ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第15話

 

 

 

 

 

 無人島特別試験3日目。

 

 昨日訪れたAクラスのリーダー葛城は、満足げな表情でオレ達の拠点から去っていった。

 

 「我々Aクラスはこの無人島試験を1位で終えることを望んでいる」という発言をライバルクラスにしてしまう迂闘なナイスガイ葛城。

 

 そんな男の願いを叶えてやるため、オレ達はやつに実りのある取引を提案した。

 

 その内容を要約するとこうだ。

 

 

 

 ①クラス茶柱は葛城クラスに、200ポイント相当の物資を提供する

 

 ②無人島試験において、クラス茶柱は葛城クラスが1位の結果を残せるようにポイントを調整する

 

 ③代価として葛城クラスはクラス茶柱に、卒業まで毎月1人2万PPを支払う

 

 ※①、②の条件が満たされない場合、この取引は成立しないものとする

 

 

 

 本来であれば葛城と龍園の間で行われていたはずの取引を多少マシにしただけのもの。

 

 とはいえこの内容でもそこそこ酷い。

 

 オレ達に毎月支払われるPPは不変のもの。

 

 それに対して葛城クラスは今後も変動するCPが報酬。

 

 長期的に見ればどうあがいてもフェアじゃない。

 

 これが3年の夏ならいい取引にもなるだろうが、まだ1年の夏。

 

 先の長い学園生活を控える現状では、CPと同等以上の価値がPPにもある。

 

 だが目の前の数字しか見れない葛城はなんの迷いもなくサインした。1位という数字に安心感を覚えて。

 

 本人は至って真面目に考えているようで、その表情は実に満足げだった。

 

 

 

「真嶋先生、彼がリーダーでAクラスは大丈夫なんですか?」

 

「……俺に聞くな。クラスの運営は生徒に委ねられているから俺からは何も言えない」

 

 

 

 契約を済ませた後、サインに立ち会ってくれた真嶋に春麗が尋ねていたが、葛城は担任からも心配されていたな。

 

 アイツはきっとリーダー当てルールのヤバさを理解してないんだろう。

 

 この無人島特別試験は一週間の頑張りを最終日のリーダー当ての一瞬で台無しにする仕様になってる。

 

 いくら節約しようがスポット占有を頑張ろうが、自クラスのリーダーを当てられない工夫をしなきゃ多くのポイントを残せない仕様だ。

 

 1位にはなれたとしても、それを理解しなければライバルクラスと大差をつけることは出来ない。

 

 だからあえてリーダー当ての条件は取引から除外したんだが、葛城は全くそれに気づく気配もなかったな。

 

 ライバルクラスに毎月1人2万PPを支払うなんてリスクを負うからには、圧倒的大差での勝利が要求されるというのに。

 

 アイツはこの学校のシステムと相性が悪すぎる。

 

 というよりこの学校でのリーダー役には向いていない。

 

 悪い奴じゃないからこそ、恐らく今後も色んな奴に騙されていくだろう。

 

 その巻き添えを食らうAクラスも可哀そうだが、クラスとして纏まってない方も悪い。

 

 神室はまあ……どんまいだな。

 

 今のところはスパイとしての報酬を弾んでやるぐらいしか出来そうにないな。

 

 いずれにしろ葛城は取引にサインしてしまった。

 

 オレ達は龍園クラスの置き土産である物資から200ポイント分を葛城クラスに横流しする。

 

 無人島特別試験において葛城クラスが1位になるように立ち回る。

 

 ただそれだけで卒業まで毎月1人2万PPをもらう権利を得た。

 

 足りない物資は自分たちのポイントで購入すればいいし、そうすることでAクラスを1位にしやすくもなる。

 

 あとは一之瀬クラスを上手くコントロール出来ればそれでミッション達成。

 

 安い仕事だな。

 

 おかげでクラスメイトは暇を持て余してる。

 

 だから今日はみんなで海水浴だ。しかも競泳水着じゃなくて自前の水着でな。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ポイントを使って自前の水着を船から持ってくる権利を購入した。

 

 ポイントをどんどん消費して青春も満喫する。

 

 いい眺めだな。

 

 青い海、白い砂浜、そして色とりどりの水着に身を包んだクラスメイトたち。

 

 波打ち際で水を掛け合い、砂浜で日光浴をし、ビーチボールで遊ぶ姿。

 

 水泳の授業で女子の水着姿に慣れていたおかげで、男子のアレも今日はビンビンじゃない。

 

 オレか? オレはいまだにビンビンだが?

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 アイツらが楽しそうでなによりだ。

 

 オレも混ざりたいが、今から春麗と一緒に一之瀬の所に行かなきゃいけない。

 

 楽しむ前にまずは一仕事だな。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一之瀬クラスの拠点は分っていたので、険しい森の中を進みながらもなんなくたどり着いた。

 

 木漏れ日が差し込む森を抜けると、川のせせらぎが聞こえてきた。

 

 一之瀬クラスは川辺に拠点を構えているらしい。

 

 そのタイミングでちょうど一之瀬の姿が見えたのでこちらから声をかける。

 

 オレじゃなくて春麗がだけどな。

 

 

 

「こんにちは、一之瀬さん」

 

「あっ、春麗ちゃん! 久しぶりだね!」

 

「ええ、久しぶりね。調子はどう? 順調そう?」

 

「にゃはは。まあまあってとこかなー」

 

 

 

 突然やって来たにも関わらず、一之瀬は相変わらずの眩しい笑顔でオレ達を出迎えた。

 

 ほんとコイツすごいよな。

 

 櫛田が嫉妬するのも納得のアイドルぶり。

 

 というかコイツが水着になったら破壊力がヤバそうだな。

 

 普通にグラビアアイドルとして通用しそうなレベルな気がする。

 

 当然だが、そんな一之瀬にも龍園クラスが失格になったのは伝わっているようだ。

 

  

 

「そういえば龍園君のクラスがクラス茶柱への暴力行為で失格になったって聞いたけど、あの人たちは相変わらずだね」

 

「ふふ、そうね」

 

「うん。いつも汚いやり方で妨害してくるんだもん。ところで誰が暴行されたの?」

 

「私よ」

 

「え!? そうだったの!?」

 

「ええ、そうよ。私が石崎君に顔面を思いっきり殴られたの。頬に少し傷があるでしょ?」

 

「ほんとだ……ひどいよ、女の子に手を挙げるなんて……」

 

 

 

 だが、いつも龍園から嫌がらせを受けてる一之瀬からすれば悪者は当然龍園になるわけで、オレ達が奴を嵌めたなんて1ミリも疑っていない。

 

 そんな一之瀬の様子が面白かったらしく、春麗は笑顔であっさりネタバラシした。

 

 

 

「といっても彼らが暴力を振るうように私たちが誘導したんだけどね」

 

「ええ!?」

 

「龍園君にはいずれ痛い目を見てもらうつもりだったけど、今回の試験を上手く利用させてもらったの。彼らが暴力を振るうまで散々挑発してやったわ」

 

「あはは……そうだったんだ」

 

「軽蔑した?」

 

「ううん、そんなことない。むしろちょっとスッキリしたかも」

 

「あら、意外ね。あなたはそういうやり方を好まないと思っていたのだけど」

 

「それはもちろん嫌だよ? でも龍園くんからの嫌がらせにうんざりしてたのも事実だから……あはは」

 

 

 

 確かに一之瀬からしたらそう感じるのも無理はない。

 

 一之瀬と龍園は目下のライバル関係で、龍園はコイツを引きずり下ろすための嫌がらせをずっと続けている。

 

 おかげで一之瀬のヘイトはすべて龍園に向かい、ライバル関係であるはずのオレ達との間柄は極めて良好だ。

 

 これも春麗の狙い通り。

 

 この関係を築くために、わざわざ櫛田にパイプを繋いでもらったんだからな。

 

 そしてその良好な関係を活かせる場面が早くもやってきたというわけだ。

 

 

 

「それならちょうど良かったわ」

 

「どういう事?」

 

「ちょっとあなたに頼みたいことがあったの。今日はそのための話し合いに来たんだから」

 

 

 

 朗らかに笑っていた一之瀬だったが、春麗の言葉を聞いてすぐに視線が鋭くなる。

 

 人当たりが良くてアイドルのように眩しい存在だが、コイツだって龍園と同様にクラスを統治する立場にある。

 

 春麗の言葉がなにかしらの取引なのではと察した一之瀬は、気さくな態度をすぐに改めた。

 

 とは言っても龍園や春麗なんかと比べたら怖さは無いに等しい。

 

 キリッとしていてカッコ可愛いだけだ。

 

 

 

「頼みってなにかなー? 良かったら神崎君も呼んできて場所も変えるけど」

 

「ふふ、察しがいいのね。それじゃあちょっと移動しましょうか」

 

 

 

 2人の女王は笑っていた。

 

 お前らほんと仲いいな。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一之瀬クラスの拠点から少し離れた場所で、オレ達は取引をまとめていた。

 

 木陰の下、せせらぎの音だけが響く静かな空間。

 

 立会人は星之宮。

 

 生徒代表として一之瀬・神崎・春麗・オレ。

 

 契約内容を要約するとこうだ。

 

 

 

 ①両クラスは互いにリーダー指名を行わない

 

 ②両クラスは互いに物資を共有出来る

 

 ③両クラスは葛城クラスからのリーダー指名を防ぐため、今後スポット占有を一切行わない

 

 ※上記の条件が破られた場合、罰則として100万PPを相手方に支払うものとする

 

 

 

 なんか契約してばっかりだが、勝負に裏切りはつきものだからな。それを防ぐためには仕方ない。

 

 とりあえずこれは残った3クラスのポイントを調整しやすくするための契約だ。

 

 一之瀬クラスとクラス茶柱の協力関係を証明するものでもある。

 

 現状では一之瀬クラスよりもオレ達の方が物資にもポイントにも余裕があるので、この協力関係を結ぶために物資の共有を条件に盛り込んだ。

 

 だから一之瀬クラスに有利な契約にも見えるがそうでもない。

 

 この契約のおかげで一之瀬クラスの行動を制限することが出来るからな。

 

 オレ達は腐ってもライバル関係だ。

 

 一之瀬が卑怯な手を好まないのは分かっているが、神崎やクラスメイト達が必ずしも同じだとは限らない。

 

 その点でイレギュラーを防ぐために必要な契約でもある。

 

 そして葛城とオレ達が結んだ契約の事も、もちろん一之瀬には伝えた。

 

 

 

「クラス茶柱はいいよねー。卒業まで毎月2万ppもらえるなんて羨ましい限りだよ」

 

「まあね。でも今回は運が良かっただけよ。あんな契約を結んでくれる人はそうそういないでしょうから」

 

 

 

 確かにな。

 

 今回は騙されてくれた葛城だって、今後の試験では同じ過ちを犯さないだろう。

 

 ちなみにだが無人島試験で葛城クラスを1位にしなきゃいけないわけじゃない。

 

 1位の結果が出せなければ、毎月1人2万PPを報酬として受け取れないなんて条件は盛り込んでないからな。

 

 200ポイント分の物資を提供してポイント調整もしたが、思い通りの結果にならなかったなんて言い訳も成り立つ。

 

 その辺を見逃す葛城も葛城だが、オレ達は約束を律儀に守る。

 

 その理由は簡単で、Aクラスを分裂させたままにするため。

 

 神室からの情報によれば、Aクラスは葛城と坂柳という2人の中心人物が派閥争いをしてる状態でまとまりがないらしい。

 

 だから葛城は結果を残して派閥争いなんて馬鹿げたものを終わらせようとしてるようだが、それを見逃すほどクラス茶柱はお人好し集団じゃない。

 

 一之瀬とオレ達では少し毛色が異なる。

 

 今回の無人島試験はきっちり葛城に勝ってもらうが、内容的には微妙なものにする。

 

 そうすることで派閥争いを長引かせて、勝手に自滅してもらった方がこっちとしては楽だからな。

 

 組織は内側から腐らせる方が圧倒的に楽だし効果も高い。

 

 目先の勝利よりも今後を見据えて、そのために一之瀬クラスとこんな契約をしたわけだ。

 

 オレ達はポイントに余裕があるので、快適な無人島生活を満喫するために迷わず物資を購入したうえで葛城クラスのリーダーを指名する。

 

 それが成功すれば一之瀬クラスとクラス茶柱のポイントは200前後で拮抗し、葛城クラスはスポット占有ポイント+リーダー指名ペナルティ50ポイントを失うことになるが、それでも物資購入にポイントを使っていないアドバンテージがあるから1位は固い。

 

 狙いが多少ずれたとしても問題ない。

 

 葛城クラスのリーダーを当てさえすればおおよその目的は果たされるからな。

 

 試験終了後には約200CP+毎月2万PPもらえてオレ達はウハウハだ。

 

 これでほとんど仕事は終わった。

 

 まあ、仕事も何もオレは初日からみんなの頑張りを見てただけなんだけどな。

 

 

 

「じゃあな、綾小路。お互いにこの試験を精一杯頑張ろう」

 

「ああ。そうだな」

 

 

 

 神崎から別れ際に声をかけられる。

 

 金魚の糞なだけのオレもそれなりに信用されてるらしい。

 

 握手を交わす手は、しっかりと力強かった。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一之瀬たちとの契約を終えて拠点に戻ると、クラスメイトが出迎えてくれた。

 

 まだ陽は高く、みんなは海水浴を楽しんでいる。

 

 スイカ割りで真逆の方向に進もうとする三宅。

 

 それを見ながら笑い合う仲間たち。

 

 本堂が豪快に海に飛び込み、大きな水しぶきを上げている。

 

 井の頭が砂浜でアイスを食べながら、穏やかな笑顔を見せている。

 

 いつも通りの光景だが、オレの日常には決してなかったものだ。

 

 求めていたものを目にして心がざわついた。

 

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 

 なるほど、これが青春というやつなんだな。

 

 オレと春麗も水着に着替えて、クラスメイトのもとに駆け出していく。

 

 砂浜を踏みしめる感触が心地いい。

 

 

 

「やっぱりあなたいい体してるわね」

 

「そうか? お前の方がすごいだろ。特にその脚――」

 

「綾小路君。今何か言おうとしたかしら?」

 

「気のせいじゃないか?」

 

 

 

 あ、危なかったな。

 

 青春を満喫する前に殺されるところだった。

 

 春麗の目が一瞬だけ鋭く光ったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 

 羽目を外すのも悪くはないが、地雷は踏み抜かないように注意しないとな。

 

 波の音、笑い声、そして夏の日差し。

 

 全てが眩しくて、全てが新鮮だ。

 

 求めていた青春を感じながら、オレは海へと駆け出していった。

 

 

 

 

 




春麗「脚がなんですって?」コロスワヨ
清隆「たうわっ!?」

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