イグドラシルに喧嘩を売った件   作:tknrdv

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三話 方針

「ルーチェモンは本来なら、イグドラシルやロイヤルナイツと同じ側にいるはずの存在」

 

「なのに、イグドラシルに反旗を翻した?」

 

「ええ」

 

 リリスモンは、窓の外を見た。

 

「あいつの理由は分からない。でも、あいつはイグドラシルと直接戦ってる。今もデジタルワールドで」

 

 彼女の瞳が、赤く光る。

 

「ワクチン種でありながら、イグドラシルを敵に回す――あいつは、私たちウィルス種よりも危険かもしれない」

 

「つまり――」

 

 俺は、煙草を灰皿に押し付けた。

 

「お前を含めて、数体の強力なデジモンが、それぞれの理由でイグドラシルと敵対してるってことか」

 

「ええ」

 

 リリスモンは、俺の隣に戻ってきた。

 

「私たちは、統一された組織じゃない。ただ、共通の敵――イグドラシルとロイヤルナイツ――がいるだけ」

 

「……で、逃亡デジモンは?」

 

「多くが人間世界に逃げ込んだ」

 

 リリスモンは、俺を見た。

 

「人間世界は、イグドラシルの管轄外。だから、ロイヤルナイツの手も届きにくい――と思われていた」

 

「思われていた?」

 

「でも、ロイヤルナイツは追ってきた」

 

 リリスモンの瞳が、暗く光った。

 

「彼らは、逃亡者を匿う施設、協力者、全てを浄化対象と見なしている。今夜のデータセンターも、その一つだった」

 

「つまり、俺は偶然にも――」

 

「ええ。あなたは、偶然にもロイヤルナイツの標的になった」

 

 リリスモンは、俺の手を取った。

 

「もし私が来なければ、あなたは今頃――」

 

「死んでた」

 

 俺は、彼女の手を握り返した。

 

「……礼を言うべきか?」

 

「いらない」

 

 リリスモンは、微笑んだ。

 

「私は、あなたに借りがある。十年前、あなたは私を使い捨ての道具じゃなくて、対等なパートナーとして扱ってくれた」

 

 彼女の爪が、俺の手の甲を撫でた。

 

「だから、今度は私があなたを助ける番」

 

 その時、ラップトップが通知音を鳴らした。

 

 暗号化されたメッセージ。

 

 俺は、立ち上がり、モニターを起動した。

 

 送信者は、今夜の依頼主だ。

 

『……生きているのか』

 

 俺は、キーボードを叩いた。

 

『ああ。だが、ファイルの抽出は失敗した。施設が襲撃された』

 

 数秒後、返信が来た。

 

『ロイヤルナイツか』

 

 俺は、画面を見つめた。

 

 依頼主は、デジモンのことを知っている。

 

『そうだ。マグナモンが現れた』

 

『……そうか』

 

 沈黙。

 

 数秒後、また文字が表示された。

 

『よく生き延びたな。報酬は予定通り支払う』

 

 俺は、眉をひそめた。

 

『仕事は失敗した。報酬を受け取る資格はない』

 

『気にするな。お前が生きていることの方が、ファイルよりも価値がある』

 

 画面に、新しいメッセージが表示される。

 

『今後も仕事を依頼する。次は、もっと面白いものを用意しよう』

 

 そして、接続が切れた。

 

 俺は、画面を見つめたまま動けなかった。

 

「……何だ、今のは」

 

 リリスモンが、画面を覗き込んだ。

 

「あら、優しいクライアントね」

 

「優しい? 違う」

 

 俺は、煙草に火をつけた。

 

「あいつは、俺が死ぬと思っていた。それでも、あの仕事を依頼した」

 

 リリスモンの瞳が、細くなった。

 

「……つまり?」

 

「あいつは、ロイヤルナイツがあの施設にいることを知っていた。その上で、俺をそこに送り込んだ」

 

 俺は、煙を吐いた。

 

「俺は、試されたんだ」

 

 リリスモンは、俺の肩に手を置いた。

 

「……あなた、狙われてるわね」

 

「ああ」

 

 俺は、モニターを閉じた。

 

「だが、誰に? 何のために?」

 

 沈黙。

 

 リリスモンは、俺の背中に抱きついた。

 

「分からないことは、後で考えましょう」

 

 彼女の爪が、俺の胸を撫でた。

 

「今は、私と一緒にいて」

 

 俺は、彼女の手を握った。

 

「……ああ」

 

 だが、頭の中では、今のやり取りを反芻していた。

 

 依頼主は、ロイヤルナイツの存在を知っていた。そして、俺が生き延びたことに価値を見出している。

 

 なぜだ?

 

 俺に何を期待している?

 

 リリスモンは、俺の思考を読み取ったかのように囁いた。

 

「あなた、考えすぎよ」

 

 彼女の唇が、俺の首筋に触れた。

 

「今夜は、もう休みましょう」

 

 俺は、彼女を抱きしめた。

 

「……そうだな」

 

 考えても、答えは出ない。

 

 今は、リリスモンと共にいる。

 

 それだけで、十分だ。

 

 だが――

 

 俺は、モニターをもう一度見た。

 

 依頼主の最後のメッセージが、頭に残っている。

 

『お前が生きていることの方が、ファイルよりも価値がある』

 

 つまり、依頼主は俺自身に価値を見出している。

 

 情報ブローカーとしての能力? それとも、別の何か?

 

 いずれにせよ――

 

 俺は、モニターを起動した。

 

「アキラ?」

 

 リリスモンが、不思議そうに俺を見た。

 

「少しだけ、仕事をする」

 

 俺は、キーボードを叩き始めた。

 

「依頼主は、俺がロイヤルナイツと遭遇しても生き延びることを期待していた。つまり、あいつは俺がデジモンに関わることを望んでいる」

 

 画面に、闇市場のフォーラムが表示される。

 

「なら、その期待に応えてやる。俺は、デジモン関連の情報ブローカーになる」

 

 リリスモンは、俺の隣に座った。

 

「……あなた、デジモンのビジネスをするつもり?」

 

「情報には価値がある」

 

 俺は、彼女を見た。

 

「ロイヤルナイツの動向、イグドラシルの計画、逃亡デジモンの居場所――全てに買い手がいる」

 

 キーボードを叩く。

 

「お前が言った通り、多くのデジモンが人間世界に逃げ込んでる。そして、彼らは身を隠す場所、偽の身分、武器、情報――全てを必要としている」

 

「需要と供給ね」

 

「ああ。俺は、それを提供する。そして、対価を得る」

 

 リリスモンは、数秒沈黙した。

 

 それから、彼女は笑い出した。

 

「あはは……! あなた、本当に変わってないわ!」

 

 彼女は、俺の首に抱きついた。

 

「美徳なんてクソくらえ! 正義なんて興味ない! ただ、効率と利益だけを追求する!」

 

 彼女の爪が、俺の頬を撫でた。

 

「だから、好き!」

 

 俺は、彼女の腰を抱いた。

 

「……で、お前は協力するか?」

 

「もちろん」

 

 リリスモンは、俺の耳元で囁いた。

 

「私は、あなたのパートナー。あなたの策に、私の力を提供する」

 

 彼女の爪が、俺の首筋を這う。

 

「あなたが逃亡デジモンを集めるなら、私は彼らを守る。あなたがロイヤルナイツの情報を売るなら、私は彼らを観察する」

 

 彼女の吐息が、熱い。

 

「あなたがイグドラシルを敵に回すなら――」

 

 彼女の瞳が、赤く光る。

 

「――私は、喜んであいつの喉を切り裂く」

 

 俺は、彼女の背中を抱きしめた。

 

「……いいパートナーだ」

 

「でしょう?」

 

 リリスモンは、俺の唇に自分の唇を重ねた。

 

 彼女の舌が、俺の口の中に侵入してくる。熱く、湿っていて、どこか危険な味がした。

 

 数秒後、俺たちは唇を離した。

 

 リリスモンは、満足そうに微笑んだ。

 

「……これで、あなたは私のもの」

 

「逆だろ」

 

「どっちでもいいわ」

 

 彼女は、俺の胸に顔を埋めた。

 

「大事なのは、私たちが一緒にいるってこと」

 

 俺は、彼女の髪を撫でた。

 

 窓の外では、東京の夜が更けていく。

 

 この街のどこかで、ロイヤルナイツが逃亡デジモンを狩っている。

 

 イグドラシルが、大粛清を推進している。

 

 デジモンたちが、それぞれの思惑で動いている。

 

 だが、俺には関係ない。

 

 俺が動くのは、俺の利益のため。

 

 そして、今この瞬間、俺の利益は――

 

 俺は、リリスモンを抱きしめた。

 

 ――彼女と、共にいることだ。

 

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