虚圏の黒蟻   作:LieND

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蝉と糸

さて仲間集めである。

それもただ集まれば良いという話でもないのが割と困るところだ。

まずゆくゆくは最上級大虚への進化を目指すことを考えると大虚に至っていない有象無象の虚は考慮にも値しない。結局肥大化するであろう自身の霊圧に耐えられないであろうことがその理由である。

続いて最下級大虚も大半は考えないものとする。彼らの大半は自我すら危うい…というより知能の段階でまず仲間として扱うには無理がある。

一部の自我を残した個体は若干の考慮の余地があるといったところだろうか。

 

そうなれば目をつけるべきは当然中級大虚である。ところがここにも問題がある。

私が最上級大虚を目指すならば積極的に捕食するべきなのも中級大虚なのだ。

そうなると勧誘方法は大きく2通りになる。

 

とりあえず襲って一部を喰らい屈服するようであれば配下とする。

まず勧誘を行って屈服しなければ喰う。

 

「どの道デッドオアアライブならとりあえず相手を見て後は流れで決めて良いのでは?」

「……ミケラ様がそれでよろしいのならばそれで良いかと。」

 

今呆れられたか?

 

 

***

 

 

「どの道デッドオアアライブだとは思ってたけどコレは想定外だな。」

「話が早くてとてもよろしいのでは?」

「殺さないでくださいぃぃぃぃ!」

 

まさか最初に接触した中級大虚が初手から土下座して命乞いをしてくるとは思わなかった。

そう、土下座である。土下座が可能な身体構造、つまりある程度人型に近いというのはちょっとした評価点である。仲間にできたらいくつかの雑事を任せてもいいかもしれない。

そんな彼の全体の印象は人型の蝉といった様相だった。記憶の片隅からナントカ星人という単語が浮かんで泡沫の様に消えてしまったがさしたる問題ではないだろう。その両手はハサミではなく普通の五指を備えた手を持っているのできっと気のせいだ。

仮面は多くの虚が備える髑髏の様な歯列の代わりに完全に蝉と同様の口吻が造形されておりコレが刺さらない相手を喰うことが出来ないというなんとも生存に不利な特徴を備えている。

背に備えた羽根は腰下まで伸びておりなんとなく燕尾服の様なシルエットを作っているのが特徴的だった。

 

「まあ私の下についてくれるというなら殺しはしないさ……ところでそれはなんだい?」

 

私が気になったのは彼が引きずっていた木箱だった。その内部にはやはり木材によって造形された様々な物品が見て取れる。

 

「がっ、楽器です!」

「楽器?」

「虚になって……ずっと虚圏にいて……ずっと足りないと思って……どうしても欲しくなって自分で作りました!!」

「ふぅん?」

 

箱の中から一つそれを取り出してみれば確かに木材を削り出して作られた簡素な笛であることが見てとれる。思った以上に器用だぞこの子は。

 

「少し演奏してみてくれないかい?」

「はっ、はひぃ!」

 

ほとんど悲鳴の様に返事をして私の手の中から笛をひったくると針状の口吻を笛の吹き口に差し込む。そうやって演奏するのかその口。

 

そして奏でられるのは見事な音程とリズムを伴った……

 

 

……地獄の底から響いてるかの様な重低音だった!

 

 

「ごめんなさいぃぃぃ!」

「コレは楽器の原理上の問題ですね……同じ材質と形状ならば大きさが増すほど音は低くなるモノです。ましてや中級大虚に合わせたサイズならば尚更だ。」

「あーなるほどね。」

 

バイオリンとコントラバスなんかがわかりやすいんだろうか。和太鼓なんかも大きいほど腹に響く様な低音になる気がするしコレは本当にそういうモノなんだろう。

 

「そうだな……材質ごとのサイズと音の相関が問題ならこういうのはどうだ?」

 

羽に溜め込んでいた霊子を糸状にして取り出し自身の霊圧で固定する。そうして何本かの糸を取り出してピンと張ったモノを前脚で弾けばそれぞれの長さに合わせて澄んだ音が響いた。

 

「それは……?」

「霊子の収束の応用だよ、要は弾いた時に適切に振動するなら木材や金属に頼る必要はないんだ……なんなら収束させる霊子の密度を操作してやれば音を出しながらその高さをフレキシブルに操作してやることだってできるだろうし板状にしてやれば打楽器にも応用できると思うぞ。」

 

センチネルに説明してやってから蝉面の彼の方を見る。

彼の仮面の穴と言う穴、隙間という隙間から涙と思しき液体が溢れていた。

 

「オ……オオ……ッ!」

 

滂沱の涙を流すとはこの事だろう。両の手で顔を覆い蹲り嗚咽し続ける。

 

「音楽だ……今度こそ音楽ができる……!ずっと、ずっと待っていた!これを!ああ、貴方に従いますだから!どうかそれを教えてください!どうか……」

「ところでだな。」

 

這いずりながら縋りつこうとしてくる彼に向けてセンチネルが声をかけた。

 

「随分と大きな『木箱』じゃないか?楽器の素材も『木材』だが中級大虚の使用に耐えうるだけの木材となるとそうそう手に入るモノではあるまい。」

 

ピタリと鳴き声が止んだ。

 

「ええとですね……それは自分で木を切ってですね。」

「ほう、木を?ワタシはそれなりに長くこの虚圏に住んでいるが木材に適した木というものは見たことがないのでね……後学の為にどこでその様な木を見つけたのか是非にお聞きしたいものだ。」

「あー、えー虚圏の木ではなくてですね……尸魂界の木です。」

 

センチネルが思わずといった具合に天を仰いだ。

 

「ミケラ様……処分しましょうコレ。」

「ひぃぃぃぃ!殺さないでくださいぃぃぃぃ!!!」

「ええ……。」

 

私に一体どうしろというのだ!

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