陰の実力者の親友   作:はちりんご

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前話が原作ほぼまんまだったので2週間分出します。


12話

全てはこの日の為に。

 

取り調べから解放されて2日、アルファとのあれこれや長年の勘違いの解消など多くのハプニングがあったが、僕は寮の自室で自慢の『陰の実力者』コレクションから使えそうなものをピックアップしていた。

 

葉巻は……まだ似合う年じゃない。ヴァンテージワイン……フレンチ南西部ポルトーの逸品90万ゼニーだ。いいね、月の隠れた今夜にぴったりだ。ならば最高のグラスをこれに合わせて……これはフレンチで統一、ビトンのグラス45万ゼニーだ。他にもアレナから貰ったアンティークランプにそれから偶然拾った幻の絵画『モンクの叫び』を壁にかけて……素晴らしい。

 

ああ、心が満たされる。

 

盗賊狩りをしたのも、這いつくばって金貨を拾ったのも全てはこのため。

 

僕は選び抜かれたコレクションから出来上がったばかり自室に感涙する。あとはこれに今日届いたばかりの招待状をセットして、時を待つだけだ。

 

僕はその瞬間を待った。

 

その待ち時間にアルファとのことを考えた。

 

何故アルファがああなったのかは本人から聞いた。アレナから貰った薬を僕に飲ませようとしたらしいのだが何故かアルファに薬の効果が出てしまったらしい。本人に聞いたわけではないので分からないがアレナがどこかのタイミングでアルファの飲み物か食べ物のに薬を秘密裏に混入させたのだろう。

 

アレナはそうやって誰かを囮に別の誰かに仕掛ける。そういうのを好む。よくやられていたから覚えている。明らかに怪しい飲み物を先に出しておいて、ばれたかのような演技をして後に持ってきた水に薬を混ぜる。これのせいでアレナの家で出されるものを睨んで大丈夫か確かめる癖がついてしまった。

 

アルファは自分が嵌められたことに気付いた時怒るかと思ったが、意外にも幸せそうな顔をしていた。だが、後でしっかり説教すると言っていた。自業自得だね。

 

そんなことを思い出しているうちに、ベータの気配がしてきた。

 

そして、僕は漆黒の少女が窓から入ってくると同時に呟く。

 

「時が満ちた……今宵は陰の世界…」

 

そうすべてはこの日の為に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、シャドウの下を訪れたベータを迎えた言葉だった。

 

シャドウはベータに背を向けたまま足を組み椅子に座っていた。無防備な背中、だがその背中が何よりも遠いことをベータは知っている。その手にはワイングラスがアンティークランプに照らされて輝いている。そして何気なく飲んでいるワインの銘柄は酒に疎いベータでも知っている一流のものだった。

 

部屋を彩る一級品の数々、そして壁に掛かった絵画を見つけてベータは驚愕した。幻の絵画『モンクの叫び』だ。いくら財を積んでも、決して手には入らないまさに幻の一品。一体どうやって手に入れるのか、ベータは思わず尋ねそうになるが、そんなことに意味はないと気づく。

 

彼だから手に入れられたのだ。その一言で全ての説明がついてしまう。

 

彼が『モンクの叫び』を所持していることはただ当然の結果なのだ。むしろ彼以外にふさわしい主など、世界中どこを探しても見つからないだろう。

 

そんなシャドウに対してベータは一つ気になっていることがあった。それはアルファとの関係だ。

 

ベータはシャドウと会う前、報告のためにアルファに会っている。その時のアルファはいつもからは想像できないほど浮かれていた。ずっとにやにやして偶にシド♡と呟いていた。なのでアルファとシャドウの関係性が変わるまではいかなくとも確実に何かが起きたことは確かだ。

 

そもそも第1席であるアルファはシドとの関係性が他の七影に比べ厚い。エルフらしい美しさに加えガーデンを束ねる実力を持つ、そのため憧れの眼差しを向けられている。そのため冷静沈着を常に保っている。そんなアルファが浮かれているのだから気になってしまうのもしょうがない。

 

「陰の世界。月の隠れた今宵は正に我等に相応しい世界ですね。とっ、ところでシャドウ様。その先日アルファ様とな、何かあったんでしょうか?」

 

「え、……ごほん。どこでそれを?」

 

シドは予想外の質問に一瞬動揺するも、いつも通りの陰の実力者モードに入り言葉を出したが少しだけ動揺が漏れていた。

 

「その、アルファ様の様子がいつもと違いまして、シャドウ様の名前を何度も呟いていましたので、先日アルファ様がシャドウ様の部屋へ報告しに行った際に何かあったのかと思いまして」

 

「…確かに、先日アルファが来た際にハプニングが起きたが、それはベータが知る必要はない」

 

「そ、そうですか。……計画の話に戻りますが、準備が整いました」

 

ベータはシャドウからの一言によりショックを受けつつも深堀してシャドウにウザがられるのは避けたかったので気持ちを抑え込んで報告をした。

 

「そうか」

 

何もかも知っている。そう錯覚してしまうほど、見透かした声。

 

いや、事実これから語るベータのの言葉はほぼすべて見透かされているのだろう。まぁ実際アルファとアレナから報告をもらっているので知っているのだが。

 

それでもベータは続けた。それが、彼女の使命だから。

 

「アルファ様の命により近場の動かせる人員は全て王都に集結っさせました。総勢114名」

 

「114名?」

 

一応ガーデンの戦力がそれってきていると勘違いを解いた後、少し話をした時にアルファから聞いた。しかし詳細な数字は聞いていなかったので驚いた。

 

「ッ……!」

 

少なかっただろうか?

 

シャドウガーデンの戦闘力を考えれば、むしろ十分に思える。

 

が、しかし。

 

ベータは思い違いに気づく。

 

114名の有象無象など所詮は脇役なのだ。事実、適応者は全体の一割にも満たない。今宵の主役は彼だ。社役を彩る脇役と考えた時、114人という数字はあまりにも、あまりにも少なすぎる。

 

「も、申し訳……!」

 

「エクストラでも雇ったのかな……?」

 

ベータの声を遮って彼は言った。エキストラ、その単語の意味がベータには分からない。

 

「いや、何でもない、こちらの話だ」

 

「はい。……作戦は王都に点在するディアボロス教団フェンネル派アジトの同時襲撃です。襲撃と同時にアレクシア王女の魔力痕跡を調査、居場所を突き止め次第確保に切り替えます」

 

シャドウはただ頷き、先を促した。

 

「作戦の全体指示はガンマが、現場指揮はアルファ様が取り私はその補佐を。イプシロンは広報支援を担当、デルタが先陣を切り作戦の開始の合図とします。部隊ごとの構成は……」

 

ベータが詳細を語るのを、シャドウは片手をあげて制した。

 

彼のその手には一枚の手紙。

 

「招待状だ」

 

投げられたその手紙を受け取ったベータは、促されるままに中を読む。

 

「これは……」

 

それに書かれた余りに拙い誘いに、ベータは呆れと同時に怒りを抱いた。

 

「デルタには悪いが、…プレリュードは僕が奏でよう」

 

「はい、そのように手配を」

 

「付いてこいベータ」

 

彼はそう言って振り返る。

 

「今宵、世界は我等を知る……」

 

ベータは共に戦える歓喜に震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

招待状に掛かれていた場所は林道の奥だった。アレクシア王女が誘拐された現場に近いその場所に、シャドウは学生服で現れた。

 

ベータは彼から離れて林の中に気配を消し潜む。

 

しばらくして、新たに二つの気配が近づいてきた。

 

そして、何かがシャドウに飛来する。片手で受け止めたシャドウは、それを一瞥し呟く。

 

「これは……アレクシアの靴か」

 

と、その時。林道から二人の男が姿を現した。

 

「よう、色男。アレクシア王女の靴なんて持ってどうしたんだよ?」

 

「あーあ。バッチリ魔力痕跡残ってるな。犯人はお前だ、シド・カゲノー」

 

その二人の男は騎士団の装備に身を包んでいた。それは間違いなく、シドを尋問した二人の騎士だった。

 

「なるほど、そういうことか」

 

「ああ、そういうことだ」

 

シドの言葉に、騎士団の男は言い訳すらせずニヤついた。

 

「さっさと口を割れば、こんな面倒なことをする必要もなかったのによぉ」

 

「お前も痛い思いをせずに済んだだろうに」

 

二人は剣を抜き、無遠慮にシドの間合いに詰め寄る。

 

「さて、シド・カゲノー。王女誘拐の容疑で逮捕する」

 

「抵抗するなよ、抵抗しても無駄だけどな」

 

一人が笑いながらシドに剣を突き付けた。

 

その瞬間。

 

「お?」

 

シドはその剣を2本の指で止めて、そのまま一閃。

 

男の首から血が噴き出た。

 

「あッ……あッ……ぁ…‼」

 

男は首を押さえて倒れる。直に死ぬだろう。

 

「てめぇ何しやがった‼」

 

もう一人の男が、慌ててシドに切りかかるも、それはあまりにも安易で、拙い。

 

シドはただ首をかしげてそれをよけ、男の足を払った。

 

「あああああぁぁぁあッ‼」

 

血が噴き出る膝を押さえて、男が絶叫する。

 

「俺の、俺の足ぃぃぃッ」

 

そして、這いずりながらシドから距離を取る。

 

「て、てめぇ、医師団にこんなことをしてただで済むと思うなよ!お、俺たちが死んだら真っ先に疑われるのはてめぇだ!」

 

シドは、ただゆっくりと血の道を歩きながら男に迫る。

 

「ひ、ひぃッ!て、てめぇはもう終わりだ…!終わりだ…!」

 

ただ必死で、ぶざまに男は地を這う。

 

「夜が明ければ……二人の騎士の死体が見つかる。だが何も心配することは無い。夜が明ければ……全ては終わっているのだから」

 

「ひいッ!」

 

男の首が宙を飛んだ。

 

血の飛沫が舞う中で、シドが振り返る。その姿に、ベータは震えた。

 

学生姿のシドはそこにいなかった。

 

そこにいたのは全身に漆黒を纏ったシャドウ。漆黒のボディースーツに漆黒のブーツ、その手には漆黒の刀を携えて、漆黒のロングコートが風になびく。コートのフードを深く被り、顔の上半分は陰に隠れ下半分に光に当たる。その顔も奇魔術師のような仮面に覆われて、素顔がのぞくのは口元と、仮面の奥の赤い瞳だけ。

 

ベータは凛々しくも美しいその姿に気絶しかけるも済んでのところで耐えた。

 

と、その時。遠くで轟いた爆音がベータを現実に引き戻した。

 

「デルタか……ノクターンの始まりだ。ベータ、行くぞ」

 

 

「は、はい!今行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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