陰の実力者の親友   作:はちりんご

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13話

「ひぃッ……なんだお前は、俺たちが何したっていうんだよ!」

 

血の海。

 

まさしくそう表現するに相応しいこの場所で男は叫んだ。

 

それは突然やってきた。前触れもなく、理由も述べず、いきなり壁を突き破って殺戮を始めた。

 

今もまた一人、漆黒の刀の餌食となる。

 

もう誰もそれと戦う気などなかった。心にあるのはただ我先にと逃げ出したいという思い。しかし立った一つの出口はそれの背後にある。

 

「俺たちがあんたに何をした⁉何もしてねえだろ⁉」

 

それが男の方を向き嗤った。

 

漆黒のマスクにほとんど隠されたその顔は、しかしそれでも凶悪に嗤った。

 

「た、助けッ」

 

男の身体が左右に分かれた。脳天からまた下まで一直線に切断され、血を噴き左右に倒れた。

 

それは全身に血を浴びながら、降り注ぐ血をいとおしそうに受け止める。姿かたちは女性のそれだが、その要は正に悪魔だ。辺りを見渡し獲物が残り少ないことを確認すると刀を伸ばした。

 

比喩でもなんでもなく、それは壁を突き破るほど伸びた。それは伸びた刀を大きく振りかぶり、

 

「や、やめっ」

 

建物ごと、全てまとめて切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったわね」

 

建物が冗談のように切断され、崩壊していくのを、その美しいエルフは時計塔の上から眺めていた。黄金の長い髪は風に流され、夜の闇にきらめいた。

 

「だねー」

 

散歩をしていたら本来人がいないであろう場所に人影が見えたので来てみたらアルファがいた。

 

「デルタ……あの子はいつもやりすぎよ」

 

アルファは私に気づいていないのかデルタの行動に溜息をつき、首を振った。

 

「でも、やってしまったのは仕方がないよね」

 

「そうね。…わっ、いつから居たの?全く気配を感じなかったわ。というか、それどうなってるの?」

 

私は今地面から頭だけを出している状態になっている。これはシドのスライムから着想を得たものだ。まぁ今はそんなことは重要ではない。それはアルファも理解しているようで切り替え時計塔の上から王都を見渡した。

 

「ちょっとした実験の産物だよ。…今聞くべきかは分からないのだけどシドとはどこまでいったの?流石にまずいかなと思って見なかったんだけど」

 

シドだけならまだしもアルファのプライベートを邪魔するわけにもいかない。まぁ報告が目的だったから仕事中かもしれないけど。

 

「それっていつもは見てるってこと?だとしたらかなり問題だと思うのだけど」

 

アルファは私を呆れるように見ていった。

 

「それは違うよ。偶にしか見てないよ。いくら私でも人のプライベートを全て把握したいとは思わないよ」

 

「そうかしら?あなたなら相手のすべてを知りたいとか言って行動を監視し始めそうだけど」

 

アルファは私を何だと思っているのだろうか。私はそこまで歪んでいないよ。

 

「私はする予定はないが、もしアルファがシドの行動を監視したいというならその手図代くらいなら出来るよ。どうだい?シドが起きてから寝るまで学校での様子や放課後の動きまで全てを把握することができるかもしれないよ」

 

実際、本当にできるかは分からない。ただ、やろうと思えば可能なのではと思っている。監視用の実験体もいるし準備は万端だ。後は、誰かやってくれる人がいないかなと思っていたところだ。

 

「…考えておくわ」

 

アルファ少しの間をおいて答えた。これは近々実行することになるかもしれない。とても楽しみだ。

 

「ごほん、…デルタ。予想よりも思いっきり暴れているわね」

 

王都が慌ただしく動き始めている。デルタがやりすぎるのもまぁ予想の範囲内だ。

 

そして、その注目は建物を切り刻んだデルタに最も集まっている。

 

「久しぶりの舞台だからね。張り切ってしまうのも仕方がないよ。それに、ここにはシドもいる。頑張ったら褒めてもらえるかもって、より張り切っているかもね」

 

「それはありそうね。あの子シドに会えるのを楽しみにしていたから」

 

そう言ったアルファの顔をカゲノー夫人に近しいものを感じた。我が子を思い心が温かくなるような。私にはそのような感情は今のところ芽生えていないから詳しくは分からないが。

 

「まぁデルタのおかげで他が動きやすくなっている部分はあるんだし良いんじゃない?」

 

「そうね。周辺の被害にさえ目をつむればだけどね」

 

それは、気にしちゃいけない。それを気にしていたらデルタは使えない。

 

「それじゃ、私も動くとするかなー」

 

私は陰から出て狐の仮面をつけた。

 

「何、その仮面?初めて見たのだけれど」

 

「これはねー。特に意味は無いんだけど、流石に顔丸出しで行くとまずいから。急遽シャドウガーデンとして活動するために作ったんだよ。キャラづくりは大切でしょ」

 

他にも髪を三つ編みにして王女の私ではありえない姿を作り出している。髪の色だけは変えていないけれど。

 

「確かに、ばれたらまずいわね。それより、今回は動かないんじゃなかったの?」

 

そういえば動かないとかなんとか言ったっけ。

 

「動かないつもりだったんだけどね。ちょっと旧友との約束を守るためには今回アルファについて行かないといけなくなっちゃってね。本当は色んな所を見るつもりだったんだけど計画が崩れてしまったよ。だからよろしくね」

 

「はぁ、本当にあなた達にはいつも振り回されてばかりだわ。…分かったわ。付いてきて」

 

アルファは漆黒のマスクで顔を隠しながらそう言った。

 

それにしても、達ってのが気になるな。一体誰と一緒にされたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外が慌ただしい。

 

アレクシアは数時間ぶりに目を開けた。

 

この部屋に来るものはあの白衣の男と世話係の女性ぐらいなもので、相も変わらず台座に四肢を拘束されているアレクシアには寝るぐらいしかすることがない。

 

同居人の化け物ともまぁ相互不干渉ということで上手くやっている。

 

外の喧騒は次第に激しさを増し、何かしら争いが起きていることを伝えてくる。

 

アレクシアは救助を期待して笑った。

 

「派手に壁ぶち破ってくれないかしら」

 

特に理由もなく呟く。相当ストレスが溜まっているのだろう。

 

無意味だと知りながらガチャガチャと高速を鳴らす。

 

と、その時。

 

「ごめんなさい。起こしてしまったかしら」

 

隣の化け物が顔を上げた。

 

「けれど起きていた方が良いわ。きっと楽しいから」

 

答えが返ってくることは無いと知りながら、アレクシアは話しかける。退屈は人をおかしくする。

 

しばらくして、部屋の鍵が開く音が響いた。それも慌ただしく、落ち着きがない様子だ。

 

「ちくしょう、ちくしょう‼」

 

白衣の男が勢いよく扉を開けて入ってきた。

 

「ごきげんよう」

 

「あと少し、もう少し何に‼」

 

明らかに楽しんでいる様子のアレクシアの挨拶を白衣の男は無視する。

 

「や、奴らが、奴らが来やがった‼お、おしましだ、もうおしまいだ」

 

「諦めなさい抵抗は無駄よ。私の拘束を解いてくれれば、あなたの命を助けてもらえるよう頼んでみるわ」

 

頼むだけ、とアレクシアは小さくつき加える。

 

「や、奴らが、見逃すものか‼み、皆殺し…皆殺しだっ!!」

 

「騎士団は無用な殺生はしないわ。抵抗しなければ命までは奪わないはずよ」

 

そんなことはない、とアレクシアは心の中で自分にツッコミを入れる。

 

「騎士団だって?騎士団なんてどうでもいい!や、奴らは、奴らは皆殺しだ、皆殺しなんだぁ!!」

 

「騎士団じゃない?」

 

だとすればいったい何者だろうか。いや、この男が錯乱しているだけの可能性もある。

 

「どちらにせよ、もう終わりよ。諦めなさい」

 

「嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!ぼ、僕は、あれさえ完成すれば!!」

 

頭をかきむしって、白衣の男は血走った眼を化け物に向けた。

 

「し、試作品は作った。こ、これなら、出来損ないのお前でも役に立つ」

 

そう言って、白衣の男は針の付いた装置を化け物の腕に押し付ける。

 

「やめておいた方が良いわ。なんだか嫌な予感がするわ。

 

割と真面目に、アレクシアは言った。

 

白衣の男は当然無視して、化け物の腕に針を突き刺し何かを注入する。

 

「さ、さぁ、見せてみろ、ディアボロスの片鱗をぉ!!」

 

「わー楽しみね」

 

すると、化け物の身体が膨張した。筋肉がみるみる発達し、骨格すら成長して伸びていく。もともと太く長かった右腕は、さらに凶悪に禍々しく肥大し、人の足ほどもある長い爪が生えていた。左腕は変わらず何かを抱きしめるかのように胴を癒着している。

 

化け物は甲高い叫びのような咆哮を上げた。

 

「す、素晴らしい、素晴らしいぞぉぉぉぉ!!」

 

「これは……驚いたわね」

 

しかし、当然それほどまでに急速な成長を遂げれば、化け物の拘束は耐えられはずもなく弾け飛ぶ。

 

「だからやめとけって言ったのに」

 

そしてグチャっと。

 

化け物の右腕で、白衣の男は断末魔すら残らずつぶれて死んだ。

 

「さて」

 

化け物とアレクシアの目が合った。

 

アレクシアは化け物の動きを注視した。四肢を拘束されているアレクシアに出来ることは限られる。だが何もできないわけではない。馬鹿の巻き添えで死ぬなんて御免だ。

 

化け物の右腕が振られる。

 

アレクシアはそれに合わせて可能な限り身をよじる。致命傷を避ければ…!

 

「…ッ!!」

 

化け物の右腕はアレクシアはそのまま壁にたたきつけられ悶絶した。

 

「ぐっ…!」

 

骨は無事、目立った外傷はない、まだ動く。アレクシアは自信の損傷を確認し、すぐに立ち上がる。

 

しかし。

 

そこにはもう化け物の姿はなかった。壊れた台座と、ぶち破られた壁。

 

「まさか…助けてくれた…?」

 

化け物の腕はアレクシアが身をよじるまでもなく外れていた。だとしたら…いや、単に狙いを誤っただけかもしれない。

 

「まぁいいわ」

 

アレクシアはつぶれた白衣の男から鍵を抜き取り、魔封の拘束を外す。ここで魔力を練られる。一度大きく伸びをして全身をほぐし、アレクシアは化け物が壊した壁から外に出た。

 

そこは薄暗く長い廊下だった。化け物に轢き殺された兵士が折り重なって倒れている。

 

「この剣貰うわね」

 

アレクシアは死体からミスリルの剣を拝借した。安物だが、最低限の仕事はするだろう。

 

そのまま長い廊下を進んでいき角を曲がると、そこに。

 

「勝手に逃げられては困るな」

 

「あ、あなた、どうしてここに」

 

アレクシアは驚愕に目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

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