ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 ご覧になっていただきありがとうございます。よろしければお気に入り、評価、感想などいただけると幸いです。

※あとがきには上記に代わっておまけが記載してあります。




その5 ガチャ運、なし!w

 

「よし、引くぞ、引く、引くぞ……!」

「早く引けよ」

「念じてるんだよ! 目当てのものが来るように、僕の念を込めてるの」

 

 アレさえ引いてしまえば、この奇妙な生活からもおさらばなんだ。気合いも入るというもの。

 僕達は共にレベル11となって、5の倍数でもらえる1枚、10の倍数でもらえる2枚を合わせ、現在手元には6つのコインがある。

 

 チャンスは6回。各景品の排出確率は分からないが、トランスチェンジャーは一番レアリティが高い「☆5」だ。

 確率的には一番低いものであり、何で初回からあんなものが出てきたのか分からないが……とにかく、冷静に考えると期待薄。

 

 けど、これは僕に取って死活問題だ。今後の身体に関わる。ここは気合いで引きに行く。

 

「来いっ……!!」

 

 指の腹で押すようにしてコインを入れ、ボックスの前に表示されたディスプレイを指でタップした。

 

「こいこいこーいっ…!!」

 

 

 

 今回の結果は以下のとおり。

 

 

《☆2 マウスキー》

・先端を口に含んで回すと、もう一度含んで逆に回すまで、声が出なくなる。

 

「うわ……」

 

 また犯罪に使えそうなものが出てきた。これを無理やり口に入れられ、回されたら、助けを呼べなくなるということではないか。

 

「なぁ、ちょっとやってみろよ」

「絶対嫌だ!!」

 

 ニヤニヤするな、気持ち悪い。どうせまたエロいことでも考えているんだろ。僕は絶対にやらないからな。

 

 

《☆1 行列代理券》

・行列から外れる際、これを切って前後どちらかの人物に渡しておくと、一度だけ誰にも不自然に思われずに行列に戻れる。5枚組。

 

「これまた……」

「犯罪とも言い難いけど、ちょっとズルいね」

 

 たとえるなら、人の善意につけ込んでいるだけの行為をライフハックとか言ってそうな……というと、特定の誰かに対して人聞きが悪そうだ。

 

「まぁ、使い道があるだけマシだな」

 

 そこには大いに共感する。あの「叫び虫」とかいうヤツは放置したままだし。キモいから近付きたくもないし。

 

 

《☆4 サードアイ(置き型)》 

・置いた場所と視神経が同期し、遠隔でその場を監視できる。継続使用可能期間は3日ほど。水に入れて1週間経つとまた使える。

 

「うわっ! 何それ怖い怖い怖い!!」

 

 がっ、眼球だ! しかも血走ってて、表面が濡れてるし、というかまるで、たった今、人間から取り出しましたみたいな……!

 

「おぉ……? おぉ!! すげーぞ! 本当に見える! ははっ! そっぽ向いてもフミが見えるぞ!」

「ちょちょちょっ! 近付けないでそれ! キモいって!」

 

 動いてる……! まるでそれ単体で生きているかのように、アキの手の上でギョロギョロと蠢いていて、非常に気持ち悪い……。

 気のせいかもしれないけど、僕の胸元ばかり見ている気がする。もしかしてこれアキの視線なのか?

 

「ていうかこれ……盗撮みたいもんじゃん……! 更衣室に置くとかしたら絶対ダメだよ。突き出すからね、警察に」

「信用ねーな……」

 

 この3日ほどで何度僕にセクハラしたのか、自分で覚えていないのか。君が犯罪者にならないように言ってあげているんだぞ。

 

「ま、いいけど。フミの風呂に置くから」

「バカ。もっとダメだよ」

 

 絶対やめろ。そんなものがお風呂場にあったら毎日悲鳴をあげることになる。

 

「ほら、湿ったところで保管しろって書いてあるだろ。浴室なんかピッタリだ」

「自分のお風呂に置けばいいじゃんっ!」

 

 本当の目的は覗きだろ。僕の裸なんて見てどうするつもりだ。体が女なら何でもいいのかこのエロ魔人は。

 

「頼む!! じゃあもう直接見せてくれ!」

「アホか!!」

 

 

 …………というような感じで、以上の3点が新規に引いたアイテム。

 残りは例のマッチとか、ステッカーとか、見たことのあるものだけだった。

 

「はぁ……全然出ない……」

 

 結局、アキが悪だくみに使えそうな品目が増えただけだった。

 特にあの「サードアイ(置き型)」とかいうヤツには気をつけよう。彼の口ぶりだと、僕の部屋とか浴室とかに、いつの間にか勝手に仕掛けていても全然おかしくない。

 

「今回もスカだったな」

「ホントにどうしよ……」

 

 学校が始まったら、確実に今よりもミッションをこなすペースは落ちる。それに、体育とか、女子トイレとか、色々マズいことが目白押しだ。

 何なら来年までいったら身体測定も女子側で受けさせられることになる。それだけは絶対に回避しなければならない。

 

「オレは別にいいぞ。エロいこと頼み放題だし」

「僕がよくないんだよ!」

「エロいこと頼み放題のほうはいいんだ」

「いい訳あるか!」

 

 はぁ……もう今日はダメだ。課題やろ。まだ全然減ってないし、課題が終わらずに補習なんてことになったら、それこそミッションがこなせなくなる。

 

 

 

 夏の間だけだが、僕らはエアコン代を浮かせるために、互いの部屋に交代で入り浸っている。

 

「アキー……何ページ進んだぁー……?」

「半分くらい」

 

 夏休みの課題もたんまりあるので、同時にお互いの得意科目を教え合えて一挙両得、という寸法だ。

 今日はアキの部屋に順番で、今現在は彼に数学を教えてもらっているところだった。

 

「えぇ、と。この場合の一般項は……」

「一旦分解するんだよ。二乗の和を抜き出しておいてさ」

 

 シグマ記号がうざったい漸化式に四苦八苦しながら、時折アキのアドバイスを受け、じわじわとページを進めていく。

 

「はぁ〜……終わらない」

「あと何ページ残ってる?」

「340くらい……」

 

 夏休みもまだ一週間が経つ程度の頃だが、他にも課題が残っているのに、あまりいいペースとは思えない。

 アキと科目を分担して、あとで成果を写し合うでもいいが、どうせ夏休み明けには成果確認テストを受けさせられるので、少しは自分の手で解いておきたいところだ。

 

「一回休憩にするか。腹減ったよオレ」

 

 短針は午前11時、長針は40分を指している。お昼時だ。

 そう言えば朝から何も食べていなかった。ガチャのことばかりが気になって、それどころではなかったから。

 

「フミも食うか? カップ麺」

「〝それ〟ばっかりだと体に悪いよ」

 

 部屋の片隅に縦積みされた、大盛りサイズのカップ焼きそばがアキの主食だ。

 管理する人がいないと、どんどん不摂生に向かう性質の彼は、味の濃い辛子マヨネーズ入りのカップ焼きそばを常食している。

 

 やっぱり心配だ。特にアキは着痩せしているが筋肉質だし、ちゃんとしたエネルギーがいるのではないだろうか。

 

「なんか作ってあげる。そんなに凝ったものじゃないけど」

「おぉー! 頼む! 肉にしてくれ、肉」

 

 お節介であるとは自覚していながら、彼の食生活を看過できなかった僕は、一年ほど前から、たまに料理を作って食べさせることにしている。

 最初は無理やり押し付けるようだったが、おそるおそるという雰囲気で椀を取ったアキの箸は、みるみるうちにペースをあげていった。彼の旺盛な食欲は、作る側としては見ていて非常に気持ちがいいので、ついつい作りすぎてしまう。

 

「冷蔵庫開けていい?」

「いーぞー」

 

 もちろん了解は取ってだが、週に一度は彼の冷蔵庫の中身を確認している。

 というのも、目を離すと、すぐに上から下まで揚げ物惣菜や冷凍食品で埋め尽くしてしまうので、気が抜けない。

 

「卵と牛乳しかないじゃん」

「あー。あと納豆もあるぞ」

「期限切れてるよこれ」

「やべ」

 

 スカスカの酷い有様だった。奥には無味の炭酸水が4本並んでいるだけで、調味料の類も醤油しかない。

 続けて台所上の調理棚を覗いてみるが、空の透明プラ箱が二つ並んでいるだけで、そこにあるべき調味料は一つもない。使いかけのコショウ瓶が、寂しそうな背中を奥で縮こませていた。

 

「ちょっと待ってて。僕の部屋から取ってくる」

 

 流石に砂糖と塩くらいは買い足しておけばいいのに。いくらでも使い道があるだろう。

 

 

 

「鶏もものホイル焼き? ホイル焼きってシャケ以外にもあったんだ」

「さっき思い付いた」

「ヘーキなのか、それ……」

 

 食べてみれば分かる。普通に作れば、大抵のものはそんなに変なことにはならないはずだ。

 というか、今まで散々僕の作ったものを食べてきて、今更味の信用がどうとか言い出すつもりか。

 

「まーいいや。いただきまーす」

 

 ホイルを開くと一気に湯気があふれ、ポン酢の香りが広がった。部屋がエアコンで冷えているので、白い蒸気がよく見える。

 

「おー、うま」

「へへ、でしょ」

 

 余っていたニンジンとエノキを使い切りたい目的のガサツな料理だったが、意外と悪くない。鮭の部分が鶏肉に変わっただけなので、そうそう不味いことにはならないとは思っていたけれど。

 正直半分は思い付きの実験であったので、やっぱりおいしいかどうかは半信半疑で作ったということは、アキには黙っておこう。

 

「なんか、少なくね? お前の分」

「まーね」

「お前まさか、心もガッツリ女になって、体型とか気にするようになったか!」

「違うっつの。単にこれでお腹いっぱいなんだよ」

 

 男だった頃に比べて、半分くらいの量で満足できるようになっている。油物も男の時ほど喜べない。

 性別の変容に際して食も細くなってしまったようで、今なら定食屋とかで一品物を小皿に分ける女性や気持ちも分かる。分かるだけでやらないけど。

 

「ところでさ、女子の手料理に含めていいかな、これ」

「急に何」

 

 箸で持ち上げた鶏肉をまじまじと見ながら、アキは含みありげに目を細めた。

 

「だってよ、ほら、学校の奴らに自慢できるぞ。オレは部屋に女の子あげて、手料理作ってもらったことあるんだぜぇ〜、ってよ」

 

 元男だと分かっている相手の手料理で何を言うものかと思えば、何だか情けないことを言い出した。

 

「あー、てか、おっぱい揉ませてもらったとも言えるのか。そっちのほうが自慢になりそうだな」

「〝揉ませた〟んじゃなくて〝揉まれた〟んだけどね」

 

 というか、僕が男に戻った時、その辺りの自慢話の整合性はどうするつもりなのだろうか。その時になって、まさか僕相手でしたなどと知られたら、軽蔑を越して哀れまれそうだ。

 

「ま、いいんじゃない」

 

 僕に見えているミッション欄によればこの通り。

 

 

ランク3

・(r)異性に手料理を振るまう Success!

 

 

 つまりこの得体の知れないガチャからすれば、アキにとって僕は異性だ。であれば、僕が作った料理も、異性から振るまわれた料理だと捉えて然るべきだ。

 

 ……なんて意識すると、ちょっと恥ずかしいような。もしかして僕は今、通い妻のようなことをしてはいないだろうか。

 

「で、どうするよ。この先」

 

 アキは箸を置いて、麦茶を飲みながら僕に薄い主語でそう訊ねた。

 

「何が?」

「ガチャのためにミッションをこなすことに異論はねーよ? 他でもないフミのためだし、変なもの出てきておもろいしな」

「じゃあ何さ、この先って」

 

 この先も人助けやら、アキに気付かれないように異性関連のミッションを消化して、コインを集めるだけだ。

 

「ほら、意外とコインもらえねーじゃん。今のペースだとさ、目当てのブツはもちろん、最高レアも引けずに学校始まるとか、あり得そうだろ?」

 

 そ、そうだ。今だって一刻も早くミッションをこなして、レベルを上げないとダメなんだ。

 どうやらランクの高いミッションほど、獲得経験値が多いようだ。同時に内容もより恥ずかしいものになるが……。

 

 例えば、

 

Extra!

・(r)クリア済みミッションをもう一度クリアする(0/3)※獲得経験値は半減

 

 こういうの。

 

 ミッション内容の隣に(r)と表示されたミッションは、1日に3つ限定でリトライが可能らしい。

 そして、ランクが高いものほど、獲得経験値は上昇する……。

 

 僕がクリアした中で、ランクが高く、かつ何度でもこなせるミッションと言えば……?

 

 

ランク4

・(r)異性に服越しに胸を触らせる Success!

 

 

「………………」

 

 あ、アキにわざと胸を触らせろというのか!?

 

 触らせるか……だって、ランク4ということは、それだけ経験値も……。

 

「フミ? フミー? おーい」

「えっ!? あ、な、何?」

「急にボーっとして、どうかしたか?」

「ぜ、全然!? 何にも!? 全くいつもと同じだけど!?」

「そ、そうか……ならいいけどさ」

 

 

 いややっぱ無理! 無理無理無理!! そんな恥ずかしいことできる訳がない!

 

 だ、だって、アキに何て言ってむ、胸を揉ませるんだ……!?

 

『ねぇ、アキ……僕のおっぱい、揉んで?』

それは同意ということだなッ!?

 

 男の時すら腕相撲で一度も勝てた試しがないのに、今の僕が暴走したアキを跳ね除けられる訳がない。

 

 あっという間に下着も全部剥かれて、馬乗りで無理やり押さえ付けられ、いくら嫌だと言っても聞いてもらえず、そのまま…………。

 

「…………」

 

 背中に冷たいものが走った。やめやめ。この路線はナシだ。どうやって伝えても、男に戻れなくなるようなことをされる予感がある。

 

 というか、無理にこのミッションをこなす必要はないんだ。

 確かに獲得経験値量は減るかもしれないが、別に下のランクだっていい訳だし、そもそも、まだ成功していないミッションなら、経験値が半減することもない。

 

「あ、そ、そうだ。これから僕が君のお昼も作るから!」

 

 そうだよ。ランク3の異性に手料理をふるまうなんて、僕の得意分野だし、不用意な身体接触もないし、完璧じゃないか。

 

「急にどうした」

「だ、だって! アキ、放っとくとカップ麺ばっかりだし……!」

「作ってくれるんなら嬉しいけどよ……大変じゃねーの? オレ結構食うし……」

「全然! ほら、料理好きだし、その、僕が男に戻る手伝いをしてくれるお礼……っていうことで、どう?」

 

 勢いで言ってしまった。余計なお節介かもしれないというのに。

 

「じゃあ、今からスーパー行かないか? 折角なら夕飯も作ってくれよ」

「う、うん……!」

 

 アキはそう言うと、茶碗に残ったご飯を一気に食べ進め、食器を持って立ち上がった。

 

 

 

 先日二人で一緒に買いに行った服のうちの一着に着替え、扉の前で待っていたアキと合流した。

 

「い、一応着たけど、どう……?」

「似合ってるぞ。めちゃくちゃ美少女」

「複雑だ……」

 

 アキは、僕が着ている緑のボタンシャツと黒いスカートを、下から上にかけてじっくりと眺めると、腕を組んで満足そうに頷いた。

 

「これ、結構……恥ずかしいんだよ」

 

 今の僕は体だけじゃない、下着もその上も全部女モノの、全身女装人間だ。

 肉体は女とはいえ、精神的にはいかがわしいことをしている気分になる。

 

「恥ずかしがる必要ねーって。マジでテレビ出れるくらいかわいいから」

「かっ……そ、そうじゃなくて!」

 

 何度聞いてもアキからの「かわいい」に慣れる雰囲気がない。びっくりするからやめてほしい。

 

「スースーするんだよこれ……ぼ、僕、ホントにスカート履いてるよね?」

 

 上下が一体化していることに加えて、足の周りには着ている感覚が全くない。

 ちゃんと着ているにもかかわらず、まるで外でパンツを露出しているような気分になって、非常に落ち着かない。

 

「なんか、ろ、露出狂みたいになってない? 僕、大丈夫?」

「なってねーよ。何を言ってるんだお前は」

「だ、だってさ……」

 

 アキに「着ている感覚がない」とでも言ったら、それこそいいセクハラの材料になってしまう。僕がそう言っても「外で裸になって興奮しているのか?」とか言うヤツだ。こいつは。いや、裸にはなってないけど。

 

「ほら、いいから行こうぜ。すぐそこなんだからさ」

「そ、そうだね」

 

 スーパーは徒歩5分のところにある。少し年季が入っていて、自動ドアがスムーズに開かないが、それだけだ。

 店員さんは普通に愛想がいいし、置いてあるものも鮮度が悪かったり、賞味期限が過ぎていたりなんかしない。いたって平凡な食糧雑貨店。

 

 アキにカート押しを任せて、僕は脳内で献立をあれこれ入れ替えながら、野菜を眺めていた。

 

「玉ねぎと、あと……あ、トマト」

「カレー?」

「そう。カレー。早いね、気が付くの」

 

 どうせ色々使い道はあるから、玉ねぎは1キロで買おう。それから、焼肉のタレも切れてるんだった。カレーに入れると意外といい感じにしてくれるんだよな……。

 

「フミ、ちょっと」

「どうし……あっ」

 

 アキに腕を引かれ、簡単に体を動かされる。不意のことだったからというのもあるが、全然踏ん張りが効かなかった。

 そうやって引っ張られて、ようやく僕は後ろに杖をついた老年の女性がいたことに気がついた。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 僕が邪魔で商品が見えなかったらしい。どうやら僕は周りが見えていなかったようだ。

 

「いいのよ。こちらこそ、お邪魔してごめんないね」

 

 幸い女性の気分を害してはいなかったようで、笑顔で許してくれた。いけない。今度から気を付けないと。

 

「あなたたち、新婚さん? かわいらしいお嫁さんねぇ」

「し、しんこッ……!?」

 

 ち、違ッ! そんなんじゃ……!

 

「あ、そっス。かわいいでしょ?」

 

 アキ!? な、何言ってるんだ!! 僕達は単なる友達であって……!

 

「お幸せにね」

「どーもー」

 

 僕はパクパク口を開閉して、声にならない否定の言葉を噛んだり出し損ねたりするしかなかった。

 

「ア、アキ……!? い、今の!」

「おぉ! なんか今の感じ、企画モノの導入みたいじゃね!? 『新婚爆乳幼妻は旦那様の言いなり!』 みたいな!?」

 

 …………。

 

「はああぁ〜〜…………」

「な、なんだよ。そのデカいため息は」

 

 むしろありがとう。今の最低な発言のおかげで、逆に動揺を忘れ、冷静さを取り戻すことができた。よかった。

 

 こいつは休み時間中に教室で好きなセクシー女優の代表作を語り出して、女子全員にうっすら嫌われている、あのアキだ。

 

「僕相手じゃなかったら捕まってるよ」

「マジで感謝してる。合法的にセクハラできるし」

 

 いっそ清々しいかもしれない。よくも男の頃を知っている友人相手に、性的な悪戯をしかけようと思えるものだ。

 

 

 

「アキ……ごめんね」

 

 スーパーの帰り、話題に困った僕は、言うつもりのないことをつい漏らしてしまった。

 

「何が」

「僕のことにばっか付き合わせてさ……本当だったら夏休み、もっと友達と遊びに行ったり、ボルダリング頑張ったりできたのに」

 

 料理を作ると言い出したのも、本当はミッションのため、というだけではない。僕に付きっきりにさせてしまっている彼に、少しでも何かを返せないかと焦っての思いつきだった。

 そんなこと、彼自身は望んでいないかもしれないのに、勝手に僕の〝お礼〟を押し付けようとしている。

 

「いきなりご飯作るとか言って……押し付けがましいこと……」

 

 本当は彼だって、僕のような女モドキではなく、ちゃんとした男の友達とはしゃぎたかったのではないだろうか。

 治る目処の経たない性別変換に付き合わせて、これ以上彼に負担をかけ、甘えているだけなんて……

 

「だから……もう」

「してるじゃん」

 

 アキは突然、あっけらかんとした表情で頭上に疑問符を浮かべた。

 

「え?」

「今フミが言ったこと全部、フミとしてるだろ」

「そ、そうじゃなくて! だって、今の僕は……」

 

 重いほうの袋を持ってもらって、少しだけ安心してしまうくらい、全てが弱っている。

 力も、心も、以前のように、彼と同じペースで何かを楽しむことはできない。

 

「同情とかで一緒にいるんじゃねーよ」

 

 僕が俯いた瞬間、彼はガシッと僕の頭を掴んで、左右に揺れるくらい強く撫で回してきた。

 

「ちょ、ちょっと!」

「あ、わり。前と比べて撫でやすい位置になったから、つい」

 

 つ、ついって……! ついで子供みたいな扱い方をするな! 同級生だぞ!

 

「オレがフミと遊びたいから、色々連れ回してんの」

「僕と……?」

「そうだよ。去年の夏のこと覚えてねーのか」

 

 去年の夏……といえば、二人でビーチに行った時のことだ。

 

 アキが「逆ナン待ちするぞ!」などと言い出して、思い立った次の日に電車で海に乗り出した。

 海にいる女性はカップルかグループばかりで、イケイケの男に囲まれているので、全然僕らの付け入る隙はなかった。

 それで結局、二人でボソボソの焼きそばを食べて、ヤケクソになって借りたバナナボートで沖ギリギリまで手漕ぎで流れて……。

 

「散々だったね……」

「そこじゃねーよ! つーか逆ナンの話、誰にも言ってないだろうな!」

 

 言ってない。というか、僕も当事者なんだから、言ったら自分が怪我をするだろう。

 

「はぁ……そうじゃなくてさ、前から俺達、二人でよく遊んでただろ! 俺がお前と遊びたいから連れ回してんの!」

 

 ヤケになったみたいな近所迷惑な大声で、アキは僕の両肩を掴んで、ちょっと怒っているみたいに眉をつり上げてそう言った。

 

 僕といたいから…………?

 

「僕と……?」

「変かよ」

 

 アキは自分で言っておいて、少し照れていた。顔を少し赤くして、そっぽを向いたのが、彼が同情やら憐憫でそう言ったのではないことの証明だった。

 

「そっか…………」

 

 男女とかじゃなくて、僕と……。

 

「そ、そーだよ! おい! 顔赤くするな! こっちまで照れるだろーが!」

「えっ、い、いやっ、アキこそ……!」

 

 な、なんか顔が熱い……! すごく照れくさいぞこれ! あ、アキの奴、こんな歯の浮くようなセリフを……!

 

「ね、ねえ、アキ」

 

 僕は絶対真っ赤になっている顔を誤魔化すようにして、そっぽを向きながら話題を変えた。

 

「な、何だよ」

「こっ、今年も海行く?」

 

 唐突な提案に、アキは面食らっていた。

 

「り、リベンジのためにだよ! ほら、今年はナンパとか逆ナンとか抜きで! 普通にさ!」

 

 あくまで、海を悪い思い出のままにしないためだ。ただそれだけ。別に他意はない。

 

「お、おお!? マジ!? 行くか!? いいんだな!? じゃあビキニ着てきてくれ!!」

 

 アキは目の色を変えて僕の両肩を掴んできた。

 

「え、ええ? 水着にはならないつもりだったんだけど……」

 

 男の時ならまだしも、今のまま水着になるのはややこしい。少し水辺を歩く程度にするつもりだったのだけれど。

 

「頼む!! 一生のお願い!!」

 

 アキはその場で土下座する勢いだった。

 

 そこまでして見たいか……? という気持ちの反面、僕も男なので、逆の立場だったら似たようなお願いをしたかもしれないという共感をも覚えた。

 

 それくらいはいいか。普段助けてもらっているのだし、別に水着くらい……。

 

「…………いいよ。その時までに男に戻ってなかったら」

「まっ、マジ!?」

「その代わり、電車賃出して」

 

 なんちゃって。冗談。

 

 売り場で見た女性ものの水着の値段は、その場で思わず声が出るほどだった。

 そんなもんを買うんだから、移動費くらいはおごってくれ! ……というジョーク。

 

「お、おお! 出す出す!! やったぜ!!」

 

 うおっ、お、思ったより本気だぞ……。

 

「いや、冗談だよ。別にいいって」

 

 別に本気でそんなつもりはない。夏休みだし、アキだって出費は嵩むだろうから……。

 

「いいから! 着てくれるんだろ!?」

「ほ、ホントにいいのか?」

「その代わり約束だぞ!」

「う、うん……?」

 

 何というか、所謂男を手玉に取る女、の気持ちが、ほんの少しだけ分かったかもしれない。僕も悪くなってしまったかな……。

 

「つか水着選ぶ時はオレも行く! オレにも選ばせろ! 資料持ってくから」

「それ絶対ヌード写真集だろ!」

 

 約束を撤回したい。アキのペースに呑まれるのはマズそうだ。どんな変態水着を着させられるか分かったもんじゃない。

 

 





セクハラ成分薄めだったのでおまけ


「ただいまー。はー。暑かった……」
「フミ、まだ着替えるな! そこに立ってくれ!」
「ん? 何? いいけど」

 アキは袋を台所の前に置くと、突然フローリングに寝転び、鼻息を荒くして僕の両足の間に顔を滑り込ませた。

「……何してんの?」
「パンツ見てる」
「このっ!! このっ!!」
「ちょ、痛、痛い痛い!! 顔はやめて! 踏まないで!!」
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