気が付けば私は砂の荒野に投げ出されていた。
明けない夜が支配する見わたす限りの荒地だ。足元を見れば骨のような面を被った奇妙な生き物達が這い回っているのが見える。
私はアレらを
虚だ。死した者たちの魂の胸に孔が空き生まれる悪霊のような者……それらを遥か眼下に見下ろす巨体を持った己はおそらく最下級大虚になったということなのだろう。
何故こんな知識を持っているのかといえば……おそらく前世の知識ということなのだろう。虚とは私が生前読んでいた漫画に登場した敵キャラクターの一種であった。
その他前世の知識を頼るならばここはその漫画BLEACHの世界、
しかしどうにも奇妙だ。どうにも私はBLEACHという漫画の知識は持っているがそれを読んでいた頃の生前の記憶と言うものがないように思える。
原因の想像はつく。元来大虚というものは虚の共食いの果てに幾重にも折り重なった魂魄が混ざり合って産まれ出る者だ。
その結果として自我は混濁し希釈され獣のような知性しか持たぬ最下級大虚となる。
だが時折その様な出自に有りながら強い個我によって自分を保ち続けられるものが現れる。ちょうど自分の様に。
そう言った存在だけが
おそらく自分の場合ベースとなる性格やある程度の知識以外の記憶といったものは混濁する魂魄の中に溶けてしまったのだろう…引き換えにどうも自分のものとは思えない知識も残っているのだが。
正確にはBLEACHという漫画がある世界から転生してきた【私】とここに居る私は同じ存在ではないのだろう。
転生した【私】は現世で人としての生を終えその後虚化するかあるいは虚に食われ…そしてその虚が共食いの果てに大虚となった時偶然それらしい人格が表出したに過ぎないのだ。
「しかしそうなると共食いをしなくてはいけないのか…」
共食い、それが虚に課された生き延びる術だ。
より正しい言い方をするならば、知性を持った大虚は同格以上の大虚を共食いし続けなければならない。
これを怠ればやがて知性を失い再び最下級大虚へ堕ちるのだ。
抜け出すには
明確に生まれ持った資質というものがそこに要求されるのだ。
「とは言えまずは食わねば始まらないのだが」
最下級の共食いはまだ気が楽であった。アレらは知能が低く意思疎通も怪しい故に単に動物を食うのと変わらない気でいられる。
ちょうど目の前から最下級大虚の手頃な群れが近づいてくるのが見えた。