学園都市キノ   作:青桐大我

3 / 4
第一村人発見!

「こんにちは、ヴァルキューレ警察学校・生活安全局の中務キリノです! ご旅行に来られた方、ですよね?」

 

 キノは薄い笑みを作って答えました。

 

「ええ、しばらくここに滞在して、観光しながら少し体を休めようかと思いまして」

「なるほど。 長期滞在でしたらここは他学園自治区へのアクセスもいいですから、もし滞在中に時間があれば、そちらに足を延ばしてもいいかと思いますよ!」

「はい、そのつもりです」

 

 キリノが言うには、ハイランダー鉄道学園によって運営される鉄道が最も「確実に目的地に着く」とのことでした。

 

 少し不穏な物言いにキノが首をかしげると、キリノはその様子に気が付いて慌てたように手を振りました。

 

「いえ、普段ならバイクなどで行っても全く問題ないんですが! ……最近、キヴォトス全体で治安の悪化が問題視されてまして。 個人で自治区を跨ごうして、郊外でチンピラなどに襲われる事件が多発しているんです。それに、各地で犯罪者が暴れたために交通規制や閉鎖が行われている場所も多く、土地勘がないと移動に手間がかかるかと……」

 

 「現状、鎮圧には人手が足りず……」と申し訳なさそうにしているキリノを見ながら、キノはD.U.地区にくるまでの道のりを思い返していました。やはりあれほどに襲われたのは日常茶飯事ではなかったようです。

 

「もし良ければ、ボクも手伝いましょうか」

 

 そんなキノの言葉に、キリノは思わず「えっ?」と声を漏らしました。キノはキリノからペンとメモ帳を借りると、そこにさらさらと何かを書きつけて返しました。キリノがメモ帳を見返すと、そこにはメールアドレスが1つ、細い筆跡で記してあります。

 

「人手がご入用ならそこに連絡してください。荷物運びから要人護衛に襲撃まで、一通り請け負います」

 

 さらりと一息で営業文句を言ってのけたキノに、キリノは目を丸くします。

 

「もしかして、傭兵をしている方ですか?」

「そのようなものです」

 

 キリノはしばらくうなりながらメモ帳に書かれたメールアドレスを見つめていましたが、何かを振り払うようにふるふると首を振るとメモ帳を勢いよく閉じました。

 

「さすがに、私たちの業務に一般の人を巻き込むわけにはいきませんから! 大丈夫です、何とかしてみせます!」

「おや、そうですか?」

 

 キノは返事を聞くと、顔をキリノにぐいと近づけながペンとメモ帳をその手から抜き取りました。そしてメールアドレスの上に何かを書き足します。

 

 目の前に近づいてきた中性的な顔に思わず固まるキリノの手に、ペンとメモ帳を返してきゅっと握らせました。

 

「旅の路銀を稼ぐ意味合いもあるので、できれば呼んでくれると嬉しいです。よろしくお願いしますね」

 

 囁くように言って顔を離しました。顔を真っ赤にしてあわあわとしているキリノを余所にその場を離れようとしたキノは、「あ」と声を出して彼女に声をかけました。

 

「ご飯のおいしい宿泊施設、どこか知りませんか?」

 

 

 

 

 ヴァルキューレ警察学校・生活安全局所属の真面目な少女、中務キリノは、キノと別れた後もしばらく突っ立っていました。

 恐る恐るメモ帳を見返すと、メールアドレスの上に「此花キノ」という名前が書き加えられています。

 

「……このはな、きの」

  

 キノはあまり表情の変化の激しい方ではありませんでしたが、その分整った顔の作りが際立っていました。急に近づいたキノのそんな顔に、キリノは正直に言うとどぎまぎしていました。

 

 とはいえそのあとおすすめの宿泊施設を聞かれたキリノは、気を取り直して生活安全局の本領を発揮(?)していくつか名前を挙げていました。その中でも「このホテルは夕食がバイキング形式で食べ放題、しかも美味しい」という情報を聞いて宿泊先を即決していたあたり、キノのお眼鏡にはかなったようです。

 

 そうして別れて、冷静になってから改めて考えてみると、キノの営業の仕方はなかなか堂に入っていました。もしかしたら急に距離を詰めてきたのもわざとなのかもしれない、と思い当たります。もしそうならちょっとずるい人、天然ならそれはそれでたちが悪いです。

 

 むっすー、と頬を膨らませたキリノは改めてメモ帳をしまい込むと、見回りを再開しました。別に連絡しませんから、……ほんとーに困ったときにしか、連絡しませんから。と考えながら。

 

 

 

 

 キノは実に満足そうなほくほく顔でエルメスに跨り、キリノに教えてもらったバイキングのあるホテルへ向かっていました。

 

「いいホテルも教えてもらったし、仕事のあてもできた。ついて早速ついてるね、キノ」

「暗くなる前に見つかってよかったよ。ただ、消耗品とかの補充は明日かな」

 

 空を見上げながらキノが言います。泊まる場所を探し回っている間に、日はずいぶんと傾いてきていました。

 

「エルメス。さっきの、キリノさんに仕事の話をしたとき」

「うん」

「一応言われたとおりにやったけど、ボクのやり方じゃないかも」

「まあ、そんな気はしてた」

 

 なんとキノ、キリノに仕掛けた営業はエルメスの操り人形になりながら行ったものでした。エルメスがキノの横から、キノだけに聞こえるように小さな声で逐一指示を出していたのです。

 

「あれで仕事振ってくれるかな」

「んー、多分大丈夫だよ。ちょっと時間は空くかもしれないけど」

「そう?」

 

 話しながら、信号が赤に変わった交差点でブレーキを掛けます。

 

「まあ、しばらく困らないくらいは貯めてあるからいいけど」

「そのことなんだけど、キノ」

「なんだい、エルメス」

 

 キノの言葉に、エルメスはなんでもないかのように返しました。

 

「ここに来るまでに、ペイロードをオーバーしたまま距離を走ってきたせいで、ホイールとかサスペンションに結構ガタが来てるみたいなんだよね」

「荷物は調整してたはずだけど……あ」

「さすがに人ひとり増えたのはきつかったかなー」

「しまったな……」

 

 腹いせと実利を兼ねて、D.U.地区に来るまでの道でドクロヘルメットちゃんを拉致していたキノでしたが、今になってその報いが降ってきたようです。

 

「せっかくだし、いろんなパーツを新調してみないかなって」

「だからボクにあんな事させたのか」

「てへ」

 

 哀れなことに、キリノはエルメスの私欲のためにキノの毒牙(?)にかけられようとしていたのでした。キリノは怒っていい。

 

「でも、今のやつはブラックマーケットで手に入る分では結構いい奴だったはずだけど」

「まあ、今以上のを探すとなかなか高くつきそうだね」

「なら新調とは言っても、ダウングレードすることになるかも……」

 

 そんなことを言うキノに、エルメスは「チッチッチッ」と舌を鳴らしました。実際のところエルメスには舌はありませんが。

 

「だからさ、キノ。良いのが売ってないなら、作ってもらえばいいんじゃないかってこと」

「もっとお金がかかるじゃないか」

「お金の代わりに、このストラップとバイクに相互変形する素敵な車体をちょっとばかり見せてあげるつもり」

「……? 話が見えない」

 

 やたらともったいぶるエルメスに、キノは眉を顰めます。別にエルメスの事を秘密にしているわけではありませんが、変形を見せびらかして喜ぶバイク屋さんがいるとは思えないためキノはエルメスの提案に懐疑的でした。

 

「まあつまり、ぼくをちょっと研究させてあげる代わりに、パーツを新しく作ってもらおうっていう取引をするのさ」

「誰に持ち掛けるつもり?」

「たくさんいると思うよ。次の旅先にもどうかな」

 

「――ミレニアムサイエンススクール」

 

 

 

 

 数日のホテル滞在を経たキノは、ある朝ハイランダー鉄道学園管轄のD.U.自治区にある駅にいました。

 

 その数日の間に、ホテルのバイキングでトレイに並べられた食品を片端から片付けていって料理長を半泣きにさせたり、消耗した銃弾を買った直後に襲ってきたチンピラを撃退した結果もう一度銃弾を買いに戻るはめになったりいろいろなことがありましたが、ここでは割愛します。

 

 キノはいつものように黒いジャケットの上に茶色のコートを羽織り、ゴーグルといわゆるパイロットキャップと呼ばれる帽子を頭に装備していました。

 

 キノのそばにバイクはなく、代わりにキノの腰に金属と革でできたシックなストラップがかかっていました。そのストラップ――エルメスが、キノに話しかけます。

 

「キノって電車は初めて?」

「そうだね。エルメス以外でこんな長距離移動をするのも初めてかもしれない」

 

 券売機を操作しながらキノが答えます。少し手間取っているのを見かねて、エルメスが下から操作方法を指示しました。

 

「D.U.→ミレニアムサイエンススクール東」と書かれたチケットを改札に通して、開いたゲートを見ながらキノは進んでいきます。

 

 エスカレータを上った先で広がる巨大なホームに圧倒されながら、キノは自分が乗る電車を探します。しばらく周りを見渡してそれを見つけたキノは、出発時刻よりずいぶん早く乗り込むとコートを脱いで席に座りました。

 

「そういえば、エルメス」

「なに?」

「一応ミレニアムのことは調べたから、エルメスのメンテナンスをやってくれそうだっていうのは分かった。けど、エルメスはどこでミレニアムの事を知ったの?」

「たまにブラックマーケットでミレニアム産の商品が売ってたからね。ずっといいなとは思ってたんだ」

「そっか」

 

 それだけ答えると、キノは帽子を脱いで顔に乗せて背もたれを少し倒しました。

 

 「――着いたら起こして」

「おっけー」

 

 キノはその返事を聞くと口を閉じ、数秒もすると規則的な呼吸音を立て始めました。

 

「もしかして、昨日あんまり眠れてない? 初めて大きな学園自治区に行くからって」

「……うるさいな」

 

 エルメスの言葉に、キノは一言だけ返しました。




快速特急、あとがき行
- the Preface -

2話を投稿してからお気に入り数や評価がぐんと増えてむずむずしています。勢いのままに3話めです。もうどんどん反応ください。
そんな折にする話ではないのですが、ちょっと来月初旬までだいぶ忙しくなるため更新が滞りそうです。
頭の中ではそれはもう話が進んでいるので、出力するまでお待ちいただけると幸いです。
できれば忙しい中でも1回か2回、更新したいものです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。