ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第25話

 

 

 

 

 

 体育祭本番当日。

 

 夏の熱さが未だに残る秋の昼下がり。

 

 この日のために設営された体育祭仕様のグラウンド。

 

 白いラインが眩しく輝き、万国旗が秋風に揺れている。

 

 赤と白に分けられたハチマキを巻いた高育のおもちゃ達が、所狭しとグラウンドに並んでいる。

 

 もはや恒例行事となった校長によるダラダラと長い退屈な挨拶。

 

 生徒代表によって台本通りのセリフが吐かれる選手宣誓。

 

 精一杯頑張ることを誓うのは誰でも知ってるから、適当に拍手を送る生徒たち。

 

 それを眠そうな目で見守る教師陣。

 

 今日も今日とて二日酔いの星之宮。

 

 もはやただの置物でしかない暴力許すマンの坂上。

 

 雲一つない晴天の空の下。

 

 噛んでもなんの味もしないイベントが、今ここに幕を開ける。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 待ちに待っていたわけでも何でもない体育祭が始まった。

 

 その記念すべきでもなんでもない第1種目は、なんの変哲もない100m走だ。

 

 100mの直線を全力で走るだけのフィジカルモンスター接待競技。

 

 クラス茶柱のフィジカルモンスターが暴れまくって砂埃が吹き荒れる。

 

 春麗が1位、高円寺が2位、そしてオレが3位。

 

 これは分りやすくタイム順で表したが、実際には走る順番の組の中で順位付けされて上位から順に高ポイントが与えられる。

 

 それが20組もあるわけだが、それでも1年生の半分近くはクラス茶柱が1位を独占した。

 

 うちには須藤や小野寺を筆頭にした体育会系も揃ってるからな。

 

 

 続く第2種目はハードル競走。

 

 これもなんの変哲もない。

 

 直線を全力で走りながら時々ジャンプするだけのフィジカルモンスター接待競技。

 

 なんならジャンプせずにハードルを倒しても構わない。

 

 実際に山田アルベルトは全部倒してたしな。

 

 ガシャンガシャンと派手な音を立てながら、それでもアイツは上位でゴールしていた。

 

 結果は春麗1位、高円寺2位、オレ3位。

 

 さっきと同じだな。

 

 

 第3種目は棒倒し。男子限定だ。

 

 自分たちの棒を守りながら相手の棒を根元から薙ぎ倒す。

 

 混戦になるから見えないところで暴力したい放題で、龍園を接待するために設けられたような悪質な競技でもある。

 

 もちろん龍園の好きにさせるわけないんだけどな。

 

 逆にボコボコにしてやった。

 

 

「クク……金魚の糞がやってくれたなぁ、オイ!」

 

「なんのことだ? オレは競技に集中してただけなんだが」

 

「ふざけんな! お前ら龍園さんばっかり狙いやがって汚ねえぞ!」

 

 

 汚いのはお互い様だ石崎。

 

 結局はフィジカルモンスターが勝つ。

 

 勝者はクラス茶柱と一之瀬クラスがいる白組。

 

 

 

 第4種目は玉入れ。女子限定。

 

 やることはバスケットゴールのようなネットにお手玉みたいなのをポンポン入れていくだけ。

 

 とんでもない跳躍力で大量の玉をダンクシュートする春麗を接待するだけの競技。

 

 お前やり方それで合ってるのか?

 

 勝者は白組。

 

 

 

 第5種目は男女別綱引き。

 

 これも文字通り綱を引くだけ。

 

 ただし、あの極太の綱は握ってるだけでも結構痛いんだよな。

 

 重心を低くするテクニックも必要だが、それさえ知っていれば結局はフィジカルモンスター接待競技。

 

 あ~あ、池が張り切り過ぎて手の皮むけちゃってるし。

 

 でも篠原に診てもらえてよかったな。

 

 早く付き合っちゃえよ。

 

【挿絵表示】

 

 男女ともに勝者は白組。

 

 

 第6種目は障害物競走。

 

 これは超絶劣化版のSASUKE。

 

 どうせなら本家のSASUKEをやりたかったな。

 

 その方が絶対に楽しめる自信がある。

 

 パン食いに大苦戦してるみーちゃんを優しく見守るだけの競技でもある。

 

 小柄な体で必死にジャンプしているが、なかなかパンに届かない。

 

 その光景を見てオレ達は平田とみーちゃんをくっつける恋のキューピットになると決めた。

 

 結果は春麗1位、高円寺2位、オレ3位。

 

 

 第7種目は2人3脚。

 

 ようやく予想外の事が起きそうな競技が来たな。

 

 こういうのを待ってた。

 

 いくらフィジカルモンスターでも、足並みが揃う相手がいなきゃ速く走れないだろう。

 

 男子1位は綾小路・平田ペア、女子1位は春麗・小野寺ペア。

 

 スマン、うちはチームワークも良かったのを忘れてた。

 

 

「ハーハッハッハ! しっかりついてきたまえよレッドヘアー君!」

 

「高円寺! おま、ちょっ、歩幅合わせろよ!」

 

 

 須藤は高円寺に引きずられてたけどな。

 

 

 第8種目は男女別騎馬戦。

 

 お次はフィジカルよりも策略が試される競技だ。

 

 その正体は4人1組で騎馬を作って、騎手のハチマキを奪い合うというよく分からない合戦。

 

 これも龍園接待と見せかけてのクラス茶柱接待。

 

 ハチマキを水にぬらしたとしてもそんな小細工通用しないぞ。

 

 男女ともに勝者は白組。

 

 卑怯な手を使ったお返しに龍園をボコボコにしてやった。

 

 

「お前ら、汚ねえぞ!」

 

 

 お前は学ばない男だな石崎。

 

 だが、それでも諦めない龍園に会場はスタンディングオベーションだ。

 

 

 第9種目は200メートル走。

 

 ……短距離走さっきやったよな?

 

 距離を伸ばしただけの全力ダッシュを2回もやる意味を誰か教えてくれ。

 

 結果は春麗1位、高円寺2位、オレ3位。

 

 またこのパターンか。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ようやく午前の部が終了した。

 

 全員参加種目は消化したので、派手に暴れまわってくれた高円寺もさっさと帰宅。

 

 たぶん株取引でもするんだろうな。

 

 そして今から昼休憩を迎えるわけだが、実はこの昼休憩が体育祭の一番の楽しみでもある。

 

 昼ご飯は学校から弁当が支給されるが、それを絶対に食べなきゃいけないわけじゃない。

 

 中にはカップル同士で彼女の手作り弁当を食べながらイチャつく奴らもいる。

 

 オレにはもちろん彼女はいないが、手作り弁当だけは目の前に広がっていた。

 

 

 

「どう? 清隆」

 

 

 

 可愛らしいお弁当箱に包まれた手作り弁当を用意してくれたのは軽井沢。

 

 平田とも別れて寄生虫から脱却した元いじめられっ子だ。

 

 コイツはいつの間にかオレの事を名前で呼び、隙あらばイチャついてくるようになった。

 

 さすがのオレでも分かる。

 

 これは好意を寄せられているなと。

 

 別に自分を守って欲しいというわけでもないらしい。

 

 クラス茶柱はフィジカルモンスターが複数いるおかげで、うちの生徒にちょっかいをかける奴なんてほとんどいないからな。

 

 軽井沢の手作り弁当は彩りこそは良いものの、ところどころ焦げ目がついていたり、玉子焼きの形が崩れていたりする。

 

 いかにも初心者が作りましたといわんばかりの手作り弁当だが、オレのために時間を割いて慣れない料理に取り組んだという労力が見て取れる。

 

 唐揚げ、玉子焼き、ウインナー、プチトマト。

 

 定番の構成だが、一生懸命さが伝わってくる。

 

 

 

「まあまあだな。悪くない」

 

「ふ、ふ~ん……そうなんだ。頑張って作ったんだからちゃんと味わって食べなさいよね」

 

 

 

 オレの微妙な評価に軽井沢は少し頬を膨らませているが、これはたぶん喜んでるな。

 

 反応が分かりやすい。

 

 以前よりも刺々しさはなくなっているが、不器用なのは相変わらずだ。

 

 ただ嬉しそうではあるが、若干不満げでもある。

 

 

 

「アンタはなんでそんなに淡白なのよ」

 

「どういう意味だ? お前が何に対して不満を抱いてるのかオレには分からないんだが」

 

「全部よ。このお弁当に対しても私のことに対しても。もっと、こう……感激するとか、美味しいって褒めるとか、そういうのないわけ?」

 

 

 

 軽井沢は割と真剣なまなざしでオレの事を見つめている。

 

 どうやらふざける場面ではないらしい。

 

 じゃあ真面目に答えなきゃいけないな。

 

 

 

「感激する理由はない。お前はオレに頼まれたから作ったわけじゃないだろうし、悪くないという感想だけで充分なはずだ。嘘を言って過剰に期待させる方が不誠実だろう」

 

「はぁ……聞いた私が馬鹿だった。アンタってそういう人間だよね」

 

 

 

 よく分かってるな。

 

 オレはそういう人間だ。

 

 他人との仲を円滑に埋めるためのコミュニケーションなんて学んできてないからな。

 

 だが、これを改善するつもりもあまりない。

 

 今のところオレの青春は順風満帆だ。

 

 そんなオレを呆れたように見つめる軽井沢は自分の弁当にも手を伸ばす。

 

 

 

「……あ、でも意外と味はまともじゃん。ちょっと焦げてるけど」

 

「見た目の評価を変えるつもりはないが、食べれるレベルであることは保証する」

 

 

 

 オレの微妙な感想に再度深い溜息をこぼす軽井沢。

 

 「なんで私、アンタなんかのために弁当作ってんだろ」と愚痴をこぼしているが、それはどういう意味なんだろうな。

 

 自分の心を確認してるのか、ただの落胆か、それともオレへの愚痴か……

 

 いや、そのどれでもなさそうだ。

 

 多分期待してるんだろうな。

 

 思わせぶりな発言をしておいて、自分の秘かな想いが相手に伝わることを。

 

 

 

「それはお前がオレに好意を寄せてるからなんじゃないのか?」

 

「――っ! アンタってそういうことサラッと言うわよね! このバカ!」

 

 

 

 何やってるんだろうなオレ達は。

 

 お前が期待してるからそれに応えただけなのに。

 

 期待して自分から誘った割には反応が初心すぎる。

 

 顔を真っ赤にしてオレを睨む軽井沢は、以前のコイツからは想像もできないほど無防備だった。

 

 遠くで歓声が聞こえる。

 

 誰かがふざけて走り回っているらしい。

 

 そんな喧騒の中、オレ達だけが妙に静かな空間にいた。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 軽井沢とイチャイチャしただけの昼休憩を挟んで迎えた午後の部。

 

 噛んでもなんの味もしないどころか、だんだん不味くなってきたイベントが再開されてしまった。

 

 

 

 午後の部一発目の第10種目は借り物競争。

 

 ついにフィジカルをあまり必要としない運任せな競技が来たな。

 

 これは簡単なお題を引いた奴が勝ちだから、どんな結果になるのか楽しみだ。

 

 1位は山内春樹、2位は真鍋志保、3位は戸塚弥彦。

 

 豪運の持ち主はコイツらか。

 

 ここは素直におめでとうと言っておこう。 

 

 

 第11種目は四方綱引き。

 

 綱引きは午前中もやった。

 

 綱握るだけで手が痛いからいい加減にしてくれ。

 

 いや、待てよ。

 

 綱でケガしたとかいって学校からPPをカツアゲしよう。

 

 よし、そうしよう。 

 

 勝者は白組。

 

 おかげでクラス茶柱のみんなの手がボロボロになってしまった。

 

 

「悪いがその程度のケガに対してポイントを支給することは出来ない」

 

 

 最低だな茶柱。

 

 

 第12種目は男女混合2人3脚。

 

 もうそろそろ終わりが近くなってきたな。

 

 トリの前を飾る2人3脚。

 

 2人3脚も午前中にやったが、もう愚痴をこぼすのはやめよう。

 

 今回は男女混合だから恋愛フラグでも立てばいいんじゃないか?

 

 1位は綾小路・春麗ペア、2位は橋本・神室ペア、3位は龍園・伊吹ペア。

 

 ……たぶんどこもなさそうだな。

 

 

 

 

 

 そしていよいよ最終種目。

 

 第13種目は3学年合同1200mリレーだ。

 

 長かった体育祭もいよいよ最終競技である男女混合リレーで終わりだ。

 

 いや、ほんとに長かったな。

 

 全学年が同時に参加するこの競技には、クラスも学年も関係なく精鋭たちが並ぶことになる。

 

 それはもちろんクラス茶柱も変わらない。

 

 男子はオレと須藤と平田。女子は春麗と櫛田と小野寺の6人で、高円寺こそいないがクラスの最強戦力とも言える面子だろう。

 

 単純な身体能力では間違いなく学年1位だろうし、上級生にだって負けてはいない筈だ。

 

 

 

「いよいよ最終種目だね。せっかくだから最高の勝利で締めくくろうか」

 

 

 

 平田の掛け声にみんなが頷く。

 

 気負いは全くない。

 

 クラス茶柱はこれまでの競技で無双してきたわけだが、総合成績は各学年のAクラスを擁する赤組が圧倒的だ。

 

 ここで白組がどれだけ頑張ろうが逆転の目は残されていないからな。

 

 どのみち大したやる気もないからみんなリラックスしてる。

 

 高度育成高等学校の精鋭たちがスタートラインに集まる中、グラウンドに響き渡る歓声や応援の声は徐々に大きくなっていく。

 

 オレ達にやる気はなくても大トリ競技なだけあって盛り上がってるな。

 

 中でも注目されてるのはアンカーを務める生徒だ。

 

 現生徒会長の堀北学と、この体育祭の後に生徒会長に就任する予定の南雲雅。

 

 タイプは違うが2人とも校内トップレベルの実力をもっている生徒。

 

 コイツらへの声援が特にすごい。

 

 黄色い歓声が飛び交い、「学先輩!」「南雲先輩!」という声援がグラウンドを包み込む。

 

 生徒会の2人に多くの声援が飛び交う中で、最終競技が幕を開けようとしている。

 

 審判がスタートピストルを空に向けると、グラウンドを包んでいた喧騒が僅かに静まる。

 

 その一瞬の静寂を切り裂くかのように、最終競技の始まりを告げる銃声がパンッ!と炸裂した。

 

 

 

 第1走者は櫛田。

 

 櫛田の身体能力は高い方ではあるが、さすがに精鋭が集う中では見劣ってしまう。

 

 女子であることも重なって開始早々大きく出遅れてしまった。

 

 

 第2走者は小野寺。

 

 櫛田と同様に小野寺も他から差をつけられてしまう。

 

 現在の順位は最下位だ。

 

 

 

「総合点でもうちが勝ちそうですし、新時代の幕開けってところですかねー」

 

「本当に変えるつもりか? この学校を」

 

 

 

 別の場所に目を向けると、堀北学と南雲雅がなにやら話しているのが目に入った。

 

 このあとすぐ出番だというのに、アイツらは悠長に話が出来るほど余裕があるらしい。

 

 確かに現在のトップはアイツらの2クラスが独走状態だから、完全に2人の世界に入っちゃってるのかもな。

 

 その様子を見届けてから自分たちの現在走者に視線を戻す。

 

 

 

 第3走者は平田。

 

 現在は最下位だが、ここからオレ達の反撃が始まる。

 

 サッカー部の平田が持ち前の運動センスで最下位から抜け出してくれた。

 

 風を切るように駆け抜けていく。

 

 

 第4走者は須藤。

 

 須藤の猛烈な追い上げにより、ここで中位まで順位が押しあがる。

 

 バスケットボールで鍛えた脚力が唸りを上げる。

 

 

 第5走者はオレだ。

 

 猛烈な追い上げの勢いをそのままに、オレもさらに加速して他のクラスをごぼう抜きしていく。

 

 アンカーの春麗にバトンを渡す瞬間には、順位は3位にまで上がっていた。

 

 

 

 バトンタッチしてから未だに独走状態の2クラスを眺める。

 

 そこでは堀北学と南雲雅が1位の座をかけてデッドヒートを繰り広げていた。

 

 一進一退の攻防。

 

 南雲がリードこそしているが、堀北の追い上げも凄まじい。

 

 あの距離なら充分射程圏内だ。

 

 2人はそのままトップスピードでコーナーを駆け抜けていく。

 

 さすがに精鋭中の精鋭なだけあってかなりの快速だな。

 

 だが、そんな激しいバトルを目の当たりにしながらオレは笑っていた。

 

 少し視野を広げてみると、そこに異物が混ざっていたからだ。

 

 現生徒会長に次期生徒会長の実力者2人か……

 

 別に楽しく競い合うのはお前たちの勝手だが。 

 

 

 

 堀北学のすぐ後ろに、すでに春麗が迫ってきているぞ。

 

 

 

 

 

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