陰の実力者の親友 作:はちりんご
アレクシアのしょぼしょぼタイムも終わった頃、私は国王の元に向かっていた。
しかし、困ったことに私は王が普段どこで過ごしているのかを知らない。
だってしょーがないよねー。普段の移動が自室から庭だけなんだから。
「それにしても広いなー。無駄にでかい」
どうして貴族や王族。権力を持つものは着飾ろうとするのか。まぁ、でもあれか。お年玉をもらっておもちゃを買う子供や、バイトで初の給料をもらってすぐ遊びに行く。みたいなものか。
「アレナではないですか。こんな所で何をしているのですか?」
そんなことを考えていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、アイリス姉さん。ここで迷子を堪能してます」
「な、なるほど。迷子ですか。そういえば、何人か貴方を探している人がいましたよ」
なるほど。探されていたか。確かに呼ばれてから30分以上経っているし、探されてもおかしくないか。
「それは、急がないとですね。ちなみに、王様はどこにいますか?後、そこへの行き方を教えてくれませんか?」
「だったら、私が連れて行ってあげるわ。はい」
彼女は手を差し出してきた。
私は、腕を組み考えた。この手が何を意味しているのかを。…分からない。
「なんですかこの手は?何か欲しいんですか?」
分からないことは聞く。大切なことだ。自分で考えることも大切だが、効率が落ちるので、聞いた方が良い。これは、実と会話していて気づいたことだ。
「あっ、アレナとは無かったかしら?手繋いだこと。アレクシアはいつも手を繋いでいたからその癖で」
彼女は、少し申し訳なさそうな顔をしながら手を戻していく。しかし、私はその手をつかんだ。
「いえ、繋いでください。自分の住処で迷ってしまう。少女と」
そう言い、手を繋ぐと彼女は幸せそうに笑った。彼女のちゃんとした笑顔を見たのはいつぶりだろうか。彼女のことだから基本笑っているだろうが、私は年々人に会う機会が減少しているので見る機会が無かった。
「ええ。そういえば、アレナはいつも何をしているのですか?あまり城内では見かけないので」
彼女は私の手を引っ張ってゆっくり歩き始めた。
「実験ですよ。私は、アイリス姉さんやアレクシアのように剣術に興味があるわけではないので」
「そうなんですか。例えばどんな実験をしているんですか?」
彼女は優しい声で聴いてくる。そして、私の顔を眺めこんでいる。
「最近したのはー、寝ているアレクシアの体に魔力を流してどんな反応が起きるのかとかですかね。結局体が光るくらいで終わっちゃいましたけど」
「それ、アレクシアに許可はとったの?」
彼女は足を止め私の目をじっと見た。
「勿論。とってません。そもそもなぜそんなこと聞くんです?」
「いや、だって普通寝ている間に魔力を流されるなんて怖いでしょ?」
怖い?何故。面白いだろう。寝ている間に体の中身が変化してるんだぞ。こんな興味のそそられること中々体験できることではないだろう。それに、私の部屋に勝手に来て寝始めるアレクシアが悪いだろう。
「…思ってなさそうだね。取り敢えず、人に許可をとらないで実験するのは辞めなさい。後、部屋から何日も出てこないのは辞めなさい。心配です」
彼女はそう言い、また私の手を引っ張って歩き出した。
はて、なーんで実験の内容を話したのに怒られてるんだろう?それに二つ目は実験関係ないし。
「はい。善処します」
「そうしてくださいね。さて、着きましたよ。ここに陛下がいますよ」
ここは、王室だった気がする。多分。あんまり行かないので良く覚えてない。王に会う時はいつも急に部屋に来て直ぐ帰っていくから私から会いに行くこともないし。
「アイリス姉さんありがとうございます。では」
私は頭を下げお礼をした後、ノックをして扉を開けた。
「王様。第3王女アレナ・ミドガルが訪れましたよ」
部屋に入ると、王と補佐官?のような人がこちらを見ていた。アレクシアやアイリス姉さまとも違った目だった。
「30分遅刻しているぞ。謝罪の一つもないのか」
王はいつも通り表情を変えず言った。怒ってるようにも解釈できる。個人的には、興味ないのではと思っている。
「申し訳ございません。道中で迷ってしまいまして、中々たどり着けなかったもので」
私は、目下の者らしく頭を丁寧に下げた。全く下だとは思っていないが、外向きだけでもちゃんとしなければならない。一応、相手はこの国の王だから。
「…そうか。ところで、二人とは仲良く出来ているか?」
二人?…アレクシアとアイリス姉さまのことか。そーんなこと聞いて何の意味があるんだ。まぁいい。取り敢えず適当に返しておこう。
「仲は良好ですよ。特に問題もありませんし」
「そうか。それは良かった」
「何が良かったかは理解できかねますが、それより本題に入りましょう王様もお忙しい身。話は短い方が良いでしょう?」
王は、一瞬考えるそぶりを見せたが、特に表情を変えなかった。
残念だ。せっかく挑発気味に言ってあげたというのに、本当にこの人はつまらない。隠しているだけかもしれないが、アレクシアのような反応の良さもなければ、実のような異常さも無い。王としては良いかもしれないが、人間として、実験体としてつまらない。
「ああ。では、本題に入ろう。そもそもなぜ呼ばれたかわかってるか?」
分かってなかったらまず来ない。私は、実と違って無駄なことはしない。
アレナは実験以外では効率厨なところがあり、学校の課題なども、数秒で答えを導き出せない場合は即答えを見るようにしている。そして、それを実が写す。それまでがセットだ。
「ええ、カゲノー男爵家のことですよね」
「ああ、一応聞いておくが、本当に行くのか?」
「ええ、行きますよ」
これは、絶対だ。別に今すぐである必要はないのだが、早いに越したことは無いだろうということで早めに行くことにした。
「分かった。しかし意外だな。昔から何も求めてこなかったというのに、この執着。カゲノー男爵家に何か有るのか?」
生まれてから一度も何かを要求をしてこなかった子供が、絶対に行きたいとか言ったらそりゃ気になるか。
「有るかは行ってみないことには分かりませんが、有ったにしろ無かったにしろ面白くなりそうなので」
「そうか。ちなみに、もし私が行くことを駄目だと言ったら、どうしたんだ」
なるほど。今回は予想よりすぐ快諾してくれたが、本来王族がそう易々と出かけるものではないか。問題があってからでは遅いし。
「特に何もしませんよ。ただ、知り合いの御仁にちょっとした秘密を話してしまうかもしれない。それくらいですよ」
王は少しだけだが、苦い顔をした。あの顔だけで、今日は楽しくアレクシアをいじれるかもしれない。
「…そうか。では、向かう時に騎士団と一緒に行ってもらう。期間は3日後から1週間だ。好きなように過ごしてくるといい」
「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」
私は、扉を静かに閉め部屋を後にした。
アレナが部屋を出たことを確認した後、二人が会話している間黙っていた補佐官は口を開いた。
「本当によろしかったのですか?治安がもしよかったとしても、アイリス様ならともかくアレナ様ではいざという時危なくないですか?」
補佐官は普段王の決断に対し意見することは少なかったが、今回は違った。国内とはいえ、王都からも離れ治安の保証もできない。そんな場所にろくに戦闘もできないアレナが向かう事を許可する王の考えを理解できなかった。
「確かに、王族のものが騎士団が付いているとはいえ遠出をするのは危険だ。しかし、あの子は違う。あの子は上二人とは違い剣に興味を示さず、稽古もしていないが、確実に他のことは違う何かを持っている」
王の言葉が力強さと恐怖がいじり混じっていた。何か恐ろしいものと正面から向き合おうとしているような。
「私には、ただのか弱い少女にしか見えません。ど、どうしてそう思うのですか?」
補佐官は軽くパニックになっていた。王の言ったことが全く理解できなかったからだ。彼から見たアレナというのは、城でまれに見かけることのできる第3王女。上二人とは逆で基本部屋に引き籠りひたすら実験をしている。そんな暴力とかけ離れた存在。
「勘だ。何か根拠があるわけではない。ただ何か腹に一物抱えてそうで、とんでもない秘密を隠しているように見えてしょうがない。だからお前もよく注目しておくといい」
次の客人が着たりと、忙しくなり二人はその話を辞めた。
実験の続きをしていると、数ぐに時間は経っていき、出発する時になっていた。焦って準備をして、列車に乗った。前世では当たり前のように乗っていた列車だが、今世では中々乗る機会もなく初めてだった。とはいえ、感動とかも特にしなかった。それよりも窓から見える景色の方が面白かった。まぁ、基本的には自然の大地といった感じだったが。
「ん?なんだこの紙?」
荷物を見ていると、入れた記憶の無い手紙サイズの紙が入っていた。開いて見てみると、書いたのはアレクシアらしい。
「いつ入れたんだ?それと、書く時間なんてあったかな?」
アレクシアに出かけることを言ったのは昨日の夜。今日は朝から準備を手伝ってもらってたし、まぁ、いいや。あの子は偶によくわかんない行動するし。
内容は、「行き先で実験をするのは辞めなさい。ふりじゃないわ。でも、くそ野郎が居たら思いっきりやってしまいなさい。それじゃあ、土産話待ってるねー。後、良いお土産もね」
「なんか思ったより普通だな。家爆発してこいとか書くかと思ってた」
ツッコミながら読んでいると、騎士団の一人が来た。
「アレナ様そろそろご到着です。降りる準備を」
「ああ、ありがとう」
もうか。思ったより早かった。飛んで行ったら数時間といったところか、でも、疲れそうだし来るなら偶にかな。
列車から降りて、カゲノー家に向かいながら町を見て回っていた。治安に関しては、まだ昼とはいえ良さそう。しかし、何も無いな。大きな森に囲まれているので何か名物を作り出すのは、難しいかもしれない。
「アレナ様がここにいらした理由を聞いてもよろしいですか?」
列車で到着を知らせた騎士が話しかけてきた。
「王女らしい意見とアレナ・ミドガル個人としての意見。どちらが聞きたい?」
この騎士は、いろいろあって話す機会が多い。こいつなら私の王女ではない部分のことを聞いてもいいだろう。
「そうですね。では、アレナ・ミドガルとしての意見をお聞かせ願えますか?」
「単純に、カゲノー男爵家に私の知り合いがいるかもしれないから。それが無かったとしても来る価値はあったけどね」
本当に良かった。ここは面白い。王都にも面白いものはたくさんあったけどここはそれに匹敵するかもしれない。
「そうですか。…着きました。カゲノー男爵家です。あちらに立っていますのが、オトン・カゲノー男爵です」
私は、カゲノー男爵家と使用人たちに迎えられた。
「初にお目にかかります。オトン・カゲノーと申します。お見知りおきを」
「初にお目かかります。オカン・カゲノーと申します。ほら、二人もご挨拶を」
まずは、カゲノー夫妻が丁寧に挨拶をした。
温厚そうだが、どうだろう?それにしても、名前すごいな。めっちゃ分かりやすい。
「ク、クレア・カゲノーです。初めまして」
はー、美人。でも、なんでだろう?大和撫子って感じがあまりしない。それと、この子まだまだ強いな。なるほどね。注目されるわけだ。仲良くしておいて損はない気がする。でも、それは損がないだけだ。なんかアレクシアにちょっと似てて嫌かもしれない。
「ええ、初めまして。アレナ・ミドガルです。よろしくお願いしますね。クレアさん」
私はクレアの手を優しく取り、握手した。クレアは、少し動揺していたが、握り返してくれた。
固いな。アイリス姉さまほどではないけど、結構固い。剣をやってる人は手が固いのがなー。私が剣をしない理由にこれがあるんだよね。まぁ、実験で色々持ってるから私の手も柔らかくないんだけど。
「ほら、シドも挨拶しなさい」
「初めまして。シド・カゲノーです」
クレアに、背中を強く叩かれ、よろけながら挨拶をしたシド・カゲノーという少年の姿にとても見覚えのあるものだった。
ははっ。やっぱりだ。この何も考えていなそうなあほ顔に、感情のこもっていない声。見つけた。
その日の夜中。館が静まり返った頃にそいつは森で盗賊を蹂躙していた。
「今宵。貴様らは、私によって世から消えることだろう」
ははははは。やっぱりそうだ。私の仮説は合っていた。彼が、影野実だと。
「10年ぶりだね実。相変わらずのいかれ具合で安心したよ」