいけどよ、別に……」
お、おかしい。なんだ、今の、本当の女の子みたいな仕草は……! 僕は何をしているんだ……。
「な、何でもない! 帰ろっか」
さっきは「無くしそうだし」なんて言っていたくせに、アキの顔は真っ赤だった。僕もしばらく鏡を見たりできそうにない。
自分の顔色を自覚してしまったら、余計悪化しそうだから。
ランク3
・異性と二人でプリクラを撮る Success!
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