ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第26話

 

 

 

 

 

 白熱する最終種目3学年合同1200mリレー。

 

 堀北と南雲が激しいデッドヒートを繰り広げる中で、その終わりは突然迎えられようとしていた。

 

 堀北と南雲は気づかない。

 

 コイツらがバチバチに意識し合う仲だというのはもちろん知ってる。

 

 だから認識の外から迫る存在に気づくことが出来ないんだろうな。

 

 目の前の敵ばかり意識してたら、後ろからそのまま呑み込まれてしまうというのに。

 

 南雲の背中を追いかけながら2番手を走る堀北の背後には、春麗がとんでもないスピードで迫っていた。

 

 それは高校生ではあり得ない速さだ。

 

 下手したら世界最速レベルかもしれない。

 

 風を切る音が聞こえそうなほどの疾走。

 

 地面を蹴る足音が、まるで打楽器のように規則正しく響いている。

 

 そして圧倒的なスピードそのままに堀北を簡単に抜き去っていく。

 

 

 

「――なに!?」

 

 

 

 堀北はようやく気付いたようだがもう遅い。

 

 一瞬で抜き去られてどんどん差を広げられていく。

 

 これで残るは南雲のみだが、アイツは未だに気づかない。

 

 だが、もうゴールは目の前。

 

 湧き上がる観客。

 

 それに応えて勝利を確信しながらガッツポーズを取る南雲。

 

 体育祭の盛り上がりが最高潮に達した瞬間だった。

 

 もちろん奴は気づいていない。

 

 観客が盛り上がってる理由が2年Aクラスの勝利ではないことに。

 

 

 

「馬鹿ッ! 後ろだよ雅! 1年生が来てる!」

 

「は?」

 

 

 

 恐らくクラスメイトであろう女子の声が会場に響き渡る。

 

 そこでヤツもようやく違和感に気づく。

 

 後ろを振り向く南雲。

 

 だがもう遅い。

 

 むしろ振り向いてはいけなかった。

 

 その一瞬の隙を見逃さず、華麗に南雲を抜き去っていく春麗。

 

 颯爽と駆け抜けていくその姿は、まるで一枚の絵画のような美しさだった。

 

 

 

「はあ!?」

 

 

 

 そしてゴールテープをわずかに早く破り、クラス茶柱が見事に1位でフィニッシュした。

 

 会場が一瞬静まり返り、そして爆発的な歓声が湧き上がる。

 

 

 

「あ、あり得ないだろ! なんなんだお前は!」

 

「・・・」

 

 

 

 まさかの結果に驚く南雲と無言の堀北。

 

 特に南雲はリードしていて余裕があったにも関わらず1位を逃したから、かなり衝撃を受けてるな。

 

 走る直前に悠長に会話なんてしてるからこうなる。

 

 まあ、どうでもいいんだけどな。

 

 結果は御覧の通りだ。

 

 クラス茶柱が最下位からの大逆転勝利。

 

 アンカーとして3位でバトンを受けた春麗が、前を独走していた堀北と南雲をごぼう抜きして終幕。

 

 アイツらは抜き去っていく春麗の背中を見て驚愕していたが、おかげで2人の力量を図ることが出来たな。

 

 恐らくアレがアイツらの全力だったんだろう。

 

 身体能力に関して言えば春麗には全く及ばず、甘く見積もってもオレと同レベルといった所か。

 

 これは有益な情報だな。

 

 体育祭唯一の報酬と言ってもいいかもしれない。

 

 春麗はとんでもない走りをしたにも関わらず普通にクラスに戻ろうとしていたが、さすがに簡単には見逃してもらえなかった。

 

 生徒会長の堀北学に絡まれている。

 

 

 

「ちょっと待て」

 

「なんでしょうか、堀北生徒会長」

 

「お前はいったい何者だ?」

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

「そのままの意味だ。お前は何者かと聞いている」

 

「別に何者でもありません」

 

「何者でもない人間があんな走りを出来るはずがない。いいから正直に答えろ」

 

「ただ日頃から脚力を鍛えてるだけですが……そんなに私が気になりますか?」

 

「ああ、面白い生徒だと思ってな」

 

「・・・」

 

 

 

 簡単に見逃してもらえるとは思ってなかったが、絡んできた堀北はなぜか上から目線だ。

 

 しかも興味深そうな顔で春麗を値踏みしながらずっと見つめているな。

 

 メガネを指でクイっと持ち上げながらずっと見つめている。

 

【挿絵表示】

 

 もちろん春麗はドン引きだ。

 

 たぶん「なんなのこの人」って内心で思ってるだろうな。

 

 余裕で抜かされて負けた直後にこの態度はなかなか痛い。

 

 人を値踏みしてる場合じゃないと思うが、そんな態度じゃ相手もドン引きするだろう。

 

 いずれにしろ春麗は生徒会長に目をつけられてしまったらしい。

 

 可哀そうに。

 

 もしかしたらそこそこ活躍したオレも対象に含まれるかもしれないが、別に構わない。

 

 現生徒会長の人格が知れるいい機会にもなったし、とりあえず関わらない方がいい人間だという事も理解できたからな。

 

 

 

「よお、1年生。俺は南雲雅だ」

 

「春麗です。初めまして南雲先輩」

 

「もちろん知ってるさ。お前の噂は2年にも伝わってる」

 

「そうですか」

 

「ああ、まさかあそこまで人並外れた身体能力を持ってるとは知らなかったけどな。しかし、まあ、へぇ……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。ところでお前は生徒会に興味はあるか?」

 

「いえ、特には」

 

 

 

 南雲も同様だ。

 

 自己紹介しながら相手を値踏みしてる。

 

 春麗はコイツにも目をつけられたようだが、この学校は人を値踏みする奴が多いな。

 

 堀北とタイプは違うが、生徒会長には礼儀のなってない人間でもなれるらしい。

 

 人間性は問わずに生徒会会長選挙で票さえ獲得できれば問題ないというわけか。

 

 これも有益な情報だ。

 

 南雲は悪い噂が多いから極力関わらないようにしたいが、たぶん無理だろう。

 

 楽しい計画を進めるためには生徒会を支配した方が効率的だし、そのためには確実にコイツと接触しなきゃならない。

 

 だがオレにしろ春麗にしろ生徒会の業務自体には全く興味がないからな。

 

 欲しいのは生徒会の権限だけ。

 

 であれば南雲の処理は()()()()に任せればいい。

 

 南雲にはじわじわと首を絞められる拷問を味わってもらうとしよう。

 

 そんな事を考えながら、オレ達の体育祭は閉幕を迎えていった。

 

 長かった体育祭もようやく終わったな。

 

 学年別で1位を取ることは出来たが、総合成績は赤組の勝ち。

 

 白組のオレ達はどれだけ頑張って結果を残しても、CPがマイナス50されてしまった。

 

 本当に酷いイベントだ。

 

 いちおう諸々の結果を報告しておこう。

 

 総合順位は赤組が1位で増減なし、白組が2位でマイナス100CP。

 

 学年別順位はクラス茶柱が1位でプラス50CP、龍園クラスが2位で増減なし、一之瀬クラスが3位でマイナス50CP、葛城クラスが4位でマイナス100CP。

 

 

―体育祭終了時点CP―

 

 葛城クラス:1160(-100cp)

 

 クラス茶柱:1100(-50cp)

 

一之瀬クラス:930(-150cp)

 

 龍園クラス:610(0cp)

 

 

 最優秀生徒MVPは1年Bクラスの春麗。

 

 学年別最優秀生徒は1年が綾小路清隆、2年が南雲雅、3年が堀北学。

 

 もちろんMVPは春麗だ。 

 

 出場競技全てで1位を獲得したんだから当然だな。

 

 オレは普通に取り組んだだけだが、学年別最優秀生徒に選ばれてしまった。

 

 ちょっと目立ちすぎたかもしれない。

 

 それを証明するように、オレはこのあと痛い目を見ることになる。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

 閉幕式の後、オレはとある人物に呼びだされていた。

 

 その人物の名は坂柳有栖。

 

 Aクラスで葛城と派閥争いを繰り広げている女子生徒だ。

 

 呼び出された理由はまったく分からなかったが、葛城にどうしてもと頼まれたので応じることにした。

 

 葛城とはそれなりに仲がいいからな。

 

 アイツの頼みであれば無視するわけにもいかない。

 

 という事で坂柳と初顔合わせすることになったんだが……

 

 待ち合わせ場所は校舎裏の人気のない場所。

 

 夕陽が長い影を作り、どこか不穏な空気が漂っている。

 

 

 

「最後のリレーは春麗さんが話題を総なめしていましたけど、あなたも実に見事な走りでしたね綾小路清隆くん」

 

「あなたの走りを見ていてあることを思い出したんです。その時の衝撃を共有したいと思ってつい呼び出してしまいました。まるで告白の前触れみたいですよね」

 

「お久しぶりです。綾小路くん」

 

「何の話だ? オレはお前の事なんて知らない」

 

「ふふふ、そうでしょうね。私が一方的に知っているだけですから」

 

 

 

 オレを呼び出した坂柳は、顔を合わせるなり急に一人語りを始めた。

 

 しかもオレの事を以前から知ってるような口調で。

 

 坂柳曰く「まるで告白の前触れみたい」らしい。

 

 それを聞いてオレはただただ困惑していた。

 

 銀髪の少女は杖に体重を預けながら、どこか恍惚とした表情を浮かべている。

 

 

 

「8年と243日ぶりですね」

 

「懐かしい再会をしたんですから、挨拶しないわけにはいかないと思ったんです」

 

 

 

 一体なんだコイツは。

 

 何を一人で勝手に話してるんだ?

 

 やばい人間か?

 

 それともやばい人間を演じてオレを動揺させようとしてるのか?

 

 だとしたらこれはなにかの策略か?

 

 だが周辺にはオレと坂柳しかいないし、他の誰かが潜んでる気配もない。

 

 当の本人もこちらを値踏みするような目で見ながら口を動かすだけだ。

 

 坂柳が何を言ってるのかまったく理解できないが、とにかくオレと感動の再会を迎えているらしい。

 

 気持ちが高ぶっている事だけは間違いなさそうだ。

 

 まさかとは思うが、8年と243日前に一方的にオレを見ていた事を思い出して興奮してるのか?

 

 もしそうだとしたらかなりやばいな。

 

 ここは逃げた方がいいのかもしれない。

 

 ちょっと手に負えなさそうだ。

 

 真嶋を呼んだ方がいいかもしれないな。

 

 それよりも先に逃げるか?

 

 だが坂柳は激しい動きが出来ないはずだから、いったん様子を見るか。

 

 これ以上おかしな状態が続くようであれば、状況に応じて逃げるか真嶋を呼ぶかだな。

 

 よし、そうしよう。

 

 というか神室から聞いてた情報と全然違うんだが。

 

 普段は冷静なやつだと聞いていたが、今の状態はコイツの別側面なのか?

 

 それとも興奮しておかしくなってるのか?

 

 いや、それよりももっと引っかかることがあるな。

 

 8年前にオレと出会ってるという事は坂柳はホワイトルームの関係者という事になる。

 

 コイツは本当に何者だ? 

 

 

 

「ホワイトルーム」

 

 

 

 ……やっぱりそうか。

 

 坂柳本人の口から出た言葉だから間違いないようだ。

 

 まさかホワイトルームの関係者がこんなところにいるとは……

 

 となると坂柳はあの男の差し金である可能性もある。

 

 オレを連れ戻すために動き出したのかもしれない。

 

 思ったよりも早く手を打たれたな。

 

 もしそうだとしたら逃げても意味がない。

 

 学校関係者を呼ぶのもダメだ。

 

 この学校のどこにホワイトルーム関係者が潜んでるかも分からない状況だからな。

 

 という事は外部の人間を頼るしかないか。

 

 あいにく今あそこに戻るわけにはいかない。

 

 オレにはまだこの学校でやるべきことが残ってるんだから……

 

 そんな事を色々と考えてる間にも坂柳の一人語りは止まらないようだった。

 

 

 

「嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるのは」

 

「無理もありません。あなたは私を知りませんからね。でも私はあなたを知っている。正直このような場所であなたと再会するとは思っていませんでした」

 

「お前がなにを言ってるのかオレにはさっぱり分からないな」

 

「安心してください。あなたのことは誰にも言うつもりはありません」

 

「偽りの天才を葬る役目は、私にこそ相応しい」

 

「お前はさっきからなにを――」 

 

「ふふふ、この退屈な学校生活にも少しだけ楽しみが出来てきました」

 

 

 

 全く止まる気配のない坂柳の一人語り。

 

 オレが口を挟もうとしてもほとんど会話にならない。

 

 また勝手に一人で喋りだして勝手に一人で納得している。

 

 これ以上は本気でまずいかもしれない。

 

 坂柳があの男の差し金である可能性もあるが、そんな事よりも様子がおかしすぎる。

 

 いくら先天性の疾患があったとしても、ここまでぶっ飛んでると何をしでかすか分からないな。

 

 そう判断したオレは、そっとスマホに手を伸ばした。

 

 

 

「もしもし警察ですか? 今不審者に遭遇してるので助けて欲しいんですが」

 

「なにをしているのですか綾小路くん」

 

「はい。相手は1人。杖で体を支えている女子高生です。精神状態はよく分かりませんがとにかく錯乱しています」

 

「ちょっと待ってください。私は不審者ではありませんよ。錯乱もしていません」

 

「周囲を巻き込まないように現場は自分が見張っておくので至急お願いします」

 

「いい加減にしてください。私は至って正常ですし、誰にも危害を加えるつもりなんてありませんから」

 

「はい、そうです。場所は高度育成高等学校でお願いします」

 

「・・・」

 

 

 

 とりあえず通報は済んだ。

 

 あとはコイツを確実に抑えるために警察が来るまで時間稼ぎするとしよう。

 

 決してこの場から逃がしてはならない。

 

 偽りの天才を葬るとか意味不明なことを言うやつを野放しにするのは危険すぎるからな。

 

 坂柳は呆然とした表情でオレを見つめている。

 

 どうやら予想外の展開だったらしい。

 

 だが、これでいい。

 

 不審者は不審者として適切に処理されるべきだ。

 

 

 

 

 

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