激重感情を隠してた文芸部の後輩を溢れさせてしまう話   作:削り板

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第1話

 

 ある日いつもと同じように一人で文芸部の活動をしていると、メガネでいかにも気弱そうな子が部室へと入ってきた。

 何か用事があるのだろうと思い、口を開くのを待ってみるが下を向いたまま口をつぐんでいる。

………もしや緊張しているのだろうか。

こちらから彼女に向かって問いかけてみる。

 

 「あの、どうかした?何か用事があるなら言ってみて手伝えることなら手伝うから」

 

 そう言うと彼女はこちらを向き意を決したように口を開いた。

 

 「あ、あの私も文芸部に入れてくらひゃい!」

 

 明らかに噛んだな、と思ったがそれは口にしないことにした。

 彼女の顔が真っ赤になって、今にも消えそうな程恥ずかしそうにしているからだ。

 決まりが悪いのだろう、体をもじもじとさせてまた下の方を向いてしまった。早く返事をしてあげないとかわいそうだ。

 

 「もちろん歓迎だよ、これからよろしくね」

 

 そういうと彼女はこちらを向いて顔一面に喜びを浮かべてこう言った。

 

 「は、はい!よろしくお願いしましゅ!」

 

 そうして僕と彼女は二人での文芸部活動をするようになった。

 

 初対面の印象通り彼女は内気な性格でコミュニケーションが得意ではないようだった。

 しかし、そんなことが原因で部活を辞められると嫌だったので、僕は積極的に彼女と関わることにした。

 部活の時に本の感想を言い合ったりすることはもちろん、より仲良くなれるように放課後、一緒に遊びに行ったりもした。

 お祭りがあれば二人で参加したし、文化祭での出し物で合同で小説を書いたりとそれはもう色々なことをしてきた。

 

 その成果が出たのだろう。初めは少し話しづらそうだった彼女も、今ではかなり心を開いてくれるようになった。

 ………なったのだが、一つ問題も生まれた。

 それは 

 

 「先輩、この本もう読みました?いつもみたいに感想語り合いませんか?」

 

 距離感が異常ということだ。

 今も彼女は僕の右腕に密着しながら楽しそうに話しかけてきている。

 最初は猫背で気づかなかったのだが、彼女は僕よりも身長が高い。それに……まぁ下品な話だが胸もでかいのだ。

 自分を慕ってくれている後輩に対してとても失礼だとは分かっているのだが、どうしても気になってしまう。

 

 というか、そもそも彼女は無防備すぎるきらいがある。

 今も制服の胸元が開いているし、いくら僕のことを信頼しているとはいえ、年頃の女性がこんなに無防備であっていいはずがない。

 先輩として一度注意しなければ、などと考えていると彼女が再度話しかけてきた。

 

 「………あ、あの先輩、もしかして私と話したりするの嫌でしたか。そ、そうですよね私みたいな奴と本の話なんてしたくないですよね。いつも先輩に迷惑かけてばっかりですもんね」

 

 先ほどまで楽しげだった彼女の顔が急激に暗くなっている。にこやかだった目には涙が滲んでいるほどだ。

 ま、まずい。今すぐフォローしなくては。

 

「いや、そんなことないよ。ちょっと考え事してただけだから。大丈夫、僕は君のことを嫌ったりしないからね」

 

 そういって僕は彼女の頭を撫でる。

 どうも彼女はネガティブすぎるようで、すぐに悪い方向へと考えを広げてしまうのだ。

 入部したての頃からいろんな方法で宥めてきたが、頭を撫でるのが一番落ち着くそうなので最近はしょっちゅう頭を撫でている。

 

 「えへへ……」

 

 彼女もさっきまでの雰囲気はどこへやら、かなりリラックスしているようだ。

 

 しかし、彼女の距離の近さはいまだに解消されていない。

 というかリラックスしたからだろうか。もはや僕のことを抱きしめている気がする。

 これじゃ、ダメだ。

 この先他の人にもこれをしてしまうと大変なことになるし、なにより僕もこれ以上距離が近くなると彼女を好きになってしまう。

 彼女は僕のことを信頼してくれているのだから、彼女に恋愛感情を抱いてその信頼を裏切る訳にはいかないだろう。

 やはり、一度先輩として彼女にキチンと注意しなくては。

 そう決意した僕は明日彼女にある作戦を実行することにした。

 

 放課後、授業も全て終わり部活動の時間になる。

 部室に入ると既に中に居た彼女がパタパタと嬉しそうにこっちに向かってくる。

 ………ワンコみたいで可愛いな。いや、そうじゃない。

 今日は心を鬼にして作戦を実行しなくてはいけないのだ。

 そのために、まずいつもと同じように二人とも椅子に座って本を読み始めないといけない。

 

「じゃあ早速今日も部活動を始めようか。今日も好きな本を一冊読んだ後、自分の作品を執筆しよう」

 

 そう言って僕が椅子に座って本を出すと、彼女もその真横に座って、僕に体をすりつけながら本を読み始めた。

 柔らかい感覚が僕の腕に伝わってきて、変な気分になりかけてしまう。

 こんな距離感も今日で終わりにするのだ。

 

 そしてそのための作戦とはズバリ、『襲ったフリをして男の怖さをわかってもらおう作戦』だ!

 まず僕はこの距離の近さに我慢できなくなって彼女を押し倒す演技をする。

 そして彼女が僕に対して抵抗し始めたところでタネ明かしだ。

 その時に距離感が近いことなどについて説教をする。僕に襲われて怖い思いをした彼女は素直に距離感を改める。

 我ながら結構良い作戦だと思う。

 多少僕が嫌われるかもしれないが、まあそれは仕方あるまい。

 

 彼女が今後危ない目に遭わないようにするためなのだ。

 しっかりと成し遂げなくては。

 そう心の中で決意を固めて実行に移すことにした。まず、急に押し倒すと危ないので彼女に声を掛けておく。

 

 「ねぇ、ちょっとこっちを向いてもらえる?」

 

 即座に本から目を上げて彼女はこちらを向いた。

 

 「なんですか?先輩」

 

 よし、これなら押し倒しても受け身は取れるだろう。

 意を決して彼女の両肩に手を置き、そのまま彼女を押し倒す。

 ………はずだったのだが、彼女の体幹が思っていたより強かったのか、かなりの力で押しても全く動かない。

 

 「せ、先輩?今日にどうしたんですか?」

 

 心配そうに彼女がこちらを見つめてくる。

 僕が襲おうとしたことが分かっていないようだ。うぅ、恥ずかしい。

 が、こうなってしまっては仕方ない。自分が襲おうとしてたことを伝えて、その後に説教しよう。

 

 「僕はね、今君を襲おうとしたんだよ。」

 

 彼女は困惑したような目でこちらを見つめている。

 

 「え!?は、はい」

 

 何故か急にでかい声を上げた。やはり襲われかけたと知り怖くなったのだろうか。

 

 少しでも怖かったなら好都合だ。このまま説教を続けることにする。

 

 「今回は本気じゃないから良かったけど、もし僕が本気で君を襲おうとしてたら危なかったんだからね」

 

 「………襲ってくれてもいいのに」

 

 ?彼女は何か相槌を打ったようだがよく聞こえなかったので説教を続ける。ここからが大事なところなのだ。

 

 「君の今の距離感は近すぎるし、勘違いする人も出てきちゃうかもしれないよ?それにこれからも同じ距離感を続けてるといつかは本気で襲われちゃうんだからね、分かった?」

 

 「………はい」

 

 語気を強めて言ったこともあり彼女はかなり意気消沈したようで、落ち込んでいるみたいだ。

 無理もない。怖い思いをした上にこれまで悪気なくやっていたことを注意されたのだから。

 …………まぁ、彼女も反省しているみたいだし、今は励ます為に頭を撫でてやろう。

 そう思って彼女の頭を撫でていると、彼女は自分に向かってポツリと言葉を発した。

 

 「先輩は私の距離感が嫌だったってことですよね。本当にすみませんでした」

 

 その言葉にはなんとなく自己嫌悪が込められているような気がした。

 消え入りそうになって発したその言葉がなんだかいつも以上に可哀想だったので僕はつい本当のことを言ってしまった。

 

 「いや、まぁ僕は嫌じゃなかったけど」

 「えっ」

 

 そう言った途端、彼女のネガティブな雰囲気が消え彼女はこちらの方を向き直った。

 

 「先輩、それってどういう意味ですか」

 

 先ほどまでの彼女が消えてしまったかのようにこちらへ喋りかけてくる彼女につい気圧されてしまう。

 

「え、あのどういう意味ってその、えーと」

「いいから濁さずに言ってください」

 

 あまりにも強いその気迫に、つい僕は自身の気持ち悪い本音を漏らしてしまった。

 

 「あの、なんていうか距離が近すぎるから君の色々が当たっちゃうし、それでこれ以上近くなっちゃうと君のこと好きになりそうだから、嫌ではないんだけど注意した、みたいな」

 

 しどろもどろになりながら喋った。

 喋ってしまった。

 きっと気持ち悪がられるだろう。

 もしかしたら部活も辞めてしまうかもしれない。

 

 「……………」

 

 お互いの間に気まずい沈黙が流れる。

 そして、それを破ったのは彼女だった。

 

「はぁぁぁぁぁ………」

 

 深いため息の後、僕の両肩に手を乗せて、僕のことを押し倒した。

 

 「え、え?」

 

 困惑して何も抵抗できずにいる僕に彼女は、独り言のように語りかける。

 

 「先輩、何ですかそれ可愛すぎますよ」

 

 言葉の意味を僕が理解できていないまま彼女は続ける。

 

 「本当に先輩はずっとそうです。私が入部してきたときから。何でもないように私に話しかけて、助けてくれて、こんな面倒くさい女なのに遊びにも誘ってくれて。私が夏祭りでナンパされたときも私よりも小さい体で必死に守ってくれて、最高に優しくてかっこいい人」

 

「かと思えば、抜けてるところもあって部活動中に寝て私にもたれかかったりしてくるし、頭を撫でられてるときの私がどれだけの快感を味わってるか分かりますか?」

 

「え、あのえっと」

 

 まるでさっぱり言っていることがわからない。理解が、できない。

 

 「挙句の果てには『君のことを好きになりそう』なんて言っちゃって、どれだけ私のことをキュンキュンさせたら先輩は気が済むんですか?」

 

「いや、そういうつもりじゃ」

「言い訳は止めてください」

 

 彼女の手が肩から背中へと下がり、ハグの姿勢になる。さっき気づいたが彼女は僕よりもデカいのだから当然僕より力も強い。

 

 「もう、もう我慢できませんからね。先輩が私のことを壊したんですから。これまで誘惑してたのに効いてないと思っていた私の不安の分も愛に変えて全て先輩に注ぎ込みますから」

 

 「いくら先輩が壊れちゃっても、愛情を注いで、注いで溢れちゃっても、私はもう止まりませんから。止まれませんから。覚悟しておいてください」

 

「よろしくお願いしますね、先輩」

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