ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第41話

 

 

 

 

 

「へえ、今年の学年末特別試験は選抜種目試験か。最終決戦の舞台としちゃ悪くないな」

 

 

 

 生徒会室で試験要項を読み上げた俺は口元に傲然な笑みを浮かべていた。

 

 3年生が卒業を間近に控えた3学期の最終特別試験。

 

 その試験の内容が一般生徒より先んじて生徒会に伝えられ、その確認をちょうど今終えたところだ。

 

 試験の名前は選抜種目試験。

 

 ルールは至ってシンプル。

 

 

 

 ①対決クラスを()()()の中から選ぶ

 

 ②対決クラスがお互いに10種目(本命5種目・ブラフ5種目)を選んで公開する

 

 ③10種目は参加者が被ってはいけない、また引き分けになる種目は禁止

 

 ④対決クラスの本命5種目×2の中から7種目がランダムで選ばれ、それぞれの種目で勝敗を競う

 

 ⑤各種目の参加者はクラスで選ばれた司令塔が状況に合わせて選出。競技ごとに司令塔は介入する権利を持つ

 

 ⑥7種目競った末に勝ち越したクラスは100cp増。負け越したクラスの司令塔は退学

 

 ⑦各種目の勝敗毎に敗北クラスから勝利クラスに30cpが移動する

 

 

  

 とまあこんな感じだ。

 

 これは生徒会長である俺にとって願ってもない機会だった。

 

 なぜなら生徒会には試験のルールを根底から覆さない限り、一部変更または追加・削除できる権限が与えられてるからな。

 

 だから俺はその権限をおおいに有効活用して、堀北先輩との最終決戦に相応しい内容に作り替えた。

 

 

 

 ①対決クラスを同学年ではなく全学年の中から選ぶ

 

 ⑥7種目競った末に勝ち越したクラスは100cp増。負け越しクラスの司令塔は退学

 

 

 

 

 まずは堀北先輩と直接対決できるように対決クラスを全学年から選べるように変更し、司令塔の退学処分を取り消した。

 

 退学処分を取り消したのは先輩との勝負を楽しむためだ。

 

 2年Aクラスはもちろん俺が司令塔を務めるし、3年Aクラスは堀北先輩が務めることも想像に難くない。

 

 あの人はいつも周りを背負って試験に挑むからな。

 

 だが今回に限っては退学なんて余計なプレッシャーはお互いにとって邪魔にしかならない。

 

 どうせこの後に予定されてるサプライズ試験で退学者は必ず出てしまう。

 

 本当に余計な事をしてくれるな。

 

 退学者をどんどん出すのは構わねえが、試験としては三流もいいとこだ。

 

 さすがの俺もそんなつまらない試験はごめんだが、月城理事長代理の指示なら従うしかない。

 

 まあ、今はそんな事より堀北先輩との勝負を楽しむのが先決だな。

 

 

 

「堀北先輩……アンタと完全な白黒をつけられる、最後のチャンスが来たようッスね」

 

 

 

 2年Aクラスの司令塔として俺は確実に勝つ。

 

 堀北学という男は常に正々堂々とした正攻法の戦い方しか選ばないから対策も簡単だ。

 

 奇策や卑劣な手を使わず、正面からぶつかってくるだけだからな。

 

 その戦い方を熟知しているからこそ、俺はアンタに勝負を挑んで完璧な勝利で1年を締めくくるとしよう。

 

 

 

「卒業までに必ずアンタをBクラスへ引きずり下ろす。そして、俺の完全勝利で生徒会長の座を引き継いだことを証明してやる」

 

 

 

 俺の瞳には、かつての絶対的生徒会長であった堀北学への屈折した尊敬と、それ以上の挑戦心が宿っている。

 

 勝利への確信は揺るがない。

 

 俺が負ける未来なんて想像がつかないからな。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 試験当日。

 

 場所は特別棟の多目的室。

 

 ここは各クラスの司令塔が集まる部屋で、俺と堀北先輩以外にも坂柳、一之瀬、龍園の姿があった。

 

 だが1年の注目株でもある春麗の姿はないな。

 

 代わりにいるのは……確か櫛田桔梗だったか。

 

 よく知らない生徒だが、ここに出張ってくるってことはそれなりの実力者なんだろ。

 

 当然コイツらはクラスの頭脳的な存在でもある。

 

 学校の精鋭が集う空間で交差する視線、巧妙な駆け引き、高い緊張感の中でその場は静寂に包まれていた。

 

 俺と堀北先輩は向かい合って握手を交わす。

 

 

 

「今日は正々堂々と戦ってくれるんだな?」

 

「もちろんスよ。さすがに混合合宿みたいなことはしないから安心してください」

 

「そうか。ではよろしく頼む」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

 いつも通りの先輩だな。

 

 慎重だが視線は鋭く、実力も学園ナンバーワン。

 

 そんな先輩とサシでやりあえるなんて最高だ。

 

 待ちわびた瞬間を前にしてテンションが上がるが、これからすぐに試験が始まる。

 

 まずはモニターをチェックしなきゃいけない。

 

 

 

「第1種目、バスケットボール! 選手入場!」

 

 

 

 そんな中で早速試験が始まった。

 

 競技はランダムに選ばれるが、運のいいことに第1種目は俺たちが用意した運動種目らしい。

 

 さっそくメンバーを選んで指示を出していく。

 

 モニターに映るのは体育館と第一種目に参加する生徒達。

 

 開始の合図とともに俺は隣に座っている堀北先輩の表情を一瞥した。

 

 こちらの得意種目が選ばれたが、動揺は見られないな。

 

 まあ当たり前か。

 

 毎度お馴染みの冷静沈着な、鉄壁の表情。

 

 本当に変わらない人だ。でもその仏頂面ももうすぐ見納めになるかと思うとちょっと寂しいっスね。

 

 相変わらず俺の余裕は変わらない。

 

 しょうもない感傷に浸りながらも、俺はクラスの司令塔として堀北先輩の動きを予測し、完璧な指示を出す。

 

 いつもと変わらない戦略。

 

 それでも戦う相手が堀北先輩であればなんら問題ないだろ。

 

 先輩を内心で嘲笑いながら、クラスメイトの戦いを優雅に眺める。

 

 すべてを俯瞰しながらこの場を支配してる感覚がたまらなく気持ちいい。

 

 これだから特別試験はやめられねえ。

 

 だが試合開始から十数分後、俺の脳裏に警鐘が鳴り響いた。

 

 なんだこの違和感は。

 

 戦い方がいつもとまるで違う。

 

 この日の堀北先輩率いる3年Aクラスの戦い方は、俺の予測を遥かに超える奇抜な作戦ばかりだった。

 

 エースをわざとベンチに置き、素人を投入して相手を攪乱する。

 

 ディフェンスを放棄し、全員でひたすらスリーポイントを狙う。

 

 バスケットボールのセオリーを無視した、型破りな戦術。

 

 

 

「どうしたんスか先輩。らしくない戦い方ッスね」

 

 

 

 隣にいる先輩に問いかけるが、無視されて表情からは何も読み取れない。

 

 心理戦に乗るつもりはないらしい。

 

 それはいつもの事なんだが妙だな。

 

 ……もしかしてこの土壇場で自分の矜持を捨てたのか?

 

 分からないが、とにかく戦い方がいつもと違うのは明白だ。

 

 まさか先輩に翻弄される日が来るとは思ってなかったな。

 

 結果、第1戦は2年Aクラスの完勝とはいかず、辛勝で終わってしまった。

 

 まあ勝てれば問題ねえ。

 

 とりあえず様子見だな。

 

 俺は特に気にする事もなくモニターに視線を戻す。

 

 

 

「第2種目、ドッジボール! 選手入場!」

 

 

 

 次も運動系種目か。

 

 これはうちじゃなくて3年Aクラスが用意した種目だ。

 

 だが基本的に身体能力はうちのクラスの方が高いから、立て続けに来たのはラッキーだな。

 

 運まで俺たちに味方したら堀北先輩に勝ち目なんかない。

 

 アンタはつくづく不憫な人だ。

 

 そんな風に先輩を嘲笑っていたが、モニター越しに映る3年Aクラスの陣形を見て俺は目を疑った。

 

 通常、ドッジボールは外野との連携を重視し、内野は円陣を組むのが基本。

 

 だがやつらは一列に並び、まるで壁のような陣を敷いた。

 

 

 

「また奇策っスか? まともにやっても俺に勝てないからってヤケになりすぎッスよ、先輩」 

 

 

 

 あまりにおそまつな戦い方に思わず煽ってしまったが、それでも隣の先輩は答えてくれない。

 

 つまんねえな。

 

 せっかくの舞台なんだからもっと相手してくれよ。

 

 と思うも、無情にも試合開始のホイッスルが鳴り響いてしまう。

 

 見るまでもないだろうが、いちおうモニターに視線を戻す。

 

 3年Aクラスのオフェンスは、投球の速度よりもタイミングに特化していた。

 

 1人が仕掛けるふりをして視線を誘導し、外野にパスをして死角から避けにくい超低空の速球を放つ。

 

 さらにディフェンス時に捕球した生徒は即座に投げるのではなく、あえて数秒間、相手の動揺を誘うようにボールを保持する。

 

 かと思ったら速攻を仕掛ける時もある。

 

 その不規則な動きは俺たちのリズムを徹底的に破壊しにかかった。

 

 2年Aクラスの生徒たちは、予測不能な動きと連動した外野からの奇襲に次々と仕留められていく。

 

 堀北先輩が授けたのは身体能力ではなく心理的盲点を突く戦術。

 

 統率された無機質な動きに、俺のクラスメイトたちは狩られる獲物のような恐怖を抱き始めていた。

 

 おかげで結果は惨敗だ。

 

 これで1勝1敗になってしまったが、まあいい。

 

 たまたま奇策が上手くいっただけだろうからな。

 

 

 

「第3種目、チェス!」

 

 

 

 次は頭脳戦か。

 

 これも相手が用意した種目だが問題ない。 

 

 チェスみたいな戦略ゲームにおいて、堀北先輩はセオリーの権化だ。

 

 俺は先輩が選ぶであろうスタンダードなオープニングを何百パターンもシュミレートしてきた。

 

 だからこれも楽勝だと思っていたが、モニターに映し出された初手を見て、俺の指先が震えた。

 

 

 

「……クイーンズ・ギャンビット、じゃない?」

 

 

 

 クイーンズ・ギャンビットとはチェスのオープニング戦法の一つで、クイーンの前のポーンを初手で動かすことで、チェス最強の駒であるクイーンの可動域を広げて盤上中央を有利な配置に展開していくことを目的とした戦法だ。

 

 現代チェスのオープニング戦法では主流ともいえる。

 

 だが先輩はあえてそれを外し、極めて攻撃的かつ現代チェスでは悪手に近いとされる古風な奇襲戦法を選択した。

 

論理的思考の塊であるはずの男が、盤上で狂気を演じている。

 

 

 

「そんなリスキーな手を使って、いったい何を考えてんだか……」

 

 

 

 しかも俺の動揺を嘲笑うかのように、3年Aクラスの指し手は速い。

 

 通常なら迷うはずの難局でも、相手は迷いなく駒を勧める。

 

 まるで俺がどう動くか、その先の絶望までが既に書き込まれた譜面をなぞっているかのように。

 

 俺が守りを固めれば、自らのクイーンを囮にするという暴挙に出る始末だ。

 

 

 

「チェックメイトだな」

 

 

 

 モニターの中の生徒が静かに告げた瞬間、俺の脳内にある計算式はすべて白紙に戻された。

 

 正攻法を熟知しているからこそ、その裏をかく狡猾な一手に俺の思考は乱されていく。

 

 この時点で1勝2敗。

 

 あっという間に逆転されたが、まだあと4戦あるから気持ちを切り替えなきゃな。

 

 もう余裕をこいてる場合じゃねえ。

 

 ここからは真面目にやるとするか。

 

 

 

「第4種目、囲碁!」

 

「第5種目、格闘ゲーム!」

 

 

 

 だがどの種目でも3年Aクラスは堀北学のイメージとはかけ離れた予測不可能な奇策を実行し、俺はそれに翻弄されてしまった。

 

 囲碁もチェスと同様の展開に対処しきれず敗北。

 

 格闘ゲームに出てきた謎のチャイナ娘によるハメ技で完封され、挙句の果てに大はしゃぎしながら勝利ポーズを取るチャイナ娘に煽られる始末。

 

 「アッハハハハハ、ヤッタァ!」とか言いながらピースサインするキャラの笑顔が妙にムカツク。

 

 なんなんだコイツは、春麗にそっくりじゃねえか……

 

 おかげで最悪な気分と共に、試験も1勝4敗という屈辱的な状況に追い込まれた。

 

 まさかの負け越しだ。

 

 意味が分からねえ。

 

 いったい先輩に何が起こってんだよ。

 

 こんな状態でも鉄仮面だから何を考えてるのかまるで分からないしな。

 

 どっちにしろ俺たちの勝利はなくなったが、このまま負け続けるわけにはいかねえ。

 

 せめて残りの2戦は全勝しないとまずい。

 

 堀北先輩に対する執着心は、やがて俺の冷静さを奪う焦りの炎に変わっていく。

 

 落ち着け、俺の読みが外れただけだ。次は必ず勝つ。

 

 だが、その後も俺が挽回するチャンスは訪れなかった。

 

 残りの2戦はうちのクラスが用意した種目だったにも関わらずだ。

 

 奇策の連続、正攻法を熟知した俺の分析を無効化する常識外れの戦術。

 

 結果は1勝6敗で俺が率いる2年Aクラスの惨敗。

 

 俺は最終種目終了の合図を聞きながら膝をついていた。

 

 堀北学に勝つというただ一つの目標を、まさか最後の機会で潰してしまうなんて夢にも思っていなかったからだ。

 

 

 

「ちょっと先輩! いつものアンタはどこに行ったんスか! こんな奇策ばっかり使って卑怯じゃないスか!」

 

「卑怯だと? 別に不正はしていない。俺もお前の戦い方を参考にさせてもらっただけだ」

 

 

 

 いや、あり得ないだろ。

 

 この人は自分の力だけで生徒会長にまで成りあがった天才だ。

 

 そんな先輩が俺の真似をするだと?

 

 今まで相手にすらしてくれなかったのにか?

 

 それだけは絶対にあり得ない。

 

 もしその程度の人間だったら俺はこの人を尊敬してねえ。

 

 

 

「見損ないましたよ、先輩」

 

「そうか。それは残念だな」

 

 

 

 だが結果はこの通りだ。

 

 俺の目の前には、俺の尊敬した先輩なんてどこにもいなかった。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 翌日、俺は生徒会室で敗因を徹底的に分析していた。

 

 相手の戦い方がどうであれ、このまま終わるわけにもいかない。

 

 俺には2年を引っ張るリーダーとして、それから生徒会長としてのメンツがあるからな。

 

 自分が変更したルールのお陰で退学なんて不名誉な処分を受けることはなかったが、今回の負けを挽回する必要はある。

 

 そんな珍しく真面目に働いてる状況の中で、生徒会室に意外な人物が訪れた。

 

 1年Aクラスの司令塔、坂柳有栖だ。

 

 コイツは最近生徒会に入れてやったが、今日は何の業務もないはず。

 

 だが坂柳はいつも通りの嘲るような微笑みを浮かべて俺の前に立っている。

 

 杖を突く音が、静かな生徒会室に響いた。

 

 

 

「お疲れ様でした、南雲会長。今日は生徒会のメンバーとしてあなたの完璧な敗北をお祝しに参りました」

 

「は? お前ふざけてんのか?」

 

 

 

 なんだコイツは。

 

 顔を合わせるなり早速煽ってきた坂柳に対して、もちろん俺は苛立ちを露わにした。

 

 今はお前に構ってる暇なんてねえんだよ。

 

 用がないならとっとと消えろ。

 

 

 

「別にふざけてなんかいませんよ。ちゃんと先輩に話があって来ましたからね」

 

「じゃあさっさと済ませてくれ。今は割と忙しいんでな」

 

「分かりました。では早速本題に入りますね。昨日の堀北先輩の戦い方はどこか妙ではありませんでしたか?」

 

 

 

 そんなクソ生意気な後輩の口から発せられた言葉は意外なものだった。

 

 俺に対する皮肉でもなく、ただの素朴な質問。

 

 だがそれはおかしい。

 

 

 

「なんでお前が俺たちの戦いの内容を知ってる? 昨日はお前も司令塔としてクラスの指揮にあたってたはずだろ」

 

「知っているというよりは、実行者とでも申しましょうか。今回の選抜種目試験、3年Aクラスの表向きの司令塔は堀北学先輩でしたが、全種目の指示を出したのはこの私です」

 

 

 

 俺の目が大きく見開かれる。

 

 確かに昨日の戦い方は完全にいつもの堀北先輩のものではなかった。

 

 どちらかというと俺や坂柳がとりそうな戦い方ではあったが……そんな事は出来るはずがない。

 

 さっきも言ったがコイツも1年Aクラスの司令塔としてクラスの指揮を執っていたはずだ。

 

 これは得意のハッタリか?

 

 いや、でもハッタリをかます理由も分からねえ。

 

 坂柳の真意を探るために思考を加速させた。

 

 そんな俺の頭の中を全て理解しているかのように、目の前のコイツは楽しそうに笑っている。

 

 

 

「ふふふ、そう難しく考えることはありませんよ。堀北先輩に協力してもらって3年Aクラスの画面が共有されるモニターをもう一つ手配してもらいました。私はそれを使って自分のクラスと3年Aクラスの両方の指揮を執っていただけです」

 

「馬鹿な……」

 

「堀北先輩はあなたもご存じの通り正攻法を好む武人のようなお方です。ですがこの試験は『対戦相手は全学年から自由に選択できる』つまり協力関係の構築も自由。あなたはご自身で変更したルールに見事に翻弄されてしまいましたね」

 

 

 

 俺の驚きをよそに、坂柳は静かに続けた。

 

 

 

「あなたは堀北先輩の正攻法を熟知していた。ですが私の策略家としての思考はあなたのデータベースにはありません。普段の堀北先輩とは違う奇をてらった戦い方に南雲会長は対応できなかった、という単純な構図です。ご理解いただけましたか?」

 

「あんまり俺を舐めるなよクソガキ。言いたいことは分った。俺はお前らにまんまと嵌められてたわけだ」

 

「ええ、その通りです。さすがは生徒会長様ですね」

 

 

 

 それを聞いた俺は拳を握りしめ、震えた。

 

 敗北の屈辱が、全身を駆け巡る。

 

 俺は堀北先輩に負けたわけじゃない。

 

 2年目のフィナーレとして楽しみにしていた戦いで、こんなクソガキの掌の上で踊らされていたわけだ。

 

 

 

「はっ……はははははっ、はは……おいおい、随分と舐めた真似をしてくれたな坂柳」

 

「なにを仰っているのですか? これは生徒の実力を測るための試験なのです。そしてその試験のルールを自分が負けるように勝手に作り替えたのはあなたではありませんか」

 

「それがどうした。お前が俺と堀北先輩の邪魔をしたことに変わりはないだろ」

 

「ふふふ、そうですね。ですが逆にそれがどうかしましたか?」

 

「なんだと?」

 

「勝負は勝負。たとえ私が裏で糸を引いていようとも、あなたは堀北先輩に無様に負けました」

 

「黙れよ。俺は堀北先輩に負けたわけじゃない。卑怯な手を使ったお前たちに負けたんだ」

 

 

 

 そうだ。

 

 俺はお前たちに嵌められただけ。

 

 だからこんな負けは認めない。

 

 

 

「ええ、その通りです。ですがこの敗北は……あなたの生徒会長としての求心力に、静かに響くことになるでしょう」

 

 

 

 それでも坂柳は優雅な所作で語り続けている。

 

 

 

「そうかもな。だが覚えておけよ坂柳。この借りは必ず返してやる」

 

「ええ、楽しみにお待ちしております」

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 とんだ邪魔が入って俺の楽しみは潰されてしまったが、それと同時に坂柳の言葉は恐ろしいほどに現実となった。

 

 生徒会長として常に完全勝利を掲げてきた俺の堀北先輩への挑戦は、屈辱的な惨敗という形で終わったからだ。

 

 それから校内での俺を見る目つきが変わった。

 

 

 

「まさか南雲会長が堀北先輩に負けるとは思ってなかったよね。これって初めての事じゃない?」

 

「そうだな。それどころか結構酷い負け方をしたって聞いたぞ。裏で1年の坂柳が動いてたらしいが……南雲会長はそれに気づけなかったらしい」

 

「なるほどね。上手く嵌められたってわけだ。可哀そうだけどいつも会長がやってることでもあるから同情しづらいよね」

 

「まあな。でもこんな話聞かれたらまずいからほどほどにしとけよ」

 

 

 

 絶対的な実力とカリスマ性で生徒会を掌握していた俺は、わずか一度の敗北でその求心力を徐々に失っていく。

 

 廊下を歩けば、生徒たちの視線が刺さるように感じる。

 

 ネットの校内掲示板にもいろいろ書かれたが、生徒会長の権力を利用して目立つようなものは全部消してやった。

 

 選抜種目試験に関する話題も口にしないように2年にかん口令も敷いたが、1年と3年をコントロールすることは難しい。

 

 信頼は砂のように手からこぼれ落ち、俺の周囲には目に見えない距離感が生まれていく。

 

 俺は生徒会室の窓から、遠くの景色を眺めていた。

 

 春の陽光が校庭を照らしているが、俺の心は晴れない。

 

 たった一度の敗北で、この程度の求心力だったってわけか……いや、違うな。俺は堀北学という壁を越えようとして、その影に潜む見えない策略に絡めとられた。

 

 絶対的自信に満ちていた俺の瞳に、初めて焦燥と疑念の影が宿る。

 

 

 

「堀北先輩に坂柳、まさかあの人が1年と手を組むとはな……少し考えが甘かったか」

 

 

 

 俺の中で堀北先輩に並ぶもう一人の天才の顔が、静かに浮かび上がっていた。

 

 ……やってくれたな坂柳。

 

 お前はこの手で必ず退学させてやる。

 

 

 

 

 




???「ふふ……ふふふふふ」

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