ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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第9話

 

 

 

 

 

 6月1週目。

 

 オレと春麗は櫛田との約束に応えるためにケヤキモールの家電量販店を訪れていた。

 

 少し離れた場所からクラスメイトの佐倉愛里を監視しながら。

 

 そしてその佐倉の近くには、いやらしい目つきで彼女を舐めまわすように見る男性店員がいた。

 

 30代前半くらいだろうか。脂ぎった顔に、獲物を狙う爬虫類のような目。その視線が佐倉の体を這うたびに、オレは生理的な嫌悪感を覚えた。

 

 

 

「アレが例のストーカーね。確かに犯罪者の顔だわ」

 

 

 

 犯罪者の顔かどうかオレには分からないが、まともな人間ではなさそうだ。

 

 どうやらアイツが今回のターゲットらしい。

 

 なんでオレ達がこんなことをしてるのかというと、それが櫛田との約束だったからだ。

 

 櫛田は傷害事件の証拠品をオレ達に譲る代わりに、佐倉を守れと要求してきた。

 

 具体的な内容はこうだ。

 

 今現在進行中のCクラス(旧Bクラス)とDクラス(旧Cクラス)の間で起こっている傷害事件の審議。

 

 それに使えそうな画像データを佐倉は持っていた。

 

 つまり佐倉は事件の目撃者だったわけだが、引っ込み思案なアイツは恥ずかしくてクラスの前では名乗り出ることが出来なかったらしい。

 

 だからクラス内で唯一話しかけることが出来そうな櫛田に頑張って相談をしてみた。

 

 人から相談されることにエクスタシーを感じる櫛田は、まさか引っ込み思案な佐倉から声をかけられる日が来るとは思っていなかったため大興奮。

 

 色々悩みを聞くうちに佐倉がストーカー被害に遭ってるという特大の秘密まで聞き出してさらに大興奮。

 

 絶頂した櫛田は佐倉から画像データを受け取り、その代わりにそのストーカーをなんとかすると約束。

 

 そして取引によりオレ達がストーカーを始末することになったわけだ。

 

 そして今に至っている。

 

 まあそれはいいんだが、櫛田が思ったよりも変態だったな。

 

 クラスの人気者にすると約束はしたが、お前の癖を満たすために協力するとは言ってないんだが……

 

 オレには櫛田もあの気持ち悪いストーカーもさほど変わらないように見えたが、これは黙っておこう。

 

 女は敵に回すと恐ろしいからな。

 

 女の敵である犯罪者も当然見逃してはもらえない。

 

 そんな肝心のストーカーをどうするかだが、まずは被害現場を作り上げる必要があった。

 

 これまで何度かストーカーされてるようだが、恐怖に怯えて証拠を残すまでには至っていなかったらしい。

 

 実際に被害がなければ警察も動かせないからな。

 

 だから佐倉に頼んで監視カメラがあって、尚且つ目立たない場所まで誘導することにした。

 

 店員の退勤後を狙って店から寮に帰るふりをすると、気持ち悪い笑顔を浮かべた店員は早速ストーキングを開始。

 

 それを確認した佐倉は監視カメラがあるルートを通りながら目的地で立ち止まる。

 

 2人きりにするのは可哀そうだったが、オレと春麗がついてると事前に説得し、なんとかこの状況を用意することに成功。

 

 そしてその結果、ただ気持ち悪いだけだった家電量販店の男性店員は立派な犯罪者に様変わりだ。

 

 ヤツはすぐさま本性を現してきた。

 

 

 

「今から僕の本当の愛を教えてあげるよ! そうすれば雫ちゃんもきっとわかってくれる」

 

 

 

 ねっとりとした声が夜の空気を汚す。

 

 

 

「いや! やめてください!」

 

  

 

 ストーカーの汗ばんだ手が、震える佐倉の肩に伸びる。

 

 その指先が触れる寸前、佐倉の体が硬直した。

 

 雫というのは佐倉の偽名だ。

 

 趣味でグラビアアイドルの活動を行う際に使用してる名前らしい。

 

 そしてヤツは雫のネットストーカーでもあった。

 

 って今はそんなことを言ってる場合じゃないな。 

 

 まずは佐倉を助けなければ。

 

 もはや猶予はないと判断してストーカーに詰め寄るオレと春麗。

 

 

 

「綾小路君、彼女を守りなさい!」

 

「分かった」

 

 

 

 オレは2人の間に割って入り、佐倉を強引に引っ張ってその場から離れた。

 

 

 

「な、なんだよお前ら! 僕と雫ちゃんの邪魔をするなっ!」

 

「黙りなさい変態! 現行犯で逮捕するわ!」

 

 

 

 そうしてやつを春麗と1対1にした。

 

 この時点で勝負ありかと思っていたが、いつの間にかストーカーの手にはナイフが握られていた。

 

 

 

(おいおい、マジか)

 

 

 

 可能性としては考えていたが、本当に刃物を携帯してるとはな。

 

 街灯の光を反射して、銀色の刃がギラリと光る。

 

 アレで佐倉に危害を加えるつもりだったのか?

 

 変態の考えることはよく分からん。

 

 どちらにしろ相手は狂人で、そして覚悟も決まっているのか発狂しながら春麗に襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

「ぼ、僕たちの邪魔をするなぁぁぁぁぁああッ!!」

 

 

 

 だが――

 

 

 

「ふふっ」

 

「ああッ!?」

 

 

  

 相手を挑発するように笑みを浮かべた春麗。

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 春麗の右脚が弧を描く。

 

 視認すらできない速度で繰り出された回し蹴りが、ストーカーの手首を正確に捉えた。

 

 鈍い音とともにナイフが宙を舞い、金属が石畳に落ちる甲高い音が静寂を切り裂く。

 

 オレは佐倉をその場から遠ざけて吹き飛ばされたナイフを回収する。

 

 

 

「いでぇぇえええ! グ、グゾォ」

 

「馬鹿な男。そんなんで私に敵うわけないじゃない」

 

 

 

 刃物が出てきた時には一瞬ヒヤリとしたが、そんなものはアイツには関係なかったようだ。

 

 月明かりに照らされた春麗の姿は、まさに女王そのものだった。

 

 冷たい眼差しで見下ろすその姿に、オレは改めて畏怖の念を覚える。

 

 

 

「これで終わりよ」

 

 

 

 女王によるとどめの一撃。

 

 ドスンッ!

 

 という鈍い衝撃音とともにストーカーの股間が蹴り上げられ、ヤツは泡を吹いて失神していた。

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 

 

 アイツ生きてるよな?

 

 

 

 

  

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「春麗さん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして。佐倉さんもよく頑張ったわね。それと彼にもちゃんとお礼を言ってあげて」

 

「は、はい……綾小路くんも……ありがとうございます」

 

「気にするな。悩みが解決してよかったな」

 

「は、はい!」

 

 

 

 佐倉の目には涙が浮かんでいた。

 

 恐怖から解放された安堵と、助けてもらった感謝が入り混じった表情。

 

 こうして櫛田との約束は果たされた。

 

 さすがにこの事態を学校に処理させるわけにはいかないので、春麗は直接警察に通報した。

 

 ついでにCクラスとDクラスの間で起こっている傷害事件についても、事情聴取の時にその存在を示唆した結果。

 

 全ての捜査が終わる頃には、事件自体がなかったことになっていた。

 

 つまりそういう事なんだろう。

 

 一之瀬たちCクラスはDクラスの罠にかけられていて、石崎が負っていたケガは作り物だったと。

 

 それがバレたら困るDクラスと学校側が慌てて事件をもみ消したんだろうが、なんともマヌケな話だな。

 

 そもそも実力を発揮するのと人を騙すのがイコールじゃないことを教えるのが学校の役目じゃないのか?

 

 とも思ったがよく分からん。

 

 これで国立で国から運営予算が下りてるんだから、学校の問題だけというより国や監査組織も含めた教育機関全体の問題なのかもしれない。

 

 いずれにしろ不正はまかり通るらしい。

 

 ちなみにというか当たり前の話だが、佐倉には賠償金が支払われた。

 

 その額100万。

 

 ポイントに変換することも特別措置として許されたが、佐倉は現金で貯金することにしたようだ。

 

 本人曰く「100万なんて数字見たら緊張しちゃうから」なんだと。

 

 アイツらしいというかなんというか。

 

 どこまでも小心者なヤツだな。

 

 そんな小心者は春麗にも心を許したらしく、一緒にいるのをよく見かけるようになった。

 

 オレにも偶にだが話しかけてくれる。

 

 それは嬉しかったが、いつ見ても胸がすごい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 制服越しでも分かるその豊満さは、もはや暴力と言っていい。

 

 オレは視線を下に向けないようにすることに必死で、まともに会話をすることが未だにできないでいた。

 

 悲しい。

 

 もしかして学生にとって一番必要な実力はコミュ力なのかもな。

 

 ソースはオレだ。

 

 だから間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 ああ、あと最後に一番言っておかなきゃいけないことがあったな。

 

 あのストーカーについて。

 

 春麗に殺されたかと思ったストーカーだが。

 

 アイツは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマン、嘘だ。

 

 ちゃんと生きてる。

 

 でもよく無事だったなとも思う。

 

 だってあの極太の脚にキンタマ蹴られて泡吹いて失神して。

 

 そんなのふつう死ぬと思うだろ。

 

 すごい衝撃音だったぞ? ドスンッって。

 

 だが春麗曰く、急所はわずかに外して威力もかなり手加減したそうだ。

 

 それで一発失神KOなのはヤバい。

 

 もしあいつと敵対することになったら勝てる気がしないな。

 

 オレがアイツに勝っているのは腕力と頭脳くらい。

 

 それも圧倒的にオレが上と言えるような差じゃない。

 

 スピードでは当然敵わないし、かといって蹴りをガードしても体ごと持っていかれそうな気がする。

 

 体もなまってきたことだし、鍛えなおして足技でも極めてみるか?

 

 そう考えながら、オレは春麗に弟子入りしようか本気で悩んでいる。

 

 ……いや、やっぱりやめておこう。

 

 アイツの修行に付き合わされたら、オレの方が先に死にそうだ。

 

 最低でも毎日20kmは走りこんでるらしいからな。

 

 

 

 

 

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