ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第37話

 

 

 

 

 

 3学期最初の特別試験、混合合宿も最終日の朝を迎えていた。

 

 この試験はクラス間の垣根を越えた同性だけで1つのグループを組み、共同生活と課題解決を行うというものだ。

 

 

 

 葛城クラス――戸塚弥彦、橋本正義

 

 クラス茶柱――綾小路清隆、須藤健、池寛治、山内春樹、外村秀雄、幸村輝彦、高円寺六助

 

一之瀬クラス――墨田誠、森山進

 

 龍園クラス――龍園翔、石崎大地

 

 

 

 チーム粗大ゴミは御覧の通りの構成になっていて、大グループを形成する上級生も個性的なメンバーが揃っている。

 

 そんな癖強なメンバーでわちゃわちゃしながらオレ達は試験に取り組んでいた。

 

 グループワークは過酷で大変だし、高円寺は勝手に猪と戦ってるし、南雲はやりたい放題だしで正直言ってめちゃくちゃだ。

 

 とはいえ悪い事ばかりでもなく、普段交わらない生徒との交流は貴重な体験でもある。

 

 戸塚は葛城がいなきゃ案外まとも。

 

 橋本も普通に優秀。

 

 外村はござる口調がなくなってキャラが行方不明。

 

 啓誠も暴走しなきゃきわめて優秀。

 

 高円寺はこんな環境下でもトレーニングを欠かさない筋肉ダルマ。

 

 一之瀬クラスの2人は相変わらず影が薄くてよく分かりません。

 

 須藤と池は相変わらず良い奴。

 

 山内は相変わらず悪い奴。

 

 だってアイツ坂柳を転ばせといて、坂柳の悪口言うような奴だからな。

 

 さすがに春麗から指導が入ってボコボコにされてた。

 

 オレもしれっと殴ってやったが、多分気づかれてないはずだ。

 

 これで楽しみがまた一つ増えたな。

 

 そんな中で迎えた今朝は、オレと龍園と石崎の3人が大グループ38人分の朝食を作る当番の日を迎えていた。

 

 現在時刻は朝の5時だ。

 

 窓の外はまだ真っ暗で、冷え込んだ空気が調理場に入り込んでくる。

 

 正直しんどい。

 

 眠いし、寒いし龍園は機嫌悪いし。

 

 だが大グループ全員の朝食がかかっているので、さすがにこれをサボるわけにはいかない。

 

 というかサボったら減点されるしな。

 

 だからとにかく朝食は用意しなきゃいけないんだが、献立は至ってシンプルだ。

 

 ご飯、味噌汁、焼き魚、サラダ。

 

 非常にシンプルだが、料理なんかやったことないオレ達からしてみれば難易度が高い。

 

 おまけに大グループ38人分の朝食なので、調理場には大量の米、具材、そして魚が並んでいる。

 

 その光景を前に石崎が頭を掻きながら、いかにも馬鹿丸出しな発言をしていた。

 

 

 

「お、おい綾小路。38人分とかどうすりゃいいんだよ。適当にやるしかねーだろ」

 

「お前話聞いてたのか? ちゃんとレシピが渡されてるんだからその通りにやればいい」

 

 

 

 オレは石崎の馬鹿な発言にツッコミはしたが、正直適当でもいいと考えている。

 

 そこまで凝ったメニューじゃないし、別にレシピ通りじゃなくてもなんとかなるだろうからな。

 

 今オレ達に求められているのは効率と結果だ。

 

 美味い朝食は結果の一部ではあるが、最も重要なのは制限時間内に38人が食えるだけの量を用意すること。

 

 完璧な出来を追求するより、多少の失敗は許容して間に合わせることを優先すべきだろう。

 

 だからまずはご飯から準備する。

 

 効率を重視するならご飯を炊いている間にそれ以外の工程を進めなければならない。

 

 用意された炊飯器は業務用と見紛うばかりの巨大なもので、石崎が米櫃から目分量で米を掬い上げそのまま炊飯釜へ投入し始める。

 

 

 

「これくらいか? これで5升くらいか?」

 

「いや、どうだろうな。その倍は必要じゃないか? 38人だぞ」

 

 

 

 もちろん適当だ。

 

 オレもよく分かっていないが、大量のご飯が用意出来ればそれでいい。

 

 なんたってご飯はおかわり自由だからな。

 

 だからオレも米をさらに追加し、次は水の調整に入る。

 

 石崎が水道の蛇口を捻り、炊飯釜の中に豪快に水を流し込んだ。

 

 

 

「よし、この指一本分ルールだ! 米に指先つけて第一関節まで水が来たらバッチリなんだろ?」

 

「多分な」

 

 

 

 もちろん嘘だ。

 

 オレは指で水分量を測るという方法なんて知らない。

 

 レシピにもそんな方法載ってないから、石崎がテレビかなんかで見た知識なんだろう。

 

 それなら心配いらないな。

 

 だから黙って石崎の様子を見ていたが、結果的に炊飯釜は半分以上が水で満たされることになった。

 

 指のルールどこ行った?

 

 指どころか腕の関節くらいの所まで水が入ってるんだが……

 

 ちょっと不安だけど、たぶん大丈夫だろ。

 

 もしミスっても全部石崎のせいにすればいいしな。

 

 だがその瞬間、背後から地を這うような低い声が響いた。

 

 

 

「おい、お前ら。飯を雑炊にしてどうするつもりだ」

 

 

 

 声の主は龍園だ。

 

 アイツは調理場に運び込まれた大量の食材を腕組みしながら見下ろしていた。

 

 その顔はいつもの嘲笑的な笑みではなく、明らかな苛立ちに染まっている。

 

 

 

「何言ってるんですか龍園さん。38人分のご飯なんだし、このくらい適当にやっても大丈夫ですよ」

 

 

 

 石崎が呑気に言い返したが、龍園はそれを鼻で笑った。

 

 というかお前も手伝えよ。

 

 

 

「お前の言う適当は失敗と同義だ。いいか? 38人分の米はきっちり10升だ。ちゃんとレシピを見ろお前ら。それと水の量は指で測るんじゃなくて米の体積の1.2倍を正確に計測しろ」

 

 

 

 龍園はそう言い放つと、調理場の隅からデジタルスケールと巨大な計量カップを持ち出してきた。

 

 どうやら手伝ってくれるらしい。

 

 アイツの事だから偉そうに指示するだけだと思ってたから意外だな。

 

 

 

「綾小路、お前は米を洗え。石崎、水の量を測るのを手伝え。オレが指示する通りに動け」

 

 

 

 そこからの龍園はまるで戦場の指揮官だった。

 

 オレと石崎はアイツの指示の下、言われた通りに動くしかない。

 

 だってレシピ見るのも龍園に意見するのも面倒だからな。

 

 アイツがやる気ならそれでいい。

 

 石崎が目分量で入れた米は全て取り出され、龍園がデジタルスケールで正確に10升分を計量し直した。

 

 そして手際よく米炊きを開始していく。

 

 米炊きは後は待つだけだから次は味噌汁だな。

 

 さっさと終わらすために、オレと石崎は再び適当に取り掛かろうとしていた。

 

 

 

「味噌汁もだしの素をドバドバ入れて、味噌もドバドバで濃いめにすれば文句は出ねーだろ」

 

 

 

 石崎が大きな寸胴鍋に業務用のだしの素を4袋まとめて投入しようとしている。

 

 あまりにも大雑把な気がするが、とりあえずオレも同じように袋を開けていく。

 

 

 

「おい、待て馬鹿ども。そんな入れ方したら味が濃すぎて飲めたもんじゃねえ。とりあえずやめろ」

 

 

 

 よく分からないがやめた方がいいらしい。

 

 龍園は石崎の手からだしの素を奪い取って、またも指示を出している。

 

 

 

「いいか? 味噌汁の味は出汁の引き方で決まる。市販の出汁を使うにしてもまずは水を正確に計り、昆布と鰹節で基本的な出汁の風味を補強する。顆粒出汁はあくまで風味付けの補助だ。計量スプーンで1リットルあたり3g。これを徹底しろ」

 

 

 

 よく分からないがそうした方がいいらしい。

 

 龍園はどこから持ってきたのか分からないが、本格的な和食職人が使うような大型の漉し布と鰹節まで用意していた。

 

 オレと石崎はただただ言われるがままに大量の昆布を鍋に入れ、鰹節を削り、計量スプーンで出汁を測り入れる作業に没頭する。

 

 そして味噌も同様だ。

 

 

 

「味噌は具材の旨味と相殺されることを考慮して入れろ。1リットルあたり味噌60g。これを溶き籠で丁寧に溶かし込め。一気に溶かすな。沸騰直前の温度で風味を飛ばさずに溶かせ」

 

 

 

 そうやって龍園の指示通りに完成させた味噌汁は香りが違った。

 

 見ただけで分かる。

 

 これは絶対に美味しい。

 

 味見として口に含めば上品な昆布と鰹の旨味が舌を覆い、そこに味噌の風味が穏やかに広がる。

 

 塩辛さも薄すぎず濃すぎず、まさに完璧だった。

 

 今までの朝食も同じように生徒が作ってきたわけだが、はっきり言って出来栄えのレベルが違うな。

 

 だからオレは思わず呟いた。

 

 

 

「龍園、お前、料理人になるつもりだったのか?」

 

「アホ。お前らと違ってオレは勝つために何でもする。料理もまた相手を完全に打ち負かすための武器だ」

 

 

 

 ちょっと何を言ってるのかよく分からないが、とにかくコイツは料理が出来るらしい。

 

 意外だ。

 

 龍園の言う相手とは、恐らく春麗の事だろう。

 

 もしかして料理で春麗の胃袋を掴むつもりなのか?

 

 正攻法では勝てないから、おいしいご飯で春麗を魅了してから闇討ちするつもりなのかもしれない。

 

 やっぱり頭の回る男は違うな。

 

 オレも参考にさせてもらうとしよう。

 

 メモメモ。

 

 じゃあ最後に焼き魚だ。

 

 用意されたのは大量のサバ。

 

 脂がのっていて、見るからに新鮮だ。

 

 

 

「焼き魚なんか、塩振って焼くだけだろ!」

 

 

 

 と石崎が粗塩を鷲掴みにし、豪快に魚の身に叩きつけようとしていた。

 

 流れからしてもう分かる。

 

 それ絶対龍園に止められるからやめとけ。

 

 

 

「やめろ馬鹿。そんなことしたら魚の水分が飛んで塩辛いだけのゴムになるだろうが」

 

 

 

 ほらな。

 

 お前は学ばない男だな石崎。

 

 オレはもう学んだぞ。

 

 龍園は思った通りに石崎を一喝し、今度は別の計量スプーンと小さな霧吹きを用意している。

 

 

 

「塩は魚の重さの1.5%だ。それを指先で均等に、薄く、まるで雪を降らせるように振りかけろ。石崎、お前は粗塩を砕きすぎだ。綾小路、お前はこの霧吹きで日本酒を魚の表面に薄く吹き付けろ。臭みを消して皮をパリッとさせる」

 

 

 

 随分と細かいが気にしない。

 

 これが人生で何かしらの武器になるなら学んでおいて損はないだろう。

 

 だからオレは素直に龍園が差し出した霧吹きを受け取った。

 

 龍園は魚焼きグリルの温度と焼く時間を、まるで高度な物理学の実験をするかのように調整し始めている。

 

 

 

「高温で一気に皮目を焼き上げて旨味を閉じ込める。その後に温度を下げて中までじっくり火を通す。魚の厚さによって時間は20秒単位で調整だ」

 

 

 

 よく分からないがそれが最適らしい。

 

 その結果、焼き魚は皮はパリッと香ばしく、身はふっくらとしてジューシーな見た目も完璧なものに仕上がった。

 

 見ただけで分かる。

 

 これは絶対に美味しい。

 

 完璧に調理を進行していく龍園はまるで幸平創真の父親のように見えた。

 

 あの料理漫画に見せかけた青春ラブコメと思わせておいて、実際は寝取られアリのエロ漫画だった主人公の父親な。

 

 紫の長髪で、名前は確か才波城一郎だったか。

 

 オレと石崎はその姿にただただ圧倒されていた。

 

 おあがりよっ!

 

 いや、なんでもない。

 

 とにかく朝食の準備は完了し、38人のグループメンバーが食堂に集まってきた。

 

 窓から差し込む朝日が、テーブルに並んだ料理を照らしている。

 

 お椀に盛られたツヤツヤのご飯。

 

 香りが際立つ上品な味噌汁。

 

 完璧な状態で焼き上げられた魚。

 

 そして龍園の手によって彩り鮮やかに盛り付けられたサラダ。

 

 それらを目の当たりにして、誰からともなく歓声が上がる。

 

 

 

「うわ、なんだこれ!? 米粒が立ってるじゃねえか!」

 

「味噌汁も良い香りだな。すげえ上手そうだ」

 

 

 

 須藤と戸塚が驚きと感動の表情を浮かべていた。

 

 

 

「やるじゃないかドラゴンボーイ。まるでプロの料理みたいだねぇ」

 

「だ、だろ! 俺たちが作ったんだぜ!」

 

 

 

 高円寺の誉め言葉に、何故か石崎が得意げに胸を張っている。

 

 お前サバに粗塩ぶっかけようとしてただけだぞ……オレもコイツと大差ないけど。

 

 とりあえずほとんど龍園の功績だから。

 

 だが当の龍園はグループの誰からの賛辞にも一切反応しなかった。

 

 アイツはテーブルの端で腕組みをして、ただ静かにオレたちの反応を観察している。

 

 食事を開始した38人の生徒たちの顔には、疲労の色よりも満足感が広がっていた。

 

 なんなら感動してる奴もいる。

 

 アイツらは昨日までの合宿生活で提供されていたショボイ食事とは一線を画す完璧な朝食を堪能しているわけだから無理もない。

 

 見た目も味も完璧だからな。

 

 須藤なんておかわりしまくりだ。

 

 南雲すら感心している。

 

 大グループのみんなはあっという間に朝食を平らげ、満足そうにして帰っていく。

 

 そんな中でオレは、ゆっくりと味噌汁を啜っていた。

 

 いつものように獰猛な笑みを浮かべている龍園を視界に捉えながら。

 

 

 

「龍園」

 

「黙って食ってろ腰巾着。誉め言葉なんかいらねえよ」

 

「いや、そういうわけじゃない」

 

「じゃあ話しかけんな。さっさと食って後片付けでもしてろ。俺はもう手伝わねえからな」

 

「分かった。だが一つだけ言わせてくれ」

 

「あぁ?」

 

「お前、オレ達のママにならないか?」

 

 

 

 コイツの料理の才能は使える。

 

 というかやらせれば何でもそつなくこなすだろう。

 

 だからお前は暴力なんて振るってる場合じゃない。

 

 何故なら意外と面倒見がいいことも判明したからな。

 

 

 

「中途半端な暴力でこの学校を生き抜こうとするのは無理だ。それより春麗のお世話係になった方が建設的だからお前は家事を極めろ」

 

「ふざけんな綾小路! テメェぶっ殺すぞ!」

 

「ど、どうしたんですか龍園さん。まさか朝から喧嘩っすか?」

 

「うるせえ石崎! お前も絡んでくんじゃねえ!」

 

「お前はどう思う? 石崎」

 

「なにがだ?」

 

「龍園の才能は暴力じゃない。オレは面倒見の良さだと思ってるんだが、クラスメイトとしてお前の意見も聞きたい」

 

「そういえば確かにそうだな……龍園さんはなんだかんだ言いながら俺たちにも優しいし」

 

「おい、石崎。どうやらお前は殺されてえみてえだな」

 

「な、なんすか龍園さん。俺は本当の事を言っただけですよ」

 

「黙れ。それ以上口を開いたら殺す。テメェもだ綾小路」

 

「分かった。もうママになってくれなんて言わない」

 

「ぶっ! ばっか綾小路。笑わせんじゃねえよ!」

 

「黙れって言ったのが聞こえなかったか?……あぁ、そうか。どうやらお前ら2人とも死にてえらしいな。じゃあ望みどおりに調理してやるよ」 

 

 

 

 こうして大グループのみんながいなくなった後も、オレと石崎と龍園の3人は後片付けしながら戯れていた。

 

 つまりイチャイチャしていた。

 

 男だけで過ごした7泊8日の合宿も思いのほか悪くなかったな。

 

 チーム粗大ゴミの悪い面だけじゃなく、良い面もたくさん発見できたし。

 

 ほとんど修行のような毎日だったが最後に上手い飯も食えたし。

 

 気分は上々だ。

 

 あとは試験に挑むだけか。一体どんな結末が待ち受けてるのか楽しみだな。

 

 

 

 お前もそう思わないか?

 

 元生徒会長の堀北学。

 

 

 

 

 




龍園「おあがりよっ!」

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