ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第30話

 

 

 

 

 

 軽井沢以外の女とイチャイチャしながら愉悦に浸っていた今日この頃。

 

 今日もいつも通りの平和な日常をクラス茶柱で過ごしている。

 

 だがそのクラスの代名詞ともいえる茶柱の様子が朝からおかしい。

 

 アイツは平静を装っているようだが、心ここにあらずといった感じで妙にソワソワしている。

 

 生徒たちの隙を見計らっては、こちらを伺うような視線を朝から送ってきていた。

 

 落ち着かない様子で何度も時計を確認している。

 

 

 

「綾小路君なにかやらかしたの?」

 

「さあな。まったく身に覚えがない」

 

 

 

 春麗も茶柱の違和感に気づいてるようだが、オレには本当に身に覚えがない。

 

 だがそんな茶柱も日中はこちらを気にするそぶりを見せるだけで、結局なにごともなく放課後を迎えていた。

 

 なにもないなら別にいいかと思って帰ろうとしたが、そこでようやくアイツは動き始める。

 

 

 

「綾小路、ちょっと来い」

 

「何か用ですか?」

 

「ああ、私について来い。話がある」

 

「それは難しい相談ですね。今から佐藤とイチャイチャ……じゃなくて部活に行かないといけないんですよ」

 

 

 

 なにやら真剣な表情で接触してきた茶柱。

 

 オレのふざけた返しにもまったくツッコんでくれない。

 

 だが今日は佐藤とデートしながら軽井沢を虐めるという大事な大事な予定がある。

 

 これは嘘でも何でもないからお断りだ。

 

 というか愉悦部としての正式な活動でもあるからな。

 

 真面目なオレとしては欠席するわけにはいかない。

 

 坂柳を部長にして立ち上げられた愉悦部。

 

 現在の部員は坂柳、橋本、龍園、椎名、オレ、春麗、高円寺、櫛田、松下、佐藤の10名。

 

 部員は絶賛募集中だ。

 

 ちなみに佐藤は最近オレにアプローチをかけてきていたので、愉悦部の部員に強制加入させた。

 

 

 

「お前の楽しみを邪魔するつもりはないが、そうはいかない事情もある」

 

 

 

 だが今日の茶柱はやっぱり様子がおかしいな。

 

 いつも以上に余裕がなさそうだ。

 

 声にも張りがない。

 

 

 

「……いい予感はしませんね」

 

「勘が鋭いな。残念だが断る権利もない。黙って私についてこい」

 

 

 

 珍しく人を憐れむような表情もしてるし、なにやらただ事ではないとみた。

 

 コイツ自身も気乗りしない話のようだが、どうやら従う他に選択肢はないらしい。

 

 部活はいつでも出来るし仕方ないか。

 

 佐藤に連絡だけしておこう。

 

 オレは茶柱の後についていき、普段生徒が立ち入らないような場所に連行されていった。

 

 廊下を進むにつれて人の気配が薄くなっていく。

 

 その場所はまさかの応接室だ。

 

 重厚な扉の前で、茶柱は一度深呼吸をした。

 

 

 

「……わざわざこんなところで話ですか? まさかオレに来客とか言わないですよね」

 

「よく分かったな。だが今は黙っていろ。どうせすぐに分かる」

 

 

 

 という事はこの部屋の中にはオレの知り合いがいるのか……やはり嫌な予感しかしないな。

 

 

 

「校長先生、綾小路清隆をお連れしました」

 

「入ってください」

 

 

 

 どうやら中で校長が待ってるらしい。

 

 オレ達は校長の指示通りに扉を開いて中に入っていく。

 

 応接室は豪華な調度品で飾られていて、そこには60歳前後の男性がソファに腰かけていた。

 

 間違いなくこの学校の校長だ。

 

 この学校で理事長の次に偉いはずの人間だが、その表情に余裕はなく、額に汗を浮かべている。

 

 そしてその向かいにもう1人。

 

 その人物を見てオレは確信した。

 

 茶柱の態度から嫌な予感はしていたが、やはりこの時が来てしまったかと。

 

 

 

「では私は席を外しますので、どうぞごゆっくりと」

 

 

 

 呼び出したはずなのに慌ててその場を立ち去る校長と、それに追従する茶柱。

 

 この場に残されたのはオレと、そしてオレの目の前にいる40代の男性の2人だけ。

 

 完全に嵌められたな。

 

 オレはあっさりと密室に閉じ込められてしまった。

 

 久々に再会する親子だけを残して。

 

 

 

「まずは座ったらどうだ。わざわざ俺から出向いてやったんだぞ」

 

 

 

 目の前にいる相手はオレの父親だ。

 

【挿絵表示】

 

 名前は綾小路篤臣。

 

 ホワイトルームの運営者でもある。

 

 鋭い眼光と、隙のない佇まい。

 

 威圧感だけで人を屈服させるような、そんな男。

 

 もうそれだけでこの後どんな展開が待っているのか簡単に想像できるな。

 

 声を聞くのも1年以上ぶりの事だが、なんの感情も沸かない。

 

 だからオレは心を閉ざし、無機質な声で淡々と言葉を返す。

 

 

 

「座るほど長話する予定はないんだけどな。今から女と遊ぶ予定があるんだ」

 

「女だと? 笑わせるな。お前にそんな存在が出来るはずないだろう」

 

 

 

 オレの学園生活なんて何も知らないくせに、よくそんなに決めつけることが出来るな。

 

 自分が絶対正義だと確信してるこの男らしい。

 

 

 

「相変わらずの自信だな。だが残念ながらアンタの常識は通用しない」

 

 

 

 オレはこの男の言葉に対して適当な言葉で突き返した。

 

 ここで感情的になるのは負けだ。

 

 徹底的に無関心を貫く。

 

 

 

「俺がわざわざこの学校に来たのはお前を連れ戻すためだ。退学届もすでに提出済み。さっさと荷物をまとめろ」

 

 

 

 そうだろうな。

 

 もちろん知ってる。

 

 だが退学届と言ったか?

 

 しかも勝手にだと?

 

 

 

「冗談はよせ。そんな権限アンタにはないはずだ」

 

「権限なんてものは必要ない。俺の許可なくお前がこの学校に入ったこと自体が問題なんだ。理事長もようやく俺の言葉を理解してくれた」

 

 

 

 この男……オレの父親である綾小路篤臣は相変わらずの傲慢な笑みを浮かべている。

 

 この学校が、理事長がどれほど強大な存在であろうと、この男の前では些細な障害でしかないという自信が窺える。

 

 

 

「勝手に話を進めるな。オレにはここでやりたいことがある。この学校にいる限りアンタの影響は受けない」

 

「やりたいことだと? くだらんな。お前は俺の最高傑作だ。お前がやるべきことは再稼働されたホワイトルームに戻り、その才能を磨き続けることだけだ。春麗や軽井沢などという低俗な女と戯れることではない」

 

「・・・」

 

 

 

 その名前が出た瞬間、意識がわずかに研ぎ澄まされる。

 

 背筋に冷たいものが走った。

 

 ここは隔離施設のはずなのに、何故コイツの口からクラスメイトの名前が出るのか分からなかった。

 

 まさか坂柳がオレを売ったのか? と一瞬考えたが、それはあり得ない。

 

 アイツは以前オレを脅してきたが、実際にこの男と連絡を取る手段なんてもっていなかった。

 

 あの後、自分であっさり白状したからな。

 

 それなら坂柳以外にもホワイトルーム関係者がいて、そこから情報が洩れてるのか?

 

 だとしたら相当不味い状況かもしれないが、現状ではいくら考えても分かりそうにない。

 

 どちらにしろ無関心を貫き通すしかなさそうだ。

 

 

 

「アンタの敷いたレールの上を歩くつもりはない。オレはオレ自身の意思でこの学校を選んだ」

 

「そうか。お前が意思を持つことを学んだというならそれはそれで喜ばしいことだ。だが、その意思が俺の計画の邪魔をするなら話は別だ」

 

 

 

 この男はソファから立ち上がり、ゆっくりとオレに近づいてきた。

 

 その威圧感はここにいる教師たちとは比べ物にならない。

 

 部屋の空気が重くなっていく。

 

 

 

「お前に選択肢はない。大人しく俺に従うか、それとも……」

 

 

 

 この男はそこで言葉を切り、鋭い視線をオレの目に突き刺した。

 

 

 

「それともお前の周りの人間が、お前のわがままの代償を支払うことになるかのどちらかだ」

 

 

 

 その言葉はオレの楽しみである日常を一瞬にして凍り付かせる。

 

 この男は手段を選ばない。

 

 そしてオレが最も避けたい事態を提示してきた。

 

 

 

「戯言だな。脅し文句のレパートリーも進歩がない」

 

 

 

 オレは感情を顔に出さずにこの男の視線を受け止める。

 

 動揺を見せればこの男はさらに付け上がってくるからだ。

 

 

 

「アンタは常にそうだ。自分の思い通りにならないと周りの人間を道具として使う。だが、ここはアンタのホワイトルームじゃない。安易な脅しが通用すると思わないことだな」

 

 

 

 オレは言葉で応戦しつつも頭の中では冷静に状況を分析していく。

 

 この男は「退学届はすでに提出済み」と言った。

 

 そして「理事長もようやく俺の言葉を理解してくれた」とも。

 

 もしそれが真実なら茶柱の態度や校長の狼狽ぶりも説明がつくな。

 

 

 

「ほぅ? 強がりだけは達者になったな。だが、お前が俺の言葉を信じようと信じまいと事実は変わらない」

 

 

 

 それを証明するようにこの男もまた強気な姿勢を崩さない。

 

 まるでオレの反論が犬の吠え声程度にしか聞こえていないかのようだ。

 

 どこまでも傲慢で不遜な態度のまま言葉を続ける。

 

 

 

「校長がなぜあんなに汗をかいていたと思う? 生徒の退学程度であそこまで動揺するか? 全ては俺がお前を連れ戻すために、この学校の根幹に揺さぶりをかけた証拠だ」

 

 

 

 オレは内心で舌打ちした。

 

 この男は本当にすべてを破壊しかねない。

 

 自分の目的のためなら手段を選ばず、巨大な組織すら操る力を持っている。

 

 だが違和感もあった。

 

 

 

「理事長を説得した? 笑わせるな。この学校のシステムを理解しているなら、それがどれほど困難なことか分かるはずだ」

 

「フン、難しいという言葉は無能な人間に使う言葉だ。俺の力にかかればこの学校のシステムなど単なるパズルのピースに過ぎない」

 

 

 

 随分と大きく出たもんだな。

 

 隔離施設でもあるこの学校のシステムが無意味だと?

 

 いや、それはおかしい。

 

 もし本当に退学が決定しているなら、茶柱はこんな所にオレを連れてこずそのまま退学を指示してくるはず。

 

 ここはそういう学校だ。

 

 上級生は例外なくそうやって退学させられてるらしいからな。

 

 だが茶柱はそうしなかった。もちろん茶柱に学校の決定を覆す権利はないのだから、この状況自体が不自然でもある。

 

 そもそも理事長からの指示であるのなら、当の本人がこの場に姿を現さないのも気になるな。

 

 オレの退学が特別な措置であるなら理事長にも説明責任があるはず。

 

 つまり茶柱は校長からの指示を受けて動いている可能性が高いという事か。

 

 しかも理事長の許可もなく勝手に動いてるんだろう。

 

 

 

「どうやら本当に決定事項のようだな。オレの周りの人間が俺のわがままの代償を支払う事になる、か」

 

 

 

 だから敢えて嘘に騙されているフリをした。

 

 この男の虚言を確実に暴くために。

 

 

 

「例えば軽井沢をどうするつもりだ? ソイツに何か手を加えるとしてもオレに女なんてできるはずないんだろ? なら無関係な生徒がどうなろうと関係ない。ここで大人しくアンタに従う理由も当然ない」

 

 

 

 オレはあくまで無感情な声で最もらしい理由を付けて尋ねた。

 

 父親は愉快そうに口角を上げている。

 

 

 

「心配するな。俺がターゲットにするのはお前の最も大切な人間だけだ。それにお前の周りの人間がお前の退学によって失望するという事実だけで充分な代償になるだろう」

 

「失望か……くだらないな」

 

 

 

 無意味な言葉遊びだ。

 

 お前の魂胆はとっくに分かっている。

 

 それにこの男にとって他人の感情なんて何の役にもたたないはずだ。

 

 それは誰よりもオレが一番よく分かってるからな。

 

 

 

「結局アンタはオレを連れ戻すことしか考えていない。他はどうでもいいんだろ。それが分かっただけでも収穫だ」

 

 

 

 オレは静かに立ち上がり、応接室の扉に向かって歩き出した。

 

 

 

「どこへ行く清隆。話はまだ終わっていないぞ」

 

「座るほど長話する予定はないと言ったはずだ。アンタの要求は理解した。だが、今アンタについて行く理由にはならない」

 

 

 

 オレは扉に手をかける直前、振り返ってこの男の目をまっすぐ見据えた。

 

 

 

「オレの退学届が本当に受理されているかどうか自分で確認させてもらう。もしそれが嘘ならアンタに従うことはない。だがもしそれが真実なら……その時に代償について改めて話し合おう」

 

 

 

 オレはそう言い放ち、父親の返事を待たずに応接室を後にした。

 

 随分と舐められたもんだな。

 

 こんな子供だましで息子を支配しようなんて呆れ果てる。

 

 オレは嘲笑交じりの溜息を吐きながら廊下に出ると、すぐに人気のない階段を見つけて一気に駆け上がった。

 

 向かう先はもちろん理事長室。

 

 退学届の真偽を確かめる必要がある。

 

 だがその時、踊り場に立つ人影と目が合った。

 

 

 

「茶柱と……春麗?」

 

 

 

 2人はオレが応接室を飛び出してきたことに驚いた様子もなく、なにやら真剣な様子で話し合っている。

 

 茶柱は分かるが、どうして春麗がこんな場所にいるんだろうか。

 

 目まぐるしく状況が変化する中でそんな疑問が沸き上がったが、オレの疑問はすぐ解消されることになる。

 

 

 

「朝から茶柱先生の様子がおかしかったから、2人の行動が気になってついてきちゃった」ゴメンネ

 

 

 

 なるほどな。

 

 そういえばコイツはそういう人間だった。

 

 サラッと人を尾行する捜査のスペシャリスト。

 

 気配を感じさせないから、オレも茶柱も全く気付かなかったというわけだ。

 

 という事はオレの事情も知ってるんだろうな。

 

 まあコイツであれば別にいいか。

 

 

 

「話は全て聞かせてもらったわ。綾小路君、私も混ぜてもらって構わないかしら」

 

「ああ、問題ない」

 

 

 

 なぜなら、春麗以上に頼もしい味方なんてオレは知らないからだ。

 

 あの男は春麗の名前も口に出していた。

 

 もしかしたらコイツも巻き込んでしまうかもしれないな。

 

 オレのわがままの代償が最も大切な人間に支払われるなら、それは春麗以外にあり得ない。

 

 あの男にそんな事が可能なのかは分からないが、絶対コイツに手出しはさせない。

 

 

 

 

 

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