ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
あなたのメス堕ちはどこから? 私は胸から!
最近は抵抗感も薄れつつあるスカート(それでも膝丈以上はないと無理)を履いた直後、測ったようにインターホンが鳴った。
「着替え終わったか? 本借りに行くぞ!」
今日は、読書感想文のための本を、図書館に借りに行く予定だ。
僕らの通う自称進は教師陣がまともではないので、書かなければいけない三冊が全て学校指定だ。自由選択はない。
しかも、学校の図書室にその課題図書は精々五冊程度しか予備がないので、予約戦争に負けた僕らのような生徒は、仕方ないので図書館まで行って借りなければならない。
「おぉー。やっぱかわいいな」
「はいはい。どーも」
「リボンも慣れてきたみたいだな」
「そりゃーね。毎日してたら覚えるよ」
「気に入ってくれたか。買った甲斐があるわ」
別に、アキからもらったプレゼントが嬉しくて浮かれている訳ではない。こうしてまとめたほうが首元が涼しいから。それだけ。
特に、今日は電車移動だ。図書館は同じ市内なのに、電車を使わなければいけない。非常に面倒だ。
だから学校で借りるなり予約するなりしたかったのだが……まさか授業をサボって本を先に借りているヤツがいるとは。予約もむこう1ヶ月埋まっている。
…………それにしても。
「ねぇ、さっきから何してんの」
アキはなぜか、前から僕の胸を持ち上げるようにして揉みしだいていた。
「重そうだから、支えてやろうと思って」
人の胸を? 確かに重いけど……お前のそれは親切心ではなく下心だろ。
しかも支えているというよりは掴まれている。がっしりと。アキの骨ばった指が僅かに肉を押し、その形に沈む感覚が、両胸の全体にあった。
「いい匂いするな……シャンプー何?」
「嗅ぐな!」
数日前のあれから、つまり胸を直に揉まれ、挙句あの恥ずかしいミッション欄を知られてから、アキはもはや僕の了解を取ることなく、何でもない時にすら堂々と体に触ってくるようになった。
それも腕や肩だけではなく、胸とか尻とかばっかり。しかも悪い時には、普通に服の中に手を入れてくる。手を入れて、際どいところまで撫で回してくる。
程度の違いこそあれ、前から大体そうだっただろ、と言われると、確かにそうではあるのだが……。
「近いよ……暑いって。というか、胸! もういいでしょ! ミッションも今ので終わったから!」
「もうちょっと」
なんか湿度があるというか、粘度を感じるというか……とにかく前よりさらに距離が近い。少なくともこんな風に、ほぼ抱き付かれるような姿勢ではなかったし、頭の匂いを嗅いできたりもしなかった。
「抵抗しなくなってきたな」
「違う! 調子に乗るな!」
無駄に筋肉も体力もあって、引き剥がすために一々スタミナが浪費されるので、諦めているというだけだ。
「セクハラするなよな……」
確かに僕も男だし、彼の気持ちも分かるところはある。しかし、物事には限度というものがあるだろうが。あるいは親しき仲にも礼儀ありと言ってもいい。
「んんー? オレはフミのミッションを手伝ってやってるだけだけど?」
「なっ……!?」
それを持ち出すか! 絶対触りたいだけの口実のくせに、もっともらしいことを言いやがって!
「だってそうだろ?」
「ちょっ……!」
さほど力を入れている雰囲気はないのに、簡単にアキに抱き寄せられてしまう。そして彼はその手でわざとらしく円を描くようにして、尻を撫でてきた。
「毎日ランクの高いミッションをこなして、レベル上げを手伝ってやろうとしてるだけぞ?」
アキのレベルに比べて、僕のものだけかなり上がってきている。
彼も彼で生来のお人好し加減から、すぐに困っている人を見つけ、助けてはまた見つけるという様子なので、アキのレベルが全く上がっていないという訳ではないが……。
「はぁ〜〜。匂いまでエロいとかもう全身ドスケベ人間じゃん」
「それはアキだろ!!」
こいつ、あれから毎日この調子である。勉強中も料理中も外出中も、お構いなしに僕の体に触ってくる。それで確かにコインが貯まっていることも確かなので、強く抵抗できない。
元からいいようにされてきたのに、さらにセクハラが加速したためか、先日僕のレベルは30を超えた。アキのレベルも20に到達し、僕らの手元には、以前から貯めている分を数えて10枚のコインがある。
あと少し貯めたら、一気に引くつもりだ。なんでも、10連だとちょっとレアアイテムの確率が上がるらしい。
「下心とか全然ないけどね。何? お前もしかしておっぱい揉まれて意識しちゃってんの? スケベだねぇ〜」
「このっ……! 今日の夕飯アキの嫌いなものばっかり入れるからな!」
「待ってくれ。ごめん。許して。それだけは」
アキは先日のゴーヤ一色の食卓を思い出したのか、かつてない俊敏さで手を引っ込めた。
警告その1だ。3つカウントした日には、ゴーヤの肉詰めにゴーヤのきんぴら、ゴーヤマヨサラダにゴーヤの味噌汁で、アキの部屋の机の上でゴーヤ祭りを開いてやる。
「でもよ、実際30超えた辺りから、急にレベル上がらなくなっただろ?」
「…………まぁ、そうだけど」
むしろここ数日で(アキの性的なイタズラのせいで)上がり過ぎの感は否めないが、確かに上がり幅は減ってきている。
コインを一気に獲得する方法が欲しいところだ。10連で引いてレアアイテムを狙うためにも。
「だろ? だからさ、一気にガツンとあげるためにも『異性の前で自ら下着姿になる』ミッションをやらないか――――」
「絶対!! しない!!」
男の時だって、別に男同士で下着を見せ合ったりなんかしないだろ!!
駅前まで徒歩11分。少し面倒だが、自転車を持ち出すには近い距離だ。少なくとも僕の地元よりはずっとマシ。
アパートの部屋出し広告には駅近と書いてあったはずなのだけど。あるいは僕が無知なだけで、11分は十分駅近の範囲内ということなのだろうか。
「なんか人多いね、今日」
改札を抜け、半地下の階段を降りてまたさらに登ると、プラットフォームの乗車位置全てに人の列があるのが見えてきた。
「平日のこんな時間なのに」
「浴衣着てる人もいるし、あれだろ。どっかでお祭りかなんかあるんだろ」
アキの指摘通り、ちらほらと浴衣を着た女性の姿が混じっていた。暑そうなのによく着るものだ。
たまに隣にいる彼氏と思われる男達は見事にTシャツばかりで、合わせて甚兵衛を着てこようという意思はないことが見て取れる。
「言ってて思い出したけど、そーいや隣町でこの時期に夏祭りやってんだよな」
「なんでそんなこと知ってるの。君も地元じゃないでしょ」
「一年も住んでたら色々入ってくる」
僕は全然知らないぞ。去年だって、花火の音をアキが壁ドンしてきている音かと勘違いしたくらいだ。
「お祭りかぁー……」
「行ってみるか?」
「んー……今日はいいや。あっちの神社でやる時に行こうよ。いつだっけ?」
「8月28日。結構先だな」
神社の境内を借りて、また道路にまで(勿論許可は得ている)出店をいくつか張り出した、それなりの規模のお祭りが僕らの町でも毎年開催される。
折角の夏なのに、お祭りに行かないなんてあり得ない。お祭りの水分少なめの焼きそばや、日常では見かけることのないりんご飴を食べるのが、夏の醍醐味なのだ。
「そーだ! フミも浴衣着てきてくれよ!」
「えー、僕が?」
いきなりそんなことを言われても、浴衣なんて持ってないし、着方も分からない。今後覚えるつもりもない。
「ほら、レンタルしてるとこあるだろ! 着付けもしてくれるヤツがさ!」
「あー……」
「な! できればミニスカのヤツ!」
「そんなんが着物レンタルに置いてあるか!!」
それがあるのは着物屋ではなく、おそらくコスプレ貸出のほうだ。あとそんな格好でお祭りに来る女は、強心臓ギャルか露出狂の変態のどちらかだ。
「僕はそんなの着ないからね。コンカフェ行けコンカフェ」
アキバのコンカフェを探せば、いくらでもそんな感じの店があるだろ。何なら大通りの植え込みに並んでビラとか配っているはずだ。
「じゃあ普通の浴衣でいいから!」
「譲歩してるみたいな言い方しやがって……」
浴衣……正直、面倒だ。着るのも脱ぐのも難しそうだし、レンタル料金も安くはなさそうだし。
でも、こんなに必死に頼まれると、きっぱり断るのもかわいそうな気がする。今度ダメ元で母さんに聞いてみようかな。
「まぁ、うーん……考えとく」
「前向きに頼むわ」
そんなことを話しているうちに電車が来た。うわ。乗り込むほうばかりだと思っていたけど、降りてくる人もいっぱいだな。
「満員だ……」
僕達は自然と人並みに押しやられ、座席前の吊り革が高くなる辺りに並んで立っていた。
「アキ、踏んでる。僕の靴」
「あ、わり」
当然席には座れなかったし、出口近くのポール位置にも人がいる。というか、この人の量で場所を移動しようというのは、周りに迷惑だ。
『間もなく発車いたします。ご乗車の際は、手すりか吊り革に――――』
仕方なしに、乗り込んでくる人達に押されるままに追いやられてきた僕達だが、ここでとある問題に気が付いた。
「吊り革、なんか、高くない?」
吊り革を見上げるのなんて、小学生の時以来かもしれない。男の時は頭にぶつかってきて邪魔だったくらいなのに。
「あー、大丈夫か?」
「多分……! よっ……!」
あ、あれ。届かない。普段の感覚で伸ばした指が空を切った。腕を伸ばし切っても、薬指の先端がかろうじて触れる程度だ。
「と、届か……よいしょ」
目いっぱい体を伸ばし、少し踵を浮かせてつま先立ちになることで、何とか吊り革に手が届いた。
届くには届いたが、これでは危ない。踵は浮いているし、腕は伸び切っているので、体を支えられていない。衝撃が加わったら、振り子のように振り回されてしまう。
「危ないぞ」
「や、やっぱダメかな。どっか、掴まれるところ……」
手が吊り革に届いた瞬間、計ったように電車の扉が閉まり、アナウンスと共に発車する。
「あ、あわわ」
年季の入った線路の上は、特に発着場所が劣化の工合が激しく、いつも出だしは大きく揺れる。
ということを失念していた僕は、思いきりバランスを崩して、吊り革からも手が離れ、自分の足を踏んでしまった。
「危なっ……」
「おっ…と……!」
もつれて倒れそうになった僕の体が、突然横から伸びてきた手に引かれ、倒れる寸前で何かに受け止められた。
「あ、アキ……!?」
アキは吊り手を掴んでいないほうの腕で、僕を抱きしめていた。
「あ、ご、ごめ……! もうヘーキだから……!」
はっ、早く離れないと! こんな、満員電車の中で抱き合ってるみたいな姿……周りからしたら公然とイチャつくバカップルだぞっ……!?
「アキ、も、大丈夫だって……!」
アキは全然僕の体を話してくれなかった。胸板に押し付けられ、そのおかげでよろけることもないが、人前で、恥ずかしい……!
「危ないから、掴まっとけ」
危ない……?
危ない……危ない、か。そっか……。
そうだよね……僕の身長が、低くなったのが悪いんだ。そのせいで吊り革に届かなくて、危ないから。
だから、しっ、仕方ない……よね……?
「うん……」
仕方ない。仕方ないから、アキに支えてもらっているだけだ。別に、変じゃない……。
電車に乗っている間、僕らをダシにしてイチャつく夏祭り行きのカップルや、冷めた目で見てくる外回りらしきOLの視線が、痛くて痛くて仕方なかった。
人のことをまるで彼女のように抱きしめておきながら、アキは泰然としているし、僕は顔から火が出そうだってのに……。
だっ、誰が彼女だ!!
いや、今のは僕が勝手に考えたことか……ダメだ。頭がこんがらがってきた。
「どうしたんだよフミ。暑いし、早く入ろうぜ」
「あ、あぁ、うん」
そうだ。顔が熱いのはこの熱射のせいだ。目的地には着いたんだし、早く中に入ろう。
「ふぃー……涼しぃー」
いくつかの市にまたがる役割の、所謂中央図書館だ。一階の南側、本を置かない共有スペースはガラス張りで、大きな両開きの自動ドアが口を開いており、さらに奥には冷気を逃さないための一枚扉の自動ドアがある。
僕の地元の小さな図書館とは大違いだ。あちらは児童館の2階という、肩身の狭そうな位置だった。
「課題図書なんだっけ。覚えてるか」
「えーと……『モモ』と、『昆虫の惑星』と、『よだかの星』だね」
「『よだかの星』ぃ? オレら高校生だぞ。つかネットに本文転がってるだろそれ……」
そうは言っても、必ず感想文の原稿に貸出レシートをノリで貼ること。と書いてある。友人と一冊を借りた場合は、どちらの感想文にもその旨を記載せよ、ともあるので、結局どちらかは本を借りなければならない。
「さっさと借りて帰るか。フミ、カード持ってきてるよな」
「うん」
あまり使わないので、新品同様に綺麗な貸出カードが、財布に入れっぱなしになっている。
もう少し通いたいところだが、電車を使わないといけない距離というのが面倒だ。僕もアキも自転車持ってないし。
「あれ!? アキじゃん!」
突然、出入り口のほうから、彼の名前を呼ぶ声がした。
「おっすアキ! 生きてたか!」
おぉ、びっくりした。うしろから聞き覚えのある声がして、僕は少しだけ肩を跳ねてしまった。
「おーリョウト! 一週間ぶりくらいか?」
「そうだよ! お前全然補習こねーじゃん!」
「行く訳ねーだろあんなもん。お前もサボれよ。マジで時間の無駄だぞ」
「親が勘違いしてんだよ。『補習ってことは成績よくないんでしょ!』つってさ」
可哀想なヤツ。彼は何というべきか、「正直者は馬鹿を見る」の典型例のような人物だ。
人がよく、押しに弱い。だから教師連中の圧迫二者面談で、勝手に志望大学を公立の遠いところに決め付けられ、シートにそう書かされたりしている。
「おす、リョウト」
僕は片手を上げ、何気なく挨拶した。何の変哲も違和感もない、普通の挨拶。
「うぇっ!? お、おお! お、おっすで合ってる……? 玉崎、さん……?」
「え…………」
何だその反応。というか、なぜ名字で呼ぶ?
今、僕は変なことを言ったか? いや、内容も態度も普通だったはずだ。単なる挨拶でこんなに動揺されることがあり得るものか。
「うーん……?」
アキのほうを見ると、彼も奇妙な表情で僕を見下ろしてきた。ということは、僕が何かを勘違いしている訳ではなさそうだ。
「アキ……! おい、アキ……! 聞いたか……!?」
リョウトは僕に曖昧な笑顔を返すと、アキの肩を掴んで、僕には聞こえない声で何か話し始めた。
本人を前にして内緒話をするのはやめてくれないか。不愉快だ。僕の悪口でも言っているのか?
「聞いたか!? 玉崎さんが俺のこと名前で呼んでくれたぞ……! これ脈アリ……!?」
「は? 何言ってんだお前。フミは――――」
「え!? お前玉崎さんのこと下の名前で呼んでんのッ!? つか、お前ら今日一緒に図書館きてるよなッ!? え? 何? 付き合ってんの?」
段々と声が大きくなってきて、僕の耳にも内容が届いてくる。こういう爪の甘いところも、彼が押しに弱い要因の一つだ。
「さっきから何言ってんだ? そらそーだろ。同じアパートに住んでんだから」
「ど、どど同棲っ!? え、は!? いやいやいや!! やば! 進みすぎだろ! もしかしてもうヤることヤった???」
同じアパートに住んでるって、別に同じ部屋に住んでいるという意味ではない。
というか、その話前にしたよな? その時もこいつは「ルームシェアってヤツか?」とか頓珍漢なことを言っていたのに。自分でした質問の返答を忘れてしまったのか?
「リョウトお前、さっきから何を――――」
「分かった! 分かった分かった。言わないでくれ。うわぁ……まじかぁ……玉崎さんってこういうのが趣味かよぉ……」
趣味かどうかで言えば、リョウトよりは趣味だ。男と付き合わなければ死ぬとか脅されたら、他の男よりは……というか。
「俺結構狙ってたんだけどなぁ……おっぱいデケェし……」
確かに僕はこれのせいで足下が見えないほど胸がデカいけど、そうなったのはつい最近のことだぞ。
「マジでデケェよなぁ……アキのヤツ、毎日あのおっぱい好き放題してんのかなぁ……」
…………。
「何あれ……」
僕が聞いていることを忘れて、普通におっぱいがデカいとか言いながら去っていった。彼も僕らと同じくモテない。そしてモテない理由は今ので分かったと思う。
「何だか分かんねーけど、ひどいセクハラだな」
「君の口から言えたことじゃないことを除けば同意だね」
実際のリョウトの言う通り、僕の胸はほぼアキに好き放題されているようなものだろ。
「なぁ、フミ。これってつまりさ」
僕の下から睨み付ける視線を軽く受け流しながら、アキは合点がいったように眉をつり上げた。
「つまり何?」
「お前が女になったことで、写真とか身分証の表記まで変わってたのと、同じだよな」
「あー……」
そういえば、リナ先生もそうだった。最初から僕が女であるという前提で話している。
と、いうことはだ。友人だった男子生徒達の何人かあるいは全員は、僕のことをあまり話したこともない異性のクラスメイト、という風に思っているのだろうか。
「これ、まじか……」
今、僕の交友関係はどうなっているんだ? 頼むからアキ以外全員が僕との親交を忘れているとか止めてくれよ。
「つーかいいのか? アイツの中だとオレら、がっつり肉体関係あるカップルってことにされたけど」
「リョウトの言うこと真面目に聞くヤツいると思う?」
「ひでーな……まぁそうだけど……」
君だってそう思っているじゃないか。
「見つかったか? 課題図書」
「うん。ほら、これ」
アキが持ってきた一冊に重ねて、僕は探し出した課題図書を二冊乗せた。
「じゃーさっさと帰ろうぜ。つまんねーし」
「つくづく読書に縁のないヤツ……」
「お前だってそーだろ。ゲームとかマンガばっかじゃねーか」
それはそうだけど。でも、折角図書館に来たのなら、よさげな本を探してみようか、みたいな気分にはなる。最初から全く興味のないアキよりはマシだ。
「まぁ確かに、普段は全然こねーしな。少し見てくか?」
「そうだね。僕実は――――」
《緊急ミッション発生!!》
「うわ、なんっ、何今の!?」
突然頭の中に響いた爆音にびっくりして、肩を震わせながら大声を出してしまった。
「あ、ご、ごめんなさい……」
ちらほらといた利用者に睨まれ、僕は縮こまって謝罪するしかなかった。
「どうした?」
「あ、うん……何か、頭の中に突然、緊急ミッションとか……」
確かにそんな音が聞こえた。煌びやかなSEのあとに、緊急ミッション発令、と。
「なんだろ……ちょっとスクリーン開いてみるか」
もしかしたら、あちらに出ているかもしれない。アキを引っ張って、二人で本棚の影に隠れてから、僕は空中にスクリーンを表示した。
「何これ? びっくりマークに、メール?」
「押してみろよ。メールマークってことは何かの通知だろ。そういうのって」
ステータス(スリーサイズとか書かれてた恥ずかしい項目)の横に、メールのマークが出現していた。
試しに押してみると、本当のメールのような形式の文書ファイルが画面いっぱいに広がった。
ランク5
・異性とキスをする をクリアせよ!
場所:図書館2階 人物:敷島秋生
クリア報酬:コイン3枚
制限時間:本日中
キスをする。
キスをする?
誰と? 僕と、アキが?
「きっ……」
き。
「きききッ、きっ、キ……もがっ……!」
「バカ……! デカい声出すなって……!」
キス!? き、キスって、キスか!? アキとキスしなくちゃならないっていうのか!?
「落ち着けよ……図書館だぞここ」
アキに口を押さえられなければ、またもや大声を出して、利用者に怒られるところだった。
「ご、ごめ……でも、これっ……!」
きっ、キスって! そんなの、好き同士じゃないと許されないことじゃないか!!
あ、アキとキスするのか……? あのアキとキスを……?
スケベで、おっぱい星人で、お尻も好きで、デリカシーなくて、お人好しで……。
親友で、誰にでも優しくて、弱い者いじめは許さない。いつも僕のこと助けてくれる……。
「そっか……ミッション、だもんね……」
「ふ、フミ? お、おい。よく読めよ注意書きのところ。達成しなくても、報酬貰えない以外にデメリットはないって……」
「はぁーっ……♡ はぁーっ……♡」
し、しちゃうんだ……♡ ミッションに強制されて、こんなところで、あ、アキとチューしちゃうんだ♡
付き合ってもないのに、ぼ、僕のファーストキス、アキにあげちゃうんだ♡
「ふ、フミ……!? ちょ、おい……?」
ぼ、僕は、どうしよう……♡ どうしたらいいんだろう……♡ 僕からしないとダメなのかな……それとも、あ、アキから……♡
「ミッションだから……命令だから、しなくちゃダメだよね……♡」
「フミ? だっ、だから別にやらなくても……」
「アキ、なら……♡ 別に、いいからっ……♡」
「やろう今すぐやろう絶対やろう」
アキの力強い手に両腕を掴まれて、僕は本棚に体を押し付けられた。
する気なんだ♡ アキも、僕とチューする気なんだ♡
いいんだ、来て♡ 嫌じゃないから♡ だってこれはミッションのためだから♡ これはだって別に、コインを、集めるため、だから……♡
おまけ ネコ
「おーっ、いーっ、で!」
「…………」
アパートの階段下でうずくまる影があると思ったら、フミのヤツが三毛猫に構っていた。
「かわいいねぇーっ。お名前なんですか?」
「ウヴー……」
表情の溶けているフミとは裏腹に、猫は毛を逆立てて威嚇している。つくづく猫に好かれないな。
「ミァーーゥ……!!」
「うう……なんで……僕はこんなにキミのことが好きなのに……」
猫は伸びてくるフミの手をするりと避けると、トコトコとこちらに寄ってきた。
「お」
「にゃあぁん……」
猫はオレのジーパンに体を擦り付けながら、ゴロゴロと(文字通り)猫撫で声を鳴らし始めた。
「なんで!! なんでアキなの!!」
「なんでだろーなぁ」
嫉妬の視線がとても気持ちいい。昔から猫には好かれやすいんだよな、オレ。
「あ、そっか」
「何だよ! なんでアキばっかり猫にモテるのか分かったんだろ! 僕に説明しろっ!」
いや、分かったのはそういうことではない。
十中八九、フミも