チャンバラヒーロー“ザンテツ”   作:きりきりまい

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「「個性把握テストォッ!?」」

 

 A組担任となった相澤消太に言われるがまま、体操着へと着替えた生徒たちはグラウンドへと集まっていた。

 そして告げられたのが、上記の事。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「いや、そもそもこういうのって最初の体育とかでやるもんじゃないのか!?」

 

 生徒たちの困惑も尤もだろう。

 だが、そんな事は相澤にとっては何の関係もない。

 

「おい、静かにしろ。雄英は自由な校風が売りだ。そして、ソレは俺達教師側にも反映される」

 

 タブレット端末を片手に、有無を言わせない圧が相澤より発せられる。

 

「お前たちも、中学でも経験してきただろう?50m走、ボール投げ、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈、立ち幅跳び、握力、持久走。個性禁止の体力テスト。文科省は未だに画一的な記録を取るに留めているが……コレに関しては役所の怠慢だな。個性の把握を行うなら、監督員なりを派遣すればいい。それこそ、暇してるプロヒーローでも、な」

 

 中々に後半過激な事を言っているが、同時に的を射てもいた。

 昨今、ヒーロー飽和社会と呼ばれる現代。都市圏でのヒーロー活動は早い者順である。そして、如何に派手に(ヴィラン)を打倒するかを求められたりもする。

 その一番わかりやすい形は、ヒーロービルボードチャート。

 過去一年間の活躍などを加味して、事件解決数、社会貢献度、国民の支持をヒーロー公安委員会が独自に数字化しランキング形式で発表するというもの。

 分かりやすい指標は、多くの市民に受け入れられると同時に格差を生む。

 

「今回の入試のトップは……爆豪か。中学の時のボール投げの記録は幾つだった」

「67m」

「じゃあ、今回は個性を使って目一杯投げてみろ。円はそこ、方向はあっちね」

 

 相澤に示され、爆豪勝己はボール型の測定器を片手に円の中へ。

 

「――――死ねェッ!!!」

 

 軽いステップインと共に振り抜かれた右手。同時にタイミングの計られた手のひらからの爆発によってボールは空の彼方へ。

 同時に、相澤の持つタブレットの画面に数字が表示された。

 

「この通り、これからお前たちには個性を使った上での体力測定テストを行ってもらう。先ずは、自分の最大限を知り、それこそがヒーローの素地を作る。合理的だろう?」

 

 700m越えという単純な身体能力だけでは出す事の出来ない記録。そして、中学生活含めてあらゆる場面で制限されていた個性の全力使用許可。

 これら情報は、容易に子供たちのテンションを跳ね上げさせるには十分すぎるモノだった。

 

「すげぇ!個性を思いっきり使えるのか!」

「ナニコレ、凄い面白そう!」

「流石は、ヒーロー科だよな!」

 

 目に見えてはしゃぐ面々。そして、実際に騒がずとも他の生徒たちも挑戦的な笑みを浮かべていたり、或いは目の奥にやる気の炎を滾らせていた。

 だが、

 

()()()()、か」

 

 何が琴線に触れたのか、相澤の声が低くなる。

 ギロリ、とその充血した視線が少年少女を貫いた。

 

「これからヒーローになる為の三年間をそんな腹積もりで過ごすつもりか?」

 

 気配が強まる。

 

「よし、トータル成績で最下位の者は見込み無しと判断して除籍処分とする」

「「はぁああああああああ!?」」

 

 爆弾発言に、天地が揺れた。

 

「最下位除籍!?入学初日に!?いや、そうじゃなくても理不尽過ぎる!!」

「理不尽、結構。先の通り、雄英は自由な校風が売りだ。そして、ソレだけの裁量権を俺達教師は与えられている」

 

 噛み付く生徒に対して、相澤は何処まで行っても冷酷だった。

 だが、それはある種で生徒たちを思っての事でもあるだろう。本人は、首を振るかもしれないが。

 

「何処からともなく現れる理不尽、艱難辛苦を乗り越えていくのがヒーローだ。放課後マックで談笑でもしたければ、お生憎。雄英はこれから三年間、君達に全力の苦難をお届けする」

 

 緊張感が、生徒たちの間に走る。自分達がやって来た場所を、今こうして改める様にして再認識させられた気がしたからだ。

 入試は、あくまでもこの席を掴むための試練。だが、籍を得たからといって必ずしも安泰な道が約束されるわけではないのだから。

 

「Plus Ultra。校訓を胸に刻んで、励んでくれよ?」

 

 かくして、最初の試練は幕を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーーーー…………」

 

 スタートラインに立ち、山吹丈瑠は肩の力を抜いた。

 最初の種目は、50m走。

 

「次、山吹。スタート」

「ふっ」

 

 合図と共に彼の体は、()()()()()()

 完全な脱力姿勢からの、重心移動と重力による加速。この二つを併用する事で、初速から最大速を発揮する。

 0~100への急激な緩急からそのまま“百零(ヒャクゼロ)”と呼称されるその技術を用いたスタートダッシュ。

 更にそこから上体を持ち上げる事無く、常に前へと倒れ続けることで発揮した最大速度を維持。

 50mを瞬く間に駆け抜けて、ゴールと同時に上体を起こして地面を滑って急停止。

 

「4秒58」

「速っ!?つーか、どういう体勢で走ってんだよ!?」

「どういう個性なんだ?」

 

 先に終えていた生徒たちが騒ぐが、丈瑠としては満足な結果とは言えない。

 

(個性が活用できない以上、地力の勝負だな)

 

 体力測定に活用できる個性ではない関係上、丈瑠に出来ることは限られる。それでも、最下位除籍を避けるためには最大限の努力をするつもりだった。

 続いて、第二種目は握力。

 丈瑠の前の順番では、異形系であろう個性の男子が腕を複数造り握力計を握る事で500キロオーバーの記録を叩き出した。

 

「凄いな。腕を増やせる個性か?」

「いや、正確には複製腕と呼ばれるものだ。目や口といった体の部位を複製する事が出来る」

「成程、強力だな」

 

 頷きながら握力計を受け取り、コレを握る。

 表示された数字に、男子生徒は目を丸くした。

 

「お前の方こそ、凄いな。103キロ。100キロ越えか」

「鍛えているからな。何より、俺の個性上握力は強い方が良い」

「そうか……ああ、そうだ。俺は、障子目蔵だ」

「山吹丈瑠。よろしく頼む、障子」

「ああ」

「いや、二人揃って凄すぎね!?」

 

 淡々としている二人の傍から声が上がる。

 そちらに居たのは、肘が特徴的な構造を持つ男子と異様に背の低い頭部が特徴的な男子だった。

 

「そっちのおたくはゴリラっつうより、タコって感じか?そっちのアンタは、マジモンのゴリラだな」

「?ゴリラの腕力はもっと強いだろう?」

「いや、例えだって!あ、俺は瀬呂範太な。よろしく」

「障子目蔵だ」

「山吹丈瑠」

「障子に、山吹な。障子の方は、異形系の個性って事か?山吹は、増強系?」

「俺は、そうだな。この触手の部分が体の部位を複製する事が出来る」

 

 瀬呂の問いに、口を創り出して喋らせる障子。

 

「俺は違うな。生憎と、この個性把握テストで役に立つ様な個性じゃない」

「マジ?つー事は、自力であれ?」

「そうだ」

 

 泰然と頷く丈瑠に、瀬呂は白目を剥いた。

 まだ2種目目だが、頷く彼の記録はクラスでも上位陣のモノだ。そして、その上位陣は何れも個性を使用した上での結果だった。

 そこに、素の身体能力で喰らいつくなどいったいどれほど鍛えているのか。

 

(ヒーロー科に来る奴ってのは、やっぱり違うな)

 

 白目を剥きながらも、瀬呂は改めて腹を括る。元より、今回のテストで最下位を取れば除籍されてしまうのだ。

 改めてやる気をみなぎらせる瀬呂。一方で、小柄な男子がジッと障子を見上げていた。

 

「…………タコって、何かエロいよな」

「いや初対面の感想じゃねーだろ!」

 

 瀬呂のツッコミが飛ぶ。しかし、エロ坊主は止まらない。

 

「いや!オイラは何も貶める目的では言ってないぞ!?」

「明らかにそうは思えねぇだろ!?仮に意図がなくても、お前のこと何も知らねぇんだから弁明も何もないだろが!?」

 

 ギャンっと咆える小柄な男子に、瀬呂のツッコミが飛ぶ。

 幸いなのは、障子は気にした様子がない点か。そして、丈瑠はというと、

 

「ふむ…………それは、浮世絵の話か?」

「!知ってるのか!?」

 

 丈瑠の呟きに、男子は我が意を得たりといわんばかりに顔を上げた。

 突っ込んでいた瀬呂も首を傾げる。

 

「浮世絵?」

「ああ。正確には、春画だ」

「そうそう、春画!でもよ、瀬呂。別に春画って一口に言ってもエロだけを追求したもんじゃねぇんだぞ?」

「浮世絵とかは授業で聞いた事あるけど、流石にそこまで深くは知らねぇーって。障子はどうよ」

「ん?俺も、そうだな」

「カーッ!春画ってのは、昔の中国との交易品とかにも使われたり、魔除けの品にもなった由緒ある代物なんだ。やっぱ、エロは世界を救うんだよ!」

「いや、エロに帰結してるじゃねぇか!?というか、峰田って意外に頭脳派なのな!?」

「ふっ……やっぱり、頭の良い奴ってモテるだろ?あ、オイラは峰田実な」

 

 何処かどころか脳内の大半がピンクであろう峰田は決め顔を披露するが、中身の残念さが隠しきれていない。

 ツッコミを入れる瀬呂に対して自分のエロ知識をひけらかす峰田。

 そんな二人を他所に、障子は次のテストに進もうとする丈瑠へと水を向けた。

 

「山吹も詳しいのか?」

「ん?詳しい……といえるかは微妙だが、父方の祖父が骨董品の収拾を趣味にしていてな。日本のものだけじゃなく、海外の物も偶に取り寄せているんだ。峰田が言うように、中国で扇子などにその手の絵が描かれていたり隠し帳簿に取引の品として書かれていた記録があったと聞いている」

「成程」

「俺個人の感想としては、周りに迷惑を掛けないのなら問題は無いだろう。それは、個人の趣味だ」

「それも、そうだな」

 

 個人の範疇で収まっているのなら、それ以上追及するのはプライベートの侵害でしかない。

 障子も同意するのか頷く。

 彼らの志したヒーローというものは、あくまでも犯罪者を捕らえる立場。個人までの過干渉は、また別の話。

 もっとも、余計なお世話はヒーローの本質、なのだとか。

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