陰の実力者の親友   作:はちりんご

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11話

「報告は以上ですか」

 

その凛々しく美しいその姿に、報告を行った騎士は頬を染める。

 

「い、以上ですアイリス様。引き続き捜査を行います。

 

アイリスは頷いて、報告を行った騎士の退出を促す。

 

扉が閉まり室内に残されたのはアイリスともう一人、金髪の端正な顔立ちの男だった。

 

「ゼノン侯爵、今回は協力感謝します」

 

「学園の敷地内で起きた事件です。私にも責任はありますし、何よりアレクシア様の身が心配で」

 

ゼノンは目を伏せて悔しそうに唇をかむ。

 

「あなたには剣術指南役の仕事もあります。あなた個人の日を問うものはいないでしょう。今はただアレクシアの無事を祈りましょう」

 

「そうですね…」

 

「それで、シド・カゲノーという学生が犯人である可能性が高いというのは確かですか?」

 

「私も学園の生徒が犯人だとは考えたくはないのですが、状況的に彼が怪しいのは事実です。しかし彼の実力から考えるとアレクシア様と直接対峙して勝てるとは思えない」

 

ゼノンは言葉を選びながら話す。

 

「だとすると協力者がいたか。薬物を使ったか。だが彼は騎士団の尋問にも口を割らなかった…」

 

カゲノー、カゲノー、アレナが時々訪れていた領地がカゲノー男爵領だった気がする。アイリスは心の靄が取れた。のような気分だった。話を聞き始めた時からずっとどこかもやもやしていたのだ。

 

となると、アレナに彼について聞いた方がいいのかもしれない。それに、アレナは薬品にも詳しい。何か事件解明のヒントが得られるかもしれない。

 

「何か引っかかるところでもありましたかアイリス様?」

 

「いえ、何でもありません。彼には信頼できる騎士を監視に付けています。報告を待ちましょう」

 

「アレクシア様の無事を祈ります」

 

ゼノンは礼をして退出する。その時、開いた扉から一人の少女が室内に滑り込んできた。

 

「アイリス様!話を聞いてください!」

 

「クレア君!何をしているんだ!失礼しました、すぐに退出させます」

 

ゼノンは滑り込んできた少女クレアを抑えて連れ出そうとする。

 

「まぁまぁいいじゃないですか。話ぐらいなら聞いてあげてもいいんじゃないですか?ゼノン先生?」

 

ゼノンがクレアの勢いを止めようとしている時アレナは部屋にゆっくり入ってきた。

 

「アレナ!どうしてここに?」

 

「そこで暴れてるクレアさんに誘われて突撃しに来ました」

 

アイリスはあまりにも急な展開に唖然としたが、すぐに切り替えた。

 

「そ、そうですか。ゼノン侯爵、クレアさんを離してください」

 

ゼノンは少し迷ったが従いクレアを離した。そしてクレアはアイリスの作業している机の前までどしどしと音を立てて進んだ。

 

「弟は、シドは。アレクシア王女を誘拐するような子じゃありません!きっと何かの間違いです!」

 

「騎士団は間違いが起こらないように慎重に捜査している。あなたの弟が犯人だと決まったわけじゃない」

 

「ですが、このまま真犯人が見つからなかったら処刑されるのは弟です!」

 

そんな未来にはどうやってもならないだろうけど実際そうなったらシドはどうするんだろうねぇ。シャドウとして現れるのか死んだように見せかけるのか、そのまま死ぬのか。…無いな。

 

「騎士団は慎重に捜査している。間違いで処刑するようなことはない」

 

「ですが!」

 

「クレア君!」

 

アイリスに必死で詰め寄るクレアを、ゼノンが止めた。

 

「もうやめたまえ。君の気持ちもわかるが、これ以上は騎士団に対する侮辱になる」

 

クレアはゼノンを、そしてアイリスを睨みつけた。

止まるなクレア、負けるなクレアもっと言っちゃえ。不満を全てぶつけるんだ。ここで終わったら消化不良でしょ。ゼノン位なら殴っても私がもみ消そう。

 

「もし、あのあの子に何かあったら…!」

 

いいぞ。言え。

 

「クレア君、やめないか!!」

 

クレアの言葉を遮って、ゼノンは強引に外に連れ出した。

あーあ、終わっちゃった。せっかく面白い展開になりそうだったのに、あの三流ごときが。

 

勢いよく絞められた扉を見つめて、アイリスは溜息をつく。

 

「家族を思う気持ちは同じか…」

 

ポツリと呟いた。

 

うーん、なんかシリアス的な雰囲気になりそう。

 

そう感じ取った私は音を一切立てずに部屋から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレクシアが目を覚ますと、そこは薄暗い室内だった。窓はなく、蝋燭一本が唯一の明かり。壁はい雫利で、頑丈そうな扉が正面にある。環境音など聞こえない静かな空間。

 

「ここは……」

 

学園からの帰り道、ポチと別れてからの記憶がなかった。体が動かすとガチャ、と金属のこすれる音が響いた。

 

見ると、彼女の志士は台座に固定されていた。

 

「魔封の拘束具……」

 

魔法は練ることができない。自力での脱出は困難だろう。

 

いったい誰が何の目的で連れ去ったのか。誘拐、脅迫、人身売買…一通り考えてみたが確証は得られない。アレクシアに王位継承権は無いが、王女という立場にはそれなりの利用価値があることを知っている。結局、今ある情報では答えが出そうにない。

 

アレクシアは思考を止めて、ふと思った。

 

シドは無事だろうか。最近できた性格の悪い友人。アレクシアは物怖じせず物を言う彼を気に入っていた。元々アレナから少しだけ話を聞いていたが、実際に会って話してみてアレナが気に入る理由がよくわかった。彼女は私に劣らないプライドの高さを持っている。そんな彼女が気に入るとなればそのプライドをへし折るぐらいの実力だと思っていたが、そんなことは無かった。しかし彼は謎の雰囲気を持っている何もかもが適当で腹が立つこともあるが、一緒にいて悪い気はしない。

 

もし、巻き込まれていたら彼の命はもう…やめよう。

 

アレクシアは頭を振って辺りを見渡した。

 

石壁、鉄扉、燭台、そして…黒いごみのような塊。その塊はアレクシアの隣で、なぜか鎖につながっていた。興味深く見つめていると、それは少し動いているようだ。

 

呼吸している。

 

それはぼろ布を着た生物だった。

 

「あなた聞こえる?言葉が分かっ……!」

 

それが動いたアレクシアを見た。それはもう化け物だった。

 

アレクシアが今まで見たこともない、醜く痩せた化け物が鎖につながれていたのだ。

 

黒くただれた顔はかろうじて目と、鼻と、口が判別できる。全身はいびつに肥大し、右腕がアレクシアの足より長い。逆に左腕はアレクシアのものより細く短く、何かを抱えるかのように胴に癒着している。

 

そんな化け物がアレクシアのすぐ横にいた。アレナなら直せるだろうか?……難しいだろう。彼女がけがをした動物を助けてきたのを何度も見てきたがこれはもう生き物としての在り方から違う。

 

アレクシアが四肢を固定されているのに対して、化け物は首輪でつながれているだけだ。化け物がその長い腕を伸ばせばアレクシアに届くかもしれない。

 

アレクシアは化け物を刺激しないように、息を潜めて視線を背けた。

 

見られている。

 

自信を観察する化け物の視線を感じる。

 

しばらく、時が止まったかのような静寂の後…ジャララ、と鎖が鳴った。

 

アレクシアは横目で隣を見た。化け物が身を伏せ、眠りに入ったようだ。アレクシアは安堵の息を吐いた。

 

しばらくして、正面の扉が開かれた。

 

「ようやく!ようやく!手に入れた」

 

入ってきたのは白衣の瘦せこけた男だった。頬はこけ、目はくぼみ窪み、唇はひび割れている。頭髪はまばらで、皮脂でべったりと張り付き、悪臭が漂う。

 

「王族の血!王族の血!王族の血!」

 

白衣の男は連呼しながら細い針の付いた装置を取り出す。血を抜かれるのだろう。アレクシアも城の医師に何度か抜かれたことがある。

 

がしかし、王女を誘拐してまで血を求める理由が分からない。

 

「聞いてもいいかしら」

 

アレクシアは状況に違わぬ落ち着いた声で言った。

 

「ん、んん?」

 

白衣の男は変な呻きのような声でアレクシアに応えた。

 

「私の血を何に使うのかしら」

 

「き、き、君の血は魔人の血。魔人を現代によみがえらせるのさ」

 

「なるほど素晴らしい考えね」

 

と、言ってはいるが、さっぱり意味が分からないが男が正気でないこと、宗教何かに入れ込んでいることは分かった。

 

「けれど、あまり血を抜かれると困ってしまうわ。私はまだ死にたくないもの」

 

「ヒヒ、ヒ、分かってるよ。沢山ほしい、だから毎日少しずつ抜く」

 

「ええ、そうしてちょうだい」

 

アレクシアの血に利用価値があるうちは殺されることはないだろう。反抗せず、

従順であれ。アレクシアはとりあえず救助が来るのを待つことにした。

 

「こんな、こんなはずじゃなかった。全部馬鹿どものせいなんだ」

 

「そうね。私も馬鹿は嫌い」

 

馬鹿の相手は疲れるもの、と白衣の男を見据えてこっそり呟く。

 

「僕の、僕の研究所を破壊していって。オルガの馬鹿が最初にやられたんだ」

 

「そうね、オルガの馬鹿が最初ね」

 

私は適当に相槌を受けながら同情したように見せる。

 

「そこから次々と、ああぁぁぁあ!」

 

「可哀そうに、大変だったのね」

 

「そうだ、そうなんだ!僕の、研究があと少しだったのに!あと少しで完成させなきゃ、僕は破門だ、破門だ……!」

 

「そんなひどいわ」

 

「ち、ちくしょう、役立たず、役立たずが!」

 

白衣の男は鎖に繋がれた化け物に近づき、蹴り飛ばした。何度も、何度も蹴り飛ばし、踏みつけた。化け物はただ丸まっていた。怯えるように、我慢するように、自分を守るようにして。

 

「私の血を抜くんじゃなかったの?」

 

「そうだ、そうだ、君の血、君の血があれば完成する」

 

「よかったわね」

 

白衣の男は装置を構えて針をアレクシアの腕に押し付ける。

 

「これで、これで、完成する。ぼ、僕は破門されない」

 

「痛くしないでね」

 

殴りたくなるから、とアレクシアは心の中で付け加えた。

針がアレクシアの腕に刺さった。赤い血がガラスの容器に満たされていくのをアレクシアは他人事のように見つめた。

 

「ヒヒ、ヒヒヒ……」

 

容器に血が満ちると白衣の男はそれを大切そうに抱えて出ていく。

 

アレクシアは扉が閉まるのを待って深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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