ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第13話

 

 

 

 

 

 無人島特別試験1日目PM。

 

 出遅れながらもようやく動きは決まった。

 

 春麗が提案した作戦は、オレにとってはかなり面白そうなものだ。

 

 だが、決して万人受けするようなものじゃなかった。

 

 平田はその作戦に難色も示した。

 

 佐倉や気の弱そうなクラスメイトたちも同様だ。

 

 平和主義者にとっては少し嫌な内容かもしれない。

 

 それでこの無人島試験を上手く突破したとしても、どこかスッキリしないかもしれない。

 

 だが決行する意義はある。

 

 むしろ決行した方が今後のクラス間競争で優位を得ることが出来そうだ。

 

 だからオレは面白いと思った。

 

 たまには悪者を演じるのも悪くない。

 

 そろそろ暴力を規制するような前例も作っておきたいしな。

 

 いずれにしろ多数決による採決で作戦は決まり、オレ達はその拠点となる場所を目指している。

 

 そう……

 

 龍園率いるDクラスが陣取るビーチに。

 

 

 

 

 

 

 奴らの拠点に到着すると、そこには偵察通りの光景が広がっていた。

 

 白い砂浜が太陽の光を反射して眩しく輝き、その上には色とりどりのパラソルやビーチチェアが並んでいる。

 

 開けたビーチには大量の物資が用意され、Dクラスの生徒は楽しそうに遊んでいる。

 

 バレーボールに興じる者、波打ち際で水を掛け合う者、日光浴をする者。

 

 オレの中ではもっとギスギスしたクラスを予想していたが、思いのほか雰囲気は悪くないようだ。

 

 とても暴力で支配されてるクラスの雰囲気ではなかったが、恐らくすぐリタイアすることが確定してるからだろう。

 

 ここでちょっと遊んであとは豪華客船で豪遊。

 

 最高だな。

 

 それならこの雰囲気も納得だ。

 

 視線を変えてビーチと森の境あたりに目を向けると、早速お目当ての存在が目に入ってきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 龍園翔。

 

 Dクラスを暴力で支配し、王を名乗っている不届き者の名だ。

 

 紫色のロングヘア、鋭い目つき、そして人を見下すような不敵な笑み。

 

 奴はビーチチェアに背中を預けて優雅に寛ぎながら、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 まるで自分の王国を眺める暴君のように。

 

 そこに向けてオレ達クラス茶柱は進んでいく。

 

 あえてこちらに注意が向くように集団で闊歩しながら。

 

 砂を踏みしめる足音が、静かな宣戦布告のように響く。

 

 

 

「よう、馬鹿クラス。だいぶ出遅れたようだが、揃いもそろって腑抜けた奴らが俺たちになんか用か?」

 

「もちろんよ。はじめまして龍園君。私はクラス茶柱の春麗よ」

 

「そーいやそんなマヌケなクラス名だったな。お前の事はもちろん知ってるぜ。えらく派手に暴れまわってるそうじゃねえか」

 

 

 

 早速始まったな。

 

 初対面だというのに火花バチバチだ。

 

 互いに笑顔だが、完全に互いを敵対視してるのが分かる。

 

 春麗の笑顔は優雅だが、その目は氷のように冷たい。

 

 龍園の笑顔は獰猛だが、その奥には油断ならない知性が光っている。

 

 まあ、クラスの中心になるような人間はもう頭角を現してるし仕方ない。

 

 Aクラスは坂柳と葛城。

 

 クラス茶柱は春麗。

 

 Cクラスは一之瀬。

 

 Dクラスは龍園。

 

 学校がクラス間競争を仕向けてくる以上ライバル関係になるのは避けられないからな。

 

 そんな中でも特に龍園は好戦的な男だ。

 

 果たしてこの獰猛な笑みを浮かべた男が春麗にどこまで通用するのか、今回の作戦で分かる事になるだろう。

 

 まだ挨拶しかしてないように見えるが、既に火ぶたは切って落とされた。

 

 オレ達はもう作戦通りに動き始めている。

 

 森を見上げると、アイツからサインが送られてきた。

 

 木の葉の隙間から、金色の髪がチラリと見える。

 

 それを春麗も確認している。

 

 どうやらスタンバイOKみたいだな。

 

 

 

「そこまで知ってくれてるなら余計な挨拶は必要なさそうね」

 

「そうかよ。俺は別にしてやっても構わねえが、まあいい。それでお前らは何しに来た。物資でも恵んでもらいに来たか?」

 

「そんなつもりはないわ。私たちは()()()()()()()だけよ」

 

「ハッ、気楽なもんだ。その様子じゃまだ拠点すら確保できてねえようだが、そんな状態で遊びに来るなんてよっぽどの馬鹿らしいな」

 

「拠点はこれから確保するつもりよ。その前にちょっとここで遊んでこうと思って。そうでしょ? 高円寺君」

 

「もちろんだよレディ。なにやら楽しそうにしてるじゃないかドラゴンボーイ。私たちも混ぜてくれないかな?」

 

 

 

 春麗の声掛けにより、突然木の上から高円寺が降ってきた。

 

 まるで猛禽類が獲物に襲い掛かるような、優雅でありながら圧倒的な存在感。

 

 

 

「あぁ!? なんだテメェは! どっから降ってきやがった!」

 

 

 

 龍園はかなり驚いているが、確かに急に誰かが上から降ってくれば誰でも驚くだろうな。

 

 というかそれが狙いだ。

 

 これはオレ達が最初から狙っていたことであり、高円寺はオレ達が龍園に近づくより先に木の上に隠れてスタンバイしていた。

 

 そしてタイミングよく上から降ってきた高円寺に龍園が注意を逸らされてる隙に、龍園の隣に移動して龍園を見下す春麗。

 

 春麗の動きは物音が一切立たず、オレと最初にバスで出会った時のように気配が感じられない。

 

 影のように、風のように。

 

 だが周りから見てる人間には当然バレるので、早速石崎から待ったがかかる。

 

 

 

「おい! お前何勝手に動いてんだ! まだ龍園さんは何も許可してねえぞ!」

 

「うるせえぞ石崎! 今度はなんだ!」

 

「スイマセン龍園さん。この女が勝手に龍園さんの隣に行ってたんで」

 

「あぁ? テメェ何のつもりだ!」

 

「何って、あなたを近くから見下してるだけよ。もしかしてダメなの?」

 

 

 

 すっとぼけながら時間を稼ぐ春麗。

 

 その隙に今度は反対側の高円寺も同じように隣に移動し、龍園はあっという間に2人に挟まれてしまった。

 

 

 

「……オイオイ、お前らこりゃ一体どういうつもりだ?」

 

 

 

 流石の龍園もオレ達がなにか企んでることに気づいたらしい。

 

 高円寺を睨みながら、今自分がどういう状況に陥っているのか思考を巡らせてるようだ。

 

 だがこれはもうゲームセットかもしれないな。

 

 随分あっさりうまくいってしまった。

 

 拷問の準備が。 

 

 

 

「何を言ってるんだいドラゴンボーイ。どういうつもりもなにも先ほどレディが言ってたじゃないか。私たちと遊ばないかと」

 

「そりゃ挑発か? まるで俺で遊んでやるとでも言ってるみてえに聞こえるが」

 

「ハッハッハ! だからそう言ってるんだよ。君もずいぶんと鈍い男だねぇ」

 

「ぶっ殺す!」

 

「まあまあ龍園君。試験は一週間もあるんだし、まずはゆっくりお話しましょう」

 

「テメェ……随分といい度胸してやがるな。お前も殺されてえのか?」

 

「別にいいわよ?」

 

「あぁ?」

 

「あなた程度にそれが出来ればの話だけど」

 

「……チッ、ふざけやがって。お前らは絶対殺す」

 

 

 

 拷問の準備はあっさり完了したが、龍園という男は意外に頭が回るようだ。

 

 春麗の分かりやすい挑発には乗らなかったな。

 

 さすがに瞬殺とはいかないらしい。

 

 どうやらオレ達の狙いにもさっそく気づいたようだ。

 

 コイツから暴力を引き出してクラスもろとも試験から失格させるという狙いに。

 

 その証拠に一瞬にして冷静さを取り戻した。

 

 伊達にクラスの王を名乗ってるわけじゃなさそうだが、今更気づいた所で手遅れなんだけどな。

 

 龍園の左右には春麗と高円寺がいて、前にはオレ、後ろには須藤。

 

 そのまわりはクラス茶柱の面々がすでに囲んだ。

 

 完全な包囲網。

 

 この中にいるDクラスの生徒は龍園・アルベルト・石崎の3人だけ。

 

 こういう荒事が苦手であろう平田や佐倉などを含めた半数はこの場にいないけどな。

 

 アイツらには支給品の運搬、それから茶柱と坂上を連れてくるように頼んである。

 

 担任はクラスの近くに控えてるはずだから、すぐに教師2人もここに姿を現すだろう。

 

 いずれにしろ春麗と高円寺に睨まれて、クラス茶柱にも囲まれた現状から抜け出すためには暴力を使うしかない。

 

 だが暴力行為をしたクラスは即失格とみなされ、暴力行為をした者は所持PPを全て剝奪される。

 

 自分が振るってもダメ、石崎とアルベルトに振るわせてもダメ。

 

 その名の通り、お前は王としての資質をこれから試される。

 

 下手したら永遠に煽られ続けるかもしれない。

 

 それが嫌なら早くリタイアするしかないが、コイツがもしリーダーならそれすら許されない。

 

 リーダーだけは特別な理由なくリタイアする事が出来ないからな。

 

 リタイアしたとしてもそれはそれで構わない。

 

 煽り耐性の低そうな別のやつにターゲットを変えるだけだ。

 

 さあ、どうする龍園。

 

 春麗と高円寺は座っている龍園を上から見下したまま煽ることをやめない。

 

 お前はされるがままを受け入れるのか?

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 アレから数分が経過した。

 

 依然として春麗と高円寺は龍園を煽り続けている。

 

 真夏の太陽が容赦なく照りつける中、緊張感だけが高まっていく。

 

 

 

「ねえ龍園君、そんな弱そうな体でどうやってクラスをまとめたの?」

 

「確かにそれは私も気になるねぇ。君の貧弱な筋肉では箸を握るのがやっとのようだが、なにか特別な秘訣でもあるのかな?」

 

「・・・」

 

「暴力ならあなたよりもアルベルト君の方が強そうに見えるけど、彼がリーダーじゃダメなの?」

 

「それもそうだねぇ。君はどうしてドラゴンボーイに従っているんだい? まさか君がこんな貧弱そうな男に屈してしまったわけではないだろう?」

 

「・・・」

 

 

 

 最初は獰猛な笑みを浮かべていた龍園だが、時間経過とともに口数は減ってこの通り。

 

 額には汗が浮かび、こめかみには青筋が浮かんでいる。

 

 どうやら龍園とアルベルトはだんまりを決め込んだようだ。

 

 だがそれは悪手だぞ。

 

 お前ら2人が黙っていられても、もう1人が黙っていられるとは限らないからな。

 

 

 

「お前ら黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって! 龍園さんを馬鹿にすんじゃねえ!」

 

 

 

 春麗の近くにいた石崎は春麗の顔面目掛けて拳を振り上げる。

 

 

 

「石崎ィ!!」

 

「な、なんすか龍園さん」

 

 

 

 龍園はそれをギリギリのところで止める。

 

 ……あとちょっとだな。 

 

 

 

「お前は黙ってろ! コイツらの狙いはオレ達から殴られることだってのが分かんねえのか!」

 

「で、でもコイツら許せねえっス」

 

「うるせぇ! いいから大人しくしてろ!」

 

「あら、別に殴ってくれてもいいのよ? それともボスが馬鹿にされてるのに、部下のあなたは黙ってみてるだけの臆病者なのかしら?」

 

「ふざけんな! そんなわけねえだろ! お前ら絶対許さねえからな!」

 

「おい、馬鹿ッ! 安い挑発に乗んじゃ――」

 

 

 

 安い挑発に乗って再度拳を振り上げようとする石崎。

 

 それを止めようとする龍園だが、今度は少し遅かった。

 

 石崎が振り上げた拳は見事に春麗の顔面にクリーンヒットし、春麗は後方に吹き飛ばされる。

 

 

 

「きゃぁあああ!」

 

 

 

 そしてその時にはすでに茶柱と坂上がこの場に到着していた。

 

 到着したばかりの2人の教師の耳に飛び込んできたのは女子生徒の悲鳴。

 

 そして目の前には石崎に殴られて吹き飛ばされてる春麗がいるという状況だけが確認でき、その前後関係を詳しく把握する暇なく仲裁に入る。

 

 流石の龍園もタイミングがバッチリすぎて、事態を揉み消すことすら出来なかった。

 

 ここまで綺麗に決まるとは思ってなかったが、なんともあっけなかったな。

 

 龍園は少しくらい見ごたえがあるのかもしれないが、それ以外は全然ダメだ。

 

 オレ達が囲う空間に割り込もうとするDクラスの生徒もいなかった。

 

 暴力で支配するクラスは龍園を抑えてしまえば何もできないのかもしれない。

 

 まあ、どうでもいいな。

 

 そんなことよりもオレには少し気になることがあった。

 

 石崎に殴られて吹き飛ばされた春麗だが、やけに大げさな悲鳴をあげてたな。

 

 「きゃぁあああ!」なんてアイツらしくもない。

 

 というかそもそも吹き飛ぶこと自体もおかしい。

 

 石崎のパンチが通用するとも思えないが……

 

 砂浜に倒れ込んだ春麗の顔を見ると、一瞬だけ目が合った。

 

 その目には――かすかな笑みが浮かんでいた。

 

 アイツもしかして、教師が来たタイミングを見計らって演技したのか?

 

 

 

 

 

 

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