死せる我らもこれを恐れ
死して生きる故に抗い難し
「ミケラ様。スピアの事なのですが少々畏縮しているようなのですが……やりすぎてはいませんか?」
「彼はきた時からあんな感じだろう?むしろやりすぎたのはセンチネルじゃないか?」
双方顔を見合わせ肩をすくめる。
こういう時は本人に直接聞いてしまうのがベストだとミケラがスピアの元に駆け寄る。
「というわけで事情聴取の時間です。」
「なんとも脈絡がないっスね。もしかして会話が下手ですか?」
「後で訓練倍増な。」
「お慈悲を!」
軽口を叩くその姿から過剰な怯えは感じ取れない。それでいて先ほどからどうにもどこか遠くに意識が向いているように見える。
こうして直接ミケラと会話している時でさえだ。
であるならばミケラやセンチネルに対する恐怖が萎縮の原因ではないと判断。やはり直接聞くしかないだろうと質問をする。
「センチネルが言うには最近の君が何かに畏縮するような様子が見られると言うことでね。何か気づいたことでもあるのかな?」
「……気のせいかもしれないんすけど最近大きい霊圧がだんだん近づいてくるのを感じるんスよ。」
「大きい霊圧?」
ミケラが問い返すより早くセンチネルが霊圧を探り始めていた。
「……確かに居ますね。コレは死神……それも単騎ですか。単なる偵察ならば良いですが。……よく気づきましたね?」
「元々高空から地上の敵を探るのはやってたんで……このくらいの距離ならなんとか。」
「良い特技です。今後も伸ばすと良いでしょう。」
センチネルが内心ため息を吐く。やはり尸魂界は死神を抑えきれなかったのかと以前の最悪の想定通りに、しかし想定より事態が早く進行したことを苦々しく思っていた。
「単騎、となると単騎で充分戦力として見込めるか……あるいはあちら側からもうっすらこのまま虚圏で死んで欲しいと思われているかかな?」
ミケラがそう言って、そしてそのまま何かに気づいたように硬直する。
その額を冷や汗が伝ったのをセンチネルは見逃さなかった。
「何か気づきましたか?」
「いや……確実なことは何も言えないが……しかし。」
どうにもミケラの言葉の歯切れが悪い。おそらくは自分の想定した最悪よりミケラの考える最悪の方が『最悪』らしい。しかしミケラが指示を出しかねている以上ここは自分で事態を回すべきだろうとセンチネルは判断した。
「スピア、アナタ羽の傷は癒えてますね?」
「あ、ああ。まあ、飛べることは飛べる。」
「結構、それでは飛びなさい。近づいてくる者の詳細を偵察してもらいます。」
「待て待て!流石に危険がすぎるだろ!」
ミケラが待ったをかけるがセンチネルとしてもここを譲る気はなかった。
「相手に関してなんの手掛かりもなく接敵なさるつもりですか?」
「スピアが接敵するかもしれないだろう!」
「お言葉ですが……スピア程度なら換えが効くのですよ。」
「なっ!?」
センチネルとしても特段スピアを犠牲にしたいわけではない。
しかし優先度がある。センチネルにとって重要なのはミケラなのだ。
視線をスピアに向けることなくミケラを見つめる。
ミケラは僅かに顔を顰めた。
「あー……ミケラ様?別に俺飛びますよ。」
「……良いのか?」
「実際このグループで一番立場が微妙なのって俺でしょう?まあ心配しなくてもちょっと見て帰ってくるだけですって!」
「あ、あのっ!」
議論していた三人の中にチークが割り込んでくる。
「私が『糸』でスピアさんとみなさんを繋いで声を届けます!コレなら大きな声を出さなくても空と地上で情報のやり取りができます!」
「良いのか?俺結構な高さまで飛ぶけどちゃんと繋いでおけるのか?」
「責任もって繋ぎますので!」
「……すまない。頼めるかスピア。」
「なるべく手早くすませてきますよ。」
そう言ってスピアは飛び去っていく。チークが繋いだ糸の先でその姿がみるみる小さくなっていった。
***
「それでどうですか?アナタからは何が見えます?」
「やっぱり死神が1人で虚圏を彷徨ってやがる……方向的にもコッチに向かってると見て間違いなさそうだ。」
「姿はどうだ?どんな刀を持っている!?」
「あ〜黒い長髪の……女っすね。まあ胸になんか詰めてるとかじゃなきゃっすけど。女にしちゃ目つきが怖えんですよアレ。刀は……デカイ曲刀ですね。」
「……今すぐ戻って来い!」
「えっ。は?偵察は!?」
「もう良い!留まるほど危険だ!お前まで気づかれる前に帰投しろ!」
「ミケラ様?お前まで……とはどう言う意味で?」
「スピアがようやく気づくような距離で向こうが何かでこちらを捕捉していたとするならそれはこの中で一番大きく特殊な私の霊圧だ!私はもう間に合わん!」
「なっ!?」
ミケラがセンチネルの方を向いた拍子にスピアと皆を結んでいた糸が解けてしまう。
しかし結び直す余裕がないのはミケラの表情を見て察せられた。明らかに焦っている。
「チークを隠せ!それが最悪だ!」
「何を馬鹿な事をっ!?アナタを失う方がよほど最悪だ!」
「最悪はそれではない!お前達と命は等価だ!だが私ならまだアレを相手になんとかする余地がある!」
「しかし……!」
「今チークが見つかってみろ!彼女は尸魂界から木材を奪ってきた本人なんだ!それを理由にして全員が斬られるぞ!」
「……っ!」
「チーク、音に音をぶつけて相殺するやり方は覚えているか?」
「は…はいぃ!」
「よし、スピアが戻ってきたら穴を掘ってお前やセンチネルと一緒に埋めて隠す。砂の中に穴を掘るから霊子で壁を作って崩れないように補強するんだ。あとはひたすら霊圧を抑えて音を消して耐えてくれ……できるな?」
「はい!あっでも王様は?」
「さっきも言ったが私はまだ王ではないよ。……私の霊圧は見つかっている。隠れても探される。逃げられもしない。だからお前と一緒に隠れるわけにはいかない。……堂々と出迎える方が一番良いんだ。」
チークがほとんど泣きそうな顔でミケラを見つめる。その視線を振り切るようにして背を向けると目の前の地面に黒虚閃を撃ち込んだ。
爆風で砂煙が立ち込め着弾点の砂が抉れるように消失する。
「ミケラ様!?何やってんすか!?」
「戻ってきたなスピア!三人でこの穴に入って壁を張ってくれ!張ったら埋めるからな!」
「ちょっと!?全然事情がわからないんすけど!?やっぱりアンタ会話がへっ……ッ!?」
最後まで言い終わる前にスピアが穴に突き落とされる。
「また音楽教えてくださいね!絶対ですからね!」
「ああ!また後で!」
チークは本当は歌ってミケラを応援したかった。しかしそんな時間は無かったし何より自分が危険を呼び込んだ張本人である罪悪感でとても歌えるような精神ではなくなってしまっていた。その苦悩を抱えたまま奈落に落ちるように姿が消えて行った。
そして最後にセンチネルが残る。
「ワタシ個人としてはまだ納得が行きません。」
「だろうな。」
「後から言いたいことがいくつかあります。」
「だろうな。」
「生き残るように。それが最善を目指すアナタのやるべきことです。」
「心得たよ。」
センチネルが飛び降りやがて穴を塞ぐように霊子の壁が展開されるのをミケラが確認するとその穴を隠すようにして砂を被せた。