無人島特別試験7日目の正午。
長いようで短かった無人島での特別試験が遂に終わりを迎えようとしている。
とりあえず出来ることは全てやった。
無人島での夏も満喫した。
バーベキュー・海水浴・肝試し・花火。
オレが思い描いていた夏がまさか試験中に叶うとは思ってもみなかったが、貴重な体験ができたな。
そう考えると悪くない試験だったのかもしれない。
この後に控える最後の点呼を終えることで、みんなも緊張を完全に解くことができるだろう。
もちろんオレもその1人だ。
豪華客船はいいぞ。いまだに無料なのが信じられないくらいだ。
戻ったらまた最高級マッサージを受けることも出来る。
今は来た時よりも圧倒的に疲労が溜まってるから、あの時よりもさらに気持ちいいんだろうな。
その前にまずはシャワーだな。
そのあとはフカフカなベッドで休もう。
先にマッサージ受けてから寝るのもいいな。
いや、ビュッフェで腹ごしらえするのが先か?
ダメだ。考えがまとまらないな。やはり疲れがたまってるんだろう。
だが、そんな状態なのはどうやらオレだけじゃないようだ。クラスメイトもみんな船に戻ってからどうするか話し合っている。
「まず風呂だろ」「いや飯が先」「俺は寝たい」なんて声があちこちから聞こえてくる。
まだ完全に試験が終わったわけじゃないんだけどな。
とはいえ結果は見えている。結局葛城クラスのリーダーは変更されなかったから、オレ達は葛城クラスのリーダーのみを指名して最後の点呼を終える。
そしてスタート地点の浜辺へと向かい、綺麗に整列していく。真夏の太陽が容赦なく照りつけ、砂浜からの照り返しが眩しい。
あとは結果発表を待つのみだ。
「流石にみんな疲労が溜まってるわね」
「当たり前だ。平気そうにしてるお前がおかしい」
「それもそうね。普通の高校生は私みたいに鍛えてないでしょうし」
それはそうだろうな。
オレですら疲れがたまってるのに、正直コイツの体力は人間離れしてると思う。
たぶん住んでる世界が違うんじゃないか。
インターポールを目指す若き格闘家。
一体どんな高校生なんだよ。と突っ込みたくもなる。
そんな意味不明な女子高生との他愛のない会話でその時を待つ。
もちろんこの場に龍園クラスはいない。
あいつらを除いた3クラスがこの場に集結し、結果発表の瞬間を待っている。
緊張感が漂う中、ほどなくして拡声器を使った真嶋の声が島内に響き渡った。
「これより特別試験の結果を発表する」
普段はうるさい高校生たちも、さすがに今は真嶋の声に耳を傾けている。
波の音さえ遠くなったように感じる静寂。
いよいよだな。
「では最下位―――Dクラス、0ポイント」
まずは失格した龍園クラスから。
ここにはなんの驚きもない。
もうみんな知ってる。
「3位は同率で2クラス―――BクラスとCクラス、200ポイント」
次はオレ達クラス茶柱と一之瀬クラス。
ここはちょっとざわついたな。
多分同率だったからだろうが、これはオレ達がほんの遊び心で揃えただけだ。
試験後半はあまりにもやることがなかったからな。
「最後に1位―――Aクラス、220ポイント」
そしてもちろん1位は葛城クラス。
これも狙い通りだがAクラスはざわついている。
主に葛城派閥を中心にだが、葛城はかなり驚いてるな。
本来ならスポット占有ポイントも含めて500ポイント以上は見込めたから、当然といえば当然の反応だ。
多分リーダーを当てられるとは思ってなかったんだろう。
だが、当てられない自信はどこから来てたんだろうな。
オレ達ですらリーダーが当てられる事を懸念して、スポット占有なんて面倒な真似は避けてたのに。
とにかく予想外だったらしい。
葛城の顔が青ざめ、周囲のクラスメイトがざわめき始めている。
ちなみにどうでもいい話だが、無人島特別試験におけるクラス茶柱のリーダーは櫛田だ。
なんで櫛田にしたかというと、アイツを目立たせるため。アイツの承認欲求を満たすため。ただそれだけ。
女王春麗から直々にリーダー指名されるほど信頼されている櫛田桔梗というシチュエーションを演出しただけだ。
はなからスポット占有なんてする気はなく、櫛田をワッショイするためだけにリーダーに指名した。
それだけでアイツの承認欲求はどんどん満たされて、クラスメイトからも今まで以上に頼られていく。
もしかしたら卒業するころには承認欲求を食らい尽くす化け物になってるかもしれないが、約束は約束だから仕方ない。
とにもかくにもこれで無人島特別試験は終了した。
クラス茶柱と一之瀬クラスは豪華客船を満喫しにさっさと船に引き上げていく。
混迷を極める葛城クラスだけを残して。
―1年無人島試験終了時CP―
葛城クラス:1260(+220)
クラス茶柱:1150(+200)
一之瀬クラス:1080(+200)
龍園クラス: 610(+0)
◆ ◇ ◆
その日の夜。
船内に戻ってから最初にしたことは、無人島で汚れてしまった体を綺麗にすることだった。
まずはシャワーで体を洗い流して、疲弊した体を温泉で癒し、高級スパを体験し、そして今は鉄板焼きレストランで久々の肉を堪能している。
目の前の鉄板では、シェフが見事な手さばきで和牛を焼いている。
ジュージューという音と、立ち上る香ばしい煙。
思わず涎が垂れてしまいそうだ。
もちろんクラス全員そろっているが、試験前のようにワンピースごっこで遊んだり、船内でバカ騒ぎするような真似はしていない。
試験前は全クラスがフラットな状態だったが、今は勝者と敗者が明確に存在する。
オレ達は勝者側だから気分はいいが、龍園クラスは怒りに震えているかもしれないしお通夜状態かもしれない。
オレにはどうでもいいことだが、他者への気遣いも忘れないようにと春麗から通達があった。
あんな酷い作戦を立てたお前が言うのかとも思ったが、試験での真剣勝負とプライベートは別らしい。
それに人の心を知ることも格闘家には必要なんだと。別にオレ達は格闘家じゃないんだけどな。
なんて言えるわけもなくとりあえず言われた通りに大人しく食事してるわけだが、そんな所に丁度良いのか悪いのか野生の龍園が現れた。
やったな。ポケモンGETするチャンスだ。
「よぉ」
「あら、龍園君。久しぶりね」
「ククク、テメェは本当にいい度胸してやがるなクソ女。あんだけの事しといてよくそんな呑気に挨拶出来たもんだ。イカれてんのか?」
「失礼ね。別にイカれてなんかないわよ……ないわよね?」
だがモンスターボールは弾かれてしまった。
現れた龍園は相変わらず龍園だな。奴はまったくめげてないらしい。
獰猛な笑みを浮かべたまま、堂々とこちらに近づいてくる。
そしてなぜか龍園の挑発に不安そうな春麗。
イカれてるかどうかの問いはクラスメイトに投げかけられたが、誰もそれに応えることはなかった。
みんな聞こえないフリをしながら黙々と肉にかぶりついている。
ナイフとフォークの音だけが静かに響く。
「え……私ってもしかして頭おかしいと思われてるの?」
そんなオレ達の反応にショックを受ける春麗。
珍しく動揺している。
もちろん龍園はご満悦だ。
「オイオイ! 最高だな! お前はみんなが認めるイカれ女だったってわけだ!」
「もう、怒るわよ?」
「あぁ? そんな覇気のない顔じゃ何言われても怖くねえよ。言葉のわりには気分よさそうだなぁ、オイ」
「よく分かったわね」
「当たり前だ。お前らAクラスと取引したんだってな。俺たちの真似事して財布も潤ってるってわけだ」
「ありがたいことにね。葛城君と取引できたのはあなたのおかげでもあるから感謝してるわ」
「ハッ、そうかよ。じゃあ俺たちに半分よこせ」
「それは嫌よ」
そしてご機嫌な2人はそのまま無人島試験の話に移っていく。
というかお前ら仲いいな。
水と油のような関係かと思ってたが、意外にも相性は悪くないらしい。
「それより試験では悪かったわね」
「あぁ?」
「勝つためとはいえ、ちょっと大人げないことしたかなって」
「チッ、ふざけやがって。冷めるからそんな話すんじゃねえよ」
「そう? でもあなたのクラスメイトには勝手に謝らせてもらうつもりだけど別にいいわよね?」
「好きにしろ。そんな事して何の意味があるか知らねえがな」
確かに龍園の言う通りなんの意味があるんだろうな。
もう結果は出てるし、謝罪したとしてもそれでなにかを返せるわけでもない。
むしろ負けた相手に対する挑発にもなりかねないが、これも格闘家としての礼儀というものなんだろうか。
オレにはよく分からないな。
龍園は今の発言で一気に興が冷めてしまったらしい。何も言わずにオレ達に背を向けてしまった。
だが……
「オイ、春麗」
「なにかしら」
「これで勝ったと思うなよ」
龍園は笑っていた。
初めて対面した時と同じような獰猛な笑みを浮かべて。
その目には、敗北の悔しさではなく、次への闘志だけが燃えている。
「ええ。もちろん次も恨みっこなしよ」
それは春麗も同じだった。
女王の笑みが、龍の笑みと交錯する。
目には見えないが2人とも火花バチバチだ。
どうやらお互いに戦闘狂らしい。
この場に暴力は存在しないが、コイツらは目と目でやりあっている。
そこにオレ達が入り込む余地はない。
たぶんこの状況に出くわせば全員こう思うだろうな。
「どっちも頭イカれてるでいいんじゃない?」と。
目と目でバチバチにやりあう2人を見ながら、遠い目をするクラスメイトたち。
オレ達にできることはただ黙々と食事を済ませることだけだ。
さっさと食事を済ませて、さっさと部屋に戻って寝る。
こうしてオレ達の長いようで短い一週間は幕を閉じるのだった。
まあ、そんな事は正直どうでもいい。
そんな事よりも龍園と春麗だ。
アイツらはオレ達が帰った後もずっとやり合ってたみたいだぞ。
お前らほんと仲良しだな。