ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第4話

 

 

 

 

 

 入学から一週間が経過した頃。

 

 オレ達の教室に映る授業風景は、初日のふざけた態度から様変わりしていた。

 

 天井に設置されたカメラにより授業はすべて監視され、その評価次第で自分たちのポイントが危ないと知ったDクラスの生徒は真面目に授業を受けるようになっていたからだ。

 

 それと同時にクラスの女王となった春麗に敬服もしていた。

 

 問題児である須藤すら震え上がらせる存在で、唯我独尊である高円寺すらも認める存在だ。

 

 どうあがいても目立つ。

 

 とうとうアイツが只者じゃないことがクラスにバレてしまったが、それも時間の問題だったのかもしれない。

 

 あの行動力と強気な性格で目立たないのは無理があるしな。

 

 いずれ頭角を現すはずだった女王だが、アイツは女王様気質なだけで偉そうな態度をとることは少ない。

 

 あれ以降クラスに対して何かを言うわけでもなく、本人は粛々と日々の勉学に励んでいる。

 

 みんなこの特殊な学校にもようやく慣れてきた頃合いだ。

 

 授業態度に改善も見られたことだし、余計な言葉はいらないと判断したんだろう。

 

 そして、そんなオレ達は自分たち以外のクラスにも目を向け始めていた。

 

 その後の調査により日々の授業以外にもポイントに影響を与えるイベントがあると分かったからだ。

 

 それは定期試験であったり、体育祭のような行事であったりと様々だが、クラス間で競い合うようなものが多く、情報戦が必要になることも判明した。

 

 だからその情報戦を有利に進めるための準備も必要になった。

 

 端的に言うと情報収集能力に優れた駒の準備だ。

 

 うちのクラスでは櫛田あたりがその能力に優れているが、敵対関係になったクラスから情報を抜き出すのは容易ではないし手間もかかる。

 

 そこでオレ達は協力関係を結べそうな他クラスの生徒を見つけ出し、早々にそれを自分たちの手駒にしようと考えた。

 

 春麗は相変わらずの行動力で早くも候補を見つけ出したらしく、その生徒と今日の放課後に接触するつもりのようだ。

 

 授業が終わるや否や、オレは春麗に引き連れられて以前須藤の騒動があったコンビニを訪れていた。

 

 

 

「しばらくここで待ちましょう」

 

 

 

 目的地に到着すると、店先に備えられたベンチに座り待機するように言われた。

 

 特にやることもないので適当に会話を挟む。

 

 

 

「どうやらお前が潰したゴミ箱は早くも新品に交換されたようだな」

 

「あなたが弁償してくれたんでしょう? それくらい自分で払うのに」

 

「気にするな。お前がいなきゃ来月は地獄を見てたかもしれないんだ。それを考えればこのくらいなんでもない」

 

 

 

 他愛のない会話で時間をつぶしているが、オレは今回の標的が誰なのか知らされていない。

 

 春麗は特に多くを語らず「彼女が来るまでここで待機よ」と言うだけだ。

 

 相手は女子生徒らしいが、オレを連れてわざわざコンビニの外で待ち合わせなんてする必要あるのか?

 

 そんな疑問を抱えながら待つこと数分。

 

 一人の女子生徒がオレ達の前を通過して店内に入っていった。

 

 肩まで伸びた綺麗な紫髪をサイドテールにしている。どこか気怠げな雰囲気を纏った、美人と言っていい容姿の持ち主だ。

 

 

 

「来たわね」

 

 

 

 どうやら今の生徒が標的らしいが、素通りしていったので知り合いというわけでもないようだ。

 

 

 

「じゃあ綾小路君、ここは任せたわよ」

 

 

 

 そしてよく分からない命令が下されてしまった。

 

 オレは一体何を任されたのだろうか……

 

 

 

「万が一、彼女が外へ逃げたらあなたが確保してちょうだい」

 

「すまん。やっぱり説明してくれ」

 

 

 

 訳が分からず説明を求めたが聞く耳は持ってもらえなかった。

 

 さすが女王。強引さのステータスがカンストしている。

 

 アイツは時間が惜しいとばかりに店内に入っていき、例の女子生徒の死角に位置取るように動いていった。

 

 いったい何をするつもりなんだか。

 

 行動力にあふれているのはいいが、面倒なのはごめんだぞ。

 

 まあ標的がこっちに逃げて来なければ問題ないか。

 

 来た時だけ指示通り確保すればいい。

 

 そんなことを考えながら、二人に意識を向けつつ待つこと約10分。

 

 標的はコンビニ内をしばらくウロウロした後、何も買わないまま店を出てしまった。

 

 

 

(……普通に出てきたな)

 

 

 

 この場合はどうするべきなんだろうか。

 

 判断に迷い、同じく普通に出てきた春麗に視線を送る。

 

 すると春麗は首を横に振った。どうやらオレの出番ではないらしい。

 

 だが、自然な風を装いながら標的の後をつけているあたり、これで終わりというわけではなさそうだ。

 

 よく分からないがオレも春麗の背後を追尾しながら様子をうかがう。

 

 そしてしばらく尾行が続いたところで、急に標的が立ち止まった。

 

 どうやら尾行がバレたらしい。というか春麗がわざとバレるように動いたな。

 

 標的の少女がゆっくりと振り返る。その表情には警戒と苛立ちが入り混じっていた。

 

 

 

「……さっきからつけてるみたいだけど、私に何か用?」

 

「そうね。とりあえず見事なお手並みだった……と言っておこうかしら」

 

「何の話?」

 

「カバンのファスナー。入店前と入店後で位置が違ってるわよ」

 

「……別にカバンなんてどこでも開くんだけど」

 

 

 

 そして今の会話で分かった。

 

 なぜ春麗があの女子生徒を狙っていたのか。

 

 アイツはたぶん万引き犯だ。

 

 オレは店の外にいたから犯行の一部始終を見てないが、今の会話的に間違いない。

 

 その証拠に標的の女子生徒はとぼけているようだが、一瞬だけ動揺して言い訳のような返答になってしまっている。

 

 致命的なミスを犯したな。

 

 たとえ核心を突かれようとも、今はとぼけ続けなきゃいけない場面だぞ。

 

 それをこの女王が見逃すはずもない。

 

 あっという間に彼女は追い詰められてしまったようだ。

 

 

 

「あなた常習犯でしょ。動きが素人のそれじゃなかったわ」

 

「もしかして見てたの?」

 

 

 

 さすがに警察を目指している人間なだけあって手慣れている。

 

 オレだったらこんな詰め方をされたら泣くぞ?

 

 盗った品をすぐに差し出して(ひざまづ)くレベルだ。

 

 

 

「ええ。ちなみに私が目撃するのは今日で二度目よ。前回は見逃してあげたけど、いつまでも同じようなことを繰り返すつもりなら警察に突き出すわよ」

 

「・・・」

 

 

 

 春麗はこう言っているが、見逃してあげたなんてのは嘘だな。

 

 お前が犯罪者を見逃すはずない。

 

 コイツなら絶対最初に見つけたときに警察に突き出している。オレには断言できる。

 

 でもそうせずにこんな回りくどいことをするということは、オレ達の駒として利用する気だからだ。

 

 それを証明するように、春麗は相手に有無を言わさずどんどん話を進めていく。

 

 

 

「じゃあ行くわよ。ついてきなさい」

 

「……はぁ」

 

「安心して。警察にはいかないから」

 

「じゃあどこに行くのよ」

 

「それは着いてからのお楽しみね」

 

「意味わかんないだけど……まあ警察じゃないならどこでもいいや」

 

 

 

 悪そうな顔をする春麗に何か嫌なものを察したのか、万引き少女は半ば投げやり気味にそう答えた。

 

 可哀そうな奴だ。

 

 万引き犯とはいえこれには同情する。

 

 また面倒な奴に目をつけられたなと同情しながら、オレと万引き少女は春麗についていくのだった。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 そうしてオレ達が連れてこられたのは学生寮のとある一室。

 

 というかオレの部屋だ。

 

 そこでオレは春麗に文句を垂れていた。

 

 万引き少女を連行してただけなのにどうしてこうなったと。

 

 

 

「おかしい。オレはお前に部屋番号なんて教えてないはずだぞ」

 

「何言ってるの? そんなのあなたをつけてればすぐに分かることでしょう?」

 

 

 

 いや、それもおかしいだろ。

 

 どんな言い分なんだ。

 

 そんな当たり前のように人のプライベートを侵すなよ。

 

 ナチュラルに人を尾行するのはやめてくれ。

 

 お前が凄いのは分かっているから普通に接して欲しいんだが。

 

 やっぱりオレは友達として見られてないらしいな。

 

 悲しい……

 

 

 

「まあ細かいことは気にしないの。それとも私の部屋が良かった?」

 

「……いや、ここでいい」

 

 

 

 しかも、その言い方はずるい。

 

 そんな言い方されたらオレが拒否出来ないことをコイツは理解している。

 

 本当にいやらしい奴だ。

 

 まあとはいえ仕方ない。外は目立つしな。

 

 それにあんまりうだうだ言っていると春麗の機嫌を損ねかねないか……ここは諦めて大人しくしてよう。

 

 そう切り替えて、オレは連れてきた万引き少女に向き直った。

 

 彼女はオレのベッドに居心地悪そうに座っている。警戒心を隠そうともしない視線が、オレと春麗を交互に見つめていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「神室さんだったわね。あなたは何でこんなところに連れてこられたのか分かる?」

 

 

 

 そうして向き合った万引き少女の名前は神室真澄。

 

 春麗がかねてから狙っていた1年Aクラスの生徒だ。

 

 一回目の万引きを見逃して泳がせていたのは、コイツの所属を確認して利用できるなら利用しようと考えていたかららしい。

 

 なんでもAクラスに配置されるような才能を犯罪者にして腐らせてしまうのはもったいないんだと。

 

 入学時にはA~Dクラスのアルファベット順に優秀な生徒が配置されるらしいから、一番優秀なはずのAクラスから手駒を入手できれば確かに儲けものではある。

 

 いずれにしろ春麗は目の前のコイツを生かすつもりらしい。

 

 

 

「知るわけないでしょ。要件があるならさっさと言えば?」

 

「じゃあ単刀直入に言うわね。もう万引きは禁止よ。次はないわ」

 

「……はぁ……やっぱりそうなるわよね」

 

 

 

 春麗の言い分に神室は深いため息をついていたが、オレにはその態度が少し疑問に映った。

 

 今のところ一年生はクラス問わずポイントが潤沢にあるはずなのに、コイツは最低でも2回の万引きを行っている。

 

 そしてもう出来ないと分かるとこの態度だ。

 

 よっぽどでかい買い物でもしてポイントがなくなったのか? とでも思ったがどうやらそうでもないらしい。

 

 

 

「そんなにポイントに困っているの?」

 

「別にそういうわけじゃない。ただちょっと刺激が欲しかっただけ」

 

 

 

 春麗の問いにコイツは自分の欲求を満たすためにやっていただけだと答えた。

 

 この学校は退屈だと。もっと言えば自分がいるAクラスは真面目な奴らばかりで息が詰まりそうだと。

 

 話を聞く限りではこの学校の仕組みについて気づいている様子もない。

 

 つまりAクラスの生徒は真面目な生徒が多く、その真面目な生徒たちがただ真面目に授業を受けているだけらしい。

 

 それは確かにつまらなそうだな。

 

 だがそれで万引きに走るか? とも思ったが、春麗によると決してそういう事例は珍しいわけではないとの事だ。

 

 優等生が優等生として振舞おうとすればするほど自分を苦しめて非行に走る。

 

 神室がそういう人間だとは思わなかったが、逆にオレ達にとってこれは好都合だとも思った。

 

 ちょうどいい刺激を与えてやればコイツは飼いならせる。

 

 それくらいの事はオレ達にとっては朝飯前だ。

 

 もっと言えばこれから訪れるであろうクラス間による争いにおいて、唯一無二の役割を与えることも可能だ。

 

 これは想像以上にいい拾い物をしたな。

 

 春麗もそう感じたのか、見るからにテンションが下がりきっている神室に本題を切り出した。

 

 

 

「もう万引きはさせない。でも我慢してDクラスに協力すれば、もっと面白い体験ができるわよ?」

 

「は? なにそれ?」

 

 

 

 神室の眉がピクリと動いた。

 

 退屈そうだった瞳に、わずかだが光が宿る。

 

 春麗はそれを見逃さなかった。

 

 とびきり悪い笑顔を浮かべながら、畳みかけるように言葉を紡ぐ。

 

 

 

「例えば、真面目なAクラスの生徒に嫌がらせしたりだとか」

 

「誰かに嘘を垂れ流して混乱させたりだとか」

 

「あとは情報を()()スパイなんてのも面白そうかもね」

 

「・・・」

 

 

 

 それを聞いた神室は黙っていたが、確実に心が揺れているのが分かった。

 

 春麗の提案は確かに刺激的だ。

 

 真面目なAクラスで息苦しさを感じているコイツにとって、クラスを裏切る背徳感は何物にも代えがたいスリルになるだろう。

 

 そしてそれは同時に、オレ達Dクラスにとって大きなアドバンテージとなる。

 

 Aクラスの内部情報を得られれば、今後の試験や行事で圧倒的に有利に立ち回れる。

 

 春麗はそこまで計算して神室を狙っていたのか。

 

 本当に恐ろしい女だ。

 

 だが、オレにとっては心強い。春麗と敵対するなんてごめんだからな。

 

 神室の表情が徐々に変わっていくのが分かった。

 

 最初の投げやりな態度から、少しずつ興味を示し始めている。

 

 唇の端がわずかに上がり、瞳には危険な輝きが宿っていた。

 

 

 

「……悪くないかもね」

 

 

 

 神室がぽつりと呟いた。

 

 その声には、さっきまでの気怠さは微塵もない。

 

 

 

「じゃあ決まりね。これからよろしく、神室さん」

 

「……はいはい。せいぜい利用させてもらうわ」

 

「お互い様よ」

 

 

 

 春麗が差し出した手を、神室は一瞬躊躇してから握り返した。

 

 こうして、Dクラスに新たな駒が加わった。

 

 Aクラスに潜むスパイ――神室真澄。

 

 オレは静かにこの交渉の結末を見届けながら、春麗の手腕に改めて感嘆していた。

 

 犯罪者を捕まえるのではなく、手駒として取り込む。

 

 警察を目指す人間がやることとは思えないが、それがこの女王のやり方なのだろう。

 

 目的のためなら手段を選ばない。

 

 その姿勢は、どこかオレに似ている気がした。

 

 これから始まるクラス間の戦い。

 

 オレ達Dクラスは、着実にその準備を進めている。

 

 そしてその中心にいるのは、紛れもなくこの女王――春麗だ。

 

 オレはただその隣で、この刺激的な高校生活を楽しむことにしよう。

 

 退屈とは無縁の日々が、これからも続いていくのだから。

 

 

 

 

 

 

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