学園都市キノ   作:青桐大我

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先端技術なので扱いがそれなりに慎重になる

 ずだだだんっどどどぱんぱんちゅいーん!

 

 という発砲音が聞こえた瞬間、キノは跳ねるように起きました。右腰のリボルバー「カノン」を抜き、前の座席の陰に隠れるようにしゃがみ込んであたりの様子を伺います。

 

「…………?」

 

 電車内は座席が規則正しく並んでいるため、しゃがんでいるキノの視界は決してよくありません。そこから見える限りでは、発砲した、あるいはされた人物の姿は見えませんでした。何なら、発砲音が聞こえた割には乗客に慌てた様子がありません。

 

「エルメス、今のは?」

「音の届き方からすると、隣の車両くらいだと思うよ」

 

 腰にぶら下げた金属と革でできたストラップからの返答を聞いて、 キノはひとまず座席の陰からひょっこりと出てきました。

 

 すると同じタイミングで前の車両へとつながるドアが開き、薄灰色の制服を着た生徒が出てきました。ハイランダー鉄道学園の、おそらく客室乗務員を担当しているのでしょう。その右手には拳銃、左手には手首を乱雑に縛られたどこかの生徒さんの首根っこ。親の仇のように、ぎりぎりと音を立てるほど握りこんでいます。

 

 客室乗務員は、すうっと大きく息を吸い込むと、耳をふさぎたくなるほどの大声で話し始めました。

 

「ただいま、○○学園の生徒による車両運行の妨害行為を確認し、こちらの対処のため発砲を行いました! これによる遅延などはございませんのでご安心くださあい!」

 

 仇ではありました。親ではなく車両運行のですが。

 

 とはいえあまりに強く首を握りこまれているので、犯人の少女はだんだん息ができなくなってきています。顔が青いです。なんか絞り出すような声がしています。そろそろ放してあげてほしいですね。

 

 「なお、今後も同様の妨害行為が確認された場合、あるいは妨害行為であるとこちらが判断した場合には実力行使しますので――」

 

 客室乗務員はそこで言葉を区切ると、犯人の首をぐいと引っ張って前に突き出し、その側頭部に拳銃を突きつけました。

 

 キノが「あ」と声に出すより早く、一切の躊躇なく引き金が引かれます。

 

 どぱんっ! という音とともに、面白いくらいに大きく頭が揺れて、そのまま犯人の少女はうなだれてしまいました。

 

 客室乗務員はそれを確認してふん、と満足そうに息をついた後、ずっと握りこんでいた少女の首を放しました。よかったね。

 

 そして放した手の親指を立てて少女に――つまりは下にまっすぐ突き立てて、こう宣言しました。

 

「そっちが乗客でこっちが乗務員だからってあんま舐めないように、よろしくお願いしまあす!」

 

 乗客がそろって呆気にとられているのを尻目に、倒れている少女の足首をひっつかんで客室乗務員の子は前の車両へと戻っていきました。ドアが閉じる寸前に「はーすっきりした!」とか聞こえた気がしました、気がしただけです。

 

 キノもまたその一連の光景を見て突っ立っているだけでしたが、ドアが閉じてから数秒してゆっくりと骨飛ばした帽子を拾い上げ、先ほどまで自分が寝ていた席に深く体を沈めました。

 

「電車ってこんな乗り物だったのか」

「ハイランダーだけだと思うよ」

 

 キノの言葉をエルメスが訂正します。乗客を好き放題できる公共交通機関なんて2つもあってはたまりません。

 

「なんか、あんなことされるとおちおち寝られないな」

「キノ、まだ寝る気だったの? もう寝る時間もあまりないよ」

 

 エルメスのその言葉にキノは顔に帽子を乗せようとしていた手を止め、腰にぶら下がっているエルメスの方を見やりました。

 

「もうそろそろミレニアムに着くからね」

 

 それを告げると同時に、次の駅にもうすぐ着くことを知らせる車内放送が聞こえてきました。

 

 

 

 

 ミレニアムサイエンススクール東駅に到着した電車が到着しました。電車の扉と同時に、ホームに設置されたガラス張りのドアも開きました。キノはそこから降り立ち、周りを見渡します。

 

「科学力でキヴォトス3大校に成り上がったとは聞いたけど、さすがにD.U.とは景色からして違うね」

「これは新パーツも期待できそうじゃない?」

「そうかもしれない」

 

 歩いているとすれ違う清掃ロボやドローンなんかを目で追いながら広い駅を歩き、道に軽く迷いそうになりながら改札を出ます。そこには実に小ぎれいに整えられた円い芝生が広がっており、そこからさまざまな方向に向かって舗装された道が伸びていました。

 

 ひとまず周りにいたミレニアム生に声をかけて「面白いバイクのメンテナンスをしてくれる人を知らないか」と聞いてみると、「あっちの部活棟に行ったら誰か見てくれるんじゃない?」との返事をもらいました。

 

 彼女が指してくれた道に向かいながら、キノとエルメスは言葉を交わしました。

 

「とはいっても、そんな簡単にメンテナンスしてくれる人が見つかるとは思っていないけど」

「大丈夫だって」

 

 

 

 

「……まさかここまでとは」

「ちょっとまずいかもねー」

 

 数時間後、キノとエルメスは部活棟の前で立ち尽くしていました。

 

 キノが最初に訪ねたのは未来ビークル部でした。部活棟の案内板にある中で、最もエルメスのメンテナンスを引き受けてくれそうな名前でした。

 

 実際ストラップがバイクに変形するさまを見せるといたく興味を持ってくれたようで、レンチを握りしめた未来ビークル部員は「どんなパーツでも作ったげる!」と力こぶを作って見せるほどでした。そして学校外の人間と取引を行う際に必要だからと契約書類を持ってきてくれたのですが、それが問題でした。

 

 キノが必要事項を記入して返すとしばらく部員の子は内容を確認していましたが、やがて顔色が少しずつ悪くなっていき、震える手で書類をキノに返して言いました。

 

「すみません……。ブラックマーケットの人との取引は、セミナーに目を付けられちゃうんで難しくて……」

 

 ばっさり断られました。敬語でした。

 

 キノには学生証――この学園都市で言うところの身分がなかったため、ほとんどの欄を空白にして書けるところは書くようにしたのですが、それが裏目に出てしまったようでした。

 

 さすがに部の進退をかけてまでエルメスを診てもらうわけにもいかず、キノはあきらめて他の部活へと足を向けました。

 

 ところが、変形するバイクを治したいというブラックマーケット生の情報が未来ビークル部から共有されたのか、以降はどの部活に行っても内容を言った時点で門前払いをされる有様です。書類を書かせてもらえすらしませんでした。

 

 そんなわけで、数十の部活動をめぐって何の結果も得られなかったキノとエルメスは立ち尽くしていたのでした。

 

「……どうする、エルメス」

「さすがにここでは厳しそうだねえ。自治区の方で腕のよさそうなところを探す?」

「そうした方が早いと思う」

「うーん、最新技術でできたパーツ、使ってみたかったけど仕方ないか」

「もし良ければその話、うちで請け負うけどどうかな」

 

 キノとエルメスが話していると、後ろから声がかけられました。

 

 キノが振り返ると、そこには白衣を肩にかけた紫髪の生徒がいました。何故か白いタレットにまたがっていました。

 

「誰ですか」

「ふふっ。すまない、挨拶をすべきだったね。私は白石ウタハ。エンジニア部の部長をやっている」

 

 エンジニア部という名前に覚えがなかったキノは首をかしげますが、ウタハはそれを見て言葉を続けます。

 

「私たちは別の棟をまる1つ使って様々なロボットの製作に取り組んでいるんだ。車両の扱いも心得ている」

 

 ウタハはタレットから降りて、キノに近づいてきました。

 

「先ほど未来ビークル部から君の情報が回ってきてね。変形するバイク、ぜひとも見せてほしいんだ」

 

 更に近づいてきました。

 

「ブラックマーケットの出なのは知っているとも。心配しなくていい、書類はこっちで当たり障りのないようにしておくさ」

 

 更に近づいてきました。

 

「これかな? 見た目は完全にただのストラップだね。 重量もバイクのそれではない……か。いや、これが本当に変形するのか。すごいな」

 

 更に近づいてきました。キノと爪先が触れ合うくらい近づいて、しゃがみこんでキノの腰にかかったエルメスを矯めつ眇めつしています。

 

「……えっと」

 

 あまりに滑らかに近づいてきたのでどうにも動けなかったキノは、気圧されて言葉に詰まってしまいます。代わりにエルメスが答えることにしました。

 

「腕はいいの?」

「おっと?」

 

 目の前のストラップが急に言葉を放ったことに驚いたウタハは、思わず顔をのけぞらせます。バランスを崩しそうになって、腕をぶんぶんと振り回して態勢を立て直しました。

 

 んん、と咳払いをしてから、ウタハは答えます。

 

「これでもミレニアム内では『マイスター』の名で通るくらいのものだよ。安心してくれていい」

「そっか。――キノ、この子に任せてみようよ」

「いいの?」

「いいよ、この子ならいろいろ良くしてくれそう」

 

 キノはエルメスの言葉を聞いて、まあ当人がそういうならいいか、と思いました。キノはウタハから、なんというかこう、マッドなものを感じていたのでした。

 

「本人が望んでいるので、あなたに任せてみようと思います。僕はキノ、こっちのストラップ兼バイクがエルメスです。よろしくお願いします」

「よろしく」

「よろしく。それじゃあ、早速エンジニア部に案内するよ」

 

 早く変形を見てみたいからね、とウタハはタレットにまたがりました。タレットが起動して、走行を始めました。タレットってそういうものでしたっけ。

 

 そして振り向くと、キノとエルメスに言いました。

 

「そういえばエルメス君が喋るというのは聞いていなかったのだけど、そのあたりの機構も見せてもらえないかな」

「自分でもどうなってるのか分からないけど、あんまりバラバラにしなければいいよ」

 

 エルメスはそう答えました。




あとがきを尋ねて三千里
- the Preface -

こんばんは。
キヴォトス、地理設定や風景設定が全然ないのでなかなか書きづらいです。
アートワークスとかに載ってたりしませんかね。
次の投稿は来週か、再来週か。
それ以降はさすがに余裕が生まれるはずですので、ごゆるりとお待ちください。
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