月の呼吸の後継者。   作:赤いUFO

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初めての任務【後編】

「ハァ! ハァ! ハッ!」

 

 走る走る走る。

 日輪刀を差した少年が騒ぎの中心へと走る。

 耳に届く悲鳴や怒声。

 壁を染める血。

 そして転がっている斬殺死体。

 

(嘘だ嘘だ嘘だ!)

 

 この惨劇の元凶の名を聞いた瞬間、居ても立っても居られず飛び出してここまで来た。

 

師匠(せんせい)っ!!」

 

 騒ぎの中心には、少年の剣の師が鬼殺隊を束ねる産屋敷当主の首を手にしていた。

 

「あ……あぁ……っ!?」

 

 信じたくはなかった。

 自分の師が、鬼殺隊を裏切ろうとしているなど。

 少年は家族を鬼に殺され、鬼殺隊の剣士に助けられた。

 その後、最終選別を突破し、色変わりの刀である日輪刀が月の呼吸の適性を示していたので目の前の人物を紹介されて継子として弟子になった。

 月の呼吸の全集中の呼吸を修得、型を幾つか覚えた矢先の事だった。

 

「────か」

 

 師が少年の名前を呼ぶ。

 少年は刀に手を掛けた。

 

「もしも……そこから一歩でも動き、刀を僅かでも抜くようなことがあれば……その瞬間に貴様の首と胴は、泣き別れだ」

 

 師が静かで重い殺気に当てられる。

 それだけで身が竦み、呼吸が荒くなり、冷たい汗が全身から噴き出す。

 手が震え、抜こうと握る刀がガタガタと音を鳴らす。

 

(刀を抜け。俺が継子として師匠(せんせい)を……!)

 

 そう思っているのに。

 しかし、結局少年は刀を抜く事が出来なかった。

 その反応に興味を失くしたのか、師はそれ以上の言葉をかけずに少年の横を素通りする。

 もう必要ないとばかりに手にしていた日輪刀を放り捨てて。

 師の気配が消えると、少年はその場で崩れ落ちて咽び泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(刀が重い……)

 

 突然重くなった日輪刀に疑問を持っていると、女鬼がクックッと嗤う。

 

「わらわの血はちと特殊でなぁ。この血が付着すると重さが増すのさ」

 

(しくじった)

 

 子供を助けるのを優先して腕を斬ったが、首を狙うべきだったのだ。

 だが、重くなったと言っても振るえない訳ではない。

 動きが精彩な技を出すのは難しいが、単純な型で頸を斬ればいい。

 それに今ここに居るのは勝己だけではない。

 獪岳が動こうと腰を落とす。

 しかし女鬼の方が僅かに早かった。

 女鬼は天井を見上げると自分の爪で喉を一閃する。

 すると噴き出た血が雨のように室内全体に飛び散ってくる。

 

「クソがっ!」

 

「危ない!?」

 

 獪岳は血の雨を避けようと動き、勝己は子供達を覆い隠すように庇う。

 だが、撒き散らされた血液を全て回避する事など出来る訳もなく、その身に血が付着してしまう。

 

「随分とわらわの血を浴びたなぁ。お主らはまだ動けるか?」

 

 勝己は羽織代わりにしてた観世水の着物を脱ぎ捨てる。

 血を浴びたのは殆ど羽織な為、これでまだ動ける。

 その間に獪岳が距離を詰める。

 

「雷の呼吸、弐ノ型"稲魂"!」

 

 高速の五連撃が女鬼を斬り刻む。

 しかし頸を斬るには到らず獪岳の刃にも血が付着した。

 

「……っ!?」

 

 重くなった刃に歯軋りする獪岳。

 勝己は獪岳の行動に違和感を感じた。

 雷の呼吸、と彼は言った。

 最終選別で見た金髪の子と同じ呼吸。

 壱ノ型を使えば女鬼の頸を斬り落とせたのではないか。

 

「クククッ。残念だったなぁ。では先ずお主から────」

 

 女鬼が獪岳の頭を掴もうとする。

 勝己は背中と脇に子供達を抱えて、呼吸を深くする。

 

 

「退避ーっ!!」

 

「おいっ!?」

 

 思いっきり走り出して獪岳の首根っこを掴むと、女鬼の居る部屋から逃げ出した。

 部屋を三つ程跨ぐと獪岳から手を放す。

 

「ハァ、ハァ……おっも……!」

 

 子供二人に大人一人。

 それも敵の血鬼術で刀の重量も変わっているのだ。

 鬼から逃げるのもひと苦労だった。

 立ち上がった獪岳が不機嫌そうに怒鳴る。

 

「なにしやがるテメェ!」

 

 殴りかかってきた獪岳だが、勝己はそれをヒョイと避けた。

 

「私、刀が重くて連続して振るえそうにありません。一撃で頸を落とさないと。雷の呼吸なら、壱ノ型で決められますよね?」

 

 最終選別で見た雷の呼吸の使い手が使っていた壱ノ型。

 アレなら確実に女鬼の頸を落とせる。

 勝己の指摘に獪岳の表情から更に不機嫌さが増す。

 

「……あんな真正面から突っ込んで斬るだけの型、必要ねぇんだよ」

 

「いや、でもこの状況だと────」

 

 なおも意見する勝己に獪岳が怒声を上げる。

 

「うるせぇっつってんだろ! あんな鬼、俺独りで倒せんだよ!」

 

 どこか焦り意地になっている獪岳。

 彼の怒声に二人の子供が怖がって勝己にしがみつく。

 

「分かりました。それなら私が鬼を引きつけますので、上手く敵の頸を斬ってください。ねぇ君たち」

 

 突然話しかけられ、子供達が萎縮する。

 

「この屋敷に、あの女とは別の鬼は見ました?」

 

 勝己の質問に子供達はぶんぶんと首を左右に振る。

 敵が増えない事に安堵する。

 藤襲山では群れて行動する鬼も多かったから忘れてたが、本来集団行動を取らないのだ。

 それなら先ず、この子達を屋敷から連れ出して────。

 

「下がってっ!!」

 

 身体に悪寒が走り、勝己は獪岳を突き飛ばした。

 突然天井が破壊され、その中心から鬼が降ってくる。

 女鬼が勝己を押し倒す形になる。

 

「あっちの男を先に殺そうと思ったが、自分から捕まりに来るとは間抜けじゃのう」

 

「重いんだよ! さっさと退け……!」

 

 勝己の言葉に女鬼は不機嫌そうな顔に変わる。

 

「鬼狩り共は女の扱いを知らんと見える。わらわは今すぐにこの細い首を掻っ切っても良いのだぞ?」

 

 勝己の首に爪を立てると一筋の血が流れた。

 女鬼が獪岳の方に視線を向けた。

 

「動くなよ? 動けばこの小僧に大きな穴が空くことになるぞ」

 

「ちっ」

 

 舌打ちする獪岳。

 彼が即座に動かなかったのは鬼に掴まれている仲間の身を案じて────という理由ではなく、ここで勝己を見捨てたら自分の評価がどうなるのか、という自己保身からきたものだ。

 獪岳としては鬼に捕まった勝己はどうでもいいが、それが原因で鬼殺隊から悪い印象を受けるのも面白くない。

 本人は気付いていないが、その傲慢な態度からただでさえ周囲と軋轢を生んでいるのだ。

 だがここまま鬼に好き勝手させるのも気に食わない。

 一般人の子供の安全を優先した、と理由を付けて勝己を見殺しにしてしまおうか。そんな考えが過る。

 そこで勝己と視線が重なる。

 

「ふっ!」

 

 一息と共に首を掴んでいる鬼の手を外し、乗られている体勢から脱すると、女鬼を高く投げ飛ばした。

 

「なっ!?」

 

「獪岳さん!」

 

 驚く女鬼。

 投げ飛ばされた女鬼の先には獪岳が待ち構えていた。

 

「雷の呼吸、陸ノ型"電轟雷轟"!!」

 

 獪岳の振るった刀は確実に鬼の首を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀の重さが元に戻った。鬼が死んだら血鬼術とやらの効果も消えるんですね」

 

 鬼の身体が完全に消え去ると、元の重さに戻った日輪刀を軽く振るって安堵する。

 まだ事態を呑み込めてない子供達に視線を向け、その頭を撫でた。

 

「ここまでよく頑張りましたね。強いよ。偉かったね」

 

 そう言葉をかけると緊張の糸が切れたのか、子供達は泣きだして勝己にしがみついた。

 

 子供達が泣き止むのを待って屋敷を出る。

 

「それじゃあ私、この子達を送っていきますね」

 

 もう完全に日が沈んでいる時間だ。

 鬼を退治したとはいえ、子供達だけで帰らせるのは危ない。

 獪岳は興味なさそうに勝手にしろと返すと、控えていた隠の者が気配なく現れる。

 

「それはこちらにお任せください。こういうのも、我々の仕事ですので」

 

 竹刀袋の中に隠しているとはいえ、刀を持った人間が子供達を送り届けるなど怪しすぎる。

 鬼の存在を世に広めないのも鬼殺隊の仕事なのだ。

 そこら辺の後処理は隠の方が専門である。

 

「分かりました。お願いします」

 

 不安そうな子供達を隠に引き渡す。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「うん。気をつけて」

 

 そう手を振る勝己

 もう一人の子供が獪岳の手を握る。

 

「助けてくれてありがとう」

 

「……さっさと帰れ」

 

 握られた手を振り解いてそう突き離す。

 隠が子供達を連れ帰る。

 

「もう少し愛想良くしても良かったのでは?」

 

「知るか、鬱陶しい」

 

 ケッ、と吐き捨てる獪岳。

 そのまま歩き出そうとするが、足を止める。

 

「今回の仕事はお前が居て助か────」

 

「あ! 焼き芋発見! おじさーん、焼き芋くっださいなー!」

 

 石焼き芋の屋台を見つけて飛びつく勝己の胸ぐらを掴む。

 

「テメェ、人がせっかく……」

 

「だって焼き芋ですよ! 是非お腹を満たさねば!」

 

 美味そうに焼き芋を頬張る勝己に対して苛立ちを吐き出すように大きく息を吐く。

 

「ちっ。もういい。じゃあな」

 

 この場を去ろうとする獪岳。

 勝己は後を追おうとしたが、鴉がその肩に停まった。

 

「任務ー。新タナ任務ー! 北西ノ村ニ鬼ノ目撃情報アリー!」

 

「もうですか? 人使い荒いですね。獪岳さん、また一緒に仕事しましょう」

 

「二度と俺の前に姿を見せんな」

 

 敵意のある返しに勝己は唇を尖らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、十体の鬼を単独撃破した勝己。

 いい加減休みが欲しくなってきた頃に、同期が入院しているという情報が回ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー! 俺今日の薬飲んだっけっ!! 誰か見てないーっ!!」

 

 胡蝶の屋敷は鬼殺隊士の診療所も兼ねている。

 そこでは先日、十二鬼月の下弦ノ伍とその配下の鬼と戦闘して負傷した新米の剣士が入院していた。

 竈門炭治郎。

 我妻善逸。

 嘴平伊之助。

 つい最近出会ったばかりの彼らは短い期間で急速に仲間意識が芽生え、育んでいた。

 

「善逸。薬ならさっき飲んだばかりだろ。またアオイさんに騒ぐなって怒られるぞ」

 

 毎日のように些細な事で騒ぐ善逸に呆れる炭治郎。

 普段している猪の被り物を外して差し入れの煎餅を齧っている伊之助が話す。

 

「そんなしょっちゅう忘れて頭大丈夫か?」

 

「お前に言われたくねーんだよ猪野郎っ!!」

 

 そんな騒がしさもここ数日で日常になりつつある。

 三人が入院している病室に突然の来客がやって来た。

 

「すみませ〜ん。竈門炭治郎君居ますかー?」

 

 ひょっこりやって来た人物に炭治郎が声を上げる。

 

「あーっ! 勝己! 久し振り!」

 

 選別最終日に自分を起こしてくれた少年。

 ここまで任務を共にすることは無かったが、心の片隅で気にはしていた。

 善逸も最終選別で顔だけは覚えている。

 そんな中で伊之助はわなわなと身体を震わせて勝己を指差した。

 

「テメェはっ! あの時逃げやがった奴だな! ちょうどいいぜ! 今度は逃さねぇっ!」

 

 今にも飛びかかりそうな剣幕の伊之助に対して勝己は首を傾げた。

 

「誰?」

 

 

 

 

 

 

勝己と柱の任務で見たいのは?

  • 水柱
  • 岩柱
  • 風柱
  • 恋柱
  • 蛇柱
  • 霞柱
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