チャンバラヒーロー“ザンテツ” 作:きりきりまい
「今年の入試も、最高に盛り上がったな!!特に、特大
大興奮、といった様子で一人の教諭が声を上げる。
彼だけではない。この部屋には、雄英高校に所属するプロヒーローを兼任した教師陣が集っていた。
彼らの仕事は、受験生の見極め。
「今年は豊作ですね。77ポイントを集めた主席。彼の個性は強力な上に、息が長い」
「個性“爆破”ですね。ニトロのような汗を掌の汗腺から発生させて、コレを爆発させる。当然、その衝撃を受けつ続ける体も消耗するはずですが、試験開始から終了まで一度もパフォーマンスを落としていません」
「とはいえ、我々が見ているのは何も戦闘力だけではない」
一人が呟き、周りも頷く。
「ヒーローとは、ただ
「その点で言えば、次席の彼は良いですね」
テーブルに一枚の紙が置かれる。
「
「ロボットは的確に一撃で破壊し、更に
「戦闘向きの個性ではない受験生に指示を飛ばして、一時的な救護エリアの作成。何か持ち込んでいると思えば、救急キットだったからな」
予めの申請があれば個性補助の道具を持ち込む事も出来る。しかし、態々救急キットを持ち込む者など前例がなかった。
よっぽどの自爆個性か或いは、自傷必須の個性持ちならば分からなくもない。
だが、持ち込んだ当人は擦り傷の一つも負ってはいなかった。この点から、持ち込まれた救急キットの活用先は自分ではなかったと分かるだろう。
問題は、
「個性を使わずに受験をほぼ乗り切っている点だろう」
指摘はそこ。
全人口の8割が個性という異能を有する現代。大ぴらに使えないというだけで、誰しもがその恩恵を大なり小なり受けている。
裏を返せば、個性を使わない技術体系というものは衰退の一途をたどっているという事でもある。
格闘術などは、その代表的なモノだろう。個性を絡めた体術はあれども、五体のみの体系化された格闘術はどうしてもその需要を落としていた。
その点、書類の彼は素手でポイントを稼ぎ、素手で他受験生を助け、最後に個性と思しき刀を振るってお邪魔ロボットを破壊した。
底が知れない。そんな教師陣の内心を代弁したのは、小柄な教諭だった。
「けひひ、あの刀は相当だよ。斬鉄剣何て言うけど、ロボットは複数の鋼材と配線、色んな素材の組み合わせさ。それを、この有様だからね」
そう言ってテーブルに置いたのは、何かの残骸だった。
緑の装甲を表面に持ったそれは、今年度の入試で用いられたお邪魔ロボットの残骸。その一部である。
「この断面を見てほしい。ここまでスッパリと斬れるのは、よっぽどの名刀……以上に、本人の技量だろうね」
「技量?良い刀なら、そのままスッパリと斬れるんじゃねぇのか?」
「無理。どれだけ良い切れ味があっても、刃が素材に真っすぐに入らなくちゃ切れないさ。断面を計測したけど、誤差はコンマ00以下。サポート科に欲しい逸材だ」
「ソレハ、素材カッターカ何カデハナイカ?」
空気が少し、軽くなる。しかし、同時にそれだけの才覚を持った生徒が門戸を叩いたという事でもある。
そうして、咳払いが一つ部屋に転がった。
「一人の生徒に拘るのは、この辺でお開きとしましょう。まだまだ我々には見るべき者たちが居る。時間は有限だ、合理的に行きましょう」
そう。彼の言うように、仕事は山積みだ。オマケに彼らは依頼があればヒーローとして現場に立つ必要も求められる。
時間は有限。彼らにとって肝に刻んでしかるべき言葉。
しかし同時に、一方向のみを見て目を曇らせてもいもいけない。
未来を担うヒーローを育成する為の学科だ。必要なのは、
@
汗をぬぐう。水に沈む重量を持った木刀を庭に突き立てて、山吹丈瑠は用意していたタオルで顔を拭いた。
下はジャージに素足。上半身はタンクトップ一丁でありその全身からは、蒸気が立ち昇っている。
暇があれば、鍛錬に次ぐ鍛錬を己に課す丈瑠の体は筋肉の印影がはっきりと浮かぶほどに引き絞られている。
そんな彼の元へと、近付いてくる足音が一つ。
「丈瑠。貴方にお手紙よ」
「ん」
母から差し出された封筒。それを受け取って、丈瑠は縁側に腰掛けると何のためらいもなくコレを開いた。
「タブレット?」
封筒から取り出した代物をしげしげと眺めてから、映像を映し出しそうな面を上にして縁側へと置いた。
瞬間、装置が起動し投影される映像。
『やあ、山吹丈瑠君。私は、根津。雄英高校の校長を務めてる者さ!』
「…………」
投影されたのは、右目に傷の残る白いネズミの様な存在。
特異な見た目だが、様々な個性が存在する現在において見た目の特異さなど論じるだけ不毛というもの。
『さて、単刀直入に結論から行こうかな!今回のこの連絡は、君の合格を告げるモノなのさ!』
「!」
『ついては、その詳細だけれど。筆記テストは文句なしの合格。そして、実技試験は主席と一点差の次席扱いさ!』
「……?そこまで、ロボットを破壊した覚えはないが?」
『うんうん、戦況をよく見ていた君なら自分の倒したロボットの数も把握しているだろうね』
投影された根津は録画であろうはずなのに、丈瑠の疑問に頷いた。
彼の個性は、“ハイスペック”。異形型の個性ではなく、人間ではない別の生物に個性が宿った珍しい事例だったりする。
その頭脳をもってすれば、子供の考えを読む事もそう難しものではないらしい。
『ヒーローには、確かに戦闘力も求められるね。鉄火場に駆け付け、矢面に立つ事が常にあるからさ。しかし!それだけがヒーローに求められる素質じゃないのさ!』
声高らかに、根津は語る。
『人を助ける事。それこそが、ヒーローの責務であり、そして命題でもある。今回の入試で、我々は君達の素質を見た。そしてその為に秘匿したとある加点が存在する』
「加点……?」
『即ち、
痛烈な根津の言葉。しかし、真理でもある。
言われて助けるのならば、それはヒーローでなくて良い。警察などの仕事だろう。
裏を返せば、もし仮に一体もロボットを倒せなかったとしても合格できる可能性は十分にある、という事でもある。
もっとも、何の情報も無かった受験生たちの内、いったい何人が目の前のポイントを捨てて他人を助けるために走り回れるだろうか。
『さて!長くはなったが、先の通り君は合格。諸々の用意はあるだろうけれど、これだけは言わせてほしいのさ!』
改める様にして、根津はその背筋をピンと伸ばした。
『おいで!ここが君のヒーローアカデミアさ!』
その言葉を最後にして、映像は終了。投影された光が消えた。
しばらく眺めて、丈瑠はホッと息を吐き出した。
筆記試験は兎も角として、実技の手ごたえは無かったのだ。人助けの結果であったから気にしてはいなかったものの、普通科も受験すべきだったかと考える程度には若干諦めていたりする。
肩の荷が下りた。同時に今までの努力が、無駄ではなかったという証明もまた果たされた。
丈瑠は両手で体を支えながら空を見上げる。
「漸く、一歩目だ」
向かう道は、英雄か修羅か。