保志勝平は薪割りをしながら鬼狩りの最終選別を受けに山を下りた息子を案じていた。
「大丈夫だとは思うが……」
勝平が言える事は何も無い。
何故なら彼はこの山を下りた事すらないのだ。
世間の知識は産屋敷から派遣される人からの又聞きでしか知らず、ずっとここで月の呼吸を継承せよという役割に徹してきたのだ。
勝平自身、子供の頃は外の世界への憧れもあったが、息子が生まれた頃からすっかり今の生活から出るのが怖くなってしまった。
そして、息子の勝己もまた外の世界への憧憬を抱いて育つ。
勝己は呼吸法も剣も驚くべき早さで修得し、十二を迎えた頃には父である勝平では勝てなくなっていた。
だからもしも息子が望むなら、外の世界に出す選択も考えていた。
丁度その時に鬼殺隊入隊の話が出た訳だが。
「丁度良いかもな」
ハッキリ言って、自分も息子もかなりの世間知らず。
鬼殺隊という組織の中で人間社会を学ぶ良い機会だろう。
それも、息子が選別を受かったらの話だが。
そんな心配をしていると、遠くから息子の声がした。
父上〜!
振り向くと、そこには大量の食べ物を抱えた息子が暢気な顔でこっちに歩いて来ていた。
「で? 路銀を使い切った上に走って帰ってきた訳か?」
「うん。だって美味しそうだったから。買い物の仕方は炭治郎君に教わったんだよ」
最終選別で仲良くなった子と帰り道が途中まで一緒で、そこで買い物の仕方などを教えてもらったらしい。
最初は露店に置いてある食べ物を勝手に食べたりしたのを怒られたりと大変だったが、炭治郎が親切丁寧に教えてくれた。
その結果、路銀を使い果たして走って帰ってきたとのこと。
「取り敢えず日輪刀が出来るまで待機だって」
買ってきた煎餅を食べながらそう返す息子。
ここに戻って来るまでに買い食いをしまくって多めに貰っていた路銀を使い果たしたという事実に本当に大丈夫かと心配になった。
それから半月程した後に、勝己が選んだ玉鋼で日輪刀を鍛えた刀匠がやって来た。
ひょっとこのお面を付けた体格や声からして女性。
「どうも〜。わたし、宇鉄金子と申します〜」
ペコペコと頭を下げながら抱えている箱を開け、鞘に納められた日輪刀を取り出す。
「これがわたしの鍛えた日輪刀です〜」
「どうぞ〜」
「どうも」
渡された日輪刀を抜き、強く握ると刀身が淡い金色に変化した。
「おわ〜。雷の呼吸の金色とは少し違いますね〜。わたし、この色好きです〜」
「ありがとうございます。ちょっと試し斬りしても良いですか?」
「どうぞ〜」
外に出て、近くにあった岩を斬る。
「おぉ~すごい斬りやすい」
前の刀は先祖の使ってた物で大分斬れ味が落ちてた事を実感する。
新しい刀の斬れ味に感心していると、鴉がやって来る。
「南ィ! 南ノ町デ子供ガ消エテイル! 子供ガ消エテイル! 鬼狩リトシテノ最初ノ仕事デアール!」
鴉の伝言を聞いて勝己は日輪刀を鞘に納めた。
「さっそくかぁ。宇鉄さん、刀ありがとうございました」
「気をつけてくださいね〜。鬼殺隊の初陣での死亡も多いと聞いてます〜。どうかご無事で〜」
「はい!」
鴉に案内してもらい、目的の町に着く勝己。
そこで彼は────。
「うまぁ……!」
屋台で蕎麦を貪っていた。
「こんな美味しいの初めて食べるぅ!」
「そ、そうかい? うちは味より一杯の量で勝負してるんだが」
気を良くした屋台のおじさんがおまけしてもう一杯食べさせてくれる。
二杯目を半分くらい食べて勝己は店主に質問。
「ねーねー、おじさん。この町で子供が消えてるって聞いたんだけど、なにか知りません?」
「んあ? あぁ、十くらいのガキが帰ってこねぇんだよ。この間も五、六人で遊んでた筈のガキ共が帰ってこねぇって近所で大騒ぎさ」
「へぇ」
温かい汁を飲みながらそう返す勝己。
「だからお前さんもそれ食ったら家に帰んな。巷じゃ鬼に連れ去られた、なんて話も広まってんだぜ」
どの辺りで子供が消えているのかなど、事件について聞いていると、突然後ろから肩を叩かれた。
「ん?」
「君、ちょっといいかな?」
話しかけてきたのは鬼殺隊の制服に似た色違いの洋服に帽子を被った二名の男性。
彼らは険しい表情で勝己を見ている。
「我々は見ての通り警官だ。ここに立ててある二本の刀は君の物か?」
「はい。私のです」
「……ちょっと来なさい」
世間から距離を置いて生活していた勝己は警察という存在を知らなかった。
日輪刀を取り上げようとする警官の手を払い落とす。
「触らないでください。これは私の刀です」
「君! 警察に逆らう気か!」
そう言って睨んでくる警官。
勝己本人は刀を差し直す。
呑気な勝己に警官の一人が手を引っ張って連行しようとする。
すると、少し離れた位置で勝己の動向を見ていた鴉が割って入ってくる。
「なんだこいつ!?」
「勝己、逃ゲロー! 逃ゲロー!」
鴉に指示されて勝己はお金を取り出して置く。
「ごちそうさまでしたー!」
「坊主! おつり!」
かなり多めに支払われた代金に店主がおつりを渡そうとするが、勝己は振り返らずに走って行った。
同時に鴉も引くと警官も勝己を追った。
新人とはいえ仮にも鬼殺隊士。
すぐに警官との距離が広がり、あっさりと撒く。
「ここまで来れば大丈夫かなー?」
日が沈みそうな空を見ながら呟く。
そろそろ、鬼の活動が本格化する時間だ
「
不思議に思いながら子供達が居なくなった場所に行こうとすると、家と家の間から突然引っ張られる。
「わっ!?」
そして壁に背中を打ち付けられた。
今度はなんだろうと思うと、そこには背が高めの鬼殺隊の制服を着た男が勝己の胸ぐらを掴んで睨んでいる。
「テメェ、あんな派手な行動しやがってどういうつもりだ?」
凄む男だが、なにを怒っているのか勝己には分からない。
首を傾げるだけの勝己に男は突き放すように手を放して舌打ちする。
「追加人員が来るって言うから待ってたってのに、テメェみたいな世間知らずのガキが来るなんざ、本当に運がねぇぜ」
苛立った様子を見せる男も鬼殺隊の一員だと理解した勝己は自己紹介を始める。
「私、保志勝己です。今日が初めての任務なのでよろしくお願いします!」
そう挨拶すると男の表情がますます不機嫌になる。
「ちっ。新人の葵かよ。ただの足手まといじゃねぇか」
その言葉には勝己も少しだけムッとなる。
「剣の腕には自信があります。足手まといにはなりません」
物心つく前から呼吸法と剣の修練に励んできた。
それだけが勝己を支える自信でもある。
勝己の反発を鬱陶しそうに鼻を鳴らす。
「足手まといになるならさっさと鬼に殺されろ。大体こんな任務、俺一人で充分なんだ」
背を向ける男に勝己が質問する。
「私、まだ貴方の名前聞いてません」
名前を訊くが、男は無視して歩いて行く。
「ねぇ無視しないでくださいよ!」
と、後を追ってくる勝己を男が邪魔そうに払う。
「邪魔だ! すっこんでろ!」
「これから一緒に鬼を狩りに行くんですから名前くらい教えてくださいよ〜。鬼殺隊の仲間でしょう?」
邪険にする男に対してくっついてくる勝己。
やがて根負けしたように不機嫌そうな顔そのままで名前を口にした。
「稲玉獪岳だ。足手まといになるようなら俺がテメェをぶった斬ってやる」
それから獪岳は嫌々ながら目立たないようにする為に竹刀袋を購入して勝己の刀を入れさせた。
鬼殺隊が政府に認められている組織ではない為、基本的に刀の持ち歩きは許可されて無い事など。
警察組織の存在など、勝己にとっては初めて聞く事ばかりだった。
教えてくれた事にお礼を言うと獪岳から返ってきたのは舌打ちだったが、それでもそういう常識を教えてくれるのはありがたい。
子供達が消えた周辺を張り込む。
しかし、事件のせいか、子供達は早く家に帰り、鬼が出てくる様子はない。
「こっちだ。来い」
獪岳に連れて来られたのは町の規模にしてはそれなりに大きな家だった。
「少し前からこの家の住人の姿が見えねぇらしい。ガキ共が消えたのもこの辺りだしな。行くぞ」
そう言って塀に跳び乗って中に侵入する獪岳。
勝手に入って良いのかな? と思いつつ勝己も真似て入る。
庭などはここ数日手入れをした様子がなく荒れ始めていた。
屋敷の中に入ると鼻についた臭いに思わず勝己は鼻を手で覆う。
それは、血の臭いだった。
「当たりだな」
日輪刀を抜いて臭いの元を辿っていく。
するとそこには────。
クチャクチャと嫌な音と部屋の外よりも強くなった血の臭い。
鬼が、拐っていた子供を食べていた。
こちらに気付いた鬼が振り向く。
「おうおう。人の家に許可なく入ってくるとは、躾のなってないわらしどもじゃて」
女鬼だった。
人間で言えば見た目獪岳より少し上くらいか。
額に角を生やし、ところどころ鱗のような肌が見える。
「まぁ、そこで待っておれ。今日はもう一人喰ろうて……」
「ひっ!?」
そう言って、まだ生きている子供が二人おり、手を伸ばそうとする。
「お?」
「触るな」
その瞬間、女鬼の伸ばした右腕が斬り飛ばされ、子供二人を勝己が抱えて距離を取った。
着地した勝己は怯えている男女の子供に笑いかける。
「大丈夫ですか?」
「あ、あう……あ……っ」
二人は恐怖で上手く言葉が喋れない様子。
そんな二人の子供の頭を勝己が撫でる。
「待っててくださいね。あの怖いモノは、すぐに退治しますから」
立ち上がって日輪刀を構えようとする。
しかし、違和感はすぐに気付いた。
(重い……)
日輪刀の重さがさっきまでとは別物だった。
肘から下を落とした女鬼の腕は既に手首まで再生している。
「クククッ。好みではないが、鬼狩りが今宵の馳走なのも悪くない」
勝己と柱の任務で見たいのは?
-
水柱
-
岩柱
-
風柱
-
恋柱
-
蛇柱
-
霞柱
-
蟲柱