月の呼吸の後継者。   作:赤いUFO

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鬼殺隊最終選別。

 産屋敷に隠された小さな民家。

 そこは一組の家族と一人の付き人によって完成世界。

 

「ハァッ!」

 

「クッ!?」

 

 十代半ばくらいの少年が父から一本取る。

 自分に打ち込んだ息子を見て父は大きく息を吐く。

 

「強くなったな勝己……もう俺じゃあ相手にならないか」

 

「そんなことはないけど……」

 

 謙遜する勝己に父は首を振る。

 

「いや。俺は剣士としての才に恵まれなかった。だがお前は保志家の剣士として類稀な才覚を持って生まれた。それこそ、歴代でお前以上に呼吸と剣の腕を持った者は居なかったかもしれん。だからこそ惜しいな」

 

 保志家はある呼吸をある時期まで後世に伝えていく為だけの家。

 それまでただ山の中にあるこの家でひたすら剣の腕を磨き、伝承していく。

 それが産屋敷家と交わした約束であり契約だった。

 

「なぁ勝己。お前は外の世界を知りたいか? お前が望むなら────」

 

 そこで父が言葉を止めると、来客が訪れた。

 白い髪の美しい女だった。

 

「お久しぶりです、保志家の皆様」

 

「あまね殿……!」

 

「誰?」

 

 勝己が首を傾げていると、父が無理やり頭を下げさせる。

 

「馬鹿! この方は産屋敷家現当主の奥方である産屋敷あまね様だ」

 

「え!? あ、はい、はじめまして?」

 

 気の抜けた返しをする息子に父が拳骨を落とした。

 その様子にあまねという女性は小さく笑みを浮かべる。

 

「かまいませんよ。貴方が勝平さんの息子ですね。はじめまして。私は産屋敷あまね。貴方に大事な話を持ってきました」

 

「……?」

 

 保志家の停まっていた時間が動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中に案内すると、産屋敷あまねはさっそく本題に入った。

 

「勝己を選抜試験に!?」

 

「はい。夫である産屋敷耀哉が保志勝己を選抜試験に出さないか、と」

 

 あまねからの伝言に勝平は首を傾げる。

 

「……理由をお聞きしても? 保志家は産屋敷に保護されて三百年。ここで"月の呼吸"の継承に努めて参りました。どうして今頃になって?」

 

 理由が分からず、疑問だけが頭の中で繰り返される。

 勝平の問いにあまねは困ったように少しだけ表情を動かした。

 

「夫は勘だと。膠着状態だった鬼殺隊と鬼の現状が変わるかもしれないと考えているのかもしれません」

 

 ふわっとした理由に勝平はますます眉間に皺を寄せた。

 しかし、保志家を庇護している産屋敷家の言葉を無視する訳にはいかない。

 どうするか考えていると、座っていたあまねが立ち上がり、勝己の近くによると問いかける。

 

「貴方はどうお考えですか? その気が無いなら断ってくれてもかまいません。断ったからと言って保志家への援助を辞めることもありません。正直に答えてください」

 

「行きます!」

 

 間髪入れずに返す勝己に父の勝平とあまねが唖然とする。

 そんな二人の気持ちも知らずに勝己ははしゃぐ。

 

「父上! 外ですよ外! 一生ここで過ごすのかと思ってたのに! こんな機会、もうありません!」

 

 ずっとここで意味もなく剣を振るい、子供に伝えて人生を終える。

 そう思っていたところにこの提案。

 これで話に乗らないという方が嘘というものだ。

 勝己の返答にあまねはそうですか、と座り直す。

 

「では三日後に行われる選別試験を受けてもらいます。明日には隠の者を寄越しますのでその者の指示に従うように」

 

「はい!」

 

 逆にこっちが不安になるくらい晴れやかな笑顔と返しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼殺隊入隊への最終選別。

 それが行われる藤の花が季節でもないのに咲き誇る藤襲山の近くまで案内された勝己は、連れて行ってくれた隠にお礼を言うと、足を踏み入れた。

 既に試験を受ける者達が大勢集まっていた。

 鬼殺隊に志願する者の理由は主に二つ。

 鬼に家族を殺されたか、その才覚を見込まれて育手に預けられたか。

 最後に狐の面を付けた、勝己と同じくらいの年齢の少年が到着すると十にもならないだろう黒髪と白髪の子供がやって来た。

 二人は試験について説明する。

 この藤襲山には鬼が嫌う藤の花が咲いている為、それを嫌う鬼が山から出られないこと。

 受験者はこの山の中で七日間過ごせば合格であるなど。

 

(要するに度胸試しかな……)

 

 鬼は山から出られないが、人間はいつでも下りられる。

 もしも鬼と遭遇して恐怖で戦えないならいつでも下りれば良い。

 そう納得して山へと勝己は入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日目

 

「このガキは俺が喰う!」

 

「いやオレの餌だ!」

 

 山に入って数時間後。勝己は鬼と遭遇した。

 どちらが勝己を喰うのか喧嘩している鬼を観察する。

 

「これが鬼かぁ……」

 

 二本差してある刀の片方の鞘を握る。

 それに鬼は警戒心を高めた。

 

「ちっ。仕方ねぇ! 生きたまま喰った方が美味いが、殺した方のモンだ」

 

「オレが喰ってやる!」

 

 そう吠えて向かってくる二体の鬼。

 

「月の呼吸、壱ノ型"斬月"」

 

 納刀していた刀を抜き、横一文字に一体の鬼の頚を刎ねる。

 

「なっ!?」

 

 残った鬼が事態を把握する前に次の技を繰り出す。

 

「月の呼吸、肆ノ型"月華美刃"」

 

 刀を何度も振るい、鬼の四肢と胴体を斬り捨てた。

 動けなくなったのを確認し、刃に付いた血を払う。

 

「コイツ、わざと……!」

 

「えぇ。私、鬼のことは正直書物や人伝でしか聞いたことがないんですよね」

 

 山の中で父を始めとした見知った顔としか過ごしてこなかった勝己は鬼に対する知識があまりにも乏しい。

 

「本当に日輪刀で頚を斬る以外に鬼は死なないのか。再生するにしてもどれくらいかかるのか。調べてみないと判りません。貴方で鬼の身体について調べようと思うんですよ」

 

 そう言って額を斬り飛ばす。

 

「へぇ。再生し始めてる。やっぱり頚を刎ねないと死なないのかな? 治るのはゆっくりでいいですよ。今日一日費やすつもりなので」

 

 再生を待ち続ける勝己に鬼は震え上がる。

 目の前にいるこの子供こそがまさに"鬼"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日目。

 

「水場を確保出来て良かった〜」

 

 川の水を飲んだ後に竹筒に補充する。

 ここを中心に残り六日を過ごそうと決めた。

 

「でも、ここに水が在るなら……」

 

 ここを餌場にしている鬼も居るかもしれない。

 次は食べ物の確保かなぁ、と考えていると、上から鬼が降ってきた。

 最初に遭遇した鬼より大きい。

 

「見つかるの早い」

 

「ここはオレの狩り場だ! 久しぶりの、人の肉っ!!」

 

 舌舐めずりし、襲いかかってくる鬼。

 技を繰り出そうとすると、突然の乱入者が現れる。

 

「猪突、猛進っ!」

 

 刃がところどころ欠けた二刀を持った猪頭のなにかが、鬼の頚を斬り落とす。

 いや、それはまるで獣の狩りのようだった。

 

(え? 人間? 鬼?)

 

 上半身裸で頭部が猪。

 人間なのかそうじゃないのかイマイチ勝己には判断出来ない。

 しかし、頚を斬られた鬼が消滅した事からあの刀が日輪刀であるのは間違いない。

 話しかけるか迷っていると、猪の頭がこちらを向く。

 

「お前、強いな」

 

「はい?」

 

「今の鬼とは比べ物になんねぇ、ヤベェ感じが肌にビンビンくるぜ!」

 

「ど、どうも? うわっ!」

 

 褒められたと思ってお礼を言うと、猪頭が斬りかかってきた。

 後ろに跳んでそれを避ける。

 混乱していると、怒ったのか怒鳴ってくる。

 

「逃げんな! 強者との力比べこそ我が愉悦! 俺とお前のどっちが強ぇか勝負だ!」

 

 再び突っ込んでくる猪頭。

 跳躍し、勝己の上を取る。

 

「獣の呼吸、肆ノ牙"切細裂き!"」

 

「月の呼吸、参ノ型"朧舞"」

 

 刀を抜いた勝己が猪頭の細かな連斬を捌き、脇をすり抜ける。

 

「逃げんなっつってんだろうが! 俺と勝負しろっ!」

 

「いえ逃げます」

 

 得体はしれないが、どうやら鬼では無さそうだし、斬る意味がない。

 跳んで木の枝に乗る。

 

「お互い、生き残れたらまた会いましょう」

 

 手を振ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日目。

 

「ウワァアアアッ!?」

 

「月の呼吸、壱ノ型"斬月"」

 

 襲われていた受験者と鬼の間に入って鬼の頚を取る。

 

「た、助かった……」

 

 安堵しているその人の刀は既に折れていた。

 鬼の硬い頚を斬ろうとして失敗したのだろう。

 

「貴方はもうこの試験()から下りた方がいいです」

 

 藤襲山に囚われている鬼は、かなり弱い方だと隠の人から聞いた。

 それで逃げ回るならハッキリ言って先がない。

 あまりにも実力が低過ぎる。

 

「俺は……おれ、は……家族の……」

 

 自分でも理解してしまったのだろう。

 こんなところで無様を晒している者は鬼狩りにはなれない。

 ボロボロと泣き崩れる受験者。

 

「山を出ない範囲まで送ります。どうか御自愛ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四日目。

 

 

「いぃやぁあああああぁああっ!? 死ぬぅ!!」

 

 鬼に襲われている金髪の少年を見つけて急いで助けに入ろうと動く。

 しかし金髪の少年が転んでしまった。

 転がった彼はそこから立ち上がる事もせずにピクリとも動かない。意識を失ったのかもしれない。

 それに焦って勝己は走る速度を速める。

 

「月の呼吸────」

 

 助けに入ろうとすると、彼は起き上がり、居合いの構えを取った。

 

「雷の呼吸、壱ノ型"霹靂一閃"!」

 

 まさに閃光の速度だった。

 一瞬で刀の届く距離まで詰め、すれ違いざまに鬼の頚を一閃。

 少し離れた位置に居た鬼達も次々と斬り捨てていく。

 

「アレは手助け無用かなぁ」

 

 勝己は金髪の少年とは反対方向へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五日目。

 

「おいそこのお前っ!」

 

 突然背後から話しかけられ振り向くと、そこには眼つきの鋭い顔に傷のある少年がいた。

 当然知り合いではない。

 ズカズカと近づくと彼は勝己が差している二本の刀を指差す。

 

「その刀、片方寄越せ!」

 

 盗賊かな? と思いながら首を傾げていると、彼は怒鳴ってくる。

 

「二本も刀があるんだ! 片方くらいいいだろ!」

 

 丸腰でここまで生き延びてきたのかと感心しつつ勝己は断りつつ説明する。

 

「あぁ。いえ、こっちの刀はただの御守でして。実戦で使える代物じゃないんですよ」

 

「知るか! 寄越せ!」

 

 乱暴に勝己から刀を奪い取ろうとする眼つきの悪い少年。

 彼が刀に手をかける前に、勝己が彼を突き飛ばす。

 

「イテッ!?」

 

「月の呼吸、壱ノ型"斬月"」

 

 少年の背後から迫っていた鬼の頚を斬り落とした。

 

「囲まれてる」

 

 おそらくは五体くらいの鬼がこちらを隠れて見ている。

 そしてそれはすぐにやって来た。

 

「隠れてください! 月の呼吸、陸ノ型"兎跳ね突き"」

 

 鬼の一体の頭上を取って、逆手にした刃を突き刺す。

 すぐに少年を襲おうとする鬼を斬ろうとするが、あろうことか彼は鬼に跳びかかり、その肉を喰らい始めた。

 その突然の行動に勝己だけでなく、鬼達も引いている。

 しかし、すぐに変化に気付く。

 少年は雰囲気が一変し、鬼の頭を掴んで頚を引っこ抜いた。

 あまりの力技に驚きつつも勝己は他の鬼を一掃する勢いで技を繰り出した。

 

 

 鬼を全て片付けると、息を切らして座っている少年に手を差し出す。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うるせぇ……刀、寄越せよ……」

 

 手を払い除ける彼に勝己は仕方無さそうに使ってない方の刀を差し出す。

 黙って刀の柄を差し出す勝己に少年は掴み、鞘から抜いた。

 刀身の半分を見た瞬間に少年は刀身を鞘に戻した。

 

「こりゃあ……」

 

「だから言ったでしょう? 実戦で使える代物じゃないって」

 

 そう言われてバツが悪そうに少年は舌打ちする。

 

「試験を諦めるなら、山の外近くまで送りましょうか?」

 

「ふざけんなっ! 俺はこの鬼殺隊に入って色変わりの刀を手に入れんだよ! そして柱に……!」

 

 思い詰めた様子でそう返す少年。

 なら、もうここに居る意味は無いと勝己はこの場を去ろうとする。

 

「待てよ!」

 

 まだなにかあるのだろうか? 

 振り返るとやはり彼はバツが悪そうに頭を掻いて。

 

「不死川玄弥だ。悪かったな、いきなり絡んで」

 

 謝罪された事に驚きつつも笑顔で自己紹介を返す。

 

「保志勝己です。お互い、この試験を突破しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 六日目。

 

 鬼に遭遇する事もなく、食料調達に勤しむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七日目。

 

「わっぷっ!?」

 

 眠っていた竈門炭治郎は突然水をかけられて意識を覚醒させる。

 

「生きてますか〜」

 

 目の前には女の子みたいな顔の男の子がいた。

 観世水柄の着物を着た知らない男の子。

 

「あぁ、生きてた。眠りが深くて危なそうだったから一応声をかけたんですよ。もうすぐ選別も終わりますから。水、飲みます?」

 

 炭治郎の顔にかけた水が入っていた竹筒を渡してくる。

 

「あ、ありがとう。疲労が一気に来たみたいだ」

 

 渡された竹筒の中の水を全て飲み干す。

 

「ごめん! 無くなっちゃった!」

 

「かまいませんよぉ。どうせもう元の場所に戻るだけですし。一緒に行きませんか?」

 

 まるで遊んだ後に帰り道を誘うような自然さで提案してくる。

 炭治郎の鼻は、彼の言葉に嘘はないと感じた。

 

「じゃあ一緒に。俺は竈門炭治郎! 君は?」

 

「私は保志勝己です」

 

「それにしてもすごいなぁ。俺はこんなにもボロボロなのに、勝己の着物には汚れひとつない」

 

「運が良かっただけですよ」

 

 その言葉が謙遜なのを炭治郎は感じ取る。

 

(この子、強い)

 

 最近は鬼の強さだけでなく、人の強さも嗅ぎ分けられるようになってきていた。

 だから判る。

 もしも自分がこの少年と戦ったら、初めて錆兎と闘った時のように負けると。

 

「炭治郎さんは、どうして鬼殺隊に? あ! 答えたくなければいいですよ」

 

「……俺は家族を殺されて」

 

「そうですか」

 

 鬼に家族を殺されたから鬼殺隊に入る。

 それも嘘ではないが、一番の目的は鬼になった妹を人間に戻す為。

 だが、それをここで口に出して良いのか判らず、黙っている事にした。

 

「私は山で暮らしてたんですけど、とある理由でそこから出ることを許されてなかったんです。でも鬼殺隊に入れば、山を下りて良いと言われたので」

 

 おかしな話だった。

 いったい誰がそんな事を決めたんだろう? 

 

「そしてもうひとつ。継国巌勝────という名の鬼の首を斬る。それが、私の目的です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の名前と年齢は保志勝己(ほしかつみ)14才です。

勝己と柱の任務で見たいのは?

  • 水柱
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