ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第38話

 

 

 

 

 

 混合合宿最終日の夕方。

 

 7泊8日という長い長い試験がようやく幕を閉じようとしていた。

 

 真冬の山奥という過酷な環境、しかも林間学校というより修行に近い内容の日程を乗り切った生徒たちはみんな疲労困憊だ。

 

 もちろんオレも結構疲れてる。

 

 入学時に比べれば外の環境にもだいぶ慣れてはきたが、大自然の中での行動はさすがにきつい。

 

 無人島試験以来の疲労感だな。

 

 だがすでに試験は終了し、オレ達は結果発表を待つだけの状態を迎えていた。

 

 場所は初日と同様に体育館だが、今は男女ともにこの一か所に集められている。

 

 疲れ切った生徒たちの表情には、緊張と安堵が入り混じっていた。

 

 

 

「お疲れ、綾小路君」

 

「ああ、お疲れ。お前はいつも通りケロッとしてるな」

 

「まあね。この学校に来る前はこの合宿以上に過酷な修行漬けの日々だったから全然平気よ」

 

 

 

 そしてオレの隣に陣取ったのはもちろん春麗。

 

 体力お化けであるオレの相棒はいつも通り凛とした表情でオレを出迎えてくれた。

 

 修行漬けの日々とか響きがかっこいいな。

 

 やりたくはないが言ってはみたい。

 

 恐らく並々ならぬ努力だろうに、苦労を微塵も感じさせずにサラッと言える春麗は流石だ。

 

 そんな頼もしい相棒と雑談しながら待っていると、ようやくお待ちかねの結果発表が始まった。

 

 

 

「林間学校での8日間みなさまお疲れさまです。混合合宿は数年に1回行われる試験、今回は前回よりも全体的に評価の高い年となりました。ひとえにみなさんのチームワークが良かったおかげでしょう」

 

 

 

 ステージに立って挨拶を始めたのは初老の男性だ。

 

 この林間学校を取り仕切っている支配人らしい。

 

 白髪交じりの髪と、穏やかな声が特徴的だ。

 

 

 

「先に結果に触れることになりますが、男子生徒の全グループが学校の用意したボーダーラインを超えており、退学者はゼロというこれ以上ない締めくくりとなりました」

 

 

 

 支配人の口からは先に男子の結果が発表されたが、これは恐らくそういう事なんだろうな。

 

 予想通りの展開だが、とりあえず男子グループに退学者はなし。

 

 一番の懸念事項だっただけにほっと一安心だ。

 

 支配人はそれが喜ばしいことのように語っているが、そもそも退学者が出るようなルールを課すなよと言いたい。

 

 このツッコミももう何度目なんだろうな。

 

 いい加減オレも学ばなければならないか。

 

 退学者を出すのはこの学校の伝統芸能だという事に。

 

 とにかく男子グループから退学者はでなかったからよしとしよう。

 

 そして支配人から順位も続々と発表されていく。

 

 退学者がいないなら1年にとっては順位なんてどうでもいい話だ。

 

 もし見どころがあるとしたら堀北と南雲の勝負ぐらいだな。

 

 さて、2人のイチャイチャバトルはどう決着がついたのか。

 

 

 

 1位 堀北グループ(葛城グループ)

 

 2位 南雲グループ(綾小路グループ)

 

 3位 藤巻グループ(神崎グループ)

 

 4位 石倉グループ(金田グループ)

 

 5位 橋垣グループ(平田グループ)

 

 6位 津野田グループ(鬼頭グループ)

 

 

 

 御覧の通りで、堀北と南雲の勝負は堀北の勝ちのようだ。

 

 おめでとう堀北。

 

 良かったな。

 

 だが勝った堀北はいつも通りクールに眼鏡をクイクイしてるだけだ。

 

 全然嬉しそうじゃない。

 

 そして負けた南雲も全然悔しそうじゃない。

 

 むしろ心底楽しそうに堀北を挑発してるな。

 

 もちろん理由はわかるが、興味もないから2人でじゃれ合っててくれ。

 

 お前らが楽しそうならそれでいい。

 

 やっぱり生徒会長コンビは最高だ。

 

 勝手に勝負して勝手に関係ない学年も巻き込んで。

 

 ドン引きしてる周りが見えないならいつまでもそうしてればいいんじゃないか?

 

 いっそ結婚すればいいと思うぞ。

 

 そうしたらずっと一緒にいられるし、それがお互いにとっても周りにとっても1番いい選択肢だろ。

 

 末永くお幸せにな。

 

 と祝いの言葉を2人に送ろうとしたら訃報が飛び込んできてしまった。

 

 

 

「えー……誠に残念ではございますが、女子グループの中からボーダーを下回る平均点を取ってしまった小グループが1つ存在します」

 

 

 

 なんてことだ。

 

 悲しいな。

 

 別にその訃報はありえた可能性だったが、さすがに場内がざわついた。

 

 だからオレも適当にざわついてみせたんだが、はっきり言って茶番でしかない。

 

 

 

「まずは最下位のグループですが……3年Bクラス猪狩桃子さんの大グループです」

 

 

 

 もちろんそれも知ってるが、当事者たちからは悲鳴が上がる。

 

 猪狩桃子が率いる大グループ中の3つの小グループのどれかから退場者が出るんだから当たり前だ。

 

 例えこれが仕組まれたものだったとしても、現実を受け入れなければならない。

 

 そして堀北に負けたはずの南雲の笑みと共に、死刑宣告は下され……

 

 

 

「ボーダーを下回ったのは、責任者――3年Bクラス猪狩桃子さんの小グループです」

 

 

 

 その発表と共に南雲の高笑いが場内に響き渡る。

 

 

 

「あーはっはっはっは。最高だな」

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 さて、今何が起こっているのかみんなには分かるだろうか?

 

 この場内にいるほとんどの生徒は南雲が高笑いしてる意味を理解していない。

 

 もちろんオレも春麗から情報を入手してなければ状況を理解できなかっただろう。

 

 混合合宿特別試験において、南雲は堀北に大グループ同士での勝負を挑んでそれに負けた。

 

 だが南雲は悔しがるどころか、何故か女子グループの退学者を聞いて笑っている。

 

 赤点ボーダーを下回った小グループの責任者として退学になるのは3年Bクラスの猪狩桃子。

 

 特になにか功績があるわけでもない、Bクラスにいる普通の生徒だ。

 

 堀北の側近でも何でもない。

 

 だからこの生徒が退学になったとて南雲が高笑いする理由にはならない。

 

 それでもアイツは笑っている。

 

 

 

「何をした南雲!」

 

 

 

 そして南雲の狙いに気付いて声を荒げたのは堀北ではなく、またしても3年の藤巻。

 

 よく出しゃばってくる3年Aクラスの2番手だ。

 

 堀北はその場に立ち尽くしたまま険しい顔をしているだけ。

 

 そんな2人を見ながら南雲は依然として笑い続けている。

 

 その理由が支配人から説明されていく。

 

 

 

「えー、お静かにお願いします。誠に残念ではありますが、小グループの責任を取って猪狩桃子さんの退学が決定いたしました。また、グループ内で連帯責任を命じることも出来ますので指名をお願いします」

 

 

 

 つまりそういう事だ。

 

 南雲の狙いは最初から堀北学と真剣勝負する事なんかじゃない。

 

 勝負は勝負でも堀北の足を引っ張ることが狙い。

 

 退学する責任者が出た場合に、連帯責任としてグループ内で1人だけ道連れに出来るというルール。

 

 春麗が佐枝ちゃん虐めの時に苦言を呈した馬鹿丸出しのルールな。

 

 これは生徒会が追加したルールであり、もちろん生徒会長である南雲雅が追加したものだと思われる。

 

 そして自分が追加したルールを使って、堀北の身近な存在である人物を退学させようとしただけの話。

 

 この特別試験は南雲が堀北を陥れるための罠そのものだったんだから。

 

 その罠が今から実行される。

 

 声を上げるのは猪狩桃子。

 

 退学者でもあり、南雲の共犯者でもある女。

 

 

 

「指名なんて決まってるでしょ。私たちのグループの平穏を乱した3年Aクラスの橘茜さんよ」

 

 

 

 道連れに退学を言い渡されたのは、前期生徒会の役員でもあり堀北学の側近でもある橘茜。

 

 恐らく南雲に金で買収されたであろう猪狩桃子率いる3年小グループの仕業によって、彼女の大グループは最下位となった。

 

 挙句の果てに橘は試験中にとことんいじめられて戦犯扱いされたんだと。

 

 だからこその道連れ指名。

 

 オレは直接現場を見ていたわけではないが、春麗からの情報だから間違いない。

 

 堀北の側近でもある橘を退学に追い込むことが南雲の狙いだ。

 

 まあ、それだけじゃないんだけどな。

 

 

 

「堀北くん、ごめんなさい……」

 

「橘、なぜもっと早くに相談しなかった。お前なら異変に気付いていたはずだ」

 

「それは……堀北くんの……負担になることが分かってたから……」

 

 

 

 どうやらお涙頂戴の友情ごっこが始まったみたいだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 自責の念からか泣き出してしまう橘。

 

 そしてそれを慰めようとしている堀北。

 

 3年Aクラスの生徒達も橘に同情して彼女を慰めている。

 

 だが、オレにはそいつらの姿がなんとなく滑稽にも見える。

 

 南雲に注意を逸らされて対策を怠った堀北が悪いし、そもそも自分で対策出来ない橘も悪い。

 

 クラスとしても何一つ対策出来なかったからこの結末を招いたはずなのに、今更友情ごっこを見せられてもなにも感じないな。

 

 それに恐らく堀北はこの後ポイントを使って橘を救うだろう。

 

 そしてそれを南雲も見越していて、堀北自身も南雲の思惑に気づいてる。

 

 南雲にとっては橘がそのまま退学して3年Aクラスの結束が崩れてくれても構わないし、堀北が2000万PP+300CPを救済措置に吐き出してくれても構わない。

 

 どっちにしろ堀北に痛みを味合わせるのが南雲の真の狙いだ。

 

 南雲は堀北を虐めて喜んでるただの愉快犯でしかない。

 

 それも堀北に構ってもらいたくてやっただけの幼稚な行動。

 

 オレ達愉悦部でもドン引きするレベルのイカれた存在だ。

 

 もしかしたら坂柳とは気が合うかもしれないな。

 

 まあそれはどうでもいいんだが、本当に意味のない話だな。

 

 こんなものは教育でもなければ試験でも何でもない。

 

 高度育成高等学校という国立高校で行われている、ただの陰湿な虐めだ。

 

 教師がこの状況を止めないなんてことが教育機関で起こっていいはずがないが、ここの教師たちはほとんど使い物にならない。

 

 だからみんな分かるだろ?

 

 こんな奴に生徒会長を任せるのがどんなに危険な事か。

 

 

 

「南雲先輩は本当に馬鹿な男ね」

 

「まあな。こんな事をして自分が周りからどう見られるのか想像がつかないらしい」

 

 

 

 春麗の言う通り南雲はただの馬鹿だな。

 

 オレ達はオレ達の計画を進めるためにコイツを生徒会長の座から引きずり下ろすつもりだが、そのための特別な努力は必要としていない。

 

 南雲の率いる2年生は1枚岩だが、それ以外の学年を支配してるわけじゃない。

 

 今回も3年生を金で買って味方につけただけだ。

 

 だから生徒会長になってやりたい放題のアイツは、勝手に自らの悪評を広めて勝手に自滅してくれる。

 

 そして革新的な生徒会の人事システムを勝手に作って、自分から勝手に舞台を降りてくれる。

 

 オレ達はその自殺行為を少し後押ししてやればいいだけ。

 

 情報収集はあらかた済んだし、この試験を通して南雲の本質を見極めることも出来た。

 

 結局毒なんて流す必要もなさそうだな。

 

 だから今後は生徒会という舞台で踊り狂うマリオネットの鑑賞会でも開くとするか。

 

 見ごたえのあるいい舞台になりそうだから、たくさんの人を特等席に招待しよう。

 

 その前に南雲劇場のパンフレットだけ渡しておくから目を通しておいてくれ。

 

 

 

―南雲劇場・演目“人形糸”―

 

 

 プロデューサーは南雲雅

 

 演出・脚本は南雲雅

 

 舞台監督は南雲雅

 

 音響は堀北学と橘茜

 

 照明は副生徒会長の桐山生叶と朝比奈なずな

 

 舞台を彩る脇役は1年生

 

 もちろん主役は南雲雅

 

 

 さあ、南雲生徒会長による素敵なショーを――

 

 

 

 

 

 どうぞ、お楽しみください。

 

 

 

 

 

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