陰の実力者の親友 作:はちりんご
騒動から5日が経った。からといって私が何かをするわけではないのでイータに会いに来ていた。彼女は王都に来ていたりカゲノー男爵領の近くにある古代都市アレクサンドリアにいたりするので私が会いに行かないと会えない。時もあるが、今は作戦もあり王都に来ているようだ。
「なんか、楽しそうだね。良い発見でもした?」
私とイータはイータの研究室でお互いの研究成果について話しながらまったりしていた。
「まぁね。実は今計画通りにいっていたら面白い実験が進行しているところなんだ。昔イータが似たようなことをしていた気がするね。相手が違うけど」
「何?それ?詳しく聞かせて」
彼女は普段だるそうにしているが実験のことになるとテンションが上がり話に集中してくれるようになる。私としてはそれで良いのだがアルファやイータを偶にお世話しているイプシロンからはいつもちゃんと話を聞いてほしいと言われているらしい。
「イータってちょくちょくシドに薬飲ませてるでしょ?でも、シドって全く効かないじゃん。だから相手を変えようと思って」
「誰に、したの?…もしかして、でもばれたら、怒られない?」
イータは頭に浮かんだようだ。それと、同時に不安げな顔をした。まぁ昔から怒られているであろう彼女からしたら自分ではなくとも誰かが怒られている姿を見たくはないのだろう。
「怒られるんじゃないかな?でもイータだって実験するとき怒られるかなんて一々考えてないでしょ?それに、私は今回に限って感謝されても良いと思ってる」
「アルファ様に、どんな薬を飲ませたの?それより、どうやって飲ませたの?そう簡単に飲んでくれないと思うけど」
それは中々に難しいことだった。アルファは基本いつだって警戒モードだ。しかしそんなアルファもシドとのプライベートな時間まで警戒モードということは無いだろう。その情報があれば簡単だ。
「アルファとシドが好きなハンバーガー屋に行ってね。アルファが頼んだ飲み物に薬を混入させた。それだけだよ。店員の子は震えていたね。少し可哀そうだったけど、しょうがないよね」
「確かに、それならアルファ様に怪しまれずに、薬を飲ませることができる。…それで、どんな薬を混入させたの?」
「うーん、特に名前とかないから効果を言うけど、本音を強制的に出させる。って感じかな?効果の強さは人に寄るからアルファがどれくらいまで影響を受けるかは分からないけど、…キスぐらいまでなら普通にするんじゃないかな?」
すると、イータは分かりやすく動揺した。久しぶりに見た気がする。イータは動揺してても分かりにくいからなー。
「ど、どうして?本音を出させるだけでどうしてキスまですることになるの?」
「さぁ、私にもどうしてそこまでになるのかは知らないけど、元々これはシドに使う予定だったからね。そのせいで本音を出させるどころじゃなくなってるのかもしれない。これでも、人間用に弱めたんだよ」
大変でした。せっかくたくさん用意した人型生物がどんどん壊れていくんだもん。
「そ、そうなんだ。ちなみに、その薬の呼びはどこにある?」
「あげないよ。イータに渡すとろくなことにならない」
「アレナに言われたくない。…でもいいや。今度マスターの身体解剖するから問題ない。ブイブイ」
イータは発想は可愛くないが行動は可愛い。私が男だったら助手にしていただろうな。
「出来るといいね。ちなみに、今日の作戦にイータは参加しないのかい?」
「しない。私はここにいる」
まぁ今回イータが出る必要はないからそんな気はしていた。
「そっかー、じゃあ私は実験でもしてこようかな?」
「なんの実験?」
「地中をどれだけ速く泳げるかの実験」
僕はアレクシアの婚約者であるゼノンと騎士団によって留置所的な所に入れられて取り調べを受け、解放されたのは5日後の夕方だった。
「おら、さっさと行け」
乱暴に背中を押されて建物から追いやられ、あとから僕の荷物が投げ捨てられた。瀬田着姿の僕は荷物から出した服を着て靴を履く。両手の指の爪は全て剝がされたため、やたらと時間がかかった。昔アレナが爪を剥がすのは時間がかかるから効率を求めるなら他の方法を使ったほうがいいと言っていたがまさか自身の身で体験することになるとは、彼女は未来を見ることでもできるのだろうか?
まぁ彼女が何を出来ても驚きは無いのでおいておこう。僕は一通り支度を終えると大きく息を吐いて歩き出す。大通りを行き交う人の流れが、殴られ血まみれの僕に注目する。
僕はもう一度息を吐く。
「落ち着け、落ち着け僕。あんま小物に来ても仕方がない」
僕は取り調べの騎士の顔を出来るだけ思い出さないようにして平静を保った。
「うん、僕はいつだって冷静だ」
大きく息を吐く。視界がクリアになった。気配を探ると少し後ろに怪しい影。尾行だ。まだ誘拐犯は捕まっていない。当然アレクシアの安否も不明。僕が無罪放免されたと思うほど脳みそお花畑じゃない。証拠不十分だっただけ、容疑はまだ晴れていない。
僕は俯き憔悴した様子を装いながら寮へと歩く。
その途中。
「あとで…」
囁きのような、ほんの小さな声。そして記憶に残るささやかな香水の香り。
「アルファか…」
夕方の大通りは多くの市民が行き交い、彼女の姿はどこにも見えなかった。
領の自室に戻り明かりをつけると、薄闇の中から一人の少女が浮かび上がった。
「食べるでしょ」
彼女の手には肉厚マグロの入ったサンドが。王都の有名店『まぐろなるど』のものだ。
「ありがと。久しぶりだね。アルファ。ベータは?」
5日間ろくなものを食べていなかったの句はサンドニかぶりついていた。最近はベータが僕の補佐をしてくれていた。
「ベータから連絡が来たのよ。厄介なことになっているわね」
ベットに腰かけ足を組むアルファ。
背中で輝くサラサラの金髪も、切れ長の美しい青い瞳もどこか懐かしい。しばらく見ないうちに随分と大人びて見える。
「そうだね」
僕はサンドの最後のひとかけを頬張って言った。
「はい、飲み物も買っておいたわ」
アルファは両手に持っていたジュースの片方を渡してくれた。
「ありがと」
二人そろってジュースを流し込んだ。
「はー、生き返る」
飲み終わりアルファを見ると、少し俯いて固まっていた。
「アルファ。大丈夫?」
「あなた、王女様のことどう思っているの?ロマンスを繰り広げていたようだけど」
「いや、特に何も。面倒くさい王女様だなとしか思ってない、けど」
アルファは僕にどんどん近づいてベットに思いっ切り押し倒した。
「アルファ?大丈夫?体調でも悪いの?」
あきらかに様子がおかしい。行動もそうだけど少し息が荒いようにも見える。でも何故?…そういえばさっき飲んだジュース。ちょっとだけ変だった気がする。少し舌がしびれるような感覚があった。そういうジュースなのかと思ったけど違うのかもしれない。
「シド、私はあなたが好きよ」
「え…」
いきなりすぎて状況を把握できていない。何故僕は顔を赤らめこちらを見つめているアルファに押し倒されていて告白されているのだろう?ドッキリ、いたずら?とにかく状況が分からない。
「どういうこと?」
「そのままの意味よ。私はあなたが好きよ。いえ、愛しているわ。あの日、あなたが私を醜い姿から救ってくれたあの瞬間から。ずっと」
「でも、それだけで」
「それだけではないわ!あなたにとっては大したことではないのかもしれないけど、私にとって全てよ。私はあの時に人生をあなたに捧げると決めたの!」
衝撃だった。僕はアルファに好かれていると思ったことは無かった。僕のことを好いている人なんて実験台としか見ていなそうなアレナ位なものだと思っていた。だから、人間として好みさらに恋愛的感情を抱かれることなんてないと思っていた。
僕は今まで陰の実力者になるため感情を削っていった。人との関係だって実験してくるアレナ以外とは基本なかった。そんな僕には恋愛感情がどんなものなのかが理解できない。
「だとしても、こんなごっこ遊びに付き合ってもらっちゃってるし」
「ごっこ遊び?」
ん?おかしい、アルファの反応がおかしい気がする。今も十分おかしいけどさっきとはまた変わった空気を感じる。
「そうでしょ。ディアボロス教団なんて嘘の組織を捏造して幼いアルファたちを騙して遊んで。成長してアルファたちはそんな組織は存在しないとわかって僕のもとを離れた。でも、いつまでもごっこ遊びを続ける僕に付き添ってくれて」
アルファは黙ってしまった。何秒か経った後に僕のことを獲物を見るような目で見おろしてきた。その姿はとても妖艶で初めてあった頃からは想像できない姿だった。
「じっくりと話を聞きたいところだけどあまり時間もないし無理やり終わらせるわ」
アルファは僕の顔に一気に近づいて唇に唇を重なり合わせた。避けたこともできたと思う。避けなかったのは避けるべきではないと判断したのか避けたくないと思ったのかどっちかは分からない。
そういえばいつだったかアレナと恋愛について話をしたことがあった。その時にアレナは「シドは多分恋愛が出来る人間だと思うよ。シド自身は出来ないと思っているかもしれないけどね。シドは修業の末に感情が薄くなっていって欠落するレベルにまでなった。だから、元々は有ったから何かの拍子に恋愛感情が戻ることがあるかもしれない。選ぶのはシド次第ではあるけど、恋愛をしてみる選択肢っていうのも良いと思うよ」
これからアルファとの関係がどうなるかは分からないけど今は目の前にいる大切な女の子に集中しよう。