現在の2D6の話だと正確には正規分布になってません!
週末に上手く修正します!!
追記2:
モヤモヤに耐えきれず修正しました!
感想にてご指摘してくださった刀祢凛子さん、ありがとうございました!!
修正前:2D6の値の回数をプロット(このままだと二等辺三角形の分布になってしまう)
修正後:2D6の値の十回あたりの平均値の整数部分がnになった回数をプロット(これならちゃんと正規分布になる)
です!
若干、読みやすさが正しさの犠牲になってしまったので、面倒な方はフレーバーを楽しんで貰えればと思います~
閑話 万物の釣鐘
夜の帳が下りた王城の一室に、乾いた音が響いていた。
カラン、コロン。
カラン、コロン。
革張りの盆の上で、二つの木製サイコロが転がる音だ。
遊戯に興じているわけではない。その音には、祈りのような熱もなく、賭け事のような焦燥もない。
ただ、世界から切り離されたような静謐なリズムだけが、延々と繰り返されていた。
「──四と、三。合計、七です」
「これで十回目ですわね。では、いまの十回分を足した合計は?」
「ええと……これで七十八ですから……十で割って、七・八、ですね」
「はい。七と八のあいだ……『七のお部屋』にひとつ、印を」
侍女のルミィが賽の目と合計を読み上げ、ラナーが羊皮紙にペンを走らせる。
机の上には、底辺に二から十二までの数字が書かれた紙が広げられていた。
ただし、その数字は「出た目」そのものではない。
二つのサイコロを十回振ったときの「合計を十で割った数」──つまり、その十回分の平均値である。
ラナーは二から十二までを幅一ずつの「箱」に分けていた。
二から三までが「二のお部屋」、三から四までが「三のお部屋」……七・八なら「七と八のあいだ」、つまり「七のお部屋」に入る。
ルミィが告げた平均値を頭の中でその箱に仕分けし、「七」の目盛りの少し上に、小さな点をひとつ打つ。
同じやり方での十回振りを一組として、それを何組と繰り返し、ルミィがそのたびに平均を読み上げ、ラナーが黙々と点を重ねてきた。
点は上に上にと積み重なり、やがて紙の上にひとつの形を浮かび上がらせていた。
なだらかな、山のような形。
あるいは──教会に吊るされた、巨大な釣鐘のような曲線。
「……ふぅ。これで千組目ですね」
ルミィが軽く肩を回し、呆れたように主を見た。
「殿下。これ、いつまで続けるんですか? 印の数はもう十分ですし、形も変わらない気がしますけど」
「ええ。もうほとんど変わりませんわ」
ラナーはペンを置き、描き上がった曲線を愛おしそうに、けれどどこか冷ややかな目で眺めた。
ラナーは説明を付け足すように指先を動かす。
「一組振るごとに、『この十回分の平均は、だいたい七から八のあいだ』といった具合に、“お部屋”を一つ決めて、そこに印を積み上げていくのです。
本当は、最後に全部の組数で割って『割合』として読むこともできますわ。
けれど、回数でも割合でも、山の“形”そのものはまったく同じですの」
ラナーは釣鐘の斜面を指でなぞった。
「だから、あと一万組やろうと、十万組やろうと、この『釣鐘』の形そのものは、もうほとんど変わりません。
印の列が、少しずつ滑らかになっていくだけですわ」
「不思議ですね」
ルミィは盆の中の二つのサイコロをつついた。
「一回一回は、何が出るか分からないのに。どうして集まると、相談したみたいに同じ形になっちゃうんでしょう」
「それが、この世界の『平らになろうとする力』ですわ」
ラナーは、ルミィの手からサイコロを受け取り、指先で転がした。
「一つ一つの出来事は、デタラメです。右に行くか、左に行くか。偶数か、奇数か。誰にも予測はつきません。
けれど、それらを十個、百個と混ぜ合わせ、その“平均”だけを眺めていくと……」
ラナーは紙の上の山を示した。
「デタラメさは互いに打ち消し合い、角が取れて、こうして丸くなっていくのです」
「角が、取れる?」
「ええ。河原の石と同じですわ」
ラナーは微笑む。
「最初はゴツゴツと尖っていた岩も、長い川を流れるうちに削られ、最後にはよく似た丸い石になって河口に辿り着く。
この絵は、無数の十回分のサイコロの“平均”が辿り着いた河口の景色なのです」
ラナーの瞳には、紙の上のインクではなく、もっと巨大な何かが映っているようだった。
「個」の自由奔放さが、「群」になった途端に死滅し、秩序へと幽閉される様。
誰かが命令したわけでもないのに、世界は勝手に、この牢獄のような安定を選び取ってしまう。
その時、扉の向こうから、遠慮がちな足音が近づいてきた。
衛兵の制止する声はない。この深夜に、護衛もなく王女の部屋に近づける人物は、この国にただ一人しかいない。
「……起きているか、ラナー」
「お父様?」
ラナーが目配せすると、ルミィが音もなく扉を開けた。
現れたのは、質素な外套を羽織った老王、ランポッサ三世だった。
その顔には、日中の公務と、最近の激動による疲れが深く滲んでいる。だが、その瞳には娘を案じる、王ではなく父親としての穏やかな光があった。
「夜分にすまない。竜王国からの報告書を読んでいたら、目が冴えてしまってな。
……明かりが見えたので、少し、顔が見たくなったのだ」
「まあ。お茶を淹れますわ。ルミィ」
「はい、ただいま」
ルミィが手早く準備を整える間、王は椅子に深く腰を下ろした。
ふと、机の上に広げられた紙の山に目が留まる。
サイコロで描かれた、美しい釣鐘の絵。
そしてその隣には、救貧教会や目安箱から集められた、膨大な民の声を分類した資料が積まれている。
「……これは?」
「退屈しのぎの遊びですわ」
ラナーは悪戯っぽく微笑んだ。
「城下の民から届いた声を、種類ごとに分けて、その数を絵にしていたのです」
ラナーは、サイコロの絵の上に、民の声を重ねて見せた。
貧しいと嘆く声。普通だと答える声。幸せだと笑う声。
その中間的な声もある。
一見、何の関係もない情報たち。
だが、それらを「何人中、何人」と数えて棒の高さにすると、その稜線は、先ほどのサイコロの平均値が描いた「釣鐘」と、吸い付くように重なっていた。
「……ほう」
王は、老眼鏡の位置を直しながら、その図を覗き込んだ。
「これは……民の姿、か」
「はい。面白いと思いませんか、お父様」
ラナーは指先で、釣鐘の裾野──数が極端に少ない「端」の部分をなぞった。
「一人一人を見れば、劇的な人生があります。
物語に出てくるような大悪党や、誰もが涙するような聖人。
あるいは、とてつもない大男や、小人のような人。
……でも、それらを千、万と集めて『国』として見ると、そういった極端な人たちは、ただの『稀な例外』として端に追いやられてしまう」
そして、指を中央──最も高く盛り上がった部分へと滑らせる。
「大多数は、ここ。
良くも悪くもない。変えようのない、凡庸な真ん中。
どんなに激しい嵐が起きても、結局はここに収まってしまう。
……これが、お父様の治める国の『形』です」
王は、しばし無言でその図を見つめていた。
彼に数学の知識はない。
だが、その形には、彼が何十年も玉座から見続けてきた景色そのものが描かれていた。
「……ああ、そうだな」
王は、深く、深く頷いた。
その声には、諦めにも似た安堵が混じっていた。
「余も知っているよ、ラナー。その山の形を」
王の言葉には、学問とは違う、血肉を通わせた経験の重みがあった。
その反応にラナーは目を瞬かせた。
「若い頃は、余も思ったものだ。剣を振るい、法を変えれば、世界は劇的に変わると。
民はもっと賢く、あるいはもっと愚かになり、国は姿を変えるだろうとな。
だが……どれだけ石を投げ込んでも、水面はすぐに静まり、元の形に戻ろうとする」
王は、釣鐘の頂点を、愛おしそうに、そして少し寂しげに撫でた。
「英雄が現れても、飢饉が起きても。
時が経てば、極端な熱狂は冷め、悲しみは癒え、民はまた、いつもの暮らしに戻っていく。
……それが、国の強さだ」
「強さ、ですか?」
「ああ。この山が崩れない限り、王国は続く。
どんな極端な力も飲み込んで、平らにならしてしまう力。
余の仕事は、何かを変えることではなく……この『形』が崩れないように守ることだったのかもしれんな」
それは、老王が辿り着いた境地であり、安らぎの結論だった。
凡庸であること。変わらないこと。
それこそが平和であり、王が守るべき宝なのだと。
「……ええ。そうですわね、お父様」
ラナーは、ときに経験が際立った知性と同等の結論を生むことに感心し、同意した。
だが、それと同時に、王とは真逆の感情も渦巻いていた。
(これを安心と呼べるのでしょうか)
ラナーの目には、その美しい釣鐘が、強固な「檻」にも見えていた。
数が集まれば集まるほど、世界は強制的にこの「退屈な形」へと修正されてしまう。
創発──小さな変化が波及する面白ささえも、本当に大きな、国というものの前では、この釣鐘の中に吸収され、誤差として消えてしまうのであろう。
(私は、これに絶望も感じてもいるのでしょうね)
「お茶が入りました」
ルミィがカップを置く音で、空気が緩んだ。
王は茶を一口啜り、ほうと息をつく。
「ラナー。お前は賢い。余よりもずっと深く、この国の姿が見えているようだ。
……だが、見えすぎるのも考えものかもしれんな」
王は、去り際にふと振り返り、娘の瞳を覗き込んだ。
その双眸に宿る、底知れぬ静けさに、本能的な怖れを抱いたように。
「お前が見ている景色は、余が見てきたものより、ずっと遠くて……寒々しい場所なのかもしれん。
……夜は冷える。風邪をひかんようにな」
王が去り、扉が閉まる。
部屋には再び、ルミィと二人だけの静寂が戻った。
ルミィは、閉じられた扉と、机の上のグラフを交互に見て、どこか納得のいかない顔をしていた。
王の前では言えなかった言葉が、喉元まで出かかっている。
「……ルミィ? 何か言いたげですね」
「あ、いえ……その」
「おっしゃって。貴女の感じる違和感は、時に計算よりも正しいことがあるのですから」
促され、ルミィはおずおずと口を開いた。
「……陛下がおっしゃることは分かります。国が平和で、みんなが普通に暮らせるのが一番だって。
でも……この絵は、やっぱりおかしい気がします」
ルミィは、サイコロの平均と、民の声が重なった図を指差した。
「サイコロは、ただの木の塊です。心もなければ、意思もない。
だから『何が出るか分からない』っていうのは、全部同じデタラメさです。
でも……人間は違います」
ルミィの声に、少しだけ熱がこもる。
「一人一人、全然違う考えを持っていて、違う生き方をしています。
右へ行きたい人もいれば、左へ行きたい人もいる。
真ん中なんて嫌だって、端っこを歩きたがる偏屈な人だってたくさんいます。
サイコロみたいに単純なものと、そんな複雑な人間が……どうして『同じ形』になるんですか?」
もっともな疑問だった。
ラナーは嬉しそうに目を細めた。
感覚的な違和感を、そのままにせず問いかける。
それは知性のあるべき姿だ。
「鋭いですわね、ルミィ。
ええ、普通ならそう思いますわ。『元の形』が違えば、『積み上げた結果』も違うはずだと」
ラナーは一枚の新しい紙を取り出し、ペンを執った。
「ルミィ。さきほどの実験で、この山の『真ん中』……一番高いところにある平均値は何でしたか?」
「ええと、七くらいのあたりです。二つのサイコロを十回振ったときの平均は、そのあたりに一番よく集まります」
「では、一番端っこは?」
「二とか十二に近い平均です。全部が一とか全部が六とかじゃないと出ないから、ほとんどありません」
ラナーは紙に『2』と『7』と『12』という数字を書いた。
「ここには、明確な『理由』があります。
ルミィ、二つのサイコロを十回振ったときに、『平均が二に近くなる』にはどうすればいいかしら?」
「えっと……どの回も、ほとんど『一』しか出ないとか、ですか?」
「そうですね。ほとんどすべての回で、両方のサイコロが最低の目を出し続けなければなりません。
一つでも『三』や『四』が混ざれば、平均はすぐに引き上げられてしまう」
ラナーは、今度は『七』のあたりを指さした。
「では、『七くらいになる』には?」
「それは……」
ルミィは指を折って考える。
「半分くらいは低い目で、半分くらいは高い目でもいいですし、全部が四とか五とかでもいいし……いろんな組み合わせがありそうです」
「そう。『真ん中』になるための道筋は、山ほどあります。
一方が小さくても、もう一方が大きければ補える。多少ズレても、誰かが修正して真ん中に戻してくれる。
『普通』になるための道筋は、無数に用意されているのです」
ラナーのペン先が、グラフの端──『12』の場所を突いた。
「ですが、『端』になるためには、ほとんどすべてのサイコロが示し合わせて『六』ばかりを出さなければなりません。
『五』や『四』が混ざれば、もう届かない。
……数が多ければ多いほど、この条件は厳しくなります」
「そりゃあ、そうでしょうけど……でも、人間はサイコロじゃないです。
示し合わせなくたって、『私は端っこへ行くぞ!』って頑張る人もいるはずです」
「ええ、いますね。
では、例えば『とてつもなく偏屈な人間ばかりの村』があったとしましょう」
ラナーはペンを執り、極端なグラフを描いた。
「この村の住人は、全員がひねくれ者です。
『一』なんて小さな数字は嫌い。『六』のような大きな数字が大好き。
サイコロで言えば、重心が狂っていて、ほとんど『六』しか出ないイカサマのような村です」
その線は『六』のところだけが高く張り出し、他はほとんど空っぽの、歪で尖った形をしていた。
「この村の一人一人の“性質”は、たしかに極端です。十回分の平均を取っても、たいていは『五』や『六』に近い値になるでしょう。
では、この『偏屈な村』と、別の『普通の村』を合併させたら、どうなると思いますか?」
「えっと……」
ルミィは眉を寄せて考える。
「偏屈な人たちがいっぱい混ざるんだから、国全体としても『偏屈(右寄り)』になるんじゃないですか?
普通の形には戻らないと思います」
「では、足し算をしてみましょう」
ラナーは、二つの図を並べた。
一つは『一から六まで平らな普通のサイコロ』。
もう一つは『六ばかり出る偏屈なサイコロ』。
「普通のサイコロの『一』と、偏屈なサイコロの『六』が出たら、合計は『七』。
普通の『二』と、偏屈な『六』で、合計は『八』。
……こうやって全ての組み合わせを考えていくと、合計の形はどうなるかしら?」
ラナーはさらさらと計算し、結果の図を描き出した。
「あっ……」
ルミィが声を漏らす。
山は確かに右、大きい数字の方に寄っていた。
だが、その形は──あの壁のような尖った形ではなく、なだらかな山なりに変化していた。
「角が……取れてる?」
「ええ。ここが重要なのです」
ラナーは、グラフのなだらかな斜面を指でなぞった。
「偏屈な村人が『六』を出しても、相棒の普通の村人が『一』や『二』を出せば、合計は『七』や『八』に引き戻されます。
逆に、偏屈な村人が珍しく『五』を出せば、さらに結果は散らばります。
……足し合わせるということは、『混ぜ合わせる』ということなのです」
ラナーは、空中で両手をこね合わせるような仕草をした。
「料理で、小麦粉を練るのを想像してください。
最初はゴツゴツした塊があっても、他の水や粉と混ぜて、何度も何度もこねていけば……最後はどうなります?」
「……滑らかな、生地になります」
「それと同じです。
足し合わせるということは、混ぜ合わせるということ。
どんなに尖った個性を持っていても、他の多くのものと混ざり合う過程で、その『尖り』は均ならされてしまう」
ラナーは、先ほどの「平均値の山」に視線を戻した。
「さきほどは十回分の合計を最後に十で割って平均を見ましたけれど、いま合併の話でやっているのは、『いったん合計で形を確かめてから、必要なら人数で割って平均に直す』ということですわ。
合計で見ても、あとで割って平均で見ても、『混ぜれば角が取れる』という点では同じなのです」
ルミィはポカンとしていた。
ラナーはさらに言葉を重ねる。
「ルミィ。
もし、この国に『偏屈な村』や『嘘つきの村』、『聖人の村』が、それぞれ百個ずつあったらどうなると思いますか?」
「えっと……すごく、ぐちゃぐちゃな形になるんじゃ……」
「いいえ。逆です」
ラナーは断言した。
「混ぜる回数が増えれば増えるほど、ヤスリがけは細かくなり、形はより滑らかになります。
個々の村がどんなに奇抜な形をしていても、千、一万と混ぜ合わせれば……その個性の痕跡はすべて消え失せる。
残るのは、この『釣鐘』という、完璧に滑らかで、退屈な曲線だけ」
「……全部、消えちゃうんですか?」
「ええ。中心が少しズレたり、山が平べったくなったりはするでしょう。
でも、それだけです。
『元の形がどうだったか』という情報は、数の暴力によって忘却されるのです」
ラナーの瞳に、暗い光が宿る。
彼女が見ているのは、王が見ていた平和ではない。
あらゆる複雑さを、単純なものに還元してしまう、この世界の逃れられない重力だ。
「これが、この世界の『安定』の正体です。
一人一人が自由意志を持って、バラバラに動いているからこそ……全体としてはお互いの個性を殺し合い、この牢獄のような形に収束してしまう」
部屋に重い沈黙が落ちる。
ルミィは、自分の存在が巨大な石臼ですり潰され、平均という名の粉にされていくような怖さを感じていた。
自分が叫んでも、泣いても、国全体という大きな数字の中では誤差として処理され、釣鐘の線を引くための点の一つに過ぎなくなってしまう。
「……じゃあ、私たちは無力なんですか?」
ルミィが、縋るように問う。
「何をやっても、結局はこの形の中に閉じ込められてしまうんですか?」
「条件が一つだけあります」
ラナーは、グラフから視線を外し、窓の外を見た。
「この呪いが完成するためには、個々人が本当に『バラバラ』でなければなりません。
お互いに関係なく、勝手にサイコロを振っている限り、この結末は変えられない」
ラナーは、かつて遊んだ「盤面」を思い浮かべた。
あの盤面では、隣り合う升目が互いに影響し合い、複雑な模様を描き出した。
だからこそ、あそこには「生命」があった。
「……でも、殿下」
ルミィがはっと顔を上げる。
「クレア様や、ラキュース様たちは……?」
「あの方たちは、今も竜王国で戦っています。
誰かのために、傷だらけになって。お互いに助け合って。
それも……ただすり潰されて消える誤差なんでしょうか」
その問いに、ラナーは一瞬きょとんとして──それから、教師の顔を捨て、花が咲くように柔らかく笑った。
「ふふっ。貴女には敵いませんわね」
ラナーは窓の外、東の空を見上げた。
今頃、泥にまみれて戦っているはずの彼女たちを想う。
「ええ。あの方たちは、この理屈の抜け穴を使っていますわ」
「抜け穴?」
「彼女たちは、バラバラではありません。
互いに背中を預け、影響し合い、強く結びついている。
一人が『六』を出せば、隣の仲間もつられて『六』を出すような……そんな強い繋がりを持っています」
ラナーの声に、熱が宿る。
「みんなが示し合わせて『六』を出せば、合計値はあり得ない場所──遥か外側へと突き抜けることができる。
彼女たちは今、それをやろうとしているのです」
凡庸な重力に逆らい、傷だらけになりながら、互いの手を離さずに端を目指す者たち。
世界が「平らになれ」と命じる中で、そこだけが尖り続けている。
ラナーが彼女たちに惹かれるのは、その足掻きが、この退屈な数式に対する反逆に見えるからかもしれない。
「だからこそ、私は待っているのです」
ラナーは、夜空の向こうにある何かを睨みつけた。
「この曲線のどこにも属さない。
積み重ねても平均には戻らない。
彼女は予感していた。
その“例外”が、既にすぐそこまで迫っていることを。
カラン、コロン。
盆の中で、賽がもう一度鳴った。
確認していないその賽の目は、いくつを示しているのだろうか。
これにて三章終了です~!
次章ではいよいよ彼らがやってきます!
少し時間をいただいて、まとまったプロットができましたら更新再会致します。