ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第28話

 

 

 

 

 

 ストーカーを撃退してからしばらく経った今日この頃。

 

 オレ達は新たな転機を迎えようとしていた。

 

 今日は生徒会が変革を迎える1日。

 

 みんなが愛してやまない堀北学との別れ。

 

 みんなが愛してやまない南雲雅との出会い。

 

 そんな誰もが心揺さぶられる光景に涙が止まらなかったり、もしくは1滴たりとも涙が流れなかったり。

 

 今日は体育館で堀北生徒会長の引退式が行われている。

 

 もちろん全員強制参加だ。

 

 体育館には全校生徒がぎっしりと集まり、厳かな空気が漂っている。

 

 全校生徒を体育館に集めて堀北の引退式を行い、同時に新しい生徒会長である南雲の挨拶も行われることになっていた。

 

 

 

「堀北生徒会長、今までありがとうございました。それではここで、新しく生徒会長に就任する2年Aクラスの南雲雅くんよりお言葉を頂戴いたします」

 

 

 

 引退式はなにごともなく進行し、壇上に南雲が悠々と姿を現す。

 

【挿絵表示】

 

 自信に満ちた足取りで、まるで舞台俳優のように堂々と。

 

 

 

「2年A組クラスの南雲です。堀北生徒会長、本日まで厳しくも温かいご指導のほど誠にありがとうございました。歴代でも屈指のリーダーシップを発揮した最高の生徒会長にお供できたことを光栄に思うと共に、敬意を表したいと思います」

 

 

 

 素晴らしい挨拶だ。

 

 感動した。

 

 やっぱりオレ達の生徒会長はコイツらなんだよな。

 

 南雲と堀北は敵対関係でもあるが、互いを認め合う仲でもある。

 

 壇上で丁寧に語る言葉に嘘は見当たらない。

 

 だがそれと同時に、微かな喜びのような表情がヤツの顔には浮かんでいる。

 

 ようやく自分の時代が来たという高揚感か。

 

 南雲はその視線を在校生に向けて、今後の生徒会の方針について語り始めた。

 

 

 

「早速ではありますが、まず始めに、私は生徒会の任期と任命、総選挙のあり方を変更することを公約します」

 

 

 

 南雲の演説は長かった。

 

 生徒会長及び生徒会役員の任期を在学中無期限とし、卒業まで継続できるようにする。

 

 総選挙の制度と規定人数の制限を撤廃し、生徒会役員を常に受け入れられる体制を作る。

 

 優秀かつ必要な人材はいつでも、そして何人でも生徒会のメンバーとして活動できるようにする。

 

 任期中不適格だと判断された人材がいれば会議にて多数決を行い、除名する規約も作る。

 

 そして最後に――

 

 

 

「私はこれからの学校作りとしてまずは歴代の生徒会が守ってきた、こうあるべきという学校の姿を全て壊していくつもりです。近々大革命を起こすことを約束します。実力のある生徒はとことん上に、実力のない生徒はとことん下に。この学校を真の実力主義の学校に変えていきますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 

 

 だそうだ。

 

 感動した。

 

 感動しすぎて欠伸が止まらない。

 

 分かってはいたがやっぱり話が長い。

 

 南雲が言ってる事をめちゃくちゃ端折ってこれだから、途中から目が死んでたかもしれない。

 

 隣を見ると須藤なんて完全に寝てるし、池も白目を剥いている。

 

 ダラダラしゃべらなくていいから、まとめたものを後でメールで転送して欲しい。

 

 でもアイツにはなにも期待できないから、むしろオレがまとめてやろう。

 

 結局南雲が何を言いたいのかというと、自分が生徒会長になったら革新的な制度をたくさん設けること、そして真に実力のある者による新しい学校を作ること。この2点だけだ。

 

 最初からこの2つだけ言って、あとは決定したものだけ報告すればいいのにな。

 

 もう選挙は終わってるんだから今更公約を掲げられても困る。

 

 とうの昔に投票は終わってるから。

 

 頼むからそのくらいは理解して欲しい。

 

 溢れ出る自己顕示欲が肌に突き刺さって痛いから、自己アピールはほどほどにして欲しい。

 

 まあそんな事はどうでもいいが、こんなヤツが生徒会長で本当に大丈夫か?

 

 学校の姿をすべて壊すとか言ってるけど本当に大丈夫なのか?

 

 完全に暴走してる気がするが、教師はだれも止める様子がない。

 

 つくづくおかしな学校だな。

 

 たかだか生徒会に学校を壊す権限を与えるのはやっぱりやり過ぎだと思う。

 

 オレ達にとっては好都合でもあるが、南雲に任せるのは不安要素でしかない。

 

 それにアイツは自信満々にスピーチしてるが、その内容も突っ込みどころ満載だ。

 

 生徒会への在籍期間を延ばして革命を起こすのはいいが、それは南雲が生徒会長であることを前提としたうえでの制度設計になってる。

 

 これは卒業まで自分が楽しむためだけにやるつもりなんだろう。

 

 まあそんなのは勝手に楽しんでくれればいいが、生徒会役員を常に受け入れるようにして除名制度まで作っちゃったら、お前はすぐにその座から引きずり降ろされちゃうかもしれないぞ?

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 時はさらに過ぎて2学期中間テストの結果発表を迎えていた。

 

 筆記テストに対するオレ達のスタンスは入学当初から変わっていない。

 

 特別なルールがない限りは全員で最頻値を目指して赤点を回避する。

 

 ただそれだけだ。

 

 

 

「中間テストによる退学者は見ての通りゼロだ。今回も無事に試験を乗り越えたな」

 

 

 

 そして茶柱の言葉通りに今回もそのやり方で試験を乗り越えることに成功した。 

 

 どうやら茶柱がこの学校に着任してから、1年入学時のDクラスが11月時点までで退学者を出さなかったのは初めての事らしい。

 

 おかげで茶柱は上機嫌だ。

 

 ポニーテールが可愛く揺れている。

 

 だが茶柱の気持ちも分からなくはない。なにしろオレ達は基本的には不良品だからな。

 

 ここまでは上手くやってこれたが、いつ退学者が出てもおかしくないといえばおかしくない。

 

 退学者が出た場合は2000万PP+300CPを使って退学を取り消すことも可能だが、かなり重い代償になるから判断が難しそうだ。

 

 退学者の人柄や将来性を見て救うのか。

 

 それとも不要な存在だと切り捨てるのか。

 

 オレ達の真価が問われる場面はいずれやってくるだろう。

 

 まあそれは置いておくとして、今度は期末テストに向けた小テストが来週実施されるらしい。

 

 そしてそのテストの結果で、クラス内の誰かと2人のペアを組むことになるんだとか。

 

 

 

「そのペアは一蓮托生で期末テストに挑むことになる。そして期末テストは赤点ラインが2種類存在し、1つは各科目で60点。もう1つは決定ではないが8科目の総合得点が700点前後と予想される。両方ともペアの合計が赤点ラインに満たない場合は2人とも退学になる」

 

 

 

 だそうだ。

 

 一風変わった試験だが、退学の判定はかなり甘いな。

 

 オレ達クラス茶柱の現在の最頻値は60点付近。

 

 入学時では圧倒的に最下位だった須藤ですらそのくらい取れるようになった。

 

 つまりほとんどの生徒が1人でも60点をとれるんだが、それを2人の合計でいいなら誰が誰と組んでも問題ない。

 

 現状で赤点ラインが決定していない総合点に関しても同様だ。

 

 だからペアを決めるための小テストもほとんどやる意味がないな。

 

 なんて呑気なことを考えていたが、どうやら期末試験はそれほど単純でもないらしい。

 

 

 

「例年この特別試験、通称ペーパーシャッフルでは1組か2組の退学者を出している。しかもその大半は入学時のDクラスだ。これは脅しでも何でもなく事実だから用心しておけよ」

 

 

 

 だそうだ。

 

 ほぼ確実に出る退学者にペーパーシャッフルという謎めいた名前。

 

 直訳すると紙の入れ替えか……

 

 というか特別試験でもあるのか。

 

 いったいどんな試験なんだろうな。

 

 

 

「期末テストでは出題される問題をお前たち自身に作成してもらう。そしてその問題は自分たち以外の3クラスの1つへと割り当てられる。つまり他のクラスへ攻撃を仕掛けることになり、自分たちは他クラスからの攻撃に対して防御する事にもなる」

 

 

 

 いったいどんな試験なんだろうなと思ってたら、結局はただのクラス間競争だった。

 

 当たり前の話なんだけど、この学校は相変わらずだ。

 

 自分たちのクラスの総合点と相手クラスの総合点を比べ、勝ったクラスが負けたクラスから50CPを奪い取る形になるんだと。

 

 本当にバトル大好きだな。

 

 だがオレ達には関係のない話だ。

 

 他の学年にならそのルールも通用するだろうが、オレ達にそんなものは通用しない。

 

 何故ならCPが学年内で移動するだけなら、PPでいくらでもカバーし合えるからな。

 

 

 

「今回の特別試験は何も心配いらなそうね。問題作成は学校側に任せましょうか」

 

「そうだな」

 

 

 

 もし期限内に問題を作れなかった場合は、救済措置として学校が難易度低めのテストを作成してくれるそうだ。

 

 それなら春麗の言う通り任せてしまえばいい。自分たちで作成する理由が見当たらない。

 

 そしてその方針を他クラスにも伝えるだけで、この試験はほとんど無意味なものになるだろう。

 

 ペーパーシャッフルという意味深な名称からもう少し面白そうな試験を予想していたが、特に何もなさそうだ。

 

 クラス間競争に乗らなければ退学者が出るリスクもほとんどない。

 

 例年では1組か2組の退学者を必ず出している試験らしいが、先輩たちはよっぽど足の引っ張り合いが好きなんだろうな。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 その日の放課後。

 

 すでに一般開放されてみんなの遊び場となったオレの寮部屋に坂柳と春麗の姿があった。

 

 どうやら坂柳が春麗にチェスのやり方を教えているらしい。

 

 自前のチェス盤を勝手に持ち込んで2人でイチャイチャしている。

 

 白と黒の駒が整然と並び、坂柳が優雅に駒を動かしながら解説している。

 

 やっぱりオレにプライベートなんてなかったんだな。

 

 

 

「それで警察には謝って帰ってもらったんですけど、本当に酷いんですよ綾小路君は」

 

「そうだったのね。綾小路君に脅されて私たちに協力することになったと。彼は本当に酷い男ね。最低だわ」

 

「はい。この方は女性の敵なんです。決して許されるべきではありません」

 

「ふふふ、じゃあ反省させる意味も込めて少し懲らしめる必要があるのかしらね」

 

 

 

 挙句の果てにこの有り様だ。

 

 坂柳は自分から脅したことは隠して、あたかも一方的な被害者であるかのように春麗を味方につけやがった。

 

 やはりコイツは策士だな。

 

 春麗の性格もちゃんと理解している。

 

 だがその手には乗らないぞ。

 

 

 

「そんな事を言っていいのか坂柳。こっちには脅迫された証拠もあるんだが」

 

「え……酷いです。私は脅されて無理やり協力させられているのに……綾小路君はそんな私をまだ虐めるというのですか?」

 

「いい加減にしなさい綾小路君。本当に懲らしめるわよ」

 

 

 

 お前らの仲の良さはいったい何なんだよ。

 

 本当に酷い茶番だな。

 

 

 

「なんて冗談ですよ」

 

「どう? ちょっとはびっくりしたかしら」

 

「くだらないな。途中から2人とも笑ってたぞ」

 

「つれませんね。ですがさすが綾小路君です。表情を動かしたつもりはないのですが、私たちの演技はバレていましたか」

 

「当たり前だ。そもそもここで楽しく寛いでる時点でだいたい分かる」

 

「確かにそうね。意外と鋭いじゃない綾小路君」

 

 

 

 あのなぁ、オレの事舐めすぎだろ。

 

 というか坂柳はまあまあごまかせていたが、春麗は普通に演技が下手だったからな。

 

 コイツが本当にオレを懲らしめるつもりなら殺気が立つ。

 

 こんな和やかな空気でいられるわけがない。

 

 

 

「春麗さんには私からすべてお話しさせていただきました。いずれご挨拶に伺うつもりでしたので」

 

「体育祭の後にすぐ来てくれたわ」

 

 

 

 どうせそんなとこだろうと思った。

 

 通りでこんなに仲がいいわけだ。

 

 本当はオレが裏で坂柳を動かすつもりだったが、まあこれはこれで悪くないのかもな。

 

 むしろ春麗も交えることで戦略の幅は広がりそうだ。

 

 これで1年生はほとんど掌握できたも同然。

 

 坂柳をコントロール出来れば葛城も簡単に動かせる。

 

 一之瀬は最初からオレ達と友好的。

 

 龍園をコントロールするのは難しいが、そもそもアイツはオレ達と同じ方向を目指してるからコントロールする必要がない。

 

 もし裏切るようなら監視カメラのないところで顔面を殴り続ければいい。

 

 アイツの心が折れるまで何度でもな。

 

 一番の不安要素だった坂柳を掌握したことで1年はいい感じにまとまった。

 

 という事はそろそろ上級生に目を向けた方がいいのかもしれない。

 

 高円寺に任せてあるPP買い取りプロジェクトのおかげで、3年生を味方につけるのはそんなに難しくないだろう。

 

 問題は2年生か。

 

 急ぐ必要はないが、最終的には2年生からもPPを買い取る予定だから味方につけておきたい。

 

 だが2年は新生徒会長の南雲がすでに全体を掌握してる。

 

 そしてやつは引退式で見た通りの過激派で、オレ達の思想とは相反する存在でもある。

 

 だからそう簡単に味方になってくれそうにもない。

 

 2年生のどこかのクラスを買収するにしても代価が必要だ。

 

 PPは極力温存したいし、やはり生徒会を利用して内部崩壊させるのが1番手っ取り早そうだな。 

 

 そんな事を考えてるうちに、チェスで遊んでる2人はペーパーシャッフルの話題に移ったらしい。

 

 

 

「それにしても、今回のペーパーシャッフルとやらは面白みがなさそうな特別試験ですね」

 

「そうね。楽しもうと思えば楽しめそうではあるけど、退学者も出したくはないし問題を作成するのも手間でしかないもの」

 

 

 

 まあ面白くなくしてる原因はオレたちにあるんだが、無人島や船上試験に比べると地味であるのは否めない。

 

 特別試験とはいえ結局は筆記試験の延長戦上でしかないからな。

 

 

 

「はい。ですからテスト期間中はチェスで遊びましょう。綾小路君もいかがですか?」

 

「オレは基本的に高円寺の所にいるから、もし必要であれば呼んでくれ。相手くらいならいつでもしてやる」

 

「ふふふ、ではお言葉に甘えて今から勝負いたしましょう」

 

 

 

 分かってはいたが、オレの事大好きだなコイツ。

 

 ホワイトルームで何を見たのか知らないが、とりあえずロックオンされてるらしい。

 

 春麗もそんなオレ達の関係を見て笑ってるな。

 

 絶対コイツ楽しんでるだろ。

 

 

 

「はあ……とりあえず今日は1回だけにしてくれ」

 

「ええ、それで充分です」

 

「じゃあ私は2人の勝負を見て勉強させてもらうわね」

 

 

 

 とりあえず坂柳を満足させて逃げるとするか。

 

 オレはこれから高円寺の所で投資の勉強をしないといけない。

 

 たとえこの学校で使えなかったとしても、お金はいくらあっても困らないからな。

 

 窓の外では夕陽が沈み始め、部屋を橙色に染めていた。

 

 チェスの駒が夕陽に照らされて、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

 上級生は今頃、足の引っ張り合いをするために問題作成を頑張っている事だろう。

 

 だが、オレ達1年生はどこまでも平和だ。

 

 

 

 

 




坂柳「せっかくなのでお泊り会をしましょう」
春麗「いいわね」
清隆「帰れ」

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