月の呼吸の後継者。   作:赤いUFO

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お墓参り

 鋼鐵塚が振るってくる包丁を白刃取りした勝己はここからどうしようかなーと考える。

 

「すみません鋼鐵塚さん! 俺が勝己に刀を渡したから!」

 

 止めに入った炭治郎に対して鋼鐵塚が視線をそちらに移す。

 

「そうだよてめぇが弱いからまた俺の刀が折られる羽目になったんだよ……許せねぇ。ぶっ殺してやるぅ!」

 

 炭治郎に標的を移す鋼鐵塚。

 そこで一緒に来ていたひょっとこのを付けた女性が彼の横っ腹を蹴りつけた。

 

「はーいはい。お客さんに手を挙げんな」

 

「ぐふっ!?」

 

 不意打ちに鋼鐵塚を蹴り倒すと、押さえつけるように背中を踏みつけるのは、勝己の担当鍛冶師である宇鉄金子だった。

 彼女は視線を勝己に移すと、にこりと笑ったような柔らかな声で話しかけてくる。

 

「お久しぶりです、勝己さん。お元気でしたか〜?」

 

「はい。金子さんもお元気そうで」

 

「最近は御依頼も多くて大変ですよ〜。この馬鹿と違って」

 

 そう言って持っている刀で踏みつけている鋼鐵塚を指す。

 

「それにしても、お二人とも上弦と戦ったんですってね〜。それで生き延びるなんて、将来は柱になるかもしれませんね〜」

 

「そんな……」

 

 金子の言葉に炭治郎は困ったように謙遜する。

 あの戦いは自分は見てるだけだった。

 そんな風に称賛されるべきではない。

 そう思っていると、踏まれている鋼鐵塚が藻掻きつつ抗議する。

 

「足退ける金子っ!! 大体こいつらが弱いせいで俺の刀が折られたんだよ! そんな煽てるようなことじゃねぇ!! 死んで償えぇっ!」

 

 などと騒ぐ。

 それを聞いていて勝己は段々苛々してきた。

 確かに刀を折ったのは悪かったが相手は上弦の参。

 生きて帰っただけでも儲け物である。

 こんな風に侮辱される覚えはない。

 

「でも、鋼鐵塚さんの刀より、金子さんが打ってくれた刀の方が何倍も使いやすかったです!」

 

「あら嬉しい〜」

 

「貴っ様らぁああぁああああっ!!」

 

 足を押し退けて鋼鐵塚が勝己に襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝己と鋼鐵塚のじゃれ合いを終えると金子から刀を手渡される。

 鞘から抜いて力を込めると、日輪刀の刃が前と同じ月色に変化する。

 軽く振るい。近くにあった兎の石像の首を落とす。

 

「なんか、前より手に馴染む感じですね」

 

「良かった〜。前に見せてもらった月の呼吸の型を参考にして勝己さんの身長や手足の伸びを予測して前のより少し長めにしたんですよ〜」

 

 正解でしたとほっとする金子。

 それに腕を組んだ鋼鐵塚が不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「ふん。相変わらず相手に媚びた刀しか作らん奴だ」

 

「職人気質と言えば聞こえは良いけど、独り善がりな刀ばっかり打って担当を外されるよりはマシだけどね」

 

 お互いに苛立たしい空気で押し合いをする鍛冶師の二人。

 この遠慮の無さが幼馴染故の気安さなのか。

 

「でも俺、鋼鐵塚さんが打ってくれた日輪刀好きですよ」

 

 愚直さを体現するような鋼鐵塚の刀は炭治郎に合っていると思う。

 

「蛍にはもったいない良い子ですね〜。あんたも炭治郎さんに感謝しないと駄目よ? 蛍はいつ担当替えてくれって言ってこない人は珍しいんだから」

 

「金子、てめぇ……!」

 

「蛍?」

 

「はい。鋼鐵塚蛍。これの名前ですよ〜。知らなかったんです?」

 

「意外とかわいい名前……」

 

「うるせぇぶっ殺すぞ! それとその刀寄越せ! 俺が研ぐ!」

 

「まだ諦めてなかったんですか?」

 

 勝己のボロ刀を奪おうとする鋼鐵塚を金子が抑え込んで無理やり帰らされて行った。

 新しい日輪刀の受け取り安堵していると、背後から声をかけられた。

 

「二人共……」

 

「しのぶさん!」

 

「あ、蟲柱様。どうしました?」

 

 振り向くとそこには蟲柱の胡蝶しのぶが立っていた。

 何故か笑顔なのに怒気が伝わってくる。

 彼女は指差すと、そこには首が落ちた兎の石像があった。

 

「あ……」

 

「それ、私が作ってもらった特注の石像なんですが、誰があんなことをしたのかご存知ですか?」

 

 さっさと名乗り出ろと圧をかけてくる。

 それに勝己が視線を逸らしたままで小さく手を挙げる。

 

「わ、私です……」

 

「あらあら。正直で偉いですねぇ。で? 斬った理由は?」

 

「日輪刀の斬れ味を試そうと……ちょうどいい位置と高さにあったので、つい……」

 

 言い終わる前にしのぶが勝己の首を掴んだ。

 

「勝己君、少しお説教が必要のようですね。来なさい。他にも色々と言いたいことがありますし」

 

 そう言って首根っこ掴んだ勝己を引きずっていくしのぶ。

 

「炭治郎君! た〜す〜け〜て〜っ!」

 

「勝己〜。しっかり怒られてこいよー」

 

 手を振って見送られた。

 無抵抗で引きずられながら、勝己はしのぶに話しかける。

 

「蟲柱様。ちょっといいですか?」

 

「なんです? 言い訳はお説教の後で聞きますよ?」

 

「そうじゃなくって……お墓参りってどういうことをすればいいんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しのぶからのお説教が終わった後に、胡蝶の屋敷から借りた桶や貰ったお線香と買った花を手にして勝己はそこに来ていた。

 鬼殺隊の隊士は身寄りが無い者も多く、任務で殉職すれば大抵の人間はここに供養される。

 もちろん鬼に喰われて墓下が空の者も少なくない。

 そこで勝己は目的の墓を見つけた。

 

「お久しぶりです。母上……」

 

 勝己が訪れたのは、母が眠る墓だった。

 病で亡くなった後、山に埋めるより、ちゃんした場所で埋葬された方が良いと父が産屋敷が管理する墓地へと亡骸を渡していた。

 勝己は教わった通りに墓石を綺麗にしお線香を上げて手を合わせる。

 そして心の中でこれまでの事を報告する。

 鬼殺隊に入った事。

 父とは手紙のやり取りをしていて、今は山で野菜を育て始めたらしく、近々帰ろうと思っている事など。

 色々な事を心の中で母に話しかける。

 そうしていると、この墓に近付く複数の気配を感じた。

 

「珍しいね。ここに行冥以外の者が来るなんて」

 

「あなた、は……」

 

 やって来たのは、何かの病か、顔に紫色の痣がある男性。おそらくは盲目。

 そして左右に、産屋敷あまねと最終選別で説明を行った女の子が男性を支えるようにしがみついている。

 あまねが男性に何かを耳打ちすると彼は、そうかとだけ頷く。

 

「初めまして勝己。私は産屋敷耀哉。君とは一度会わなければならないと思っていたよ」

 

 産屋敷家の現当主。

 どんな態度を取れば良いのか分からず、戸惑っていると、耀哉は家族に支えられながらゆっくりと近付いてくる。

 

「木島……いや、保志麻子のお墓参りに来たんだね。きっと彼女も喜んでいるよ」

 

「そう、でしょうか……」

 

 麻子とは母の名前だ。

 なにを話せばいいのか考えていると、耀哉の方から話しかけてくる。

 

「麻子を、君の父である勝平の下へ嫁がせたのは私だ。私が産屋敷の当主となって、初めて下した命令だった」

 

 鬼との戦いで手足を失った女。

 そして十五を迎えた父。

 与えられる役目は次の子を産む事だけだった。

 

「彼女は条件をひとつ付けて勝平の下へ嫁ぐのを承諾した」

 

「条件、ですか」

 

「そう。もしも生まれた子供が十四になったら、その子を鬼殺隊に入れてほしいという。私もそれを承諾した」

 

 ただ月の呼吸を継承するだけが存在意義だった保志家。

 何故勝己だけが下山し、鬼殺隊に入るのを許されたのか。

 その理由をようやく理解する。

 

「君は、山の外に出した私を、恨んでいるかい?」

 

 まるで親が子になんでもない事を質問するかのような声。

 

「私は……ずっと母上から鬼の存在を聞かされて生きてきました」

 

 子守唄の代わりに母は勝己に鬼の悪辣さや凶暴さ。そして無慈悲さを聞いて育った。

 

「母上がどんな気持ちでそんな条件を出したのか、私には分かりません」

 

 鬼を殺す道具として勝己が生きるのを望んだのかもしれない。

 だけど。

 

「山を下りて、たくさんの鬼と戦ってきました」

 

 鬼に殺される人達や、遺された人達を見た。

 常識に疎い勝己でも、あれは人として許してはいけない事だとは理解出来る。

 だから戦う事に迷いはない。

 

「それに、同じ道を歩く仲間が出来ました」

 

 共に戦う仲間。

 兄弟のような友達。

 

「ありがとうございます。母の願いを汲んでくれて」

 

 きっと手足を失った母が安全な余生を過ごせても、きっと悔いの多い最期になってしまっただろう。

 自分という鬼を狩る道具を世に出せた事で、少しでも安らかに逝けたのなら、それでいい。

 

「何も持ってなかった私に、一緒に歩く仲間が出来た。それだけで充分です」

 

 誰かの幸せを壊させない為に刀を振るい鬼を狩る。

 今の自分にはそれだけでいいのだ。

 

「……ありがとう、勝己」

 

 まるで大きな荷物をひとつだけ降ろしたように。

 そんな安堵の笑みを産屋敷耀哉は浮かべた。

 そこで勝己の鴉がやって来る。

 勝己の肩に停まると次の任務を言い渡す。

 産屋敷耀哉達を置いて行っていいのか一瞬迷うと、耀哉の方が行くように促す。

 

「行って来なさい。私達は大丈夫。ここはそう簡単には鬼に見つけられないし、君達の力は私達を守る為に使われるべきではない。君達の力はただ、鬼から人々を守る為に戦ってくれればいい」

 

「はい」

 

 そう言われれば行くしかなく、勝己はその場を離れようとする。

 そこで包みから饅頭をひとつ取り出した。

 お墓にお供えする用に買った物の余りだ。

 取り出した饅頭を産屋敷の子供に渡す。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 去っていく勝己に饅頭を手渡された子供はキョトンとした表情でその後ろ姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ。今回の任務は、玄弥君と一緒なんですね! よろしく!」

 

「けっ!」

 

 なんでお前なんかと、と言わんばかりに、不死川玄弥は差し出された勝己の手を叩いて拒否した。

 

 




先に言っときますが、遊郭編はやりません。

勝己と柱の任務で見たいのは?

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