月の呼吸の後継者。   作:赤いUFO

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無限列車編【参】

「保志少年っ!!」

 

 猗窩座に吹き飛ば去れて、汽車に衝突する勝己を見て煉獄は冷や汗が一気に吹き出た。

 こんな仕事だ。

 先達同期後輩。

 多くの仲間が鬼に殺されるのを見てきた。

 自分ではない誰かの為に命を懸けて戦った彼らを、才能や実力に関係なく尊敬しているし、自分もそう在りたいと願っている。

 だけど仲間を。それもまだ若い後輩達を失うのはとても辛い。

 もっと先の未来で強くなり、多くの人を守れたかもしれない。

 自分の不甲斐無さと判断の誤りに怒りで血が沸騰しそうだった。

 この場を戦わせず、無理にでも退かせるべきだったのだ。

 刀を握り込んで猗窩座を睨むと、彼は煉獄の方に振り向く。

 

「安心しろ。死んではいまい」

 

 その言葉が意外で目を大きく開いた。

 

「俺の拳と胸の間に差していたもう一本の刀の柄を滑り込ませて攻撃の威力を軽減させた上で体を捻った。無傷ではないだろうがな」

 猗窩座が再び構えを取る。

 

「二人がかりも悪くはなかったが、此処から先は俺とお前の戦いだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝己!」

 

 汽車の車体に衝突した勝己のところまで刺された腹を押さえながら駆け寄る。

 伊之助も同様に。

 抱き起こすと、ケホッと苦しそうな咳と共に血を吐いて目蓋を開けた。

 

「くそ……刀折られた。まさか下弦と上弦でここまで強さが違うなんて……!」

 

 侮っていた、と上半身を起こす勝己。

 以前戦った下弦の参と比べても実力が違い過ぎる。

 

「血鬼術は大したことないのに……!」

 

 無手の技が凄まじい。

 防御を捨てた攻撃特化の技の数々。それが鬼の硬さと再生速度と合わさって脅威度が尋常ではない。

 

「なにより、あの鬼は炎柱様より強い……!」

 

 猗窩座という鬼が遊んでいるからまだ殺されていないだけだ。

 早く援護に向かわなければ、煉獄杏寿郎は確実に殺される。

 

「炭治郎君、刀貸して」

 

 炭治郎の刀で参戦しようとする勝己に伊之助が声を上げた。

 

「馬鹿かてめぇはっ!! 今手も足も出ずにふっ飛ばされたばかりだろうがっ! 次行きゃあ殺されるぞ!」

 

 自分が参戦出来ない憤りも込めて怒鳴る伊之助。

 しかし、それは決して的外れな意見ではない。

 刀の柄で守ったとはいえ、肋骨が二本折れている。

 万全な状態でもやられたのに、こんな状態で戦いに行くなど論外だ。

 

「私なら、居ないよりマシくらいの働きは出来る。でも、常中を覚えたばかりの貴方達じゃ無理。私が行かないと。二人だって炎柱様を死なせたくないでしょう? だから、刀を貸して」

 

 そう言って伸ばす勝己。

 この戦いに自分達は介入出来ない。

 目の前の死闘を見て嫌でも理解させられる。

 だけど、この状態の勝己に刀を渡すのは────。

 迷う炭治郎に勝己は肩に手を置いた。

 

「聞いて。どうして月の呼吸が私の家でしか継承されなかったのか」

 

 どうして今、そんな話を始めるのか。

 

「月の呼吸の創始者。その人は月柱にまで鬼殺隊で上り詰めた。だけど彼は裏切った。老いて衰えることを嫌った彼は、当時の産屋敷家当主の首を手土産に、鬼舞辻無惨に頭を垂れたんだ。私はね、その男の唯一の継子……その子孫なんだよ」

 

「そんな……でも……」

 

 鬼殺隊。それも柱が裏切った、という事実に炭治郎は困惑する。

 

「継子として責任を取らされそうになった私の先祖は、その場で自刃……いや、斬首される筈だった。それを庇ってくれたのが当時まだ幼かった新しい産屋敷の当主。そして炎柱、つまり当時の煉獄家の当主だった」

 

 まだ継子が子供だったからかもしれない。

 しかし、いつ裏切って師の下へ行くのか判らない者を庇ってくれた。

 

「煉獄家が居なかったら、私は生まれてくることさえ出来なかったの。だからその私が、保志家の子孫である私が……ここで煉獄家の人間が殺されるのを黙って見てる訳にはいかないんだよ……!」

 

 炭治郎の肩を強く握って訴える。

 

「だから、刀を貸して。もう一度だけ、私を戦わせて。お願い」

 

 これまでにない程の熱意で刀を貸してと言ってくる勝己。

 それに伊之助が自分の刀を差し出した。

 

「持ってけ。話を聞いてもよく分かんねぇが、お前が本気ってこたぁ分かった! 行って来い!」

 

「え? 要りませんよ。そんな刀使えないし」

 

 ギザギザに刃毀れし放題の刀とか、扱えるのは伊之助だけだろう。

 

 んだとーっと怒る伊之助。

 炭治郎は悩んだ末に自分の黒刀を勝己に渡した。

 

「情けないけど……俺達じゃあ、この戦いに入っていけない。だから煉獄さんは助けてくれ! 誰か一人でも死んだら、俺達の負けになる!」

 

「ありがとう……炭治郎君」

 

 炭治郎の刀を受け取り、立ち上がって走った。

 

「どうした、任五郎?」

 

「今、勝己の顔……」

 

 前髪と暗がりで見えづらかったが、走って行く瞬間、勝己の右目を囲うように、三日月の痣が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼になれ! 杏寿郎! そして俺と永遠に武を競い合おう!」

 

「しつこい! 如何なる理由があろうと、俺は鬼にはならない!」

 

 徐々に追い詰められる煉獄。

 額から血を流し、左目の視界を奪うも、それを拭う時間もない。

 打たれた骨は折れ、長く戦えないのは本人が一番理解していた。

 

(ならば、最大の一撃で奴の頚を斬るっ!!)

 

 そう判断して距離を取ろうとする。

 そこで再び乱入者がやって来る。

 

「月の呼吸、弐ノ型"三日月の太刀"」

 

 煉獄の頭部を狙った拳を肘から両断する勝己の太刀筋。

 

「保志少年!?」

 

 生きていた事への安堵と、どうしてまたここに来たのか、という困惑。

 

「保志少年、下がれ! 今度の命令違反は許さん!」

 

 死なせない。この場に居る者達を誰も。

 その想いから煉獄は自分の最大の技の構えを取る。

 

「炎柱様……私、肋骨が何本か折れてるんです。なのにおかしいですね。今はさっきより戦える気がする」

 

 それだけ告げて、猗窩座のところまで走る。

 向かってくる勝己に猗窩座は勝己の愚かさに顔を顰めた。

 既に夜明けが近い。

 だから、柱を殺すか鬼にすれば見逃そうと思っていた。

 次に戦う時は、きっと今日よりも強い剣士になっているのを期待して。

 なのに力の差を理解しながら無謀に再び挑んで来る。

 ならばその命を今度こそ断つだけ。

 

「月の呼吸、拾ノ型"孤月影"」

 

 側部を殴って再び勝己の刀を折ろうとする猗窩座。

 しかし、猗窩座の拳は空を切り、逆に頚を半分まで刃を通す。

 孤月影は本来の速さより遅く斬撃の速度を誤認させる技。

 急にこちらの頚を斬ってくる勝己に猗窩座は距離を取る。

 

「破壊殺・空式!」

 

 虚空を打って拳打を飛ばしてくる。

 

「月の呼吸、参ノ型"朧舞"」

 

 飛んでくる拳打の衝撃を捌きながら猗窩座の着地を狙う。

 

「月の呼吸、漆ノ型"月姫(かぐや)の帰郷"」

 

 跳んで捻りを加えた斬撃で猗窩座の左脚と腕を斬る。

 その運動速度が明らかにさっきより上がっていた。

 

「ハハッ! その痣のせいかは判らないが、お前は確実に先程の自分を超えたな! こんなにも戦い甲斐のある二人に出会えて俺は嬉しい!」

 

 猗窩座は斬られた腕と脚が即座に再生して勝己を潰しにかかる。

 勝己も別の技の構えを取る。

 

(来るっ!)

 

 本来十二まで型のある月の呼吸。

 しかし勝己は拾から拾弐までの型の練度がまだ未熟だった。

 風柱との稽古でもそれは指摘されている。

 

(だけど、今ならきっと……!)

 

 上弦にだって通用させて見せる。

 

「月の呼吸、拾壱ノ型"月夜の涼風"」

 

 猗窩座の拳を防ぎ、次が来る前に巻くようにして刀を返す。

 

「!?」

 

 そのまま敵の腹に肘を入れて、足を払うと同時に巻いていた刀を払う。

 防ぎ、崩し、払うの三動作で敵を投げるのが拾壱ノ型。

 本来ここから別の型で鬼の頚を斬るのだが、その必要はない。

 

「炎柱様!」

 

「すまない! 助かったぞっ!!」

 

 待ち構えているのは炎柱・煉獄杏寿郎。

 猗窩座もそれを理解してすぐに体勢を立て直そうと投げ飛ばされた空中で動く。

 

「炎の呼吸、玖ノ型"煉獄っ!"」

 

 全身に炎を纏ったような突進からの最大の威力を持つ斬撃が猗窩座の頚に迫る。

 危機感からか、腕で防ぐもそれをもろともせずに切断。

 

(玖ノ型でも……!)

 

 切断までもう一息というところで煉獄の太刀筋が止まる。

 煉獄もまた、意地でも頚を斬ろうと腕に力を込める。

 後輩がここまでお膳立てしてくれたのに、ここで頚を斬れずして何が柱か。

 

「うおぉおおぉおおっ!」

 

 しかし、猗窩座の方も黙って頚を落とされる訳もなく、拳を繰り出してくる。

 腕は止めたが、握っている刀が片腕になった事で、力が弱まり、蹴りを入れて退かせる。

 

「月の呼吸、陸ノ型"兎跳ね突き"」

 

 背後から刀を逆手に持った勝己が猗窩座の脳天から刃を突き刺す。

 全体重で勝己は猗窩座を押し倒し、頭部を貫いたまま、地面に刃を突き刺す。

 

「ぎざ、ま……っ!?」

 

「頚を落とせないなら、太陽で炙り殺してやる……!」

 

 そこで猗窩座も気付く。

 時間をかけ過ぎた事を。

 太陽が既に昇り始めていた。

 勝己退かそうと藻掻くが、体を押さえ込んでいる。

 

「ぐ、おぉおおおおおおおっ!!」

 

 無理やり体を引き、自分の顔を真っ二つに斬らせてから力づくで勝己を押し退けた。

 

「つっ!?」

 

 太陽が今にも昇りそうで、猗窩座も日の光に焼かれながらも全力疾走する。

 近くにある森の中に逃げ込む上弦。

 追おうと立ち上がるが、膝に力が入らずにその場で倒れそうになると、煉獄が受け止める。

 

「もう休め。限界はとっくに越えている」

 

「は、い……」

 

 上弦は仕留め損ねたが、誰一人として死ななかった。

 今回はそれで良しとすべきだ。

 

「勝己! 煉獄さん!」

 

 駆け寄ってきた炭治郎と伊之助。

 少しバツが悪そうに勝己が顔をしかめる。

 

「炭治郎君……ごめんなさい……」

 

「なにを謝って……?」

 

 むしろ謝るのは最後に役に立てなかった自分達の方だろうに。

 そう思っていると、勝己が炭治郎の黒刀を掲げると、刀身の中心からボキッと折れた。

 

「最後、無茶な使い方したから……また鋼鐵塚(あの人)に怒られちゃうでしょう……?」

 

 また包丁を持って襲いかかってくる光景がありありと思い浮かぶ。

 これ以上、喋らせるのは不味いと判断して煉獄が休むように促す。

 

「今はもう眠れ。君のおかげで俺を含めて誰もしななかった。ありがとう、ここまで戦ってくれて」

 

「せん、祖の恩は……返しました……から、ね?」

 

 それだけ告げると、保志勝己は眠気に抗う事なく目蓋を閉じた。

 

 

 




実は、今回で猗窩座を退場させるかだいぶ迷いました。

勝己と柱の任務で見たいのは?

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