月の呼吸の後継者。   作:赤いUFO

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月と花【後編】

 風柱・不死川実弥は村の外れにある丁度良い岩を椅子代わりにして目を閉じていた。

 

(さて、あのガキはどうなるか……)

 

 自分が話してる間に呑気におはぎを食ってた小柄な隊士。

 聞けば、まだ新米の隊士という。

 普通ならばすぐに殺されそうなものだが、現霞柱のような例外の可能性もある。

 

(ただの馬鹿か。それとも……)

 

 この任務でそれを見極める。

 そう思っていると、村の内部の様子を見ていた隠がやって来た。

 息を切らせた彼は不死川の前で膝をつく。

 

「御報告します! 鬼の血鬼術によって作られた敵と交戦! 村に巣食っていた鬼も現れました! 下弦の参です!」

 

 叫ぶように報告する隠に、不死川は自分の日輪刀を持って飛ぶように走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「保志っ!?」

 

 家の中までふっ飛ばされた勝己のところに人型の集団を突破して村田が来る。

 当の本人は首を振って頭を押さえていた。

 

「いった〜……コブできちやった」

 

 などと言っている。

 思ったより無事そうで安心する村田。

 立ち上がると勝己は敵の力を分析して述べる。

 

「強いですね。今まで戦った鬼は血鬼術と身体能力任せでしたけど、アレは逆です。血鬼術の方がおまけみたいです」

 

 蹴りを喰らったから判る。

 あの動きはちゃんと体術を修得した者の動きだ。

 鬼の身体能力に体術。

 血鬼術頼りの鬼より厄介だった。

 そこで勝己は腰の鞄に手を当てると違和感を覚えて中を探る。

 

「あぁあああっ!?」

 

「どうした!!」

 

「見てください! ご褒美用のおはぎがグチャグチャです! これじゃあ食べられません!」

 

 楽しみにしてたのに〜、と嘆く勝己。

 

「お前なぁ! 状況分かってんなかぁ!!」

 

 あまりにも呑気な勝己に村田がキレる。

 しかしすぐに表情を引き締める。

 

「狙いはカナヲさんですね。女性を狙う鬼は多いと聞きますし」

 

 勝己が鬼殺隊に入隊して討伐して鬼の中には女を執拗に狙う鬼も居た。

 彼らにとって男よりも女の方が食べる価値が高いのだろう。

 

「行きます」

 

 勝己は刀を強く握って走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(強い)

 

 下弦の参と相対し、狙いが自分だと判断すると即座に他の隊士から距離を取った。

 他の隊士が近付けば、間違いなくこの鬼に殺される。

 体術を使う鬼の動きは厄介だが、捉えられない速度ではない。

 

「やるなぁ、お前! だがっ!!」

 

 カナヲの日輪刀を腕で防ぎ、血飛沫が飛ぶ。

 その血が落ち葉に付着すると葉を触媒に狼型の敵が複数生まれる。

 

「っ!?」

 

 迫りくる狼から距離を取る。

 

「花の呼吸、陸ノ型"渦桃"」

 

 狼の攻撃を避けつつ体を反転させて螺旋の軌道で斬り裂いて行く。

 着地と同時に敵の攻撃に備える為に即座に体勢を整える。

 鬼が手刀を繰り出すと、それを間一髪で避けた。

 その時。

 

「あ……」

 

 隊服の衣嚢に切れ目が入り、中の銅貨が落ちる。

 カナヲはしまったと咄嗟に落ちる銅貨を拾おうと動いた。

 今は亡き姉が何かを決める事が苦手な自分の為にくれた大切な銅貨。

 鬼の危険も優先順位も全部頭から消し飛んで銅貨を拾おうと手を伸ばした。

 しかし、その隙を鬼が見逃す筈もなく。

 

「馬鹿がっ!」

 

 カナヲの首を掴もうと手を伸ばしてきた。

 

「月の呼吸、弐ノ型"三日月の太刀"」

 

 上から下へ、円を描くように振るわれた刀が下弦の参の腕を斬り落とす。

 追撃に勝己が鬼の胴を狙うが、その前に後ろへと跳ばれる。

 斬った鬼の腕は再生を始めていた。

 

「思ったより再生が速い。大丈夫ですかカナヲさん」

 

 落ちた銅貨を拾ってカナヲの左手に渡す。

 

「遅くなってすみません。すぐにあの鬼の頸を斬りましょう」

 

 体勢が崩れて膝をついているカナヲを見る。

 

「動けます? 動けないなら私一人で倒しますが?」

 

 一人で十二鬼月を斬ると豪語する勝己。

 カナヲはすぐに銅貨を仕舞って立ち上がる。

 

「大丈夫。戦える」

 

 立ち上がり、刀を構えた。

 

「共闘ですね」

 

 勝己もカナヲに背中を預ける形で構えを取る。

 そんな二人に顔に傷のある鬼は憤慨した様子でギリッと奥歯を強く噛む音がした。

 

「テメェら如きが、この病葉の頸を落とせると思ってんのか? 調子に乗んじゃねぇ! ガキ共っ!!」

 

 先程勝己に斬られた腕。

 それによって血を浴びた落ち葉に肉が付き、鬼の兵隊として次々と生まれる。

 

「行きます」

 

「うん」

 

 勝己とカナヲが同時に地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

(なんだこのガキ共は!)

 

 下弦の参である病葉は目の前の光景に苛立っていた。

 自分が生み出した兵達が次々と斬られていく。

 足留めにすらなっていない。

 

(クソ! 俺はこんなところで! もっともっと!)

 

 今はまだ下弦という十二鬼月の中でも下っ端で甘んじているが、すぐに上弦の鬼としてあの方に認めて貰うのだ。

 こんなところで、あんなガキと鬼殺隊の雑兵に梃子摺っていると思われる訳にはいかない。

 

「クソがっ!!」

 

 周囲の落ち葉が集まり、一体の巨人を生み出す。

 これまでと違い、簡単に倒せる人型ではない。

 しかし、二人の隊士は臆さずに巨人へと突っ込んで行った。

 

「花の呼吸、伍ノ型"徒の芍薬"」

 

 女の鬼殺隊士が連続で刀を振るい、瞬く間に巨人を斬り捨てた。

 そのまま女の隊士が病葉の下まで辿り着き、刃を振るってくる。

 襲いかかる刃を躱し、逆に拳を突き出すが、向こうは後ろに跳んで逃げようとするのを腕を掴んで止めた。

 

「先ずはお前からだ……!」

 

 本当なら生きたまま喰ってやりたかったが仕方ない。

 ここで女を殺してからもう一人のガキを──―。

 そこで病葉は男の方の隊士が見えない事に気付く。

 

(何処に行っ……!?)

 

 僅かに出来た影に上を見ると、そこには小柄な剣士が夜の月を背にこちらに落ちようとしていた。

 

「月の呼吸、玖ノ型"月光鳥"」

 

 小柄な隊士が着地すると同時に病葉の頸が小さな音と共に地面に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 下弦の参の頸が地面に落ちると同時に首より下の肉体も消滅する。

 刀を鞘に納めると、血鬼術によって生み出されていた大量の人型も葉に戻った。

 

「やりましたね、カナヲさん!」

 

「……」

 

 声をかけるが、カナヲは無反応だった。

 ちょっと淋しいと思っていると、隊士達が駆け寄ってくる。

 

「うおぉおおぉおっ! 下弦を撃破だ!!」

 

「俺、十二鬼月が現れて死を覚悟しちまったよ!」

 

「とにかくスゲェよ! 良くやった!!」

 

 そう言いながら下弦の参を撃破した勝己を揉みくちゃにし始める。

 隊士達が歓声を上げていると、この場に風柱が現れた。

 

「なんだぁ? 十二鬼月が出たっつーから駆けつけてくりゃあ、もう討伐だぁ? 頸を落としたのは誰だ?」

 

 風柱の質問に勝己を揉みくちゃにしてた隊士達は彼から離れて全員で指差す。

 この中に、良くも悪くも手柄を横取りしようという不届き者は居ないのだ。

 隊士達が勝己を指差すと、不死川は獰猛な笑みを浮かべた。

 

「そうか。どうやら口だけじゃなかったみてぇだな」

 

 すると不死川は勝己の首根っこを掴んだ。

 

「丁度良いぜ。お前はしばらく俺が面倒見てやる。ここまで骨のある新人は久し振りだからなぁ」

 

 そう言って勝己を引き摺っていく不死川。

 

「え? ちょっと!?」

 

 流石に状況についていけず、周囲に助けを求めて視線を向けると、カナヲはボーッと勝己を見ており。

 村田を含めて他の隊士達は手を合わせたり男泣きしながら親指を立てて見送っている。

 

「なんなのー!」

 

 勝己の叫びも空しく、そのまま風柱に連れてかれて行った。

 これから半月程、保志勝己は風柱・不死川実弥による地獄の稽古(強制)を受ける事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、酷い目に遭った……」

 

 半月後、保志勝己は刀を杖代わりにして胡蝶の屋敷に戻ってきた。

 道場らしき場所に近付くと、大きな声が中から聞こえてくる。

 

「やってやったぞ、コラァアアアッ!!」

 

「俺は誰よりも応援された男っ!!」

 

 そんな声を聞きながら蝶屋敷にある道場に入る。

 

「失礼しまーす。炭治郎君達のお見舞いに来ましたー」

 

「いや、お見舞いが必要なのはお前の方だろっ!!」

 

 湿布や包帯を巻いてやって来た勝己に善逸がツッコミを叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝶屋敷でしのぶの診察を受けてからアオイに頂いたおにぎりを食べながら勝己はこれまでの事を話す。

 

「いやー。毎日毎日風柱様と木刀で打ち合いしてましたよ。こっちの攻撃は読まれるのに、風柱の攻撃は笑うしかないくらい当たるんですよ。下弦の鬼よりずっと強かったです。でも昨日ようやく一本取れたからこっちに戻って来れたんですよ。おにぎりおいしい」

 

 そう言いながらお茶を飲む。

 それを見ながら、コイツいつも何か食ってんなと善逸は思った。

 

「善逸君と伊之助君も常中を修得したんですね。早いなぁ」

 

「ふん! あんなもん、俺様には朝飯前だったぜ!」

 

「走る込みしたり水の中で息止めしたり大変だったな……まぁ、出来ないことが出来るようになるのは嬉しかったけど」

 

 真逆の感想を述べる二人。

 そうした雑談を続けていると、蝶屋敷で働くきよが道場にやって来た。

 

「炭治郎さんと伊之助の新しい日輪刀を持って、刀鍛冶の方がもうすぐ来られるようです」

 

 鴉がそう報告してきたと言う。

 それに炭治郎は思った以上に喜ぶ。

 ここ最近、常中の訓練で肉体が強く変わっていくのを感じていた。

 早く日輪刀を手にしたいという気持ちが強くなっていった。

 蝶屋敷から出て刀鍛冶を待つ。

 少しして、見覚えのあるひょっとこのお面が見えた。

 

「鋼鐵塚さーん! お久しぶりです! お元気でしたかー……うわぁああっ!?」

 

 炭治郎が鋼鐵塚に手を振って挨拶すると、返ってきたのは包丁よる攻撃だった。

 

「は、鋼鐵塚、さ……ん?」

 

「きっさま〜……よくも俺の刀を折ったな〜……!」

 

「す、すみません! でも本当に俺も死にそうで! 敵も強くて!」

 

 謝る炭治郎に鋼鐵塚が喚き散らす。

 

「違うね! お前が悪い! お前が全部悪い! お前が貧弱だから刀が折れたんだ! そうじゃなかったら俺の刀が折れるもんか! 殺してやるーっ!!」

 

 そう言って炭治郎を追いかけ回す鋼鐵塚。

 途中で勝己が足を引っ掛けた後に包丁を取り上げてようやくまともに話が出来るようになった。

 同行していた伊之助の刀の担当である鉄穴森という男性が割って入ったのもある。

 落ち着いた鋼鐵塚はしばらく炭治郎を叩いていたが、勝己の腰に差してある刀に視線が移った。

 

「おい、お前。なんだボロボロの拵えの刀は」

 

 勝己が差してある二本の刀。

 片方は担当の刀匠である宇鉄金子が鍛えた日輪刀。

 もう一本は古く、鞘も柄も鍔もボロボロだった。

 勝己はその刀を鞘ごと抜く。

 

「これですか? 一応我が家の家宝? 的な日輪刀です。まぁ、古くて使い物になりませんが」

 

 そう言って刀の柄を鋼鐵塚に差し出す。

 鋼鐵塚がそれを抜くと、鞘の中から錆だらけの刃が出てきた。

 刀の刃を見た炭治郎が声を出す。

 

「わっ! これ斬れないよね!」

 

「三百年も前の刀で、月の呼吸の編み出した剣士が使っていた日輪刀です。まぁ見ての通り、今はガラクタですが」

 

 返してくださいと勝己が手を出す。

 しかし、鋼鐵塚は無言でそのまま勝己のボロ刀を持っていこうとする。

 

「ちょっと何処持っていくんですか」

 

 鋼鐵塚に鞘を投げつけてボロ刀を取り返す。

 

「俺に任せろ」

 

「なにが?」

 

「俺に任せるんだ」

 

「意味が分からないんですけど」

 

 刀を差し直す勝己に鉄穴森が翻訳する。

 

「つまり、鋼鐵塚さんはその刀を研ぎ直すと言ってるんです」

 

「その刀は俺が預かろう。鋼鐵塚家に伝わる日輪刀研磨術で見事磨き上げてしんぜよう」

 

 人一倍刀を愛する鋼鐵塚としては、刀をこんな状態で放置するのは見過ごせないのだろう。

 しかし、勝己の返答は否だった。

 

「必要ありません。これはただの飾りですから。実戦で使うつもりはないですし、もしも研磨するにしても、担当の刀匠に頼みます」

 

 鋼鐵塚とは初対面で何の信頼関係も無いし、いきなり包丁で剣士に襲いかかる刀匠なら尚更だ。

 

「うるせぇ。俺が磨き直すっつってんだろ! 渡せっ!?」

 

 と、無理やり勝己からボロ刀を奪おうとするが、関節技で取り押さえる。

 取り押さえられている鋼鐵塚を鉄穴森が宥めながら勝己に質問する。

 

「勝己殿の担当は誰なのですか?」

 

「宇鉄金子という。女性の鍛冶師です」

 

 金子の名前を聞いて鋼鐵塚が様子が変わる。

 

「金子だと〜! あんな女に任せられるか! 寄越せ!」

 

「ど、どうしたんですか! 鋼鐵塚さん!?」

 

 更に暴れ出す鋼鐵塚に炭治郎が困惑する。

 鉄穴森が説明し始める。

 

「鋼鐵塚さんと宇鉄さんは幼馴染でして。小さい頃から鍛冶師としての腕を競ってきた仲なんです」

 

「所謂好敵手って奴です?」

 

「誰が好敵手だ! あのアマァ!!」

 

 ジタバタする鋼鐵塚を押さえるのが面倒になってきて、いっそのこと逃げようかな、と考え始める。

 そんな考えが浮かんでいると、鉄穴森が伊之助に二本の日輪刀を渡す。

 伊之助が握ると日輪刀の色が藍鼠色に変化した。

 伊之助の刀は折れる前から刃毀れが酷かったので、これでまともな刀になった。

 

「いやー。私、二刀流の剣士の刀を鍛えるのは始めてでして。どうですか、握り心地は?」

 

 刀について意見を求める鉄穴森。

 しかし伊之助は庭にある適度に大きな石を手にして突然新しい日輪刀にぶつけ始めた。

 

「よし!」

 

 前の刀のように刃毀れの酷い刀身が出来上がる。

 どうやらあの刃は自分から好きでやっていたらしい。

 

「このガキぶっ殺してやる!」

 

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 自分が鍛えた刀をそんな扱いされて温厚そうな鉄穴森がキレて、伊之助に殴りかかろうとするのを炭治郎が必死に止めた。

 それから二人の刀匠を帰すと、勝己が炭治郎に質問する。

 

「そういえば、炭治郎君の刀はどんな色なんですか?」

 

 興味本位で訊く勝己に炭治郎は微妙な表情で鞘に納められた刀を抜いた。

 握る手に力を込めると、刀身が黒く染まる。

 

「なんか、黒い日輪刀はあんまり見ない色らしいんだけどね」

 

 でも関係ない。自分はやるべき事をやるだけだと刀を鞘に納めた。

 その後にアオイに呼ばれてその場を後にする炭治郎。

 黒い日輪刀を見た勝己は難しい表情で口に手を当てた。

 

「黒い日輪刀……日の呼吸の、適性者……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勝己の担当の鍛冶師である宇鉄金子は鋼鐵塚より二つ歳下で、夫と息子が一人居ます。
夫と息子は日輪刀の素材を採掘する仕事をしてます。

無限列車までは週一のペースで書きたい。

勝己と柱の任務で見たいのは?

  • 水柱
  • 岩柱
  • 風柱
  • 恋柱
  • 蛇柱
  • 霞柱
  • 蟲柱
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