前話を読んでない方は先にそちらをお読みください。
王城の一室、そこにはこだわりのある貴族たちが集っていた。
口角泡を飛ばし、熱弁を振るう男たち。
これ以上ない有意義な会合が行われている。
チエネイコ男爵は、今日の夜会にて出会った女たちの身体付きについて、
詳細な報告を行っていた。
「次は治癒師のクレアです!!非常に良い肉付きでしたな!!!
世の中にはな、痩せぎすの女こそ至高だの、細い腰がどうのとぬかす輩がいるが、
あれは人生の半分を捨てておると断言してもいい!
程よく張った腕、柔らかそうな肩。腰から尻へと続く、あの“丸み”だ。
あれこそが、神の与え給うた余白であり贅沢であり、男の目と手の行き場である!
骨ばかりの女ではいかん。抱けば肋が痛い、寄りかかられれば角張った肩が刺さる。
あれではな、酒の肴にもならんのだ。見ても触れても、心が痩せていく。
だがどうだ、あの治癒師は。そこにいるだけで場が温かくなる。
あの胸で修道服は犯罪だろう!王国騎士たちが大挙してくること間違いなしだ!
そして、太ももから尻にかけてのラインはもはや芸術品である!
あの太もものために眠れぬ夜もあったであろう……その努力を思うと涙が出る」
周りの貴族から「そうだ!」、「今日も切れてるぞ!!」と合いの手が入り、
チエネイコの弁はさらに熱を帯びていく。
「肉付きの良さというのは、心根の豊かさの証でもあるのだよ。
こちらが多少羽目を外しても、細かいところには目をつぶってくれる度量がある。
これほど男に都合の良い生き物が他にいるかね?
あの慈母のような微笑み、服の上からでも分かるだろう、あの布の張り具合。
腰紐に寄せられた皺のひとつひとつが、繁栄というやつの形をしている。
国だってそうだ。痩せ衰えた国は見ていて寒々しいが、
税も人もたっぷりと蓄えた国は、多少の贅肉すら頼もしく映るものだ」
下級貴族という立場を超えた物言いではあるが、周りの位の高い貴族たちも
「もっとやれ!!」「そこだ!!」などと言って夢中になっている。
「諸君、忘れてはならん。
女というものは、ただ飾って眺める陶器ではない。
抱いて、凭れて、酔いどれて、こちらの下らん自慢話すら「まあまあ」と笑って
男のすべてを包んでくれる揺り籠である。
その揺り籠が大きければこちらも安心して生きていけるだろう?
だから私は断言する。
肉付きの良い女を笑う男は、自分の器の小ささを晒しているだけだとね。
あれこれ理屈をこねるより、あの柔らかそうな尻ひとつ見て悟ればいい。
『ああ、この女を囲える男は、さぞや懐も度量も豊かであろう』とな。
――そういうふうに見られたいからこそ、
私は清楚でいてドスケベな肉付きの良い女を選ぶのだよ。
なぁ諸君、違うかね?」
「然り!!!」
「よく言った!!!」
「王国一!!」
貴族たちは称賛の声をあげる。
ここで、一拍置き、チエネイコは重大な議題を提案する。
「ここで皆に問う。あの修道女のつけていて欲しい下着を……!」
貴族たちの間に緊張が走る。
ここで自分の好みを言うのは簡単だ。
しかしながら、今は、あのクレアという修道女がつけていて欲しい下着こそを問われているのだ。
きっちりと想像せねばならない。
何処でどのようにあの女の下着を見るのか。
治癒師自身にあの修道服を脱がせるのか。
それとも自分自身が脱がせるのか。
着たままたくし上げさせるという線もある。
あの肉付きである、目隠しや緊縛も映えるだろう。
屋内、野外、教会、診療所のベッド、隠れ働く娼館。
数多の想像が貴族たちの間で駆け巡る。
「だれでも情欲を抱いて女を見る者は、すでに心の中で姦淫を犯したのです」
といった誰かの有名な言葉があるらしいが、この瞬間この場所の誰もが、
幾度とない姦淫を犯していた。
あたりまえだろう。
もはや姦淫を犯さずにこの議題を論じるのは失礼である。
ここで、ついに一石を投じるものが現れる。
以外にも、モチャラス家の三男、
フィリップ・ディドン・リイル・モチャラスであった。
「私は、白のバックレースにガーターベルトを望みます……!」
「その心は?」
チエネイコが問う。
「皆様、あの麗しい修道女の色々な姿を想像したことでしょう。
それこそ、その想像をすべて絵巻として描き記したいというのは我々全員が望むことではあります。
状況にあった下着、それも非常に大事なことにございます。
されど、されどあの修道女の一番の魅力はあの微笑みであると愚考いたします。
そして逆説的に、昼間のあの慈母のような微笑みから想像のつかぬような、
夜に、好いた男にだけ見られることを前提とし、良く見られたいという思いを具現するような、
華美なレースで飾られたいじらしい女の姿こそを見たいと思うのです。
それこそが男冥利に尽きるというもの。
一等美しく才気あふれる女に自身だけが愛される、この幸せを私は噛みしめたい!」
歳を取り、様々な経験を積んだ貴族たちが、青年の純朴な気持ちに触れ、魂を震わしていた。
自分のエゴや性的嗜好を女に一方的に押し付けていなかっただろうか?
刺激を求めより、激しい方向、変態的な方向に自分を進めていなかっただろうか?
自身を見つめなおす機会を与えてくれた青年に敬意を表していた。
「ブラーボ!ブラーーーボ!!」
四大神より伝わりし伝統的な言葉で称賛するのはなんと、貴族派閥最大の有力者、
六大貴族が一人、リットン伯であった。
それに周りの貴族たちも追従する。
称賛の声が部屋中に満ち、今宵の英雄は恭しく礼をする。
この一件でフィリップ・ディドン・リイル・モチャラスは株を上げ、
新たな派閥を築いていくのであった。
*
そのころ、クレアは止まらない悪寒に悩まされ、下着姿のままベッドで布団にくるまっていた。
身につけている下着は透けの多い黒のTバックであった。
オバロ世界に現代的な下着やガーターベルトがあるかは知りません。