ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第8話

 

 

 

 

 

 6月1日。

 

 中間テストはなんとか退学者を出さず乗り切ることに成功した。

 

 一番の懸念材料だった須藤も、対策により下げられた赤点ラインをギリギリ通過。アイツ自身の努力とクラスの団結が実を結び、ひと時の平穏が訪れた状態で迎えたこの日。予期せぬトラブルが発生した。

 

 本来なら月初めに必ず支給されているはずのポイントだったが、オレ達の学生端末であるスマホには一向に反映される様子がない。

 

 それはクラスどころか学年全体に及んでいるようで、オレ達は状況が理解できないまま朝のホームルームを迎えていた。

 

 通学前に上級生に聞いてみても何もわからなかったが、どうやら一年のCクラス(旧Bクラス)とDクラス(旧Cクラス)の間で傷害事件が発生してしまったらしい。

 

 茶柱によるとその処理にごたついてポイントの支給が遅れているんだとか。

 

 もちろん傷害事件にオレ達クラス茶柱は関係ない。

 

 Cクラスは一之瀬帆波というアイドルみたいな女子生徒がまとめるクラスで、Dクラスはこの前助けた伊吹澪のいるクラス。その二クラスの間で発生した事件らしいが、事件をめぐる証言に関してどちらの主張も食い違ってることから真相がつかめていないようだ。

 

 そのため各種処理が遅れて今に至っている。近いうちに生徒会がCクラスとDクラスを集めて審議が開かれるそうだ。

 

 

 

「もし事件に関して何か知っているものがいれば私に報告するように。ではホームルームは以上だ」

 

 

 

 茶柱にそう促されてホームルームは終了となった。

 

 だが不思議な話だ。予期せぬトラブルが発生したのは別にいいとして、なんで警察に任せないんだろうな。傷害事件なんて内々で処理するべき問題じゃないはずだ。しかも裁くのは生徒会というのがもっと理解できない。

 

 こんなのが外部にバレたら学校が裁かれるレベルだと思うんだけどな。

 

 それにオレ達は伊吹の事件についてもコレと言って何も聞かされていない。あれも恐らく傷害事件で、オレ達はその第一発見者だったのにも関わらず。

 

 何なんだろうなこの学校は。流石に常識的な対応だとは考えづらいが……

 

 ちなみにだが、伊吹はあれからすぐに回復したらしい。今は普通に学校に通っている。顔の痣も消えていたから、アイツについては一安心だ。

 

 たまたま廊下ですれ違ったときにお礼を言われた。オレの顔を覚えていたらしいが、あの状況については言えないの一点張り。何か言いたそうにもしていたが、面倒臭そうな雰囲気だったので深入りするのはやめた。

 

 念のため春麗に報告はしておいたけどな。

 

 オレや神室ほどじゃないが、アイツもかなり口下手で不器用らしい。

 

 

 

「あんた達には世話になったから……その……あの……なんかあったら言って!」

 

 

 

 そう言って走り去っていった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ……やっぱりコミュ力って大事なんだな。

 

 オレも人のことは言えないが。

 

 

 

「ねぇ春麗さん、良ければ手伝って貰えないかな?」

 

 

 

 ホームルームが終わると櫛田から春麗に声がかけられていた。

 

 あんな事があったにも関わらず、未だに上目遣いで愛想を振りまいてる櫛田。春麗に愛想を振りまいても意味はないのに、人目に付く場所では表の顔を捨てられないようだ。

 

 交友関係が広い櫛田はCクラスの友人から今回の件をあらかじめ聞かされていて、その流れで捜査を手伝うことになったらしい。

 

 

 

「駄目……かな?」

 

「別に全然構わないわよ。何をすればいいの?」

 

「とりあえず帆波ちゃんに会ってもらいたいんだ。彼女は今回の事件を解決するために動ける人を探してるから、春麗さんなら適任なんじゃないかと思ったんだよね!」

 

 

 

 ハッキリ言って茶番だな。春麗と櫛田がそれっぽい会話をしてるだけの安っぽい演技にしか見えない。

 

 裏の顔を知っているオレからすれば、2人の白々しいやり取りは見ていて滑稽ですらある。だが周囲のクラスメイトは何も気づいていない様子で、むしろ微笑ましそうに見守っている。

 

 いずれにしろ櫛田のCクラスの友人は一之瀬帆波で、どうやらそいつと会うことになったようだ。当然オレも春麗から声をかけられて同行するはめになった。

 

 オレはまるで金魚の糞だな……本当に必要か?

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 

 オレと春麗と櫛田の3人は一之瀬と待ち合わせをしていた。場所はケヤキモールの個室カフェ。個室カフェなんて初めて来たが、かなりお洒落な店だ。

 

 木目調の内装に間接照明、ふかふかのソファ席。壁には観葉植物が飾られていて、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

 ……凄いな。オレのお気に入りリストに追加しよう。

 

 

 

「すっごく助かるよ!! よろしくね春麗ちゃん!」

 

「ええ。こちらこそよろしくね一之瀬さん。神崎君もよろしく」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 個室に入ると一之瀬帆波と神崎隆二がオレ達をすでに待っていた。

 

 この2人がCクラスのまとめ役で、今回の傷害事件の真相解明に動いているらしい。2人の事はオレ達も知っていたが、もちろん会うのは初めてだ。だから軽く自己紹介も済ませた。

 

 一之瀬帆波。桃色のロングヘアに、眩いばかりの笑顔が印象的な少女だ。その笑顔は櫛田のそれとは違い、作り物ではない本物の輝きを放っている。

 

 神崎隆二。黒髪のミディアムヘアで、真面目そうな青年。鋭い目つきだが、その奥には誠実さが見える。

 

 

 

「神崎君は私の優秀なサポート役なんだ!」

 

「俺なりに力になっているだけだ、大したことはできてない」

 

「ううん、そんなことない。神崎君がいてくれて私は凄く助かってるよ」

 

 

 

 会うのは初めてだが、良いコンビだ。一之瀬は太陽のように眩しい存在でカリスマ性があり、神崎は冷静沈着で優秀な参謀に見えた。

 

 挨拶と自己紹介を済ませて、春麗が早速本題に移ろうとする。

 

 

 

「櫛田さんにだいたいの内容は聞いてるけど、あなた達から詳しく教えてもらえる?」

 

「うん、わかったよ。内容はね――」

 

 

 

 一之瀬が語った内容はこうだった。

 

 まず、現場は放課後の特別棟校舎の踊り場。付近に監視カメラはない。

 

 そこでCクラスの柴田という生徒1人がDクラスの3人の生徒――石崎・小宮・近藤に取り囲まれて詰め寄られた。

 

 その場では双方による口論が行われたが、傷害事件に至るような動きはなかったという。

 

 だが何故か翌日には、Dクラスの3人のうちの1人である石崎が怪我を負っていた。

 

 怪我を負った石崎は、踊り場で柴田に暴行されたと主張し学校側に被害を訴えた。

 

 その訴えを学校側は正式に受理し、これから真相を解明するための審議が生徒会主導によって行われる。

 

 以上が一之瀬の説明だった。

 

 

 

「柴田君は暴力なんて振るう人間じゃない! 絶対にこれはDクラスの罠なんだよ!」

 

「おい、落ち着け一之瀬。今は感情的になるような場面じゃない」

 

「あっ、ごめん……みんなもごめんね?」

 

 

 

 一之瀬は少し感情的になっているようで、そこに柴田という生徒への信頼もうかがえた。特に嘘をついているような様子もない。

 

 実は今回の事件に至るまでにも何度か似たようなことがあり、そのたびに一之瀬はDクラスとは関わらないようクラスメイトに注意喚起していたようだ。Dクラスからの嫌がらせも挑発される程度のものだったから今までは大事に発展しなかった。

 

 しかし今回はそうはならなかったと。

 

 この話を聞いたオレは素直にこう思った。やっぱりDクラスの連中は信用できないな。

 

 一之瀬の話が本当なら、Dクラスは最初から柴田を罠にはめるつもりだったということになる。3人がかりで1人を取り囲んで口論を仕掛け、翌日になって逆に被害者面をする。しかも怪我を負ったのは石崎だけで、柴田には傷一つないという。

 

 普通に考えればおかしいだろう。本当に柴田が暴行したなら、3対1の状況で石崎だけが一方的にやられるなんてあり得ない。

 

 伊吹の一件もそうだった。アイツは簡単に口を割らないが、誰かから暴行を受けたのは明白で、オレ達の予想ではほとんど答えが出ている。

 

 つまりDクラスの内部でも暴力が横行しているということだ。そんな連中が被害者ぶって学校に訴え出ているだけだろう。

 

 ……馬鹿馬鹿しいな。

 

 春麗も同様の事を感じたようで、一之瀬たちにDクラスの過去の行動パターンについて質問している。

 

 その様子を見る限り、今回だけが特別じゃない。計画的に、執拗に、Cクラスを追い詰めようとしている。

 

 恐らくDクラスのリーダーからの指示だろう。伊吹をボコボコにしたのもそいつだろうな。

 

 自分のクラスメイトに暴力を振るうような人間なら、他クラスの生徒に何をしても不思議じゃない。

 

 むしろ今回の一件は、そいつの本性が表に出ただけの話だ。

 

 

 

「春麗ちゃんの言う通り、Dクラスって本当に怖いね……」

 

「そう落ち込むな一之瀬。いずれにしろ柴田は悪くない。それだけは間違いないはずだから、どうか俺たちに力を貸してくれないか?」

 

「もちろんいいわよ。困っている人たちを放ってはおけないわ」

 

 

 

 オレが思考に浸ってる間に話はまとまったらしい。

 

 どうやら春麗は一之瀬率いるCクラスの味方になるように決めたようだ。

 

 まあ、これも春麗と櫛田が考えたシナリオ通りなんだけどな。

 

 ……本当にオレ必要か?

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一之瀬たちと別れた後、オレ達3人はオレの寮部屋に集まっていた。

 

 不本意なことにオレの部屋がクラス茶柱の秘密基地となったらしい。知らない間に合鍵まで作られてしまった。悲しすぎるな。ちゃんと自己主張していかないとプライベートは守れないようだ。

 

 もちろん秘密基地に集合したのは傷害事件について話し合いをするためだが、部屋に着くなり櫛田の様子がどうにもおかしい。

 

 

 

「ハァ~あの女マジでむかつく。早く死んでくれないかなぁ」

 

 

 

 どうやらあの短時間でもストレスが溜まってしまったようだ。まあ一之瀬と神崎はクラスメイトですらないから、疲労度が違うのかもしれないな。

 

 ベッドに身を投げ出し、天井を睨みつけながら愚痴を垂れ流す櫛田。その姿は教室で見せる天使のような笑顔とは別人そのものだ。

 

 それオレのベッドなんだが、なんて野暮なことはもちろん言えない。

 

 

 

「そんなこと言わないの。一之瀬さんいい子だったじゃない」

 

「は? どこがだよ。いつでもどこでも目立ちやがって。あんな眩しい笑顔あり得ないんだけど」

 

「確かにあの笑顔は天然モノだったな」

 

「でしょ? こっちは頑張って作ってんのに、アイツばっかりずるいだろ」

 

 

 

 口の悪さが限界突破している櫛田だが、自然に会話は続いていく。

 

 外であれば話は別だが、今この空間にいるのは秘密を共有している3人だけだ。だから櫛田は遠慮しないし、もちろんオレ達も遠慮しない。

 

 結局屋上での出来事は、櫛田に協力するという形ですべて丸く収まったようだ。オレ達が櫛田の秘密を暴露した所で何の得にもならないからな。暴露するどころかお前を守ってやると。クラスで一番の人気者になりたいならそれに協力もしてやると。ただしオレ達にも協力しろとな。

 

 共犯関係、あるいは共依存。

 

 そんな言葉が頭をよぎったが、まあ悪くない関係だとオレは思っている。

 

 

 

「まあいいや。とりあえず一之瀬とのパイプは繋いだから感謝してよね」

 

「ええ。ありがとう櫛田さん」

 

「それからこの画像も好きに使っていいから。私の貴重な努力の証だけど、一之瀬に高値で売ってもいいし、石崎たちを脅してもいいし、せいぜい上手に利用したら?」

 

 

 

 櫛田がそう言ってスマホの画面を見せてくる。

 

 そこには柴田とDクラスの3人組が口論している様子が映っていた。

 

 だが、複数あるどの画像にも暴行シーンは映っていないな。

 

 柴田が一方的に絡まれている状況だけが明確に記録されている。これは使える証拠だ。

 

 

 

「ふふ、本当にあなたは悪い子なんだから」

 

「まったくどの口が言うんだか……それより約束はちゃんと守ってよね」

 

「もちろん分かってるわ。意外と優しいところもあるのね」

 

「うるさい。ただ、さすがに同情してるだけ。()()()にも同じように約束しちゃったから、守ってあげないと可哀そうだもん」

 

 

 

 あの子――恐らくアイツのことだろう。櫛田なりに心配しているのかもしれない。

 

 

 

「それもそうね。馬鹿な男は女の敵よ。じゃあ綾小路くん、私たちは本物の犯罪者を懲らしめに行きましょうか」

 

 

 

 春麗がそう言って立ち上がる。その目は既に次の行動を見据えていた。

 

 獲物を前にした肉食獣のような、危険な輝き。

 

 訂正しよう。どうやらオレは必要だったらしい。

 

 それにしても……女は本当に恐ろしいな。

 

 春麗の正義感と櫛田の悪意が融合したとき、一体どんな結果が待っているのか。オレには想像もつかないが、少なくともDクラスのリーダーにとっては予想外の展開になるだろう。

 

 そんなことを考えながら、オレは2人の後についていくしかなかった。

 

 窓の外では夕陽が沈み始めている。

 

 オレンジ色に染まった空を背景に、女王と天使が並んで歩いていく。

 

 その後ろ姿は、どこか不吉な美しさを放っていた。

 

 

 

 

 

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