Have a break? ― ヒーロー店主とヴィランメイド ―   作:藍色 紺

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■ 第25話 共闘

――乾いた銃声が、空を裂いた。

 

世界が、わずかに遅れる。

逃げ場がない、と身体が先に知った。

 

横浜の海、紙コップの白い湯気――

 

次の瞬間、重力が狂った。

七里の身体が、後ろへ圧力で突き飛ばされ、目の前の道路が陥没する。

 

衝撃は、来ない。

あるはずの痛覚が、途中で消え失せる。

 

視界が反転し、黒いレスラーと赤いレーザーの色が混ざり合った。

 アスファルトにヘルメットを擦りつけた七里の視界に、ピンヒールが突き刺さる。

 

「……置いてくなんて、ズルいこと、させない」

 

 小声が降り注がれる。止まりかけていた血が、身体中を巡る。

 七里は、勢いよく、身体を起こした。

 立ち上がるまでのわずかな時間に、銃弾が二人の手前でピタリと止まり、衝撃で潰れ、落下する。

 

「置いてく気なんて、|最初(はな)からない」

 

 背中同士が、触れた。

 体温に震える。

互いの息が混ざり合い、一歩、同時に踏み出す。

 

由依ちゃんは、靖国通りに並ぶ警察車両を見る。

俺は、花道通りに広がる、武装した黒い部隊を見た。

 

 銃口も、制圧部隊も、実況できないのにホバリングするドローンも、全てが二人に向けられていた。

 

 視線を合わせる時間はない。

 背中の感触だけで、十分だった。

 

 由依ちゃんが、一歩踏み込む。

 重力が歪み、前列の盾が吹き飛ぶ。

 

 空いた隙間に、七里が滑り込む。

 強引に隊列を崩す。

 

 再装填の音。

 由依ちゃんが、鞭を振る。

 鞭が弾道をなぞり、銃弾が宙で散った。

 

 七里は、倒れ込む警官を抱え、路地へ転がす。

 巻き込ませない。

 

 空気が震え、ビルのガラスが落下してくる。

 背中合わせのまま、二人は同時に一歩踏み出した。

 次の瞬間、二人がいたはずの場所で、ガラスが砕け散った。

 

 考えるより先に、身体が答える。

 離せるわけがない。背後の苛烈な熱を失ったら、終わってしまう。

 背中合わせのまま、二人の呼吸が、同じ速さになる。

 

「壊すしか!」

 

 由依ちゃんの声音が質を変えた。

 ドローンが失速し、落ちていく。

 先に陥没したアスファルトが、亀裂を広げていく。

 大きな音と共に、水がじわりと吹き出した。

 

 この先には、戻れない境界がある。

 

 ――やめろ。

 

 嫌な予感に凍り付く。

 制圧部隊も、黒レスラーも、逃げ遅れた誰かも――。

 すべてが飲み込まれる。

 

 由依ちゃんの深淵へ――。

 

 上げようとする由依ちゃんの右腕を、背後から掴んだ。

 訝しげに振り向く由依ちゃんに、首だけで応え、ヘルメットのシールドを上げる。

 

「それ以上は、守れない」

 

 切れ長の目が、見開かれた。

 炎が宿った瞳が、なおも苛烈に光る。

 

「それをやったら――、もう、俺を選ばないってことだ」

 

 直接、二人で見合った。

 時間だけが、やけに重く落ちてきた。

 由依ちゃんが、俺のヘルメットに口づけをする。

 ヘルメット越しの温度だけが、残った。

 

「……そう。じゃあ、ブレイカーは敵ね」

 

 腕が勢いよく振りほどかれた。

 由依ちゃんは、前に出ていく。

 俺は、女王様から離れた。

 市民を守るために――。

 

 

 銃声が響く。

 重力のうなりが、街を震わせる。

 拡声器は、警告を発しているのか、撤退を発しているのか。

 すべてが、重なって崩れる。

 

 背中が寒い――。

 

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