ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第34話

 

 

 

 

 

 混合合宿1日目。

 

 3時間ほどかけたバスでの旅も終わりをつげ、林間学校に無事に到着した。

 

 バスから降りると、冷たい山の空気が肺を刺すように入り込んでくる。

 

 林間学校の体育館のような施設に案内されてすぐ、オレたちは小グループの編成を固めていく。

 

 女子も同様の事を行ってるはずだが別棟のため確認はできない。

 

 スマホも没収済みなため、1日に1時間だけ接触できる夕食の時に確認するしかないな。

 

 とはいえ女子は春麗と一之瀬がうまくまとめるから心配いらないだろう。

 

 むしろ自分たちの心配をしなければいけない。

 

 大グループの形成は夜に行う事になってるので、まずは小グループの責任者決めからだが。

 

 

 葛城クラス――戸塚弥彦、橋本正義

 

 クラス茶柱――綾小路清隆、須藤健、池寛治、山内春樹、外村秀雄、幸村輝彦、高円寺六助

 

一之瀬クラス――墨田誠、森山進

 

 龍園クラス――龍園翔、石崎大地

 

 

 

 御覧の通りチーム粗大ゴミにはまとめられる人間がいない。

 

 だから責任者決めの時点で躓いていた。

 

 

 

「俺は責任者とか向いてないと思うぜ」

 

 

 

 須藤が頭を掻きながら言った。

 

 まとめる奴が誰もいないので、みんな言いたいことを言うだけだ。

 

 池、山内、外村も同様に責任者はやりたくないんだと。

 

 まあそうだろうな。

 

 知ってた。

 

 

 

「私も嫌だねぇ。君たちで勝手に決めてくれたまえ」

 

 

 

 高円寺は自分の髪を弄りながら、まるで他人事のように振る舞っている。

 

 窓から差し込む光を浴びて、金髪がキラキラと輝いている。

 

 まあそうだろうな。

 

 知ってた。

 

 春麗がいなきゃコイツなんて制御出来るわけがない。

 

 残るは戸塚、橋本、龍園、石崎、墨田、森山、啓誠と、そしてオレか。

 

 正直こんな癖強集団をまとめられるヤツなんていないから責任者なんてどうでもいいが、報酬ボーナスを考慮して選ばなきゃいけない。

 

 そのために1クラスだけ人数を多くしてるんだからな。

 

 

 

「選択肢はクラス茶柱の生徒以外ありえない。責任者と同じクラスの生徒は報酬が2倍になるからな」

 

「そうだな。という事は俺か清隆がやるしかなさそうだがどうする?」

 

 

 

 そして残ったのはもちろん啓誠とオレ。

 

 多分リーダーシップ的には啓誠にやらせた方がいいんだろうけど、退学のリスクをコイツ1人に背負わせるのも気が引ける。

 

 仕方ないな。

 

 あの日に春麗と誓った覚悟をここで見せておくとしよう。

 

 

 

「じゃあオレがやる。みんなはそれでいいか?」

 

 

 

 沈黙が流れた。

 

 誰も反対しない。

 

 というか誰もやりたくないから反対しなかっただけだろうが別にそれで問題ない。

 

 とりあえずみんなの同意は得られた。

 

 責任者なんて言う罰ゲームの押し付け合いをさっさと終わらせることの方が重要だからな。

 

 小グループ編成は完了したから試験スタートだなと思って外に出ようとしたが、生徒会長で2年の南雲に止められてしまった。

 

 

 

「ちょっと待てよ1年生」

 

「なんですか?」

 

「お前たちに提案がある。これからすぐに大グループを作らないか?」

 

 

 

 どうやら本来なら夜に行う予定の大グループ決めを今からやりたいらしい。

 

 近くにいた3年の堀北学ともなにやら話をしていて、それが上級生の総意でもあるようだ。

 

 断る理由も特にないので1年もみんな了承したが。

 

 

 

「堀北先輩、ドラフト制度みたいなので決めるのも面白くないスか? 1年の小グループの責任者6名がじゃんけんして、勝ったやつから2、3年の小グループを指名していく。それだけで大グループは完成だから短時間で決まりますよ」

 

「それはダメだ南雲。1年の持つ情報量は少ない。公平性に欠けていると思われる」

 

「公平に決めることなんて不可能です。結局持っている情報に差はあるんですから」

 

 

 

 なにやら決め方で揉めているらしい。

 

 オレとしては南雲の提案で問題ない気がするけどな。

 

 アイツの言う通りどうせ公平に決めるのは不可能だし、さっさと決めて時間を短縮した方がいい気がする。

 

 堀北はなんというかお堅いな。

 

 それにこの学校で公平さを求めるなんて夢でも見てるんじゃないかと思うほどに考えが甘い。

 

 だからオレ達は南雲の意見に賛同してドラフトを行い、そして南雲がいる上級生のグループを指名した。

 

 南雲のいる上級生グループはC、Dクラスが中心で総合力に不安は残るが、別にそんなものはどうでもいい。

 

 この試験で南雲という人間の本質を探る事さえ出来ればそれでオッケーだ。

 

 ようやくこれで試験開始かと思ったが、まだ南雲からなにか提案があるらしい。

 

 面倒くさいなコイツ。

 

 

 

「堀北先輩、偶然にも別の大グループになった事ですし1つ勝負といきませんか?」

 

 

 

 南雲が提案したのは堀北との勝負だった。

 

 だがその提案に対して答えたのは堀北ではなく、何故か3年Aクラスの藤巻という生徒。

 

 オレの知る情報では3年Aクラスで堀北に次ぐ2番手のような立ち位置の生徒だ。

 

 南雲は堀北に勝負を提案したはずなのに、何故か南雲とその藤巻が2人でイチャイチャしてる。

 

 最終的には堀北も参戦して3人でイチャイチャしながら話は進み、堀北と南雲の大グループ同士で小細工抜きの勝負をすることに決まったらしい。

 

 つまりオレ達も巻き込まれてしまったわけだが、コイツらキモすぎないか?

 

 なんなんだ? 

 

 そんなに個人的な勝負がしたけりゃ2人でチェスでもやってればいいのにな。

 

 周りを巻き込むなよ。

 

 どうやらそう思ってるのはオレだけじゃないらしく、こういう時に暴走しがちな啓誠が先輩たちに嚙みついた。

 

 

 

「俺たちがこれから過ごす大グループでの成績は、南雲先輩と堀北先輩の個人的なイザコザの勝敗に直結するってことですか?」

 

 

 

 その姿勢は南雲、藤巻、堀北という名だたる上級生3人の前でも臆していない。

 

 眼鏡の奥の目が、怒りで燃えている。

 

 それに対して南雲は軽薄な笑みを浮かべながら答えている。

 

 

 

「まあ、そういうことになるな」

 

「そういう事になるなじゃないでしょ! ふざけてるんですか!」

 

 

 

 まあ、そうなるよな。

 

 知ってた。

 

 オレも意味が分からないし、多分1年生は誰も意味が分かってないと思う。 

 

 それは今まで黙っていた龍園も例外じゃなかった。

 

 

 

「ふざけんな。なんで俺たちがお前らの私闘に付き合わされなきゃならねぇんだ。ちゃんとした理由を言え」

 

 

 

 ムカつく上級生がいたら潰すと豪語していた通り、苛立ちを露わにして上級生に詰め寄っている。

 

 アイツは他人の都合に振り回されるのは嫌いだろうからな。

 

 まあ当然といえば当然の反応だ。

 

 

 

「まあまあ、龍園。2人で競い合ってくれて上位に入れば追加報酬が得られると思えば、悪い話ばかりじゃないだろう?」

 

「あぁ? なんだ橋本テメェ。邪魔するならお前から潰すぞ」

 

「そんな怖い顔すんなよ。別にお前さんとやり合おうってわけじゃない」

 

 

 

 だがそんな龍園を宥めるように橋本が軽く笑って言った。

 

 流石は要領のいい男だ。

 

 面倒事からも利を見出そうとしている、というか予定通りの動きをしている。

 

 さて、どうするかな。

 

 龍園の気持ちも分からないでもないが、こんな所で揉め事はごめんだ。

 

 それに南雲と堀北がやり合うのはオレ達にとって好都合でもある。

 

 今は余裕もあるし、ここは橋本をフォローするか。

 

 

 

「落ち着け龍園」

 

「テメェもかこの腰巾着。いいぜ、まとめてかかって来いよ」 

 

「やめてくれ。オレも橋本もお前と喧嘩したいわけじゃない。余計な面倒を避けたいだけだ」

 

「そうかよ。だが馬鹿どもの面を見てるだけでもこっちは気分が悪ぃ」

 

「オイオイ、先輩に向かって馬鹿どもはないだろ。なんならお前も俺と勝負するか?」

 

「ふざけんなマヌケ。そんな下らねえことするわけねえだろ」

 

「おー、今年の1年は血気盛んだねぇ。いいぜ、その喧嘩買ってやるよ」

 

 

 

 せっかく抑えようとしてるんだから邪魔するなよ南雲。

 

 龍園と因縁を作ってくれるのはありがたいが、煽りすぎるのはよろしくない。

 

 少なくともお前らがやり合うのは今じゃない。

 

 仕方ないな。

 

 目立ってしまうが、ここは強引にでも止めるとしよう。

 

 

 

「橋本、龍園を抑えといてくれ」

 

「あいよ」

 

「おい、邪魔すんな! 殺すぞ」

 

 

 

 とりあえず龍園は橋本に任せたフリをして、オレは馬鹿どもの相手だな。

 

 

 

「すいませんでした先輩」

 

「気にするな。それよりお前は俺を止めないのか?」

 

「はい。別に2人の勝負に興味はないので勝手にやっててください。オレ達に被害がなければ大丈夫です」

 

「ハッ、生意気なやつだ。だが、もし俺か堀北先輩のグループが最下位になったらどうする? そうなればお前らも甚大な被害を受けることになると思うが」

 

「1年はそうなっても大丈夫なようにしてあるので問題ありません」

 

「へえ……」

 

「堀北先輩もすいませんでした」

 

「いや、俺たちがまいた種だからお前が謝る必要はない。それよりこうなっては勝負どころではない気がするが、それでもオレに挑むのか南雲」

 

「当り前じゃないスか。こんな1年坊は放っといて2人で楽しみましょうよ」

 

「……そうか、残念だ」

 

 

 

 ダメだなコイツらは。

 

 救う必要なんてないがどっちにしろ救いようがない。

 

 狙い通りでもあるが呆れ果てる。

 

 まあ馬鹿どもは放っておくとして、とりあえずなんとかなりそうか?

 

 龍園の方は橋本に加えて3年の藤巻も参戦してくれたみたいだから問題なさそうだ。

 

 じゃあ騒ぎが再発する前にさっさと退散するとしよう。

 

 堀北と南雲だけの世界を邪魔するのも悪いしな。

 

 男同士で勝手にイチャイチャしててくれ。

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 なんとか龍園も回収して宿舎に到着した。

 

 龍園は気が収まってないようだが、騒ぎを起こさないようになんとか説得してようやく一安心といった所だ。

 

 余計な事をして退学処分を受けたくもないし、むしろ小グループでの自分たちの行動に集中すべきだろう。

 

 どうせあの馬鹿2人が勝負しなくてもどこかの大グループは最下位になるわけだし、本当にどうでもいい話だな。

 

 そうしてようやく解放されたオレ達は宿舎で雑談した後、本日初めての夕食の時間を迎えていた。

 

 つまり女子との接触が許される貴重な時間を迎えていた。

 

 ようやくだな。

 

 馬鹿2人の勝負の話もそうだし、大グループを先に形成できたのも悪くない。

 

 いい土産話が出来そうだ。

 

 食堂は広々としていて、温かい湯気が立ち込めている。

 

 とりあえず分かりやすいお団子頭を探していると、都合のいいことに春麗と一之瀬がセットでいるのを見つけた。

 

 

 

「隣座っていいか?」

 

「お疲れ様、もちろんいいわよ」

 

「綾小路君お疲れ〜」

 

 

 

 春麗はいつも通りだが、一之瀬はぐったりしてるな。

 

 テーブルに突っ伏すようにして、疲労感を隠そうともしていない。

 

 女子は問題ないかと思っていたが、意外にもオレ達より手間取って疲れてしまったらしい。

 

 

 

「女子は好き嫌いがはっきりしてるからね。結果だけを見据えて割り切ってもらうのに苦労したよー」

 

「なるほどな」

 

 

 

 オレはそこまで頭が回っていなかったな。

 

 確かに女社会は男社会よりもまとめるのが大変かもしれない。

 

 いくら春麗や一之瀬が優秀でも学年全ての女子をまとめるのは一筋縄ではいかないようだ。

 

 

 

「ところで大グループはもう出来たか?」

 

「まだよ。もしかして男子はもう決まったの?」

 

「ああ、ちなみにオレは南雲と同じ大グループになった」

 

「やるわね綾小路君、じゃあ観察よろしくね」

 

 

 

 オレの土産話に春麗はご機嫌だ。

 

 南雲の事は色々調べてはいるがまだ情報が足りない、というか実際に接触してみないと分からないことが多い。

 

 今までの感じからするとただのアホにしか見えないけどどうなんだろうな。

 

 どっちにしろ今回の試験は上級生の行動が直に把握できるまたとないチャンスだ。

 

 この試験を利用して南雲雅という男を徹底的に解剖し尽くす。

 

 そして得られた解剖結果をもとに、やつに最も有効的だと思われる毒を選択する。

 

 下準備は着々と進んでいるが、毒を流し込むのはこの試験が終わってからだな。

 

 

 

「それともう一ついい知らせがある」

 

「なに? また南雲先輩絡みの話かしら」

 

「ああ、あいつはどうやら今回も堀北学に夢中らしいぞ」

 

「ふふふ、それは好都合ね」

 

「にゃはは、2人とも悪い顔してるねー」

 

 

 

 それはそうだ。

 

 こんなに楽しい話もない。

 

 なにしろ生徒会の支配はオレ達の計画の要だからな。

 

 だが、それより一之瀬。

 

 今ここにいる生徒の中で、お前が一番悪い顔をしてるぞ。

 

 その笑顔の裏に何を隠しているのか、オレ達以外誰も知らないだろう。

 

 

 

 

 

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