陰の実力者の親友   作:はちりんご

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15話

アレクシアは知っていた。自身の実力では普通に戦ってもゼノンには勝てないということを。しかも今回は得物は安物の剣、そう長くがはもたない。だが、アレクシアは日々漠然と剣を振ってきたわけじゃない。姉を目標に自分に足りないものを理解し、それを埋める努力をしてきた。そして誰よりも姉の剣を間近に見てきた。アレナの協力で姉の剣技を分析してきた。アレクシアは既に姉の

剣を寸分の狂い鳴く思い描くことができるまでになっていた。

 

ならば、それを振るのは容易い。

 

「ハアアァァッァ!」

 

その一等はまさしくアイリスを彷彿させた。

 

「ッ・・・・!」

 

ゼノンの顔から初めて笑みが消えた。受け止める剣にも魔力がこもる。二つの剣は激しくぶつかり、そしてお互いに弾けた。

 

互角…いや。

 

わずかにアレクシアか。

 

ゼノンの頬に一筋の赤い線が刻まれていた。ゼノンは驚愕の表情で頬を拭い、血を確かめた。

 

「驚いた。こんなものを隠しているとは思わなかったよ」

 

ゼノンは血の色を確かめるかのように、角度を変えて掌を眺める。

 

「私を侮ったことを後悔させてあげるわ」

 

「ククッ、驚いたのは確かだが、本物には遠く及びわしない。ただ、せっかくだから、少し本気を出そうか」

 

そう言って、ゼノンは剣を構える。

 

「……ッ!」

 

空気が変わった。

 

ゼノンの纏う魔力が、より鋭く濃密に質を変えた。

 

「一つ言っておこう。私は今まで一度も部外者の前で本気をでしたことは無い。これから見せる剣こそが、正真正銘の私の剣であり、次期ラウンズの剣だ」

 

そして、大気が震えた。

 

「そんな……」

 

核が違う。

 

ゼノンの剣はまさしく、アレクシアが今まで見たこともない威力を秘めた一撃だった。天才と凡人の絶望的なまでの差がそこにはあった。

 

圧倒的な剣圧で迫るその刃を、アレクシアは防ぐ術を持たない。

 

ただ、長年の修練で染みついた反射的な動きだけで受けた。

 

衝撃なんてものはなく、剣がたた砕けた。

 

アレクシアの剣が一方的に砕け、粉々に舞い散った。キラキラと輝くそのミスリル片を、アレクシアはどこか遠くの方から見ているような気がした。

 

どこか遠く。

 

剣を振るのが楽しくて仕方がなかった幼い頃の遠い記憶が、アレクシアの脳裏に蘇った。

 

アレクシアの隣にはずっと優しい姉と、生意気な妹がいた。

 

「君は姉のようにはなれない」

 

アレクシアの瞳から一筋の涙がこぼれた。

 

「一緒に来てもらうよ」

 

その手から柄だけになった剣が落ち、乾いた音がした。

 

その時。

 

カツ、カツ、と。

 

ゼノンの背後の階段から音が響いた。

 

カツ、カツ、カツと。

 

誰かが階段を下りてくる。そして、音が止まったそこに……。

 

漆黒のロングコートを纏った男がいた。全身に纏った漆黒、フードを深く被り、顔には奇術師のような仮面。

 

「漆黒を纏いし者。君が近頃教団にかみついてくる野良犬か」

 

ゼノンが鋭い眼光で漆黒の男を睨む。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」

 

「なるほど。小規模拠点を幾つかつぶしていい気になってるようだが、君たちがつぶした拠点に教団の主力は一人もいない。ただ雑魚を狙っているだけの卑怯者だ」

 

シャドウと名乗った男は、ゼノンと敵対しているようだ。アレクシアにとっては朗報だ。しかし、この男が味方だとも思えない。

 

「どいつを狩ろうとどこで狩ろうと同じことだ」

 

「残念だが、同じにはならない。教団の主力はここにいる、君は今日、私の手によって狩られる運命にある」

 

ゼノンがシャドウに剣を向けた。

 

「次期ラウンズ第12席ゼノン・グリフィ。君の命、ラウンズへの手柄とさせてもらおう」

 

そして、疾風の突きをシャドウに見舞う。

 

しかし。

 

シャドウの姿がかき消え、刺突は虚空を切る。

 

「なにッ⁉」

 

直後シャドウはゼノンの背後に立っていた。たった一瞬で完全に背後を取られたのだ。

 

動けない。

 

ゼノンは時を忘れたかのように、剣を止め、呼吸すら止めて背後に全神経を集中した。

 

「それで……教団の主力とやらはどこだ」

 

 

 

ゼノンの顔が屈辱に歪んだ。そして振り向きざまに剣を薙ぎ払う。

 

が、誰もいない。

 

「バカなッ!」

 

バサッと、コートのなびく音がした。

 

シャドウは、最初の場所で何事もなかったかのように立っていた。

 

外から見ていたアレクシアでさえも、シャドウの動きが全く見えなかった。これが、種も仕掛けもないとすれば、相当な…いや、規格外と言ってもいい実力者だ。

 

ゼノンは動揺を隠すように抑えてゆっくりと振り返る。

 

「なるほど、少し見くびっていたようだ。さすが、小規模とはいえ幾つもの拠点を壊滅させただけのことはある」

 

そして今度は油断なくシャドウを見据え魔力を高める。アレクシアの剣を砕いた一撃以上の高まり。

 

シャドウは確かに規格外の実力者だ。しかしゼノンもまた、尋常ではない実力者なのだ。幼いころから振動と騒がれ数多の大会で優勝し、剣術指南役にまで上り詰めた男。

 

「見せてあげよう。これが、次期ラウンズの力だ」

 

アレクシアはゼノンの剣をかろうじて目で追うことしかできなかった。

 

しかし、シャドウは違った。

 

「鈍い剣だ…」

 

いつの間にか漆黒の刀に、容易く受け止められた。

 

「くッ…!」

 

ゼノンは鍔迫り合いで押し勝とうとする。そしてシャドウはそれを逆手に取り力を抜き、勢いを利用し投げ飛ばした。

 

「フッ…!」

 

ゼノンは壁にぶつかる寸前で、かろうじて受け身を取り剣を構えなおす。その表情からは動揺を隠せないでいた。

 

「来ないのか、次期ラウンズ」

 

動けないでいるゼノンにシャドウは言った。

 

ゼノンの表情が憤怒に染まった。敵への怒り、そして何よりも地震への怒りに。

 

「舐めるなァァァァァア‼」

 

咆哮ともに剣を薙ぐ。

 

しかし、全てが通じない。

 

「アァァァァァアッ‼」

 

虚しく聞こえた。まるで大人と子供の稽古だ。

 

カン、カン、カンと。

 

場違いなほど軽い剣の音が辺りに響く。それはまさしく稽古の音だった。

 

その姿にアレクシアは見入ってしまった。漆黒の刃に魅せられて、目が離せないでいた。なぜなら、それは…。

 

「凡人の剣」

 

幼い頃、アレクシアが考え抜いた理想の剣の完成形。それは、才能でも、力でも、悩差でもなく、ただ基本の積み重ねによってたどり着ける剣。

 

その凡人の剣が今、ゼノン・グリフィという天才を圧倒している。

 

「すごい…」

 

アレクシアは救われたような、これからの道を導いてくれたような気持ちだった。

 

「ガッ……く、クソ…!」

 

ゼノンが宙を舞い吹き飛ばされる。何度目になるかわからない。

 

ゼノンの域は荒く、憤怒の瞳でシャドウを睨んでいる。

 

「き、貴様っ、いったい何者だ」

 

確かに、シャドウほどの実力者なら、全くの無名であるのはおかしい。たとえ、顔を隠していたとしてもこの剣筋を忘れることは無い。ゼノンは多くの大会に出て、見てきた。そのゼノンが知らないのはおかしい。

 

「我らは『シャドウガーデン』。陰に潜み陰を狩る者」

 

ゼノンはシャドウを睨む。シャドウはそれに興味のなさそうに、見返す。

 

「いいだろう。貴様が本気だというのなら、私もそれに応えようじゃないか」

 

ゼノンはそう言って懐から赤い錠剤を取り出した。

 

「この錠剤により、人は人を超えた覚醒者となる。情人では扱いきれずに、自滅するが。私は違う」

 

ゼノンは錠剤を一気に飲み込んだ。

 

「覚醒者3rd」

 

一瞬にしてゼノンの傷が治っていく。筋肉は締まり、瞳は充血し、毛細血管が浮き出る。

 

「最強の力を見せてやろう」

 

余裕の笑みを取り戻したゼノンが言う。

 

この状態ならアイリスすら超えている世界最強だろう。シャドウを知る前のアレクシアなら。

 

「醜い……」

 

「醜い…」

 

アレクシアとシャドウはゼノンを見て同じことを考えた。

 

「醜いだと…?」

 

笑みを消してゼノンが問う。

 

「その程度で最強を語るな。それは最強への冒涜だ」

 

「貴様ッ」

 

「借り物の力で最強への冒涜だ」

 

シャドウはち密に魔力を高めた。稲妻のように、血管のように、シャドウを取り巻き、美しき光の模様を描いていた。

 

「真の最強とは何か…その眼に刻め」

 

漆黒の刀に魔力が集い紋様を刻む。

 

それは螺旋を描きながら力を集約させていく。

 

「これが我が最強」

 

大気、大地、全てが震えている。

 

しかし、アレクシアにとってそれは恐怖ではなく歓喜だった。

 

これこそが到達点。

 

「刮目せよ……」

 

『アイ・アム・アトミック』

 

音が消える。

 

夜空は照らされ、王都が青紫に染まった。

 

 

 

 

 

どれだけの時間、佇んでいただろう。

 

「アレクシア…アレクシアッ!」

 

遠くで、誰かが息を切らして叫んでいた。

 

「姉様…アイリス姉様!」

 

アイリスが欠けてきた。有無を言わさずアレクシアは抱きしめられた。

 

「無事でよかった…本当に」

 

アレクシアもおずおずとアイリスの背中に手をまわした。

 

涙が溢れて止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドウがアトミックを放つ少し前。アレナは空中にいた。

 

「良かったのか?アイリス嬢には研究のこと言ってないんだろう」

 

そして、よくわからない飲み物を飲んでいるラング爺さんは風を感じているアレナに言った。

 

「んー?まぁね。でもクーちゃんが外に出るチャンスなんて中々ないからね。チャンスを逃すわけにはいかないよ。それに、アイリス姉さんは鈍いから目の前にいたのが私だと気づかないでしょ」

 

鈍いというよりは頑固なところがあるからこんなにも優等生で大人しい私が怪しい組織に所属しているとは、決して信じない。これがアレクシアだったら話は変わってくるけど。

 

「そうか、それでその子がアレナの探し物か?」

 

アレナが抱きかかえている少女を見て爺さんは興味深そうに尋ねた。

 

「そうだよ。探してはいなかったけどね」

 

というのも場所は知っていた。ただ、助けるのが難しかったのでチャンスが来るのを待っていた。

 

「そうか、アレナが探す位だからどんな怪物かと思ったが、可愛らしい少女だったのだな」

 

「私に怪物趣味は無いよ」

 

「でも、あの研究所は怪物だらけだったぞ」

 

「見る場所が悪かったんじゃない?」

 

普段爺さんがどう過ごしているのかは知らないが、クーちゃんの場所から一番近いゾーンには確かに戦闘機能や若干のホラー感がある怪物がいる。そのせいで行く人が少ないのが私としては残念だ。

 

爺さんに管理させても面白いかもしれない。どうせ、暇してるだろうし。…でも、この子によっては暇じゃなくなるのか、まぁいいや。その時は私が今まで通り管理すれば良し。

 

私の腕に包み込まれている少女を眺めながら考えを固めた。

 

「だと、いいがのぅ。…ところで、良いものが見れると言って連れてこられたが、それはいつ見れるんだ?」

 

「はいはい、そういえばそんなこと言いましたねー。えっと、あっちの方を見てれば多分見れる」

 

そう私が言った瞬間にそれは起こった。シャドウの魔力によってそこらへん一体の魔力が飲み込まれた。

 

「なんじゃ!?この魔力は!」

 

爺さんは、珍しく目を見開いて驚いた。しかし、すぐに閉じていつも通りの落ち着いた表情になってしまった。

 

「凄いでしょ。あれを作り出したのはシャドウ。シャドウガーデンの長。一応私もシャドウガーデンに入ってます」

 

「教団と違って楽しそうだな。……それで、シャドウは何者だ?」

 

そりゃ、教団と違って友達がいるからね。まぁ教団にもいないわけじゃないけど。

 

「親友だよ。そして、私の生涯最大の実験対象」

 

爺さんにはそういう人が居たのだろうか?まぁ軍人だから戦友の一人や二人いるか。シドと私は戦友とは違うけど。

 

「…それはすごいな」

 

その言葉がどういう意図尾をっているかは私には分からない。

 

「それじゃあ、見たいものも見れたし帰りますか」

 

私たちはクーちゃんの飛行に1時間ほど付き合った後、研究所に戻った。

 

 

 

 

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