月の呼吸の後継者。   作:赤いUFO

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無限列車編【壱】

 柱達が集まり、ここ数ヶ月の鬼狩りの状況を話し合っている。

 主に話題は報告書に纏められた鬼の討伐数と隊士の損耗率の話。

 

「僅かですが、去年に比べて隊士の死傷者が減少傾向にあります。下弦の伍が寝床にしていた那田蜘蛛山では多くの隊士が亡くなりましたが、下弦の参が現れた滝骨村で、隊士の死亡者が一人も出ておらず、先行していた隊士二名の片方は地下水脈を調査した隊士達によって発見されました。数日間飲まず食わずで衰弱していましたが、今は少しずつ英気を取り戻しています」

 

 医療にも関わる胡蝶しのぶの報告に現在の柱を束ねる立ち位置にある悲鳴嶋が亡くなった隊士の為に手を合わせる。

 

「うむ。しかし依然として隊士の死亡率の高さは変わらん」

 

 人の命を数で計るのは好ましくないが、現実問題として鬼殺隊の戦力は柱頼りなのは否めない。

 かと言って悠長に今から隊士鍛えている時間的余裕もない。

 柱をそちらに割くのは無辜の一般市民を鬼の脅威に晒す事となる。

 そこで蛇柱の伊黒小芭内が不死川実弥に話しかける。

 

「不死川。例の新人を連れて行っていたようだが?」

 

 伊黒の問いかけに不死川は隊服を捲る。

 すると横っ腹の部分に青痣が出来ていた。

 それを見た音柱の宇髄天元が大袈裟に驚いて見せる。

 

「おいおい! お前にしちゃあ、下手打ったじゃねぇか」

 

「……軽く撫でてやるつもりだったが、最後の最後に噛みついてきやがった」

 

 稽古と言っても不死川は手取り足取り教えるような甲斐性も器用さも持ち合わせていない。

 やったのは、ひたすらに木刀で打ち合うだけ。

 下弦を斬っただけあり、保志勝己の剣の腕はかなりの物だったが、それでも自分には及ばない。

 毎日叩きのめされながらも決して逃げずに次の日には不死川に向かってくる。

 最後に破れかぶれの一撃が不死川の横っ腹を打った。

 

「普段はふざけちゃいるが、ありゃあ相当な負けず嫌いだぜ」

 

 臆さず、折れず、腐らず。

 馬鹿みたいに毎日叩きのめされても風柱に向かってくる気概。

 今の力量差なら百回闘っても不死川が百回勝つだろう。

 しかし後二年、いや一年後にはもしかしたら、十回に一回くらいは負けるかもしれない。

 それに胡蝶が質問を続ける。

 

「不死川さんは保志勝己君を継子に?」

 

「そんな時間はねぇよ。俺は人を鍛えるのに向いてねぇしな。それにあいつは放って置いても勝手に強くなるぜ」

 

 格上の存在を知った事で、より一層に稽古に力を入れるだろう。

 そこで話を切ると、胡蝶しのぶが再び話を振る。

 

「今、うちで預かってる竈門炭治郎君。我妻善逸君。嘴平伊之助君の三人は全集中の呼吸・常中を修得しました。そろそろ任務に就かせても問題ないかと」

 

 今の彼らが那田蜘蛛山の鬼と戦ったのなら、柱の援軍も必要ない程に強くなった。

 胡蝶の報告に、炎柱である煉獄杏寿郎が感心した様子で声を出す。

 

「常中の修得は柱への第一歩だからな! 後輩が育つというのはめでたい!」

 

 胡蝶しのぶは伊之助のやる気を出させる為に常中は基礎であり、出来て当然と言ったが、修得している者は鬼殺隊の中でも思いの外少ない。

 修得していても、運悪く強力な鬼と遭遇し、殺される事も多い。

 鬼殺隊の象徴である柱達の会議は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「猪突猛進っ!!」

 

 両手に竹刀を持った伊之助が勝己は正眼の構えで迎え討つ。

 伊之助の柔らかな肉体を駆使した予測が難しい動きや太刀筋を完璧に防ぎ、捌いていく。

 

「この野郎! ちょっとはかかってこいや!!」

 

「伊之助君の動きは独特ですからねぇ。防御の稽古に最適なんですよ」

 

「ぬかせ!」

 

 伊之助は深く沈み込んで足払いをかけると勝己は軽く跳び避けるとそこを狙って突きを放つ。

 上半身を僅かにずらして躱し、着地と同時に距離を取った。

 これで四度目の仕切り直しである。

 

「だから、かかってこいっつってんだろ!!」

 

「じゃあそろそろ」

 

 勝己の身体が揺らいだと思ったら瞬きの間に伊之助へと近付き、右肩、左脇、左手首、右脛、そして胸の心臓の位置に突きを入れる。

 ごろんと、床を後ろに回る伊之助。

 

「伊之助、大丈夫かっ!?」

 

 見学していた炭治郎が心配して駆け寄るが、彼はすぐに跳び上がった。

 

「くそ! まだだ!」

 

「元気ですねぇ。でも攻撃を受けても全集中の呼吸が乱れてない。常中を完璧に物にしましたね」

 

 竹刀を脇に挟んで手を叩く勝己。

 常中をどれくらいの精度で行えるのか見る為の稽古をしていた。

 それと、伊之助が最終選別での決着をつけると意気込んで向かってきたのもある。

 ちなみに善逸は病室に置かれている箱の中で眠る竈門禰豆子にずっと話しかけていてこの場にいない。

 

「オラァ! 続きだ続きぃ!!」

 

「はいはい。いくらでも」

 

 そう言って得物を握り直す二人。

 しかし、そこで鴉がやって来た。

 

「任務ゥ! 新タナ任務ヲ伝エル!!」

 

 それは、竈門炭治郎。

 嘴平伊之助。

 我妻善逸。

 そして保志勝己が同じ任務に配置され、明日の昼に蝶屋敷を発つ指示だった。

 

「今回は一緒ですね」

 

 何故か単独任務が多い勝己は炭治郎達と一緒の任務に行けるのを純粋に喜ぶ。

 

「修行の成果を試す良い機会だぜ! 遅れんなよ! ヤツ治郎! バツ巳!」

 

「誰それ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、任務に向かう準備を終えてお世話になった蟲柱にお礼を言おうと診察室に向かっていると、見知った顔を見つけた。

 

「玄弥君? あぁ、玄弥君だ。久し振りですね! 背が高くなってるから一瞬誰か分かりませんでしたよ!」

 

 同期の不死川玄弥を見つけて話しかける勝己。

 しかし、玄弥の方は無視して歩いてどっか行く。

 

「ちょっと! 無視しないでくださいよ!」

 

 背中をペチペチ叩くと、後ろを振り返って睨んでくるが、勝己には通じず空気を読まずに話しかける。

 

「そういえば、玄弥君って風柱様と同じ名字ですよね? 実は兄弟だったりします? 風柱様の屋敷に居ませんでしたけど、任務が忙しかったんです?」

 

 風柱のところにいる時はすっかり忘れていたが、珍しい名字だし、もしかしたらという思いで質問する。

 しかし、何故か玄弥の怒気が増した。

 

「なんでお前が兄貴の屋敷を知ってんだよ」

 

「つい最近、半月くらい稽古をつけてもらってたんですよ、私。兄弟ならお礼の言伝を頼んでいいですか?」

 

「兄貴、が……っ!!」

 

 呆けた表情から一瞬で玄弥の顔が怒りで歪む。

 振り上げた拳で勝己を殴ろうとするがひらりと躱す。

 

「なんでお前なんかが……!」

 

 もう一度拳を振り上げるが、すぐに引っ込めて立ち去る玄弥。

 

「玄弥君?」

 

「ついてくんじゃねぇ!」

 

 ズカズカと診療所の出口に向かう玄弥。

 ちょうどその時に診察を終えた炭治郎が部屋から出てくる。

 

「今大きな声がしたけど……」

 

「同期の不死川玄弥君と会って話しかけたんですけど、機嫌が悪い時に話しかけちゃったみたいです」

 

 肩をすくめる勝己。

 次に炭治郎は勝己が日輪刀を竹刀袋に入れて持っているのが気になった。

 

「どうして刀を袋に入れてるんだ? そんなことしたらいざって時に初動が遅れると思うんだけど」

 

「警察って人に捕まるからです」

 

「え?」

 

 なんで? と首をかしげる炭治郎に部屋の中からしのぶが出てくる。

 

「鬼殺隊は政府公認の組織じゃありませんからね。基本的に帯刀は許されてないんですよ。鬼の存在が世間に知れ渡れば混乱も避けられませんし」

 

 世間の鬼殺隊の立ち位置を知って炭治郎が少しだけ落ち込む。

 鬼自体が人里離れた場所に隠れている者も多く、人を喰う時だけ町や村を襲う事が多い。

 たから自然と鬼殺隊は人が居ないところで戦う事が多いのだ。

 

「まぁだから、刀は隠して持っていった方がいいですよ。警察ではないですけど、以前冨岡さんも小さな村でお縄になったことがありますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃこりゃあぁああぁあっ!?」

 

 始めて見る汽車に伊之助が震える声を出す。

 

「これはこの土地の主だぜ。間違いねぇ。この長さ、この威圧感……今は眠ってるようだが油断するな」

 

「いや汽車だよ。知らねぇのか?」

 

「シッ! 落ち着け! 先ずは俺が攻め込む!」

 

「この土地の守り神かもしれないだろ? それといきなり攻撃するのは良くないよ」

 

「いや汽車だよ。列車。分かる? 人を運ぶ乗り物」

 

 頓珍漢な反応をする伊之助と炭治郎に善逸が呆れた様子で答える。

 勝己も興奮した様子で汽車を指差す。

 

「ねぇねぇ! これに乗るんですよね! もう乗って良いんですよね!」

 

「まだ切符買ってねぇよ! お上りさんか!」

 

 山育ち三人の世間知らずっぷりに善逸が頭を抱える。

 

「切符を四人分買ってくるから、大人しくしてろよ」

 

「うん。ありがとう」

 

 善逸が居なかったらどうしたら良いのか分からなかったかもしれないと炭治郎は思った。

 勝己は目を輝かせて汽車を見ている。

 

「こんな大きな鉄の塊が人を沢山乗せて走るなんて……本当に凄いですね」

 

 なんというか、炭治郎から見て勝己はいつも落ち着いている雰囲気だったので、子供みたいにはしゃぐ姿が意外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、その煉獄さんって人と合流するんだよな? 柱の。顔とか分かんのか?」

 

「うん。派手な髪色の人だったし、匂いも覚えてる。近くに居るよ」

 

 煉獄の名前が出て、車内に目を輝かせていた勝己が緊張から息を吐く。

 

(煉獄家か……ちょっと気を引き締めないと)

 

 保志家は煉獄家にちょっとした恩がある。

 向こうは記録にすら残ってない些細な事かもしれないが、それでも恩は恩だ。

 

「うおぉおおっ!! 主の腹の中だ! 戦いの始まりだぜっ!!」

 

「うるせーよ! さっき汽車に体当りして騒ぎになったのもう忘れたのかこの猪野郎!」

 

 騒ぐ伊之助を善逸が一喝する。

 車内を歩いて行くと、大きな声が聴こえる。

 

「うまい! うまい! うまい!」

 

 何度もうまい! と叫びながら沢山の弁当を完食するのは炎柱の煉獄杏寿郎だった。

 炭治郎が彼に近付く。

 

「あのー。すみません……」

 

「うまい!」

 

「あの、煉獄さん?」

 

「うまい!」

 

「あ、はい。それはよく分かりました」

 

 既に十個以上の弁当を平らげている。

 それを見て勝己も買った弁当をの包みを置く。

 

「それじゃあ私達も食べましょうか。一応炎柱様のお弁当も用意しましたけど、入りますか? 無いならこっちで食べますけど」

 

「いただこう!」

 

「まだ食うのかよ!」

 

 善逸のツッコミが車内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弁当を食べ終えると機を見て炭治郎が煉獄にヒノカミ神楽という存在について聞き覚えはないかと質問する。

 胡蝶しのぶにも質問したが、知らないと即答された。

 もしかしたら火の繋がりで煉獄なら何か知ってるかもしれないと助言を受けたのだ。

 しかし返ってきたのは清々しい程に知らないという即答。

 

「ヒノカミ神楽という名前は聞いたこともない! 君の父上に教わった神楽が戦闘に応用出来たのは実にめでたいが、この話はこれでお終いだな!」

 

 炭治郎からしたらもう少し考えて欲しかったのだが、そこから煉獄が炎の呼吸を含めた呼吸の歴史について語り出す。

 話の中で煉獄が炭治郎の刀の色を訊く。

 その色が黒刀だと答えると、黒刀はどの系統の呼吸を極めれば良いのか判らないのでキツいと発言する。

 そこで窓の外を見ながら汽車の発車を今か今かと心待ちしていた勝己が話に入ってきた。

 

「日の呼吸」

 

「え?」

 

 思わぬところから話が広がり、炭治郎と煉獄が勝己の方を見る。

 

「黒刀の適性は日の呼吸です。焼く方の火じゃなくて、日輪の方で"日の呼吸"」

 

 空に日の漢字を書く勝己。

 それに煉獄が腕を組みながら疑問を口にする。

 

「しかし、日の呼吸など聞いたことがないぞ」

 

「日の呼吸は別名"始まりの呼吸"と呼ばれ、今はもう存在しない呼吸ですからね」

 

「そ、その話、詳しく聞かせてもらっていい!?」

 

 ようやく得た手掛かりに炭治郎は身を乗り出す。

 それに勝己は頷いて話し始めた。

 

「鬼殺隊がまだ呼吸法を知らなかった時代。ある一人の剣士によってもたらされた技術です。どうしてその人が呼吸法を修得していたのかは知りません。呼吸法を知る前の鬼殺隊は弱い鬼にすら何人もの剣士が挑んでようやく倒せるくらい脆弱な組織でした」

 

 日輪刀は存在したが、呼吸法が使えない鬼殺隊の剣士が鬼と戦うにはあまりにも力不足だった。

 柱制度も今とは違い、剣士としての技量ではなく、統率力や指揮能力。家柄などで決められてたくらいだ。

 

「そこで現れたのが鬼殺隊に呼吸法を教えたのが始まりの剣士と呼ばれる方です。彼は鬼殺隊に呼吸法を指南しましたが、同じようには出来ず、個人に合わせて呼吸の仕方を変えたそうです。それが今では基本の呼吸と呼ばれる"炎""水""風""雷""岩"そして月の呼吸。その六つは日の呼吸から派生した呼吸です。まぁ、月の呼吸は色々あって、代々私の家でしか継承してませんが。とにかく、呼吸の数が増えたことで、始まりの呼吸は鬼の弱点である日輪からとって"日の呼吸"と名付けられたんです」

 

 説明を終えると炭治郎が質問する。

 

「でもそれならなんで誰も日の呼吸について知らないだ?」

 

 そんなに凄い呼吸なら、鬼殺隊が知らないのは不自然だ。

 

「始まりの剣士の方はとても強く、鬼の始祖である鬼舞辻無惨をたった一人で追い詰めたそうです。ですが、後一歩のところで取り逃がしてしまい、その責任を取って鬼殺隊を去って行ったと聞きます。それから鬼側は日の呼吸の象徴である黒刀の剣士を執拗なまでに狙うようになって。その結果、日の呼吸は失われた、と。私が知ってるのはこれくらいです」

 

 参考になりましたか? と言うと、炭治郎は疑問を口にする。

 

「いや、でも……ヒノカミ神楽が日の呼吸だとして、なんでそれがうちに伝わってるんだ! うちは代々炭焼きの家系だよ! 家系図だってある!」

 

「それは私にはなんとも。もしかしたら、鬼殺隊を去った後に炭治郎君の祖先を弟子に取って、それが神楽として伝わったのかもしれません。始まりの剣士が鬼殺隊を去った後は、独りで鬼狩りを続けてたとも、鬼の始祖を逃がした責任を取って自刃したとも言われてますし」

 

 鬼殺隊を去った後の動向ははっきりとしないと話す。

 話を聞いていた煉獄が口を開く。

 

「しかし、竈門少年の神楽が本当にその日の呼吸ならば、それは鬼殺隊にとっても貴重な物だ! これから黒刀を持つ隊士達も自分の適性の判るのはめでたいな!」

 

 前向きに捉える煉獄。

 そこで汽車が動き始める。

 

「わっ! 本当に走り出した。すごーい!」

 

 さっきまで落ち着いた様子で日の呼吸について話していた雰囲気から一変して窓の外を眺めてはしゃぐ。

 

「切符を拝見します」

 

 切符の切り込みを入れに車掌さんがやって来る。

 善逸がそう説明すると、勝己は車掌に切符を見せる。

 差し出した切符が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、これまでまったく触れなかった勝己の母親について触れます。

勝己と柱の任務で見たいのは?

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