虚圏の黒蟻   作:LieND

9 / 14
懸念と対策

ミケラ様があえて言及しなかった懸念がある。センチネルは密かにそれを確信していた。

 

王とは最良を信じその為に指針を示す者であり。宰相は最悪を疑いそれに備えて舵を取る者である。

これはセンチネルの信条である。

その信条に従うならばミケラは最良を信じ最悪を伏せたままにチークを仲間と迎えたということであり。そしてその結果懸念される最悪に備え、対処するのがセンチネルの役割となる。

 

では、その言及されなかった最悪とは何か。

ミケラの示した道は理が通っている。理が通っているのだから理解できる。

しかし世の中には理を尽くさず解さない輩というものが必ずいるのだ。それを人は理不尽と呼ぶ。

尸魂界は広く、そして抱える組織も大きい。そうなれば必然紛れ込むのだ制御し難いような理不尽が。

無論上位者というものはそれを抱えたまま上手くバランスを取り事態を動かしていくものなのだがそれは向こう側の都合でありこちら側の与り知るところではない。

結局のところ制御されない理不尽の襲来に備えるのは絶対に必要なことであった。

そもそもセンチネルをはじめとする一般的な虚にとって尸魂界の死神とは愚連隊の様なものでありミケラの語った様な側面があること自体驚きであったのだ。従来の可能性が高いと考えるのも必然である。

 

「ゲホッ、ゴホッ!」

「おっと考え事をしていてキミの事を忘れていた様だ……あースパイン?スペイン?まぁなんでもよろしいか。」

 

センチネルが見下ろす眼下には蜂のような姿の中級大虚が這いつくばっていた。

その全身を()()()()()()()()()に貫かれ立ち上がれないように縫い止められている。

 

既にミケラがチークを迎え入れて短くはない日々が経過していた。その間ミケラはチークにその霊子造形術を惜しみなく教え込み彼女もまたそれに応え様々な音楽へとそれを応用し続けている。

それをセンチネル自身も見続け、そして習得したのだ。大気中の霊子を己の霊圧で造形して武器とする術を。

 

蜂のような彼の肉体に食い込んだ剣はその体内で更に形状を変化させ根を張るようにして地面と身体を縫い合わせる。最早身じろぎすら許されず内臓のいくつかも根によって損壊している。

 

「高高度を飛び遥か彼方から針によって敵を射抜く負け無しの猛者がいると聞いて来たのですが……ワタシの攻撃をこうもことごとく避けられないようでは話になりませんね。」

「クソッ……!」

 

センチネルがおそらく来るであろう理不尽に対して取った対策はシンプルに戦力の拡充であった。

そうでなくとも十分な戦力というのは必要なものなのだ。今回の事はその十分と言えるラインが予定より高くなり揃えるまでの期限も早まったというだけのことであるとセンチネルは結論付けている。

以降のセンチネルは単独で勧誘に動くことが増えていた。なお彼の評価基準を満たす中級大虚は今回含めて未だ現れてはいない。

 

「なぁ俺を試すような真似したって事は何か目的があったんだろ?助けてくれたらアンタの為に働くからさあ!」

「うーん、残念ながら命乞いに関してはアナタより数段素晴らしいものをしばらく前に見てしまったもので……その程度で助けてあげる気にはならないのですよ。」

 

にこやかに語りかけてはいるがその目はどこまでも冷めている。

 

「今のアナタが要求水準を満たさない以上はワタシとしてアナタに求める事は早く食べやすくなってもらう事なんですよね。ええ、ミケラ様はお優しいらしく言葉を交わした相手を食べるのを躊躇するお方ですし。」

 

二人の頭上で青白く星が瞬いた。

いや、星ではない。青白く輝くそれは眼下の蜂に突き刺さる物と同じ霊子の剣だった。それが遥か空の上で輝いている。

百足の形質を持つセンチネルが文字通り百の足を手繰る様に。その延長の如く百の剣を産み出し操るまでに彼は術を己の物としていた。

 

そして上空で剣を待機させるのに使っていた霊圧を一部解除すれば必然的に重力に従いそれは自由落下を開始する。

 

「端的にいえばですね。ただ落ちてくるだけの剣すら受け止められないなら不要なんですよアナタ。」

 

一本。二本。落ちて来ては突き刺さる剣の痛みに蜂はいよいよ叫ぶ気力すら奪われる。

そうして更に三本目四本目が突き刺さり五本目が落ちた時それは起きた。

 

「なんだ……アナタやれば出来る人じゃないですか。」

 

落ちて来た五本目の剣は彼の頭上に展開された青白い霊子の壁によって阻まれていた。

刀身が食い込み全体に無数の罅が走ってはいるがその切先が肉体に届く前に勢いを殺し尽くすことにかろうじて成功している。

それを見てセンチネルは満足げに笑い彼の全身に食い込んだ剣を霊子に還元し消し去る。

標本の如き様相から解放されてようやく身動きを取り戻した彼だったがその表情に安堵はない。

 

「さてスピア・ヴェスパ・ピアッサ君。キミには我が主人、ミケラ様へのお目通りを許可します。拒否権はありませんよ?働いてみせると命乞いをしたのはアナタなのですからね。」

 

センチネルは変わらず笑っている。しかしその笑みはとても獰猛な物だ。決してお前を逃しはしないとその表情が物語っている。

そうして霊子の糸で改めて蜂……スピア・ヴェスパ・ピアッサを拘束し引きずる様にして連れ帰るのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。